朝だ。起き上がってからルーチンをなぞる。水を飲む。コーヒーをいれる間に仕事の支度をする。顔を洗う。コーヒーが湧けばそれをブラックのまま飲む。思考がクリアになっていく
「さて、行こうか」
家のドアに鍵を掛ける。確認。なんの変哲もない一軒家を一瞥し、今日も仕事場までの同じルートを通る。変哲もない。なにの変哲もない何時もの日常の何時ものルート。
何時もの郵便局。これが仕事場である。
仕事場に着き朝のルーチンを行っていく。しばらくすると窓口を開ける。
だいたい知らない人が知っている動作をなぞる。
郵便受け取りなら受け取り、切手なんかの販売、業務をこなしていく。
暫くして、立ち尽くしてから入ってくる女性がいるのが目に映る。郵便局に入ってくるのになぜ立ち尽くしている?
…緊張?
入ってからもどこか落ち着きがなく見える
強盗の類いではない。あれは堂々としながらもおどおどとする。
ではなんだ?
さっきの立ち尽くしていた女性がやってくる。
「荷物の受け取りに来ました」
微妙に聴いたことのある声色がする
その手には不在時連絡表が握られている
「本人確認できる身分証はありますか?」
声について引っ掛かるが業務が先だ。考えるのは後でもできる
「これでおねがいします」
朝田詩乃…ひっかかりが増えた。最近似たような名前を見た
「確認できました。ありがとうございます。」
受付から奥に行き、不在時連絡表のコードに合わせてある荷物を取り戻る
「こちらでお間違え無いでしょうか」
確認をとる。首を縦に振っている。間違えないみたいだ
「ありがとうございました。」
女性は荷物を抱えて出ていく。足が微妙に震えているのが見えた
普段は引っ掛からない日常のはずだがなぜかその女性が震えている姿が目に焼き付く。
まるで、自分の過去に会っているかのようだったから
……
さて、思い出したついでだ。少し前に会った出来事を振り返る
あれは何年前だったか。俺が中学ぐらいか…
親にいわれ、郵便局にものを取りに行ったときだ。
受付待ちをしていた。一人の挙動不審な男が入ってきたのを覚えている。そいつは虚ろな目をしたまま強盗を行おうとして、女性を人質にした。なにがしたいんだこいつはと思ったことを今でも覚えている。そして、俺はそんなやつの一番近くで見ていた。そう。見ていた。やつの強盗の用件は完了。
やつ動作の順序、手順、会話の内容を頭の中で再確認。
自分の立ち位置、硬直度合い、相手の反応速度。無駄はなかったか。
カウンター周辺の物の配置、人間の動きも整理。次回同様の状況があれば、どの部分で効率が上がるかを確認。
声のトーンや視線の変化、微妙な間合いも記録。計算上、この距離とタイミングで問題はなかった。
必要以上に言葉を交わさず、用件だけを処理した事実を明確化。
これで同様の状況が起きても、余計な思考や感情に左右されず対応可能。
強盗が一瞬目を離した隙。少女が拳銃を奪う。男を撃った
体は硬直している。眺めているただその少女が撃ち抜くまでを。
…
あぁ、面影があるのか、だが、俺は最近あの女性に似た人を見た気がする。
「大丈夫かい?」
おや、思考に熱が入りすぎたみたいだ。おばあちゃんに心配させてしまった。
「ごめんなさいね。ちょっと考え事を」
「そうかい。ならいいんだ。これをおねがいしてもいいかい?」
見るとちょっとした大きさの物を配送したいみたいだ。
「料金は…」
速いな、もう小銭が置いてある
「間違えないかい?」
数える。間違えない
「ありがとうございます。では配送準備しますね。お荷物預かります」
おばあちゃんはありがとね。とだけ言って帰っていった。
さぁ、もう一踏ん張りだ。頑張ろう。
仕事終わり間際のルーチンをこなし、業務を終える。
少し引っ掛かっている女性についても整理しなければ
何時もの帰り道、ただ、今日は少しだけ月が傾いているのが目に入った。
「半月か…久々に見た気がする」
帰ればご飯を作る、食べる。皿を洗う。風呂に入る。
ふと思い出す。頭の片隅でざわつきが生まれる
「詩乃…シノン…まさかな」
なぜか引っ掛かった名前、つい最近見た名前。微妙に付け加えられただけのゲームの名前。ただ、そこで妙にざわつく
風呂上がりに水をのみ、ベッドに横になる。
今日も触って寝よう。
「リンク・スタート」
さて、文章は往々にして語るとしてトラウマは時に感情だけを奪うことがある。本人は飄々としているのに。だ。
作者独白