こいしちゃんを誰かが観察しているという短編。
こいしの日記念小説です。

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ギリギリセーフ!

この記録は誰がつけたのでしょうね。
自由に考えなさってください。


不思議妖怪古明地こいしの観察

───忘れ去られた日本最後の秘境、幻想郷。

 その地では人と人ならざる者...妖怪が暮らしている。

人はほんの一握りの実力者を除いて人里に住んでおり、対して妖怪は幻想郷のほぼすべての地に居る。

ただ、人のように定住する妖怪はほとんどおらず、大体は決まった自分の土地を持たない妖怪である。

定住する場所を持つのは幻想郷の実力者やその一人、天魔を頂点とした天狗社会に属する妖怪のみである。

 幻想郷とは、全てを受け入れる土地。云わば、忘れ去られた者を救済する為の世界なのである。

しかし、そんな幻想郷にも受け入れられない妖怪たちが居た。その妖怪たちは地底...文字通り、幻想郷の地下に広がる世界に閉じ込められている。

実際には閉じ込められている、という程でもないのだが、地底に住む妖怪はそのほとんどが危険な妖怪であるから地底に実質的な軟禁状態なのである。

 さて。そんな地底には管理者が居る。

文字通り地底を管理する云わばリーダーである。

しかし、リーダーだから好かれる、といったわけでもないようだ。その管理者とは、覚妖怪の事である。

覚とは、人や動物等の心を聞くことのできる第三の目、を持った妖怪である。

心を読まれるということは気味悪がられ、地底の妖怪のみならずほとんどの生き物から嫌われている。

 そんな覚妖怪は姉妹であった。桃髪の特徴的な「古明地さとり」、そして緑のかった灰色の髪を持ち、そして第三の目というアイデンティティを

自ら閉じた「古明地こいし」である。

古明地こいしは無意識を操る程度の能力を持ち、その能力は厄介なことに常時発動していて、自分自身がまるで道端の小石のように

意識されなくなり、さらには自分の心までもが無意識に支配されている。

いや、無意識に支配された、というよりかは無意識に身を委ねた、という方が正しい。 

 そんなこいしであるが、彼女は無意識のうちにふらっと地底のみならず地上へと足を運び、居場所がほとんど特定できない。

正に神出鬼没な妖怪である。

そんな彼女の一日を追ってみた。

 

 

 

────────────

 

 朝になり、陽の登る頃、彼女は妖怪の山、という地底につながる穴のある山に居た。

本来、この山は天狗が支配しており、妖怪の山の住民ではない「侵入者」は排除するという排他的な場所であるのだが、

彼女はその能力故に誰も気にしないし、気にしようともしない。

そんな事は悲しすぎるが、またその能力故に彼女はいつも笑顔のまま、感情を変えない。

 彼女はじっと池の水面を眺めていた。先ほどまで池を気にせずにふらふらと歩いていたのだが、ぴたり、と立ち止まると

急に池の水面を眺め始めたのだ。無意識に動き続ける彼女は一秒後に何をするのか、本人も、私も、それ以外の生き物も一切分からない。

しかし、池の水面を眺めていた理由が分かった。水面には小さなアメンボが数匹浮いていた。

普通ならばアメンボは逃げるであろうというぐらいの距離だったが、アメンボは全く逃げようとしない。

しかしアメンボを眺めて一体何をしているのだろうか?彼女はアメンボを目で追い続ける。

 しかし次の瞬間。彼女は私が視認できるギリギリのスピードでアメンボを勢いよくつかんだかと思うと、

そのまま口に放り込んだ。彼女は満面の笑みだった。

昆虫食に理解のある私でもあまりの唐突さに少々驚いてしまった。余りに唐突すぎて、理解が追いつかない。

 これが、彼女である。彼女は自由である。やりたいと思ったことや気になることがあると思った時にはすでに行動に移しているのだ。

 

────────────

 

 陽が丁度真上に上がった頃。彼女は人里に来ていた。人里は人を守るために昼間の妖怪の侵入は基本的には許されないのだが、

彼女は違う。そもそも認識されないから、許す許されないの判断すらさせない。

そもそも、彼女は人里の中でいきなり人間を殺すことはしないので、心配はいらない。

一体彼女は何をしに来たのだろうか?その答えはすぐに分かった。

団子である。人里の団子屋に来ていた。

彼女は認識されない、とは言ったものの、道端の小石のように、意識すれば認識することは可能なのだ。

ここの店主は既に慣れているらしく、こいしのした注文をしっかりと聞き、また彼女の元へとしっかり届ける。

だが、団子を渡す前に居なくなることもしばしばある。だが、此処の店主は優しく、そんな彼女を咎める事はしなかった。

 幸い、今日は居なくならずに団子を受け取り、団子を食べながら人里を練り歩く。

団子をひと噛みするごとに幸せそうな笑顔を見せる彼女は何とも言い難い可愛らしさがある。

 

 

 彼女は、ほとんど認識されることはないが、何にでも好奇心を持つ小さな子供にはよく見えるらしい。

人里の寺子屋にいる子供一人が彼女に団子を頂戴、とねだる。

こいしはそれを聞いた瞬間にすぐに団子を渡していた。認識されたことが嬉しいのか、それとも思いつきなのだろうか。

後者である可能性が高いが、無意識領域には感情の入り込む余地は十分にある。どちらかなんて誰にも分らないのだ。

 子供が団子を食べている内に、こいしはまたふらふらと歩き始めた。

 

────────────

 

 電気の力を持たない幻想郷は、陽が落ちると同時に闇に包まれる。人間の活動時間が終わり、妖怪の活動時間が始まる。

しかし、何にも縛られない彼女は、また妖怪の山の穴へと戻り、そのまま地底へと落ちていった。

 

 地底は昼夜を問わずに暗い為か、昼間だろうが何だろうが妖怪はずっと暴れ続けている。

特に「鬼」はよく喧嘩し、酒を飲み、誰かの喧嘩を囃し立てる。そんな生活をずっと続けている。

そんな鬼の喧嘩や屋台を通り過ぎ、到着したのは彼女の家である「地霊殿」。

ここには彼女、そして姉のさとり、ペットの火焔猫燐、霊烏路空、その他大勢のペットが暮らしている。

そんな彼女の家族ともいえる者たちも、彼女のことをずっとは認識していられない。

気が付いたらいないことなど日常茶飯事なのだ。

 この家には勿論、彼女の部屋が用意されている。部屋には彼女の「お気に入り」や「宝物」が飾られている。

そこには可愛らしいピンクを基調としたベッドがある。

彼女は身に着けている帽子や、少し汚れた服を替えたりせずにそのままベッドにダイブ。すぐに寝息を立て始めた。

 

 こうして彼女の一日が終わったのだった。

────────────────

 幻想郷の不思議な妖怪、古明地こいし。

彼女の心は一体どうなっているのか。それは覚でも暴くことは出来ないそうだが、とても気になる。

いつか、本人もその心を解放するのだろうか?

それも、だれにも分からない。




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