期末テストが終わる一週間前。石上は留年の危機に迫っていた。
「ということで、私が石上くんの家庭教師になります。」
「は…?」
石上の目の前で、少女 東玉枝は普段はかけていない眼鏡を光らせながら宣言した。
「つまり、東が僕の留年を阻止するために、僕に勉強を教えるってこと?…つかなんで眼鏡…?」
「うん、そう。眼鏡はアレよ、まずは気持ちから…。ちなみに逃げると私じゃなくて、四宮先輩が石上くんを指導することになるから、そのつもりで。四宮先輩の手を煩わせないために、私はここにいるの。」
「ヒエッ…」
半分、嘘である。石上が、職員室で次のテストで赤点を取ったらもう後がないとを先生に告げられたことを聞いたかぐや………を偶然見てしまった東は、かぐやに「四宮先輩の手を煩わせるわけにはいきません!」と抗議し、かぐやのかわりに石上に勉強を教える権利を手にしたのだ。付け加えていうならば、それも嘘!石上と二人きりの勉強会。それは東にとって魅惑的な言葉だったのだ。
「そうね…四宮先輩なら、石上くんを暗い部屋に閉じ込めて、本格的に椅子に縛り、口もテープでふさぐ……ぐらいするかもね。」
「こ…殺される‼︎」
脅し。それは、私と勉強しないなら、あなたを殺す人間と二人で勉強することになるわよ?それでもいいの?という圧を含んでいた。
「四宮先輩は、石上くんの嫌なことをして精神的に苦しめてから殺す気よ。」
「ヒィィッ‼︎」
「石上くん、一人だと絶対勉強しないでしょ?白銀先輩はとても忙しいし、藤原先輩は論外だし、四宮先輩とは…一緒にできないでしょ?」
ここで東は追い討ちをかけた!
「ムリ…死ぬ…」
「じゃあ、私と一緒に勉強する?」
「する…」
「うん、じゃあ、このスマホとゲームは没収ね。このドリル解いて。」
学年五番目ぐらいには入る頭脳の持ち主である東は、やるからには容赦なかった。彼と二人きりで勉強なんて…集中できない…キャッ☆みたいな少女漫画的展開にはならないのである。
そして、ことあるごとに東は「四宮先輩なら、これから精神をじっくり蝕んで、石上くんの大嫌いな小魚を食べさせたり、無理やり勉強させたりするんだろうなぁ。」とか、「四宮先輩なら『まずはこの煮干しをいっぱい食べて、このドリルを全部やってください』とか言いそう」と、四宮かぐやと自分を対比して語る。私はそんなことしないけどね!という意味を含んだ言葉はまさに鬼畜!
数時間後…。
石上はなんとか、かぐやの恐怖から逃れるために必死に勉強に取り組んでいた。しかし流石に、嫌いなことを詰め込まれて、机にダウンしてしまう。
終わったドリルを見てみるとなかなか酷いが、ところどころで地頭が光るポイントを感じ希望が見えた。
「明日も同じ時間に勉強よ、絶対に石上くんに赤点は取らせないからね!……逃げたら四宮先輩が石上くんを捕まえるから。」
「それは死…」
そして、赤点回避のための特訓が始まった。
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図書館で勉強していると、石上くんが私になぜ勉強を教えるのか聞いてきた。
「……?石上くんを進級させるべく勉強を教えているに決まってるじゃない。生徒会的にも石上くんが留年すると困るの。(私も一緒に卒業できないの、嫌だし)」
石上くんは、目を見開いていた。…え、なんだと思ってたの?
そうして勉強を続けている内に、何やら後ろにいた女子生徒二人から、周囲からこそこそと話す声が聞こえてくる様になる。
それが聞こえたのか、石上は「もういいよ」と私に諦めたように言った。
確かに石上くんは中等部時代に色々やらかしたみたいで、周りからは腫れもの扱いされている。
そんな自分と勉強していたら変な噂が立つし東の株が下がるだろ、と石上くんは私に忠告した。でも。
「私、ちゃんと知ってるもの。」
「え…?」
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女子生徒が僕と東のことをコソコソ話しているのを聞いて、東に忠告した。僕は勿論、東もこの学園ではそこそこの有名人である。そんな有名人二人が、それも異性同士が二人きりで、放課後の図書館で、一緒に過ごしていれば注目の的にもなるだろう。
そういえば東は、一身上の都合とかで、他の学校から途中で転入していた人間だ。僕の中学時代のことを知らなくても当然である。
「私、……………の」
「え?」
東がその言葉で俯いたからか、うまく聞き取れなかった。
「石上くんは、どうも雑音がうるさくて勉強がはかどらないみたいね。」
と言って、東は後ろの女子生徒に注意しに行った。
女子生徒の「石上とは関わらない方が…」と困ったようにつぶやく声が聞こえてくる。もう慣れた。…だけどやっぱり…それはなんだか。
「ご忠告どうもありがとう、だけど私は周囲の評判で人を判断しません」
ときっぱりした声が僕の耳に響いた。
東は戻ってくると、さっきまで僕の前に座っていたのに、なんと僕の隣に座る。
「石上くん。」
東は、僕の顔を覗き込む。
「私は、石上くんが、正義感の塊のような行動が取れる人間だって知ってるし、自分が全く得をしない、むしろ自分の身を切ってでも他人を助ける精神を持ってるってわかってるから。…(石上くんは覚えてないかもだけど、私石上に助けてもらったこと、あるんだよ?)」
「え…」
「私がどうするのかは自分で決める。だから、石上くんが私の株なんか気にしなくていいの。勝手に決めつけて納得しないで!…それから二度とそういうこと言わないで。」
「…わかった」
図書館だからか、静かな声だったが、その言葉は強く自分に響いた。
「さてと、勉強を再開しましょう。まったく、石上くんは地頭はいいんだから、学習意欲を持ってしっかりすれば……石上くん、聞いてる?」
自分のことをまったく曲げず勉強を教え続ける東のことをなんだかかっこいいと思った。
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後日…テストが終わり石上はなんとか赤点を回避し、石上が進級できることに東はホッとした。
おまけ
「……どうしよう、あんなのほぼ告白じゃない!?私、次からどんな顔して石上くんと会えばいいの⁉︎」
〔本日の勝敗 東玉枝の敗北〕