転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます   作:こびとのまち

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 マグノリアさん、前回に続いてシランを独り占めです。



そのメイド、過保護につき

 こんにちは、ルニャール伯爵様のお屋敷でメイドをやっている、マグノリアと申します。

 さて、わたしの主人であるお嬢様は、試着室で絶賛お着替え中です。

 

 実はわたし、お嬢様のお世話は、生まれて間もない頃のおしめ交換からやっております。ですので、今回も試着室にお供して、着替えのお手伝いをして差し上げようと思ったのですが……割と全力で断られてしまいました。

 中等部に進学されて、いよいよメイド離れが始まってしまったのでしょうか。お嬢様が一人前のレディーに成長されていくことは喜ばしいですが、正直に申し上げて、わたしは寂しゅうございます。およよよ。

 一人で涙を流して小芝居しておりましたら、試着室のカーテンがするすると開きました。

 

「どう……かな」

「お嬢様、最高です」

 

 おっと、鼻から何やら赤い液体が垂れてきました。これはいけませんね。

 しかし、お嬢様にも多少なりとも責任はあると思います。なにせ、可愛らしすぎます。純白に輝くワンピースを纏ったお姿は、それはもう愛らしくて愛らしくて。普段はどこかガサツなお嬢様ですが、こうやって着飾れば、まるでお人形のようです。どこか儚くて、恥ずかしげに俯く表情もまた……堪りませんね。

 絶世の美少女という表現は、お嬢様のためにあると言っても良いでしょう。そんな想いを込めてサムズアップしたら、ジト目で呆れられてしまいました。解せません。

 

「ねえ……もう、いい?」

 

 そのまましばらく見惚れていたら、さすがに耐え切れなくなったらしいお嬢様が、様子を窺いながら尋ねてきました。

 どきゅん……! 無意識とはいえ上目遣いで声を掛けてくるとは、とてもあざといですね。お嬢様、なかなかどうして侮れません。

 とはいえ、たしかに時間は限られています。このまま、ぼーっとしているわけにはいきませんね。

 

「それでは……次はこちらに着替えてくださいね、お嬢様」

「えぇ…………」

 

 そんな嫌そうな表情を浮かべている場合ではありませんよ。お嬢様に着ていただきたい衣装は、まだまだ山のようにございますので。こんなにも可愛らしいお嬢様を着飾れないなんてことになれば、もはや国家規模の損失と言っても過言ではないでしょう。

 

「いや、過言だと思う、けど」

 

 心の声を読まないでください、お嬢様。

 そんなことより……さあさあ、次はフリフリがキュートな漆黒のロリータドレスを試着してくださいませ。お楽しみはまだまだこれからですよ。

 

 

 

 

 ふう。最終的に十数種類ほど試着していただきましたが、どれも見事にお嬢様の魅力を引き立てていて、素晴らしかったです。まあ、お嬢様のことを知り尽くしているわたしが選んだのですから、お似合いになっていて当然なのですが。

 試着疲れやら恥ずかしがり疲れやらで、お嬢様のジト目はさらに死んでしまいました。そんな主人に反比例して、従者のわたしは身も心もすっかり潤っています。あまりお嬢様に会えないものですから、久しぶりに張り切りすぎてしまいましたね。ぐったりさせてしまい、申し訳なく思わなくもないですが……後悔はありません。

 ちなみに、試着していただいた衣装は全てルニャール家のマネーで買い上げて、お屋敷に送っておきました。これは断じて職権乱用ではありませんよ。主人をコーディネートすることも、メイドの大切なお役目ですから。たぶん。

 

「酷い目にあったけど……これ美味しいから、許してあげる」

「あらあら、さすがお嬢様です。寛大なご対応に感謝いたします」

「うん。もぐもぐ」

 

 わたしたちは今、予約していたカフェに来ております。お嬢様にとっては、これがメインイベントなのでしょう。

 夢中になってチーズケーキを味わっているお姿も、これまた非常に可愛らしいですね。ひとつ悔やむ点があるとすれば、やはり先ほど買い上げたワンピースを纏っていただくべきでした。疲れ切っていたお嬢様を見て遠慮してしまいましたが……失態です。

