この世界の中心で青年は愛を叫ぶ。
※この作品はXfolioにてマルチ投稿してます。
─僕の初恋は遅かった。
ハンターになって早三年、多くのクエストと死線を潜り抜けてきた僕はいつしか上位ハンターの一人に数えられるようになっていた。
ギルドカードの色も変わり、クエストをこなして生計を立てる日々であるせいか、出会いはもちろん色恋沙汰と呼ばれるものに縁がなかったのも、ソロプレイがメインであったからだろう。
受付嬢のお姉さんには独身女性ハンターの紹介をされる始末である、クエストを紹介してください。
閑話休題、僕は三年前、ハンターとしての道を選びはじめてから太刀を使い続けている。
一番馴染むし、ある意味太刀に恋してると言っても過言ではないが、僕はマカライト鉱石や太刀といった無機物を愛する変態ではない。
クエストボードからいつもの狩猟クエストを選択し、彼女に会いに行くのはいつしか僕の日課となっている。
遅すぎた初恋、そして恋敵多き前途多難でまさしくロミオとジュリエット現象。
「はい、それではお気を付けて! と言っても、ジルさんなら大丈夫ですよね、行ってらっしゃいませ」
「えぇ、行ってきます。 今日こそ、彼女のことを落としてみせます」
「……彼女?」
─僕の初恋はゲネルセルタス。
彼女に会うために今日も僕は森林地帯へコーディネートを済ませて向かう。
※
そもそもの話、彼女と出会ったのは二年前。
とあるクエストで森林地帯の拓けた岩場で彼女は姿を現し、気丈で筋肉質、武骨な尾で僕の身体を鷲掴みにしてそのまま投げ飛ばした。
その瞬間、僕は恋に落ちた。
※
討伐クエスト!
突如大量発生したアルセルタスを討伐せよ!
依頼主はキノコ採取に赴いていた道具屋だ。
回服薬に必要なアオキノコの採取中に巨大な甲虫種の影を見たそうだ、それも一つではなく複数である。
そんな中、キノコ採取なんてしてたら命がいくらあっても足りない、商売にならないのでなんとかしてほしいとのギルドへ依頼した様子である。
たしかに僕らハンターにとってアルセルタスは害虫駆除の気持ちで挑めばなんとかなるが、道具屋さんはそうではない。
いくら音爆弾や閃光玉があっても限度はあるし、決定打にはならない。
そして、この依頼には裏がある。
いくら森林地帯とはいえ、大量のアルセルタスなんて本来ならば羽虫が群がるように集まることは発情期以外にない。
つまり、だ。
近くにメス個体であるゲネルセルタスが出現しているのだ。
僕にはわかる、何故なら、彼女の前では僕も一匹のアルセルタスでしかないのだから。
使い込んだセルタスS装備はアルセルタスの返り血と彼女の水滴が染み込んでいる、僕は彼女に群がるアルセルタスである前に人間でありハンターだ。
本来ならば、相容れない存在、恋をしてはいけない禁断の好意、さながらロミオとジュリエットもタキシードとドレスを脱ぎ捨てて裸で走り出すようなほど、情熱的な恋をしている自覚はある。
恋の強走薬をしっかりと飲んだ僕にスタミナ切れなんてことは起こることはない。
たくさんの恋敵達を時に蹴散らし、時に追いかけ、時に撃ち落としながら彼女の元へと走る。
彼女の出す独特のフェロモンは数百キロメートル離れてても感知できるくらいには彼女のことを好きでいれている。
僕は一切息を切らすことなく、森林を走って愛おしい彼女の尾に捕まれ、無様に投げ捨てられるためにこの足を走らせる。
気球に頼ってる時間が勿体ない、というか頼るまでもない。
ここまでくれば彼女の位置はわかったも同然である、匂いが強くなってきている。
足跡も新しい、彼女が歩く度に発生する振動も少しずつ大きくなってきているし、彼女の吐き出した500リットルほどの唾液痕が大地に染み付いている。
つまり、恋敵が既に十、いや、正確に言うと十二体は彼女の栄養素と化していることだろう。
可能であれば、僕も彼女の糧と成り果てたいが、悲しきかな、種族が大きく違うと彼女にとって毒になりかねない。
彼女が近い。
地鳴りが大きく響いている、ということは先行したハンターでもいるのかもしれない。
いた。
三人一組のハンターと愛すべき彼女、ゲネルセルタス。
ちょうど向かい合って対峙している。
「加勢に来たぞ!」
僕が来たことで形勢は大きく変わるだろう。
向こうの編成はガンランスに片手剣、弓矢と遠中近と非常にバランスがいい。
しかし、リーチがいまいち足りないのがネックとみた。
「加勢!?」
