刀神   作:SIーZUー

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前回のあらすじ

みつるぎやに訪れた女郎蜘蛛、久崎明莉から酒鬼が作る酒を入手してくるよう依頼された刀真達は杏二郎との契約器「亀鏡」の能力「水鏡門」を用いて酒鬼がいると言われる場所に向かったのだった


5話:湖に潜む者

山の中にある巨大な河川。静かに揺れる水面が突如として渦巻きその中から巨大な泡が現れる。

泡は静かに宙に浮きそのまま川辺に降り立ち、パンッ!と軽快な音を立てて割れ、中から刀真と雪美の姿が現れる。

刀真が周囲を軽く見回しつつ妖武装を解除すると亀鏡から光が溢れ、光が形を作り杏二郎となった。しかし、その姿は河童の姿ではなくおカッパ頭の茶髪に高身長であり、ジーンズに白いシャツを着た男の姿であった。一応、人目が無いかを警戒し、変化しているようだった。

 

「着いたみたいですね」

「あぁ。ここが酒鬼が居るって所、「旭川湖(あさひがわこ)」か」

 

岡山県建部町にある河川「旭川湖」。高さ45メートルの重力式コンクリートダムによってできた巨大な人工湖。周辺には桜が植樹されており丁度今が咲頃のようで周囲は桜が満開であり、美しい情景となっていた。

 

「うわぁ…桜が満開ですね。とても綺麗です」

「あぁ。なんでも満開の時期になると花見客で多くなる程らしいしな」

「花見客ねぇ…それにしては人っ子一人も見当たらねぇのは変じゃねぇか?」

 

杏二郎は目を凝らし対岸の様子を見るが杏二郎の言うように周囲には花見客どころか人が1人もいなかった。

ここまで桜が満開でありながら人が誰もいないのはある種不気味であった。

 

「確かに変だな…何かあった——」

 

——のだろうか?とは言葉が続かなかった。

湖から何者かの視線を感じたからだ。視線は明らかに敵意を持っており肌が栗経つ。

雪美と杏二郎の様子を確認すると二人も気づいたようであり湖を警戒する。

視線の主に共鳴するように静かだった水面も激しく揺れる。

 

「…湖の中に()()がいるぜ。それもとびきりおっかないのがな。まだ襲っては来ないみたいだがあまり長居するとヤバそうだぞ」

「…みたいだな。とりあえずここは離れるか。静かに、ゆっくり離れるぞ」

 

小声で手早く話し合い刀真達は静かに河川から離れてダムの方へ足を向ける。

その場から立ち退く気配を感じたのか湖の中からこちらを見ていた気配は徐々に薄くなり、刀真達が完全に立ち去ると気配は湖の奥へ消え水面も静かになった。

 

 

◇◇◇

 

「ふぅ〜、さっきの気配はなんだったんだ?」

「さぁなぁ?まぁ十中八九妖だろ」

 

謎の気配から距離を取り、とりあえずダムの方に避難してきた刀真達は緊張感から解放され息を着いていた。

 

「もしかして先程のが酒鬼という方だったんでしょうか?」

「いや、たぶん違うと思うよ。久崎の話によると酒鬼はさっきの所の桜のずっと奥に住んでいるって話だったし」

 

なんでも山の奥に稲畑がありそこで米から酒を作っているとの話らしく、少なくとも湖の中に住んでいる訳では無い為おそらくあの気配は酒鬼ではないだろうと刀真は考えていた。

じゃあさっきの気配はなんだったのか?と杏二郎が聞いてくるが刀真としても気配を感じただけで正体がわかる訳では無いため答えあぐねていた。

 

「ん?おーいアンタ達!ここは今立ち入り禁止だから勝手に入ったらダメだよ!」

 

そこへ男が声をかけてくる。男は若くその格好は警備員の服でありどうやらここで警備していたようだった。

 

「すみません。花見に来たんですけど立ち入り禁止とは知らなかったんです。何かあったんですか?」

 

刀真は少し考え観光客と偽り、何故立ち入り禁止になっているのかを聞いてみることにしてみた。

 

