白銀御行は誘いたい 前編
それは白銀の一言から始まった。
「広報をスカウトしようと思う。」
「広報…ですか?」
かぐやが不思議に思うのも無理はない。この秀知院学園の生徒会長以外の役員は能力に応じ、会長によって任命される。
そして、役職は「会長」の他に「副会長」「書記」「会計」「会計監査」「庶務」が基本である。
去年一度だけ「広報」の席にいた人間がいたらしいが、それだけだ。現時点で「庶務」の役職に就く人間は存在しないので、誰かを引き抜くならば、「庶務」が妥当なのだ。
「四宮の言いたいこともわかる。だが、庶務は言ってしまえば雑用だ。好んで雑用をしたいと思うやつはいない。雑用係をやってくれと頼むわけにもいかんだろう。」
「はぁ、なるほど。ですが具体的には何をするんです?」
「広報は、生徒会の活動を生徒に周知するのが仕事だ。生徒会と生徒との間には、距離があるだろう?生徒たちは、生徒会が何をしているのかあまり知らない。そこで!重要な役割を持ってくるのが広報の仕事だ。生徒会の活動内容を報告する生徒会誌を定期的に発行したり、ホームページを作って運用したり、活動の様子を発信したりしてほしいと考えている。」
「なるほど、広報がいかにアピールするかで、生徒たちの生徒会に対する見方が変わってくると言っても過言ではありませんね。流石、会長です。」
「実はもうアテがある。」
「そうなんですか?」
白銀が書類をかぐやに手渡す。
「東玉枝……。」
「ああ、彼女、最近一年に編入してきただろう。」
「……なるほど。『混院』ですか。」
「ああ。」
秀知院学園においては、初等部からの生徒は『純院』、中途入学の生徒は『混院』と呼ばれ、前者を優位とするヒエラルキーが生じているのだ。特に東玉枝は最近編入してきたばかりである。浮いていてもおかしくはない。
「ですが、彼女は姉妹校からの編入です。それに東グループの令嬢で、四大財閥とまではいきませんが、なかなかのものですよ。そんなに心配しなくてもーー」
「ああ、俺のときとは似ても似つかない。わかってはいる。しかし、一応様子を見に行ったんだが…………(あまりにも、昔の四宮みたいだったからーーーーーー)」
「…………お優しいこと。」
小さな声だった。言うつもりもなかったのに思わず声に出してしまったみたいだった。案の定白銀は、
「…?何か言ったか?」
「いいえ、何も。わかりました。そういうことならーーーー」
そのとき大きな音を立てて生徒会室にヤツは入ってきた。彼女はいつも波乱を巻き起こす。
「ならば!この私に任せなさーい‼︎」
「藤原書記⁉︎/藤原さん⁉︎」
「一体、いつから…」
「会長の「広報をスカウトしようと思う。」という宣言アタリからですね。」
藤原がわざわざ白銀の物真似をする。ちなみにあまり似ていない。
「最初からじゃねえか!入ってこいよ!」
「てへ☆」
「(…何が「てへ☆」よ。あざといのよ。会長にかわいさアピールで関心を惹こうって魂胆ね。あー、そうですか。藤原さん、貴女のことを見損ないました。何と浅ましくて薄汚い女なんでしょう。)」
この瞬間、部屋の温度が急激に下がっており、この異常に白銀も当然気付いた。言葉に表せないほどの恐怖が白銀の精神を蝕んでいく。しかし、藤原は全く気付いておらず、言葉を続ける。
「あずちゃんのことなら、この藤原千花にお・ま・か・せ!!」
「あずちゃん…⁉︎」
「藤原書記、まさかとは思うが既に…」
「はい!声をかけました!
「部活勧誘か…抜け目がないな」
「それで仲良くなったのですか?」
「いえ!ハッキリ断られました!」
「「ええっ⁉︎」」
「「玉枝ちゃん」って呼びたかったんですけどー。「下の名前で呼ばないでください」って言われたので、あずちゃんって呼んでます!」
にぱっと笑顔でとんでもないことを言い出す藤原。どう考えても冷たく突き放したであろう東玉枝のセリフ。それが一体なぜ、藤原が自分に任せてと言うほどの自信に繋がるのか、不思議でならない。
「(藤原書記のせいで、生徒会への勧誘が絶望的なんだが……‼︎)」
「(藤原さん、貴女って人は…)」
続く‼︎多分‼︎
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おまけ
「(あのピンクの髪の先輩なんだったんだろう…。脳内が花畑でできてそう。とりあえず名前呼んだし、ブラックリスト入りかな)」
藤原 東玉枝のブラックリスト入り決定。