聖域内の聖堂にて。
屋敷に残っていたフレデリカも聖域に呼んで全員が合流し、事情を説明された後に会合が行われた。
聖域であったことの全てとその黒幕がロズワールであったこと。そしてソウゴとロズワールの賭けのこと。ちなみにゲイツとツクヨミは参加してなかった。
「私は確かに君との賭けに負けたぁーよ。それに関しては約束は守るとも。私はなにも反論しないし、君たちになにもしないとも。好きに裁けばいい」
「俺は別にどうこう言う気はないよ。それを決めるのはエミリア達だからね」
「あぁん? そりゃあどういうことだ? 大将はこいつを仲間に加えたままで良いってのか?」
ソウゴの言葉に怪訝そうにしているのはガーフィールだった。
「ロズワールがまだ必要なのは事実だからね。でないとエミリアが王戦を戦えない、でしょ?」
確かにその通りではある。しかし、ソウゴの言い方はまるで他人事だ。その言い方に何かを感じ取ったのかウォズが問いかける。
「その言い方だと、この辺りで私たちの立場を改めようというわけかな、我が魔王?」
「そういうこと」
「どういうことなのソウゴ? 立場を改めるって……」
エミリアが不安そうに問いかける。それをウォズが答えた。
「いたって単純だよエミリア君。我が魔王は王戦に関わるつもりはない。どの陣営に関しても中立を貫く。そういうことさ」
「そりゃどういうことだ? 大将達はエミリア様達の仲間じゃねぇのか?」
「半分正解で半分違う。元々私と我が魔王は、とある事情でエミリア君に呼ばれた客人だった。しかし、私たちと同じく客人として呼ばれたナツキ・スバルという少年が、一切相談無く、私たちも含めてここで働かせてくれって頼み込んだのさ」
「えっ? スバルが勝手に?」
「そんなことだろうとは思っていたけれど……」
「私も察していたが、敢えて乗っていたよ。君達のことが本に書かれていなかったからこそ、屋敷の使用人という立場に引き込めば変化が起こるのではないかと思ったが……」
ウォズの言葉にエミリア、ラム、ロズワールと三者の反応はそれぞれだった。
事情を知っているからこそ、エミリアは申し訳ないという顔をしていた。 スバルが言ったことが、ソウゴ達に相談なく勝手に決めたこと。それを見抜けなかった上に、命の恩人にお礼をせず屋敷で働かせ、自分を応援してくれていると思い込んでいた。
「気にしなくても大丈夫だよエミリア。どのみち泊まる場所は必要だったんだから」
「でも、でも! ソウゴ達は命の恩人だったんだよ! 働く必要なんて何もなかったのに……」
「私も思うところはあるが、我が魔王がそれでいいというなら、問題はないよエミリア君。話が逸れたから戻そう。 我が魔王は、元々王戦には興味を示していない。それにエミリア君の願いは、どういう形であれ我が魔王が叶えてくれる。君の王戦の結果に関わらず、ね」
「…………」
「しかし、だからといって君としては途中放棄はしたくないし、ロズワール氏としてもそれは困る。だろう?」
「確かぁーにね。エミリア様が王を目指すのは、私の悲願に取っても重要なことなのだから」
「それにもしもエミリア君が王になれなかったとしても、我が魔王と交わした約束は果たされる。すなわち、君の故郷であるエリオール大森林と、そこにいる者達全ての救済。それは我が魔王が、王として果たす道理だからこそだ」
「……」
「救済はするが、大森林の維持や待遇の問題は我が魔王が解決すべきことじゃない。それは、君や大森林のエルフ達があの一帯を管理しているロズワールとの交渉で決めることだ」
「……だからこいつを許せってのか?」
「それを決めるのも君たちだ、ということさ。感情のままに殺すのも自由だし、許すのも君たちの自由。その結果としての後の責任も君たちが背負う、というだけだよ」
「その考え方、ムカつくぜ……」
「とはいえ事実だからね。これは君たちの問題であり君たちの戦いだ。乗り越えられない壁であるなら我が魔王が力を貸しても問題はない。だが自分達で乗り越えず、決めなければいけない問題を他人に委ねたら、君たちはその結末に文句をいう資格も、その後を選ぶ自由も全て失うよ」
その言葉に神妙な表情となる全員に対し、ロズワールが口を開いた。
