かぐや様はいただきたい/東玉枝は広めたい
ある日、私は静かな場所で昼食を食べるべく、生徒会室を訪れていた。
「全くはしたない!! 秀知院の生徒とあろう者が情けない事です」
「そこまで怒る程の事じゃないだろう。ん?東じゃないか。お前も来てたんだな」
「こんにちは、白銀先輩。…四宮先輩は何をそんなに怒っているんですか?」
生徒会室に入るや不満を口にする四宮先輩を見て、私は白銀先輩に尋ねた。また白銀先輩が何かして四宮先輩を怒らせてしまったのでは?と私は不安を抱く。
白銀先輩の話によると、学内でお弁当をあーんしている生徒を見て四宮先輩が、はしたないと怒ったらしい。
伝統ある秀知院において人前でモノをねだることが浅ましいと思っているようだ。さすが貴族。
ひどい言いようだといいつつ、四宮先輩が更なる愚痴を言う前に会話を打ち切り、白銀先輩は鞄から一つの弁当箱を取り出した。
「あら?会長、今日は手弁当ですか?」
「ああ。田舎の爺様が野菜を大量に送ってくれてな。暫くは弁当にするつもりだ」
「会長が料理出来るとは意外な一面を知りましたよ」
「俺はこうみえて料理は得意だぞ」
そう言って開かれたお弁当箱。その中身に四宮先輩は目を奪われていた。煮物やタコさんウインナー、ハンバーグ、だし巻き卵など、食べたいものをとにかく詰め込んだお弁当箱は四宮先輩の心を射止めた。庶民の味にあこがれる貴族。あるあるだ。
四宮先輩のお弁当は、料理人によって作られ休み時間にできたてが届けられる。しかも、栄養バランスや旬の食材も考えられ作られているお弁当が四宮先輩の知るお弁当だ。だから、白銀先輩のお弁当は四宮先輩にとって初めて見る光景で、輝いて見えたのだろう。
本音を言えば、分けて貰って食べたい。だが先程の発言した手前…それを口にする事は四宮先輩のプライドが許さない。それでも気持ちは正直なもので、四宮先輩の視線は白銀先輩の弁当を追っていた。無論、私は四宮先輩の行動に気付いている。
意を決して、私が助け船を出そうとした時、そこに奴が来た。そう、生徒会室にやってきた藤原先輩だ。彼女は波乱を巻き起こす。
「あ、皆さん来てたんですね。わぁ会長、今日はお弁当ですか。美味しそう、少し分けて下さいよ」
「おお、いいぞ。じゃあ、藤原書記にはこのハンバーグをやろう」
あろうことか、藤原先輩はいとも簡単に一口分けてほしいと頼み、ハンバーグをもらった。おいしいそうに食べる藤原先輩……可愛い‼︎ハッ、だめ、東玉枝。気を確かに!
白銀先輩はそんな藤原先輩にタコさんウインナーもあげた。
四宮先輩にとってハードルが高すぎることを、いとも簡単にやってのける藤原先輩。そんな藤原先輩に対し、四宮先輩は軽蔑しきった目を向けている。…過激だ。
そしてどうやら白銀先輩はそれを自分に向けられていると勘違いし、自分の弁当はみじめにみられていることに対抗心を燃やしているようだ。もう、この人たちめんどくさい‼︎好きにして!
「そういえば、あずちゃんもお弁当だー!」
「え?ああ、はい。おにい……兄の手作りなんです。」
「ふむ、折角の機会だ。俺のおかずと東のから揚げ。良かったら交換しないか?」
「……ええ。別に良いですよ」
「そうか。じゃあ、遠慮なく頂くとしよう。ほら、これがお返しのタコさんウィンナーだ」
「ど、どうもありがとうございます」
「うわぁ。あずちゃん、羨ましいなぁ。会長の手料理…とても美味しかったですよ」
「む。おに……兄の手料理も美味しいですよ!よければ藤原先輩もどうぞ!」
もはや、私の思考は四宮先輩へ助け舟を出すことではなく、お兄様の料理がいかに美味かを知らしめることにシフトしていた。
なので、怨念が籠められた四宮先輩の視線に気付くことはなかった。
そして翌日の昼休み。今日も私は生徒会室で昼食を食べる事にした。昨日の失態を挽回しなければと心に刻み込む。どうやら私はお兄様のことになると、頭のネジが緩んでしまうようだった。
どう切り出そうかと思案する中、先手を打ったのは四宮先輩であった。
どうやら、悔しさが頂点に達した四宮先輩は、とんでもなく豪華なお弁当を持ってきたようだ。
見る限りでは伊勢海老や牡蠣が入っていて、弁当の域を軽く超えている…。
四宮先輩は豪華な食材とお弁当を交換してくれるよう白銀先輩が頼み込むことを期待してこの豪華なお弁当を持ってきたのであろう。
勝利を確信し余裕の笑みを浮かべる四宮先輩だったが、現実は妄想ほど甘くはない。
白銀先輩は四宮先輩に哀れまれていると思い、屈辱を感じ、高級食材に見合うものを持っていない!と交換を断固拒否した。
常識的に考えれば必然といえるのだが、思惑が外れた四宮先輩は脱力し項垂れた。
その拍子に机に頭をぶつけるのを見た藤原先輩の「かぐやさん頭大丈夫!?」と悪口にしか聞こえない心配。その言葉が四宮先輩に追い打ちをかける。
さらにここで藤原先輩が白銀にお弁当を作ってきてもらったことをカミングアウトした。
おそらく、四宮先輩の中の藤原先輩の印象が恐ろしいレベルまで落ちてしまったのだろう。暗殺者のような眼をしている。
それに気づいた白銀先輩は、急いでお弁当を食べて生徒会室を出てしまった。
結局、四宮先輩は白銀先輩のお弁当を食べることができなかった。
しかし、そんな彼女に救いの手を差し伸べる者がいた。
そこに藤原先輩が「一緒に食べましょ」とタコさんウインナーを四宮先輩に食べさせたのだ。
「どうですか~?美味しいでしょ。かぐやさんも一緒に食べよ」
「はい、皆で食べると楽しいですよね。折角ですし、私のから揚げもどうぞ。」
「あ、ありがとうございます。…東さんのお兄さんの料理も美味しいですよ」
「……す」
女子三人組の弁当を食べながらの楽しい昼休みが始まりそう…だった。やはりお兄様がらみになると頭のネジが緩む。
「「え?」」
「そうなんです!お兄様のお料理は世界一…いえ、宇宙一なんです!!」
((えー!?))
〔本日の勝敗 四宮かぐやと藤原千花の敗北(東玉枝のブラコンを引き出してしまった為)〕
おまけ
「お兄様、今日のお弁当も美味しかったです。先輩たちにも好評でした!」
「そうか、良かった。明日は何が食べたい?」
「…お兄様が作ったものなら、なんでも美味しいです。」
「ありがとう、玉枝。」
ブラコン+シスコン