ソウゴ達が聖域から去ってからしばらくして。一人の少女が地下を歩いていた。薄紅の長い髪と白い貫頭衣を着た裸足の少女。リューズの複製体だ。だが、それはソウゴ達が知るどのリューズ達とも明らかに違う気配を纏っていた。
「起動式は生きていた、か」
ぽつりと呟きながら、少女は壁を抜け、次の瞬間眩い光に瞼を閉じる。長いこと暗い地下にいた少女にとって、外の陽光は毒も同然だったが、何度か瞬きをしたのち、改めて周囲を、久々の世界を視認した。
「……意外と、感動はなかったかな」
目の当たりにした光景、そして日輪を前に、少女は拍子抜けした表情で首をかしげた。 仮初めの太陽、仮初めの世界で過ごし続けてきただけに、本物には期待があったのだが、思ったほどではなかった。
「あれの手を借りなければいけなかったこと、『試練』に折れる姿を見られなかったこと……心残りは多いけど結界は解けたし魔水晶は回収できた。それで差し引きゼロにしておこうか。あれに尻拭いしてもらったというのはいささか、言葉にし難い感情が溢れてくるからね……」
色々と複雑な感情を吐き出す少女……その正体は墓所の中にいたあのエキドナだった。
結界の核となった少女の肉体に、同質の魂を持つ複製体を強引に重ねたのだ。過去に一度、墓所へ入った複製体の内側に魂の一部を植え付け、少しずつ支配を進めた。
異なる肉体へ、異なる魂を定着させる蘇生法である。
不老不死を目指しての研究……確かに目指したものとはいささか異なる強引な荒業ではあったし、途方もない時間もかかったが、それでもなんとか成功した。完全に馴染むにはまだ時間がかかるが、それは仕方のない話だ。
「まぁ、構わないさ。この体ではあまり無理も利かないし、しばらくはブランクを埋めるために歩き回りが主な予定なんだ。あれらに固執する必要も今はない。新たな肉体をかつての魂で歩めるだけ良しとしよう。 なら……必要なのはとりあえず名前か。元の名を名乗るのは不味いし……」
新たな名を考え始めたそのときだった。
「ようやくお目覚めかい? 流石に待ちくたびれたよ」
そう言いながら森の中から茶髪の青年が現れた。衣装もどことなくソウゴと似たような感じがする。
「君は……」
「強欲の魔女と呼ばれているお宝を頂きにきた怪盗さ」
「ボクを盗みにかい? 面白いことを言うね」
「この世界には、なかなか良さそうなお宝が多くてね。あの福音書はいまいちだったけど、君は中々な価値を持っている。それに、ここの構造を調べれば君の復活は予測できた」
「だからボクを待っていたと?」
「そうさ。それより、名前を考えていたのだろう? なら『オメガ』というのはどうだい? 僕の世界の言葉で『最後』という意味を持つ言葉さ」
「『オメガ』……最後、か。いいね、それにしよう」
「なら後は大人しく僕に盗まれてくれると嬉しいんだけど……」
そう青年が言ったとき、彼の足元に桃色の光弾が着弾する。
「やっぱりか、こんなことだろうと思ったぞ、海東」
「やぁ士。わざわざ追いかけてきたのかい?」
青年が士と呼んだ人物は不思議なものを持っている。武器の類いであることには違いないが。 士はため息をつく。
「送り出した後に、しばらくして見にきたらこれだ。魔王にアナザーライダーの影響で大分時空が歪みだしているんだ。そこに魔女なんて爆弾をぶち込ませるわけにはいかないんでな……」
そう言いながら士という青年は腹部にバックルのようなものを当てる。形状は違うが、まるでトキワ・ソウゴのようだと感じるオメガ。
「僕の新しいお宝に手を出すなら……士だろうと許さないよ?」
そう言いながら海東と呼ばれた青年も、表情を崩さず水色の武器と思わしき謎の道具と一枚のカードを取り出し、道具にカードを装填する。
『『KAMEN RIDE!!』』
「「変身!」」
『DECADE!』『DIEND!』
その瞬間、二人は姿を変えた。そしてプレートがぶつかり合い、両者の顔に刺さるとその体に彩りが加わる。それこそ彼女が知りたがっていた新しい知識そのもの。