「私は君たちに何かをいう資格はないし、もう二度と敵になるつもりはない。それを目に見える形で証明しよう」
ロズワールは上着の前を空け、上半身に巻かれた血のにじむ包帯を乱暴に外すと、その下には体に刻み込まれた青白く輝く紋様があった。
「それは?」
「これは……誓約の呪印かしら」
ベアトリスとロズワールによって解説が行われた。
誓約は個人を縛り、誓いを果たすことと引き換えに見合った対価を得るものであるとのこと。
ロズワール曰く、ソウゴ達に破れこの誓約がある限り、ソウゴやエミリア達に危害を加えることは出来ない。誓いに背けばロズワールの魂は穢れ肉体は業火に包まれ消失する。オド・ラグナに還ることもなく、虚無へ落ちるという。
「もしも君が負けていれば、この呪印は君に刻まれていただろうね」
「怖い話だね」
ロズワールからの言葉にソウゴは淡々としてそう答えた。
それからガーフィールは、シーマに関して思うことがありながらも、ロズワールに対してこの場にいる者達を傷つけないことを誓わせた。それを破れば、己の牙で頭を砕くと。
フレデリカも今回の件には思うところはあるが、世話になっていたこと、目的のために力を借りていたことから、許すことを決めた。
ロズワールを白眼視する、という形で決着が着いた状態である。
この時、ソウゴとウォズは静かに見守っていた。 最後にエミリアが手を上げた。ひとつだけ、大事なことが済んでいない、と。
「悪いことをしたのなら、ごめんなさいってしなきゃダメじゃない。ロズワールにとってエキドナがどれだけ大事な人であっても……やりすぎだった部分は、謝らないと」
「……………………そうだね」
一度深く息をついた後、そう漏らしたロズワール。計画を台無しにされたのも、今の状況も、誰かを犠牲にしようとした罰なのだろうと、彼はそう思った。
「……………すまなかったね」
「…………うん、それでいいのよ」
◇
会議の後でベアトリスに「話がある」と呼び出され、ウォズ、ゲイツ、ツクヨミも含めての話だというので、墓所最奥の棺の部屋にソウゴ達4人で来た。 そこに横たわる亡骸こそベアトリスの母たるエキドナ。だが、それを見たソウゴは違和感を覚えた。
「試練で会ったエキドナと違う……」
「どういうことだい、我が魔王?」
「俺が会ったエキドナは十代ぐらいだった。でもこのエキドナは……」
「どう見ても二十代半ばだな。だがここは魔法が当たり前の世界だ。その上ここはこいつが作った場所であるのなら、この中で封印されている魂の見た目なんて自由に操れるんじゃないのか?」
「そうかもしれないけど……」
ゲイツの言葉に納得がいかない表情で答えるソウゴ。
「その辺りはどうなんだい、ベアトリス君?」
「詳しくはべティーもわからないのよ。ただ一つ言えるのは、ここで眠っているのが私のお母様であるということ。それだけなのよ」
「まぁ400年も騙されていたというのなら、もう俺たちの詮索に意味はないだろうな。それで? 俺たちまで呼び出して何の話だ?」
「オマエ達2人は会議の結果は聞いたかしら?」
「ええ。ここに来るまでにウォズから」
ベアトリスの問いに答えたのはツクヨミ。ロズワールとの会議に関してはゲイツと共に聞かされていた。
「なら聞くけれど、お前達は今後どうするつもりなのよ? 中立を貫くのは自由でも、実質こっちの陣営からの離脱宣言なのよ。住む場所とかどうするつもりかしら?」
「エミリア君には申し訳ないけど、スバル君の一件を理由にして、借りを返してもらう形になるだろうね。それに今に至るまで、彼女を守った回数は数知れない。どちらにせよ、改めて対価を要求するには十分、というわけさ」
「確かにそれを言われたら半魔の娘は断れないのよ。ロズワールも、異議を挙げる権利もないから通るかしら」
「俺たちはその上で、エミリア達と契約を結ぼうと考えてる。魔女教のこともあるし、アナザーライダーのこともある。エミリアからすれば、そういう意味での戦力が欲しいだろうし、俺たちとしても情報が欲しい。だから、ベアトリスにはその一応の仲介をお願いしたいんだ」
「……確かに禁書庫の管理人という立場はそのままだし、ソウゴの宮廷魔術師も引き受けたのよ。でも、ジュースの一件もあるのに、まだ、厄介ごとを押し付けるのかしら?」
ベアトリスが苦々しい顔で答えた。