「あ〜観光客の方でしたか!実は最近ここら辺で人が行方不明になる事件が起きてるんですよ」

「行方不明…ですか?」

「はい。それになんでも湖のどこかでデカい影が見えたなんて噂もあって危険だから立ち入り禁止にしてたんですよ。お陰で友達と計画してた花見とかが全部中止になっちゃったんですよ…」

 

花見が中止になったのがショックだったのか警備員は残念そうに溜息をつく。

雪美はそんな警備員を見て「それは残念でしたね…」と声を掛け「ホントに残念でしたよ…トホホ」と警備員は嘆いていた。

 

「っと、その事は置いといて!兎に角今は立ち入り禁止なんで早くあっち行った行った!」

 

気を取り直した警備員に押され3人はダムから遠ざけられる。仕方なくその場を離れるが警備員が見えなくなった所で河川沿いにある森に身を隠す。

 

「追い出されちゃいましたけど刀真さんどうしますか?」

「…とりあえずは酒鬼を探そうかなって思う。湖の気配も気になるけどまずは依頼が先だ。幸いこのまま森を進んでいけば警備員にも見つからないし湖の気配もこっちに気付かないだろう」

「だな」

「分かりました」

 

意見が一致したことを確認しとりあえず久崎に教えられた場所を目指して三人は桜が咲き誇る森の中を進む事にした。

 

「それにしても本当に綺麗な桜ですね。機会があればお花見に来たいくらいです」

「そうだな。依頼が終わったら小太郎達も連れて花見にでも来ようかな?」

「それじゃあお弁当も用意してみんなで行きましょう」

「あ、雪美ちゃん弁当にかっぱ巻きもよろしく頼むで!」

「ふふっ分かりました」

 

 

◇◇◇

 

 

「おーい刀真。ほんとにこの辺りなのか」

 

刀真達は40分程桜を眺めつつ森の中の獣道を進んでいたがまだ目的地には着いていなかった。なかなか見えない目的地に杏二郎はめんどくさくなってきており、先程から何度もまだかまだかと刀真に文句を言っていた。

 

「久崎によるとここら辺の筈なんだが…お?」

 

杏二郎の文句を無視しつつ久崎が印を着けた地図と現在地を照らし合わせながら進んでいると不意に違和感を感じる。

刀真は立ち止まって周囲を確認するが周りにおかしな物は無かった。刀真の急な行動に杏二郎が声をかける。

 

「どうかしたのか刀真?」

「いや、なんかここで違和感を感じたんだけど…気のせいか?」

「…多分これですね」

 

首を傾げる刀真を尻目に雪美は道の右脇にしゃがみ込みそこにあるサッカーボール大の石を指さす。

 

「ただの石に見えるけど?」

「見ててください。…よいっ…しょ!」

 

雪美はその石を両手少し持ち上げ15cm程横にズラす。

すると石の先、つまり自分達が通ってきた道の右手の空間が歪み隠されていた道が現れる。

 

「隠形の結界か。そんでその石が結界の起点って事か」

「えぇそうみたいです。私の地元にも似たようなのはあったので」

「あーなるほどね。確かに雪美さんちの術式も似た感じだったけ。にしても一発で見破るとはすごいな雪美さん」

 

隠形。物を隠す術で結界の一種であり、古くから妖が人目から身を隠す為に用いてきた妖術である。妖ごとに術式や効果の大きさが異なる為、妖同士でも見破るのは中々難しい…筈なのだが雪美はそれを難なく見破った。

それを素直に賞賛すると雪美は少し照れながら謙遜する。

 

「いえいえ大した事ではありませんよ。刀真さんが違和感を覚えるまでは私も気付きませんでしたし。それに先程も言ったように地元の術式と似てましたので」

「いや十分すごいと思うよ。俺も隠形を見破るのは中々難しいってのは知ってるし。何よりもう一人の妖が微塵も気付いてなかったし」

「…ッスゥー。チョットナニイッテルカワカラナイッスネ」

 

遠回しに「なんでお前は違和感すら覚えてないんだよ」と杏二郎を軽くディスるが当の本人はそっぽを向きながら下手な口笛を吹いていた。

 