「仮面、ライダー……!」
無意識に口角を吊り上げ、笑顔になるオメガ。その間に二人は戦い始める。
『『ATTACK RIDE! BLAST!』』
二人の武器から無数の光弾がぶつかり合う。その間に、水色の仮面ライダーは新しいカードを武器に装填する。
『KAMEN RIDE! KNIGHT! BRAVE!』
カードを装填すると、新しい仮面ライダーが召喚される。その姿は紺色の騎士と水色の勇者と呼ぶに相応しい。召喚されたライダーはマゼンタのライダーに突撃していく。
「面倒くせェな!」
2人をいなしながらうんざりとしたようにそう言って、一枚のカードを取り出すマゼンタのライダー。そしてすぐさまバックルに装填する。
『KAMEN RIDE! EX-AID!』
『マイティジャンプ! マイティキック! マイティ・マイティ・アクション! X!』
突如として出現したマゼンタのホログラムがマゼンタのライダーの身体をすり抜ける。
彼の身体を包む光が晴れると、ベルトはそのままに別の仮面ライダーに変身した。
『FORM RIDE! EX-AID! HUNTER ACTION GAMER!』
『ド! ド! ドラゴ! ナ・ナ・ナ・ナーァイト! ドラ! ドラ! ドラゴナイトハンターァァァァ! Z!』
その後すぐさまもう一枚カードをバックルに差し込むと、ライダーの背後に出現した四角い光から機械的なドラゴンが現れる。それは分解してライダーに装着され、鎧として機能し始める。
「いいね、実に興味深い……!」
体が興奮しているのを感じる。新しい知識、こんなにワクワクするのは一体何百年ぶりだろう? その瞬間、先ほど彼に言われた言葉が頭をよぎる。
『大人しく盗まれてくれると嬉しいんだけどね』
当初の予定は狂うかも知れない。だが、新しい知識が目の前にいるのだ。それを捨ててしまうなんて出来ない。なら、返すべき言葉は決まっている。
「いいよ、盗まれてあげるよ怪盗の仮面ライダー! だから、君の名前を教えてくれないか!」
「応じてくれて助かるよ。僕の名前は海東大樹。またの名を仮面ライダーディエンド。もう一人の……通りすがりの仮面ライダーさ! 覚えておきたまえ!」
そういうとディエンドは高速移動でオメガの近くにやってくると、新たなカードを装填する。
『ATTACK RIDE! INVISIBLE!』
その瞬間、二人は姿を消した。
「待て、海東! くそっ!」
ナイトとブレイブを撃破したディケイドエグゼイドだが、二人には逃げられた。不味い事態だ。
「宛がないんじゃ追いかけても無意味か。一度魔王と合流するしかないな……」
そういうとディケイドの姿に戻り、オーロラカーテンを呼び出して姿を消した。
◇
聖域での一件が終わってからしばらくして。
「ただいま〜」
「スバルくん! お帰りなさい」
ルグニカの西にあるカララギ都市国家のとある片田舎。そこには、全てを捨ててここに移住してきたスバルとレムの姿があった。
カララギに移住した後、二人は必死に働き続けて貯金し、小さな家ではあるがこの片田舎にマイホームを購入した。 スバルも苦しむ要素が全て無くなり、レムの介抱と、なにも考えずひたすら働き続けたことで、少しずつではあったが、心の傷は収まりつつあった。
「今日もお疲れ様でした。お仕事はどうでしたか?」
「ボチボチってとこかな。レムの方はどうだった?」
「レムの方は順調でした」
「そっか、そりゃ良かった。レムもお疲れ様」
お互いに笑い合うスバルとレム。正しく幸せそのものだった。
スバルはレムが晩御飯を作る間、外で作業をしていた。作業内容は、斧を使って木を切断する作業だ。
「楽しそうだな、全ての責任から解放された気分はどうだ?」
その声に慌てて振り返るスバル。そこには、自らに心を傷を負わせた原因であるあのフードの男が立っていた。
「久しぶりだなナツキ・スバル。それで? レムと逃げ出して責任から解放された気分はどうだ?」
