トラックに轢かれてしまった女性。目が覚めると……『ひぐらしのなく頃に』の世界だった!?

なんでよりによって惨劇の世界に、と嘆く彼女だが、どうやら憑依らしい。しかも彼女が憑依した先は……

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ひぐらし世界にトリップしましたがトリップ先が核地雷でした

「ううん……んぁ……?」

 

 意識が浮上してくる。あれ、私なんで寝てるんだっけ?

 

(そうだ……確かトラックに轢かれて……)

 

 帰宅途中、信号無視したトラックに轢かれたんだ。かなりのスピードで撥ね飛ばされたから、ああ、これは死ぬな、と妙に冷静に考えていたのを覚えている。

 

(助かったの……?)

 

 段々と意識がはっきりしてくる。こうして思考しているってことは、助かったんだろうか。そんな事を考えながら目を開いた私の目に映ったのは。

 

「知らない天井だ」

 

 うん。思わずネタをぶっ込んでしまったが本当に知らない天井だった。きょろきょろと辺りを見回す。どうやら病室のようだ。ってことは、あの後病院に担ぎ込まれたのかな。と、誰かが近づいてきた。

 

(看護師さんか……金髪だけど)

 

 外人さんかな。そんな事を思っていると看護師さんは私を見て驚いたように目を見開いた。

 

「まぁ! 間宮さん、目が覚めたんですね? 今、先生に知らせて来ます」

 

 看護師さんはそう言って少し慌てた様子で出ていってしまった。やっぱり、自分はあれからずっと意識不明だったらしい。

 

「ん? 間宮さん?」

 

 あれ、私ってそんな名字だっただろうか。……思い出せない。轢かれた影響で記憶障害にでもなってしまったのか。でも、間宮という名前ではなかった気がする……。

 それに、さっきの看護師さん、何だか見覚えがあるような……声も聞いたことが……凄く聞き覚えがある声だった気がする。どこで聞いたんだっけ?

 

 私が困惑していると、看護師さんが先生らしき人を連れて戻ってきた。私はその先生の姿を見て衝撃を受ける。

 

(…………は?)

 

「おお、意識を取り戻されたんですね! いやはや、心配しました。もう一週間も眠ったままだったんですよ」

 

 先生が私の身を案じてくれるが、私としてはそれどころではない。……先生と、彼の横に並んだ看護師さんの姿が凄く見覚えのある人物だったから。

 

「あの……先生。ここって、どこの病院ですか?」

 

 本当は聞くまでもなくほとんど確信に至っているのだが、それでも聞いた。どうか違ってくれとの一心で。もしもこの確信が正しいとすれば……とんでもない事になるからだ。

 そして先生は答えを返してくれた。私が一番聞きたくなかった答えを。

 

「ああ、ここは雛見沢村の入江診療所ですよ」

(やっぱりかああああぁ!?)

 

 雛見沢村。日本のとある県に()()()()()()()()()()()。そしてここが入江診療所ということはこの二人が。

 

「私は入江京介。ここの医師をやっています」

「私は鷹野三四(みよ)。看護師ですわ」

(知ってますとも! よーく存じてます!)

 

 そうとも、二人とは初対面だが、私は元々二人の事を知っていた。何故なら、彼らが()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう。雛見沢村。それはとあるゲームに登場する架空の村。謎に包まれた村を舞台に繰り広げられる惨劇に巻き込まれる少年少女たちを描いた、同人ゲームから爆発的ブームを叩き出し、アニメ化もされ、一時期は社会現象にまでなった、大人気サウンドノベルゲーム。そのゲームの名は──

 

『ひぐらしのく頃に』。

 

(冗談じゃないわ! なんでよりによってひぐらしなのよ!?)

