生徒総会も終わり、夏休みが待っているということで、生徒会メンバーは少し浮かれていた。
そして、夏休みに何かしたいと思うかぐやと白銀は、息を合わせて藤原に予定を立てろと言わんばかりに名前を呼んだ。
一度、海か山かという論争で夏休みの予定が決まりかけたことがあったが、ここで夏休みの予定を決めることができなければ、夏休みのイベントで起こり得るフラグが全て無くなってしまうのだ。つまり、何とかして夏休みのスタートダッシュを決めなければならないのである。
しかし、ここで白銀から旅行の話を切り出そうものなら、久々にかぐやに「お可愛いこと」と言われてしまう。そこで白銀は藤原に旅行の話題を作らせるために誘導していた。
上手く旅行の話になり、話を続けていくと藤原は「私も1週間ほどハワイに行ってきますよ!」と言い、誘導が違う方向へ行ってしまった。
このイレギュラーな藤原を止められるものは存在せず、長い付き合いのかぐやも無の境地に至る。
しかし、藤原抜きで遊びに行く計画を立てようとすると、白銀的には“藤原千花抜き=四宮かぐやと遊びたい”ということになってしまい、また「お可愛いこと」と言われてしまうと考えた。つまり、藤原が旅行から帰ってくるのを狙って予定を立てなければいけないのだ。
白銀は旅行から帰ってくる時を狙って話を誘導するが、藤原は「受験は2年の夏が天王山です!遊びと勉学のメリハリをつけなくちゃだめです!」とここだけ正論を言ってくる。高校2年の夏が勝負!受験の天王山は夏!と謳われる言葉で、高校二年の夏でどれだけ頑張れるかが高校三年での伸びにつながるという意味だ。
一方、かぐやは藤原をコントロールすることをあきらめて美味しい食べ物のことを考えていた。
「どこか行きたいですよね…会長は来年になったら受験で忙しいだろうし…」
そこで石上がぎりぎり聞き取れる声で言った。
「そうだね。それを考えると遊べる時間は今だけだし…」
東は、石上の声に援護した。白銀も夏祭りはどうだと提案し、藤原が「行きましょう!行きましょう!」といってノリノリで話に参加してくる。天王山はどうした。
藤原が「花火!」というと、かぐやの自我が戻ってきて予定が決まりそうになった。しかし、そこで欲望を出すとあいつの攻撃を受けてしまうのだ。そう、藤原である。彼女はその日トマト祭りでスペインにいるそうだ。
ーーーーーー
「まさか皆、私を置いてお祭り行っちゃうんですか!? 酷いですよ!?」
と主張した藤原先輩は、石上くんの「先輩がトマト祭りを楽しんでるのに僕らは楽しめないんですか?」といういつもの石上節が炸裂し、正論によって論破された。
流石にこれは私も擁護できない。
藤原先輩は泣きながら石上くんを罵倒して走って行った。豆腐より柔らかい石上くんのメンタルは藤原先輩の罵倒で砕け散り、いつも通り早退しようとしていたが、私も白銀先輩も四宮先輩も「今日は正しい」と言って石上くんを慰める。
こうして石上くんのファインプレーによって夏祭りの約束が結ばれた。
夏休み、8月20日、花火大会。私は笑みを浮かべながら予定をしっかりと書き記した。
〔本日の勝敗 藤原千花の敗北〕
おまけ
『東兄は愛でたい』
「お待たせいたしました、お兄様‼︎」
少女が息を切らして走ってくる。
「そんなに急がなくても大丈夫だったのに。大丈夫かい、玉枝。」
軽く髪を梳いてやると、少しだけ気恥ずかしいようで顔を赤らめた。うん、可愛いらしい。
「いいえ、私がお兄様と早く会いたかっただけですので。」
ぽん、と少女ーーー玉枝の背中を押して、歩みを進めた。
「生徒総会お疲れ様、…機嫌良いね、何かいいことでもあった?」
「はい。…へ?いえ、あの…。夏休みに生徒会のみんなで出かけることになりまして。」
「良かったね。」
本当に良かった。ここに転校する前の玉枝は僕以外のことでこんなに柔らかい顔をする子ではなかった。生徒会のメンバーのことがちゃんと好きなのだ。
「はい。…あの、お兄様。」
「ん?」
「私たちも…その。」
玉枝が歩みを止めた。なんとなく言おうとしてることがわかる。
「うん、僕たちもどこか行こうか。…玉枝が良ければだけど。」
「はい、勿論です!」
〔本日の勝敗 東兄妹の大勝利〕