「と、とにかく先行こうぜ!この先に酒鬼がいるんだろ?とっと依頼終わらせようぜ!」

 

言いながら杏二郎はとっとと進んで行ってしまう。それを見て刀真と雪美は顔を合わせお互いに苦笑し杏二郎を追いかける。

暫く道を進むと出口が見え、そこを抜けると視界一杯に広がる田んぼが見える。

 

「うわぁ…意外と広いですね。もしかしてこの田んぼも酒鬼さんが?」

「そうらしい。しかも1人でこれを管理してるんだと」

「うへぇこれを1人でってすげぇな。…あら?けどこの田んぼ枯れてるな。確か今の時期だと土作りとかの時期だったような気がするが」

「そうなのか?俺はあまりそういうのには詳しくないから分からんが…とにかく向こうにある建物に酒鬼が住んでるんだと。とりあえずはそこに行ってみよう」

 

三人は各々感想を抱きつつ田んぼを進んでいき奥にある民家より少し大きいくらいの木造の建物を目指す。

建物の入口に立ち「ごめんくださーい」と戸にノックする。しばらくすると中から鍵を開けられ1人の男が姿を見せる。男は甚平を着ており、黒い髪の中から2本の角を覗かせた出で立ちで一目で件の酒鬼と分かった。

 

「…どちらさんで?ここは普通の人間が来れる様な所じゃないんだが?」

 

本来人が訪れる事がないため酒鬼は訝しげな視線を投げかける。

それに対して軽く会釈しつつ挨拶をする。

 

「突然お伺い致しまして申し訳ありません。俺は鍛冶師の御剣 刀真と言います。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「…とりあえず中へ上がってくだせぇ。お茶を出しますんで」

 

 

◇◇◇

 

 

刀真達は居間に上げられ出された茶に礼を言いつつ炉を挟んでお互いに自己紹介し合っていた。酒鬼の名は鬼島 佐知助(きじま さちすけ)といい、ここで米から酒を作っているらしい。

 

「まずは突然の来訪で失礼致しました。」

「いや、構わんですよ。連絡手段がある訳でもないんですし。それよりもご要件は?」

「まずはこちらを受け取っていただいてもよろしいでしょうか」

 

そう言って刀真はウエストポーチから一つの手紙を取り出し佐知助に手渡す。

 

「…読んでも構わないか?」

「どうぞ」

 

断りを入れて佐知助は封筒から手紙を取り出し手紙を読み進めていく。

 

『拝啓、佐知助様。

先日お伺いしました女郎蜘蛛の久崎 明莉です。先日は大変失礼致しました。あれから私自身反省しており、今回は手紙という形で申し訳ありませんが謝罪させて頂きたく筆を取らせて頂きました。』

 

そんな文から始まったこの手紙はここに来る前に(なんとか説得して)久崎に書いてもらった先日の件についての謝罪文であった。

今回ただ酒を調達するだけでは根本的な解決には至らない。このまま久崎と佐知助が不仲のままでは刀真としては何度もこうやって酒の調達を頼まれる為、根本的な解決として久崎には手紙で佐知助に謝罪をするようにさせてもらっていた。

本来なら直接謝罪するのが筋だが直接久崎を合わせると最悪どちらかが怪我をしかねないと考えた為今回は手紙という形にしたのだ。

暫く佐知助が黙々と手紙を読み、暫くして溜息をつきながら手紙を手元に置く。

 

「…はぁ。まぁあの時は俺もついカッとなっちまったからなぁ。まぁ、その件についてはこのように謝罪を頂いたことですし水に流すと致しましょう」

「ありがとうございます」

「ただし、またあんな態度で酒を買いに来たら次は絶対売らないと伝えておいてください」

「はい、先方にもそのようにお伝えしておきます」

「それで酒が欲しいんだったな…。酒を売るのは構わんが少しあんたさんにお願いしたい事があるんだが…話を聞いては頂けないかね?」

「?…はぁ、構いませんが」

 

佐知助は少し困ったように話を切り出す。

 