「てめぇ……何しにここに!」
「慌てるなよ。別にお前をどうこうしに来た訳じゃない。ただ様子を見に来ただけだからな」
「様子を……?」
「俺の計画にお前は必要不可欠だからな。死に戻りをされれば俺としても厄介なことになるからな。まぁ、常磐ソウゴの力に遮られて意味はないだろうが」
「どうして死に戻りのことを……お前……一体何を知っていて何をたくらんでやがる!」
「スバル君、どうしたんですか!?」
すると、スバルの突如の大声に異変を感じたのか、レムが出てきた。愛用の武器のモーニングスターも持ってきている。
「来るな、レム! こいつは危険だ!」
「そこまでカリカリしなくても何もしねぇよ、様子を見に来ただけなんだからよ」
「あなたは……いや、お前は何者だ! なぜスバル君を狙う!」
「決まっているだろう? 俺の目的のために必要なんだよこいつが。最も、必要なのは肉体だけであって、コイツの感情や記憶は一切必要ないけどな」
「スバル君の体を……?」
「お前達がエミリアから逃げ出したのは想定外だったが、かえって助かったぜ。この片田舎なら、監視も容易だし、死に戻りするかもしれないという不安もないしな」
「死に戻り……?」
レムは疑問符を、スバルは驚愕の顔を浮かべている。何かを知っているのかと思ったレムだが、何も返そうとしない。
「ああ、そうか。嫉妬の魔女の影響で、死に戻りについては話せないんだったな」
「嫉妬の魔女? お前、何を知っている!」
「不思議に思ってただろう? こいつから魔女の匂いがすること、それも相当の。理由は単純さ。寵愛を受け、能力を授かってるんだよ。最も、本人は一切望んでいないからほぼ呪いというべき代物だがな。そして、そいつはそれを話せない。無理して話すと自分や回りの人間が死んでしまうからな。
ああ、今は気にしなくていいぞ。俺の力で、このへんの時間と空間を制御しているからな。嫉妬の魔女は、今こうして話している俺たちを認識できない」
男の言葉にレムの頭は混乱状態だ。だが、これだけは何がなんでも知らなければならない。
「お前……お前は一体何者だ!」
すると、男は、フードを下ろした。露になったその顔に二人は信じられない顔をした。
「……嘘……だろ……!?」
「スバル……君?」
「驚いたか? 俺は正真正銘のナツキ・スバルだ」
痩せこけてはいるが、それは間違いなくナツキ・スバルだった。
「なんで、なんでこんなことを!? 同じ俺だろうが!」
「てめぇと一緒にすんじゃねぇよ、あの程度で逃げ出したくせによ」
「それもお前のせいだろうが!」
「ならお前に何が出来るっていうんだ? 生粋のピエロが出来ることなんざ滑稽に踊ることだけだろうが」
「てめぇ……!」
「レム、哀れだろう? 俺たちナツキ・スバルっていうのはどうしようもない屑だ。人様に迷惑をかけることしか出来ない。そうやって自分の居場所を作ろうとしている生粋の道化なんだよ」
「……」
「だが……同時にエミリアやレム達を幸せに出来るのも俺たちナツキ・スバルだけだ。断じて常磐ソウゴじゃない。他の誰でもない。そして、エミリア達を救うナツキ・スバルを他の俺に譲る気も無い……」
「……!」
「しばらくは偽りの幸せに浸ってるがいいさ。その時は近付いているんだからな。その体を精々大事にしておくことだ……」
そういうともう一人のスバルは姿を消した。
「ッ……!」
「スバルくん!」
息を荒くしながら膝をつくスバル。異変に気づいてレムは彼の肩を支える。 スバルは、トラウマを引き起こされながらも無理して立ち続けていた影響か、過呼吸の状態だ。だが、それでも彼は呟いた。
「止めなきゃ……アイツを……何処かで致命的に狂った俺を……でなきゃエミリアもレムも守れねぇ……」
この日を境にスバルとレムの平和は終わりを告げた。逃れられない運命に再び向き合う時がやってきたのだ。
それは、彼等とエミリア、そしてソウゴたちを巻き込んで、巨大な混沌に至る、始まりでしかなかったのだった……。
4章 完