「うん……悪いけどそうなる。アナザーライダーを使ってるあいつの目的がわからない以上、使える繋がりはなんでも使いたい。なんか、嫌な予感がするから」
「……わかったのよ、何とかするかしら。それと、もうひとつはソウゴ、お前との契約、つまり精霊術師のことで大事な話があるかしら」
「精霊術師? パックとエミリアみたいな関係?」
「概ねそんな感じなのよ。お前の宮廷魔術師になる、つまりそれはべティーと契約して精霊使いになること。これはもう確定事項なのよ」
「別にそれは問題ないよ。それで?」
「べティーは普通の精霊とはちょっと毛色が違うかしら。だから、普通の術師の常識と所々違ってくるのよ」
「その前に俺、その普通がどういうものかよく知らないんだけど……」
「まぁ、あれだけの力なら、そもそも精霊自体必要ないのよ。その辺は追々知っていけば良いかしら。そして、本題なのだけれど、べティーはお母様に作り出された精霊、人工精霊かしら。だから、お母様仕込みの特別な力があるんだけれど……代わりに欠点もあるのよ」
「欠点?」
「その……まず契約者を独占してしまうかしら」
ベアトリスが恥ずかしそうに答えた。
「独占?」
しかしソウゴにはそもそもこの世界の魔法に関して詳しく知らないのだから、ただ疑問を浮かべるのみ。
「まさか……そういう話かい……!?」
「ウォズ、黙ってて」
口元を押さえながら少し驚愕の表情をしてるウォズをツクヨミが呆れたように制する。
それを見ていたベアトリスとゲイツも呆れたような表情。
「……べティーと契約した精霊使いは、他の精霊や微精霊と契約できなくなるかしら。例外は一切ないのよ」
「契約のリソースを使いきる、と言ったところか。だが、果たして君に我が魔王のリソースを真に使いきれるのかな?」
「例外はない……と言いたいけどソウゴほどの規格外だとはっきり言ってどうなのかわからないのよ」
「当然だろう。我が魔王は、全ライダーと大魔王の力を受け継ぐ、全ての時代をしろしめす最終王者! 独占して使いきれる規模ではないよ」
「……実際、それは事実だと思うのよ。本来なら、術者からマナを供給するか、他の人間から少しずつもらうのがべティーのやり方なのだけれど、今のべティーはこの本から莫大なマナが供給されているかしら。最高レベルの魔法を連発してもすぐ補充されるくらいに。恐らく強引に供給すれば、量が多すぎてべティーが破裂するのよ」
そう言ってベアトリスが取り出したのは仮面英雄暦だった。
「そういう意味では問題ではない、と?」
「今のところは、と言っておくかしら」
「まぁ、問題がないんなら今はいいんじゃない? ベアトリスにも分からないことなんじゃどうしようもないんだし」
確かにそれが事実だった。そのあとは、細々とした話をして終わった。 それからしばらくしたのち、エミリア陣営はソウゴ達との正式な契約を結んだ。
「こういう形になったけど……これからもよろしくね、エミリア」
「うん。よろしくね、ソウゴ」
ツクヨミが護衛兼連絡員も兼ねてエミリアの付き人としてつくことに。
その契約も、あくまで、魔女教やアナザーライダーからの防衛を軸とした言わば警護関連の内容で、ツクヨミも含めて、ソウゴ達は一切王戦には関与しない、というもの。
なおソウゴ達は、建前上はエミリアに招待された後もエミリアの防衛を引き受けてくれていたという名目のもと、報酬を受け取ったという形で屋敷の一部を借り受けた。
このときのソウゴ達の王戦に対する中立宣言は全陣営に伝わることとなり、各陣営の反応は様々だった。
「……それが卿の選択か」
宣言を知ったクルシュは表情を変えず呟いた。
「……ほう」
同じく、宣言を知ったプリシラはくつくつと笑っていた。
「あーあの子が……引き抜く方法考え直した方がええかなぁ」
アナスタシアは宣言を知って少し口をとがらせている。
「ほーん、あのにーちゃん、王選に関わらねーのかぁ」
フェルトはちょっと驚いてるくらいであった。
こうして長い紆余曲折がありながらも、新たな仲間も加わったエミリア陣営は団結し、王選への新たなる一歩を踏み出すことになったのであった。
次回 2019:新生F:混沌への序章
Q.宣言どうやって分かったの?
A.手紙でも送ってたんじゃない?