「実は今湖に妖が住み着いているんだが…ソイツを追い払ってわくれんか?」

「湖に住む妖…来る途中俺達も旭川湖で強い気配を感じましたがもしかしてソイツの事ですか?」

「あぁソイツだ。ソイツは(みずち)って妖なんだがつい最近あの湖に住み着き始めたみたいでな。これがとても凶暴で困ってるんだ」

 

蛟。古くから日本書紀や万葉集にも語られる妖でありその名は「水の霊」の意を持っている。その姿は龍のように巨大な蛇であり名前の由来通り水を司る力を持ちその口から猛毒を吐くと言われており、地域によっては水神として信仰される程強力な妖である。

 

「ウチの酒はあそこの水を使って作ってるんだが水を汲もうとしたら蛟が襲いかかってくるもんでほとほと困ってるのさ。このままだと酒を作る所か田んぼにも水を入れられなくなっちまう。」

 

言われてみて田んぼが枯れていた事を思い出しそういう事だったのかと刀真達は納得する。確かにそんなに凶暴な妖に襲われては水も汲めないだろう。

 

「アンタの事は風の噂で聞いております。何でもいろんな依頼を引き受けては解決してくれる人間の鍛冶師が居るってな。どうかこの依頼受けてくないか?報酬としてウチの酒を持って行ってくれて構わん。」

 

佐知助は深々と土下座で頼み込む。その様子に刀真はというと困ったような顔になり慌てて顔を上げさせる。

 

「ちょ、ちょっとそんな土下座なんて!そんな事しなくても依頼なら受けますよ!ちゃんと報酬も出してくれるようですし!」

「本当か!?」

「本当ですって。その依頼しっかりと引き受けました」

「…それじゃよろしく頼んます!」

 

佐知助は依頼を受けてもらい少しほっとしたようであり、ずっと険しかったその表情は少し和らいでいた。

 

「…しかし蛟か、少し変だな」

「変…と言うと?」

 

不意に杏二郎が投げかけた疑問に反応すると杏二郎が自分の疑問を話し始める。

 

「いやほら、蛟ってのは地域によっては水神として信仰されてる妖なんだがな?全部が当てはまる訳じゃないんだが基本的には気性が穏やかな妖なんだよ。しかも基本的には1箇所に住み着いたらそこから離れることはあまり無いし。そんな奴が最近になって新しい所に住み着いてしかも凶暴ってのはなんか変だなぁってな」

 

確かに。と全員がそれを聞いて疑問を覚える。蛟という妖を知らない者でも今の話を聞くと旭川湖にいる蛟の習性は普通の蛟のそれとは異なっている事が分かる。

 

「佐知助さん。あの湖には元々蛟が住み着いていた訳ではないんですか?それが最近になって何らかの原因があって凶暴化し姿を見せるようになったとか」

「いや、それはないな。あそこには元々俺が住んでた村があってな。ダム建設と共に村は沈んで湖になった訳だが、水の中に住んでる筈の蛟が昔から住んでる筈はないしそんな話は俺も聞いた事は無いな。」

「って事は蛟が最近になって住み着いたってのは確かみたいだな」

 

うーむ。としばらくその蛟について考えるがとりあえずそれについては保留する事にして立ち上がる。

 

「あまり深くそれについて考えていても仕方ない。とりあえず湖に行って蛟と接触してみよう」

 

最悪…というかかなりの確率で蛟と戦闘になる事を刀真は予感しつつ依頼解決に向けて行動を起こす事にした。




最近急に暑くなってエアコンのスイッチが切れない作者です。
今月の電気代が怖い…
こんな暑い日には雪美さんに膝枕して欲しい…という妄想(笑)
さてそんな妄想は置いといて旭川湖ですがこれは実際に岡山県にある人口湖で、名字こそ分からないですが佐知助という酒鬼も旭川湖いると伝承される妖怪らしいです。ネタ探しでネットで妖怪について調べてるとこういう伝承などを知れて結構楽しいです。
皆さんも気になる妖怪がいれば是非調べてみてください。(そしてあわよくばネタ提供をry)

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