 

 しばらくはチーズケーキに夢中だったお嬢様ですが、少し落ち着いたのか、ぽつりぽつりと何かを喋り始めました。

 どうやら、これまで学院で経験なさった出来事を、誰かに喋りたかったようです。いいでしょう。お嬢様のメイドたるこのわたしが、しっかりと聞いて差し上げます。

 

「アネモネが――」「会長が――」

 

 じっとお話を伺っている限り、どうやらお嬢様の周りには、個性豊かなご友人が揃っているようです。

 寂しい学院生活を送っておられないようで少しほっとしましたが……それにしてもお嬢様は少し鈍感が過ぎるのではないでしょうか。お話を伺えば伺うほど、皆様から危険な香りが漂ってきます。少なくとも向こうは、お嬢様をただの友人とは思っていない感じがしますよ。

 このまま学院内にお嬢様を放っておいて大丈夫なのでしょうか。不安になってきました。

 

「だいたい、アイリスはいつも――」

 

 それにしても、先ほどからアイリス様のお名前ばかりが、頻繁に出てきている気がします。少し気に入りませんね。

 アイリス様は、お嬢様の幼馴染といえるお方です。お嬢様の側に仕えているわたしも、昔から交流がありましたので、よく存じ上げています。ですが、正直に申し上げると少しやんちゃが過ぎるご令嬢という印象を持っています。わたしとしては、お嬢様が悪い影響を受けてしまわないか、いつも心配です。

 

「それなのに、最近のアイリスときたら――」

 

 どうやらお嬢様は、アイリス様の最近の態度に不満をお持ちのようです。なるほど。それが原因で、出掛けようとお考えになったのですね。きっかけがアイリス様というのは、少し不満ではありますが……まあいいでしょう。

 そして、アイリス様は何らかの事情でお嬢様から距離を取ろうとなさっているみたいですね。どんな事情があるにせよ、ざまぁないですね。もともとがお嬢様に近づきすぎなのです。親友のふりをしておきながら、油断も隙もあったもんじゃありません。

 

 しかし、その事情によってお嬢様を悲しませているのは、いけませんね。

 アイリス様が現在抱えている事情なんてものは知りませんが、お嬢様に対して並々ならぬ感情を持っておられることは、伝わってきました。

 ならば、どんな事情があるにしても、そんな事情は切り捨ててしまうべきでしょう。わたしがアイリス様の立場であれば、手を緩めず強引に迫り続けて、お嬢様を堕としてみせますのに……案外ヘタレなのですね、あの阿婆擦れ(アイリス様)

 

「わたしなら、強引に迫りますのに……」

「たしかに」

 

ん? んんん? いつの間にか、心の声が漏れてしまっていたようです。えーっと、お嬢様。何が「たしかに」なのですか!?

 

「じれったいのは、嫌い。それなら、ボクの方から押してみれば……」

「えええ……?」

「ありがとう、マグノリア」

 

 あー、いけませんよお嬢様。それはあまりにも悪手すぎます。いつも無防備なお嬢様が突然迫ってきたら……少なくとも、わたしであれば耐えられません。

 いやでも、普段と違って強引になったお嬢様というのも、悪くありませんね。じゅるり。

 おっと、妄想に浸っている場合ではありませんでした。

 

「お嬢様、それはいけませ……お嬢様!?」

 

 なんということでしょう。先ほどまでわたしの前に座っていたはずのお嬢様が、姿を消してしまいました。お皿の上にあったチーズケーキは綺麗さっぱり食べ終えられていますので、おそらく完食して先に帰ってしまったのでしょう。

 何かを決意したときのお嬢様は、とにかく行動が早いのです。そして、困ったことに周りが見えなくなりがちです。もう少し慎重さというものを身につけていただく必要がありますね。

 

 せっかくのお嬢様とのお出かけが、こんな形で終わってしまうだなんて……

 自分が漏らしてしまった失言を呪いますが、完全に後の祭りというやつです。ううう。




マグノリアさん、心の中では非常によく喋るようで、いつもより文字数が多くなってしまいました。

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