不可思議な思考を持つ人間は、偶然に出会った妖怪少女と一種の問答を行った。それが互いにとって面白い問いかけであったならば、幸いだろう__

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こいし的世界論

 ふいに、風が吹いた。後ろから吹き付けてきたソレは、振り向くと後ろから感じられた。

 

 

  ◇

 

 

 雲に隠されて中途半端な日光の下、窓に立つ迷子を見つけた。

 一体どこから来たのかを問い合わせると、しかし要領を失っている。自身に関する記憶がごっそり脱落しているようで、まるで私みたいなことを言うと思った。聞いた話についての補足だけを書き連ねていくと、不意に解釈を得られる事態が発露した。

 

「私がここに居る理由を思い出したわ」

「ほう、それは如何なる?」

「簡単なこと。私がここに居ないから」

「つまり流失したと」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「なるほど、解釈だな」

「解釈って?」

 

 意味として正しいことではないのかもしれない。ただ、私は訥々と不審な少女に対して語り仰せて仰せぬ現況を伝えた。

 

「なるほど、自分についてのことなのね」

「そして他己との関係」

「ふうん。仏道修行者みたいなものかしら」

「お門違いだから正直になれないが」

「その発言は正直なのにね」

 

 言語が内包する限界が如何に近いことか、私と私たちの理解では及ばないことを私は知っていた。だからこそ、目の前のヒトは私でないことも本能で了解していたことは疑問視できぬ正直であった。

 

「それで、ずっと話していられるあなたはだあれ?」

「私は私だ。明確な自分なんて居ない、まるで禅問答のような不可解なんだろうな」

「そう。私としては、自身に関係するものはなく、何もできないと思っているけど」

「また珍妙な。私は自他がない程度ではこの意思を留められないからして、集合的私を構成しているヨスガだというに」

「あなたも珍妙ね。正しく自分が存在していないのに自分が居て、留められない集合的私とは大違い」

「いいや、きっと相似した解釈に違いない」

「そう?」

 

 巡る星月と自身の関係は実に深く、切って切り離せない。この意思ですらそう単己として仮定せざるを得ないほど家族だというのに。眼前の迷子はそうではなく、自身の亡き者と呼称する。

 

「ならば、如何にして君はここに発言する?」

「簡単よ。私があなたではなく、石だから」

「意思がないのか?」

「そうとも言うけど、それは併存できないことでもないなと気づいたわ」

「一体なにがそうさせた」

「目の前の人間にね」

「本当に人の形をしているのかい?」

「いいえ。でも正しく人間ね。混じりっけ100%の」

「それは愉快な教え事だな」

「互いに意図せずにね」

 

 集合的私と集合的石。なるほど確かに埋道だった。加温された設えがぽつぽつと叩きつけ合うのは小気味好いとすら感じるほど、私は他者と関わってこなかった。

 

「何も知らないのに、よく知っているのね」

「私のことと私に類する対象が最もな関心を吸来するからな」

「へえ。私に関心なんてないと思っていたけれど、どうやらそうでもなかったみたい」

「それは等価だ。私が、他者にへな関心を補足するとは」

「この先も短いんでしょう?」

「ふむ、そうだな、それは正当であり誤答だ」

「じゃあ、中心が望まれるならこっちへオイデ。また語りたいから」

「ほう。その時は心底に解釈を伝送するぞ」

「そうね。じゃあ最後に。私の世界は私すらなく、正しく他人の集合によって成立している」

「それならば最後に。私の世界は私しかなく、正しく自身の集合によって成立している」

 

 これはもっともな反論で、希少な無意味であった。それは迷子にとっても同じだろう。

 

「それじゃあ、またね」

「再度の去来を待機する。あるいは去来か」

「そうね」

 

 それを皮切りとして、窓から姿を消した。ついぞ笑顔の少女は、ついぞ笑顔だった私の映し鏡の具現化だったらしい。して、私はまた、憂鬱で甘境な枠組みへと戻っていった。一抹の世界論を抱えて。

 

 

  ◇

 

 

 地霊殿にて。

 

「それで、何処へ行っていたの?」

「お外の変人さん!」

「へえ……どんな人だったの?」

「蒙昧で姿形のない人だったよ」

「それは人なのかしら?」

「多分人間。私みたいな多分妖怪を面白がっていたよ」

「よく交流できたわね」

「話が噛み合ったからね。世界への解釈はいいものだったわ」

「それは良いわね。いつか来るのかしら?」

「必然的にいずれ、かな」

「そう……」

 

 無心と全心は、その互いを共振することによって知り、いずれかの影響を与えることとなった。要点として、自己の世界論を見つめることができた程度には。



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