転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます   作:こびとのまち

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シランも無自覚ながら立派に女の子をやっているので、ナイーブになることだってあります。



気分転換は従者とともに

 単刀直入に言おう。アイリスの様子がおかしい。

 先日のランチタイムで仲直りできたはずだったのに、アイリスの態度は以前より明らかによそよそしくなっていた。

 アイリスは悟られないよう誤魔化しているつもりのようだが、あれからどうにも避けられていると感じる。

 

 あれか? もしかして、ボクにはもう飽きて興味を失ってしまったとか?

 たしかにアイリスはさっぱりした性格だから、そういう切り替えができるのかもしれないけど……ボクたちって、その程度の絆なんだったっけ?

 そんな薄っぺらい想いだったのなら、急に襲いかかったりなんてしないでほしい。

 

 もしくはあれか? あの一件の最中にボクがアイリスを避けていたから、その仕返しのつもりとか?

 もしそうなんだとしたら、後から散々文句言ってやる。いや、あまり構ってもらえないからって、べつに寂しいわけじゃないよ?

 ただ、アイリス側が元凶なのにそんな態度をとっているのだとすると、意外と器が小さくてがっかりだなぁ……そんなアイリスは、あまり想像したくない。

 

 そんな感じでボクのことは避けているくせに、キャメリアに対しては妙に愛想笑いを浮かべているところが、余計に納得できない。

 あの一件以来、アイリスはやたらとキャメリアの顔色を窺っている様子だし、ボクと二人でいるときにキャメリアがやってくると、慌ててボクから距離を取ろうとする。

 アイリスもようやくキャメリアの魅力に気づいたのかもしれないけど、もしかしてボクって一緒にいたら邪魔なのかなぁ……

 

 そういえば、リリーも最近そっけない態度を取ってくるけど、あれは気にしたら負けだと思う。

 同じ部屋で生活しているんだから、せめて作戦がバレない努力くらいはするべきだと思う。卓上に堂々と『押してダメなら引いてみろ大作戦』なんて書かれたメモが置かれているのを目にしたボクの心情、誰か理解してほしい。リリーって、あんな残念なキャラクターだったっけ?

 

 

 

 そんなこんなですっかり疲弊していたボクは、気分転換に街まで出掛けたい気分になっていた。

 この学院では無断外出が禁じられているが、きちんと事前申請した上で、休日に複数人で出歩くのならば問題はない。

 とはいえ、理由が理由なのでいつもの面子には声を掛けづらい。会長もきっと忙しいだろうし、アネモネは神出鬼没すぎる……

 

 そこで相談してみたのが、我がルニャール家に仕える頼れるメイド、マグノリアさんだ。

 さすがマグノリアさん、すぐにプランを組み立てたようで、チーズケーキの美味しいカフェに連れて行ってもらえることになった。

 持つべきものは優秀なメイドだね、やっぱり。

 

 え? メイドがいたなんて初耳だって?

 メイドくらいいて当然じゃないか、ボクってばお嬢様なんですもにょ……慣れないことは言うもんじゃないね、思いっきり舌を噛んでしまった。恥ずかしい。

 

 マグノリアさんは、代々ルニャール家に仕えてきた家系の娘で、ボクより5つ年上のお姉さんである。屋敷の中でボクと最も年齢が近かったことから、ボクが生まれてからずっと専属メイドのような立ち位置だったらしい。

 「らしい」なんて言い方をしたらマグノリアさんが悲しんでしまうだろうけど、『フラワーエデン』には登場しなかったキャラクターなので仕方がない。

 

 普段、マグノリアさんがどこにいるのかと言えば、基本的には学院内で勉学に勤しんでいる。

 ここがマンジュリカ女学院の特殊なところで、以前に少しだけ触れた「貴族や財閥などのご令嬢ではない『例外』の女生徒」の正体である。

 学院内の令嬢に仕えるメイドの一部は、この学院の家政科に通い、お嬢様が就学している期間で、メイドとしてのスキルに磨きをかける。

 ただし、マンジュリカ女学院は令嬢たちの自主性と生活力を育む役割も担っているため、主人とメイドは寮も学び舎も別になっている。そのため、令嬢たちが学院内の生活をメイドにサポートしてもらえることは、ほぼない。

 入学してから主人が環境に慣れるまでの1週間程度だけ仕えて、あとはそれぞれの勉学に専念することになるのだ。

 

 ちなみに、マグノリアさんは一見クールなお姉さんという感じで、とてもメイド服が似合ってます。素敵。

 

 

 

 

「お嬢様、まずはこのワンピースを着てみましょう」

 

 ……うーんと、どうしてボクは呉服屋なんかにいるんだろうか? どうして目の前のマグノリアさん、大量の衣服を抱えて微笑んでいるんだろうか? ねぇ?

 

「えっと、マグノリア……今日はカフェ、行くんじゃ?」

「ええ、きちんと予約しておりますので、ご安心くださいませ」

「なら、早く行かないと……」

「大丈夫です、予約の時間まではまだ余裕がありますので。そんなことより、お嬢様の可愛らしさを引き立てる衣服を見つけねばなりません」

 

 今、そんなことって言った!? 絶対ボクを着せ替え人形にしたいだけだよ、この駄メイド……

 いや、メイドとしては本当に優秀なんだよ。ただ、たまにこういった頑固な側面が顔を出すだけで。

 

 試着室の前で、衣服を抱えたまま動こうとしないマグノリアさんに、ボクは折れるしかない。

 この後に待っているチーズケーキの為だ。そう自分に言い聞かせ、心を無にして試着室へと足を踏み入れた。




お嬢様とメイドの組み合わせは外せませんね。

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