 

 トラックに轢かれて気が付いたらゲームの世界でした──なんて最早使い古された展開だが、なぜトリップ先がここなのか。最悪としか言いようがない。

 誤解を招かないように言うなら、私はひぐらしというゲームは嫌いではない。むしろ大好きである。雛見沢という狭い世界で起こる惨劇と、それに立ち向かう主人公たちの物語に心奪われたものだ。だからひぐらしは大好きだ。ただしそれは、傍観者でいられるなら、という但し書きがつく。

 

 さっきから言っているように『ひぐらしのく頃に』は雛見沢を舞台とした惨劇を描いたゲームだ。そう、惨劇である。それも、ルートによっては村丸ごと全滅する。誰が好き好んでそんな世界に行きたいと思うのか。

 

(い、いや、ここが祭囃し編なら……どんな確率よ!)

 

 トゥルーエンドである祭囃し編の世界なら惨劇は起きずに済む。逆に言えば、祭囃しでなければほぼアウトだ。綿流し編ならワンチャンある程度で、それ以外ならまず間違いなく村ごと滅びる。

 

(いや、早々に雛見沢から出れば……出れないじゃないのよ!)

 

 眠っていたとはいえ雛見沢に一週間も滞在したという事は()()()()()から雛見沢の外に出れない可能性が高い。詰んでない? これ。

 

「間宮さん。大丈夫ですか? 先ほどから随分と顔色が悪いですよ。まだご気分が優れないようですね」

「す、すいません。あまり状況が飲み込めてなくて……」

「先生、間宮さんにお見舞いですわ」

 

 鷹野さんがそんな事を言ったが、私は理解できなかった。は? 見舞い? なんで私に見舞いなんて来るのだ? 転移者である私に見舞いに来る人間なんているわけが……。

 

(……待って。まさか転移じゃなくて……憑依?)

 

 私は自分が転移してきたものだと思っていたが……転移じゃなく、この世界の誰かに憑依したんだとしたら……。その知り合いが見舞いに来る事は有り得る。確かこの身体の名前は間宮……間宮?

 

(間宮って……まさか)

 

「失礼します」

「ああ、レナさん。間宮さん、目を覚ましましたよ」

「えっ! ほ、本当ですか!」

 

 入江先生が声をかけ、近寄って来たのは……

 

「れ、レナちゃん?」

 

 竜宮レナ。原作のパッケージに描かれている、メインキャラクターの一人だ。彼女が見舞いに来るという事は……。

 

「レナさんは、貴女が診療所に来てから毎日お見舞いに来てくれてたんですよ」

「元気になったんですね、()()()()

 

 へ、へぇ……そうなんだ。いや、それより今なんて言ったのレナちゃん?

 

「えーと……竜宮レナちゃん……よね?」

「えっ!? は、はい!」

 

 何やら驚いたような彼女に尋ねる。

 

「その……リナってのは私の名前?」

「えっ、そうですけど……もしかしてリナさん!?」

「間宮さん、まさか記憶が!?」

 

 いや、別に記憶喪失ではないが……。

 

「先生、鏡とかあります?」

「ありますよ、少しお待ちを」

「あ、私が持ってます」

 

 レナが鞄から手鏡を出して渡してくれたのを受け取り、自分の姿を見てみる。そこに映っていたのは──

 

「は、はははは……」

「り、リナさん?」

 

 レナの困惑したような声を聞いて……先ほど彼女が驚いた理由を理解する。私が入る以前の彼女は、この子をレナとは呼ばないだろうから。そして、確かに本性が露呈する前なら、レナが見舞いに来てもおかしくはない。

 

(冗談キツイわよ……) 

 

 もう認めるしかない。自分が憑依したのは、原作でも最悪の嫌われ者。祭囃し編を除けば、登場時の死亡率100%を誇るある意味凄まじいキャラ。リメイクの追加シナリオですら救済されず、しかし誰もそれに同情しない。悪人にも事情があるように描くひぐらしの物語で、唯一救いようの無い下衆として描かれた人物。

 

「そりゃないわよ……オヤシロさま……」

「え? リナさん、今……えっ、リナさん!? しっかりして下さい! リナさん!?」

 

 思わずどこぞのあうあう神様への恨み言を口にして、何やら驚いたようなレナの声を聞きながら……『間宮リナ』は意識を手放した。

 その直前、ひぐらしの鳴く声だけが、やけに鮮明に聞こえた。

 



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