「ブッキング、か、しかしありがたい!」
ガンランスのハンターと片手剣のハンターがこちらに気がつく。
高台の上にたつ弓矢のハンターは僕を一瞥して、安堵の息を漏らした。
「太刀使い…!」
僕は愛刀である、鉄刀【神威】を抜き構える。
このまま、彼女に近づく恋敵Aを斬り落としてから、彼女に愛撫してもらう。
空中からとてつもない速度でアルセルタスがこちらに飛来してくる、僕はアルセルタスにだけは容赦しない。
「援護するわ!」
「不要だ!」
─男と男の打ち合いに薄っぺらい援護は不要、これだからチームは苦手なんだ。
「あいつ!」
「せめて、他のアルセルタスの注意をこちらに向けろ! あの人の負担を減らすんだ!」
「なら、俺はゲネルセルタス本体を─!」
「─せやぁ!」
アルセルタス、撃墜。
彼女の尾が片手剣ハンターを掴もうと大きく振りかぶっている。
「さ、せる、かぁぁぁぁぁ!!」
「え、ちょ!?」
片手剣ハンターを突き飛ばし、彼女が僕を掴みやすい位置にまで移動する。
僕はこの二年、彼女にとって掴みやすい理想の体型を求め続けた。
種族の鋏の平均の大きさ、広げたときに大体どのくらいになるのか、持ちやすい重さ、最も持ち上げやすい部位、彼女が持つために使っている力、それに必要な運動量と消化するエネルギー量、全て調べあげた。
今日のゲネルセルタスは鋏は平均より0.01cmほど小さく、尾の動かし方に少し難がある。
鋏で挟むときの握力は140~178キロが普通なのだが、均一に力が入れられておらずに右に偏っている。
その影響のためか、鋏を大きく開いたときに左で一度引っかけてから右で掴む癖があるようだ。
僕は彼女とダンスをするように重心を少しだけ左にずらして、挟まれやすい体勢をとる。
僕の体型は彼女の鋏が挟まりやすく、無駄を絞るに絞り持ちやすい重さにまで磨き上げている。
ゲネルセルタスの鋏はスムーズに僕の身体を掴み上げ、天高く掲げられる。
「あいつ! 自らを犠牲に!?」
「なんて身体を張った犠牲なんだ、絶対助けてやるからな!」
その必要はない!
僕は今、彼女と、愛を育んでいるのだから!
しかし、悲しいかな。
僕の心からの叫びは群がってくる恋敵共によって掻き消されてしまった。
相も変わらず彼女の包容力は素晴らしい、甘えたい。
防具越しにも伝わる甲殻の温度、このひんやり具合が僕にはちょうどいい。
持ち上げられることで彼女と同じ視線で同じものを見ているこの景色、この時間が永遠に続けばいいのになんて思っちゃってる僕とてもロマンチスト。
そして、そのまま乱暴に彼女の背に叩きつけられる、そこがまた、イイ!
「んぁ…ッ!」
思わず声を出してしまった。
「もう少し我慢してろ! すぐに助けてやるからな!!」
必要ない!
しかし、時既に遅し。
僕の身体は彼女にとって不必要なものと感じ取られてしまったのか、そのまま投げ捨てられてしまった。
宙を舞う僕の身体を弓矢ハンターが拾う、すまないが君の抱擁では萌えない。
「…重っ」
君、聞こえてるからね?
「大丈夫ですか!?」
「えぇ、まだ心は折れてません」
僕のことを生かした、つまりまだアプローチのチャンスがあるということ。
恋敵こと、アルセルタス共が彼女に群がっている。
「少し休んでてください、あとは私達が─」
「そういうわけにもいかない。 彼女は、僕の獲物だ」
「いや、そもそも先に到着して先に戦ってたのうちらですからね?」
回復薬を摂取し、砥石で切れ味を整えつつ周囲の羽虫共をどのように斬り落としていくかを考える。
彼女の性格を考えると、そろそろ合体を始めるはずだ。
周囲にフェロモンの臭いが強くなってきている。
僕も彼女のフェロモンの影響で少しだけ攻撃力が向上してる気がする、ステータス数字で言うと100くらい。
僕は弓矢ハンターの制止の声に止まることなく駆ける。
アルセルタスがこちらに向かって飛んでくる、一々相手にするのも時間と体力の無駄だ。
鉄刀【神威】から溢れ出す水流、もとい水の呼吸、いや、違った、水属性の属性攻撃はアルセルタスに有効打ではない。
だが、わざわざ有効打の属性を選んでこの恋の戦場に立つほど僕は無粋ではない。
彼らと同じフィールドに立って、初めて彼女の奪い合いに参加することが許されて、初めて彼女と愛し合うことができるのだ。
僕の愛は止まらない。
横槍を入れてきたアルセルタスを上段に斬り上げ、そのまま羽根も切断する。
嫉妬に勝るエネルギー源はこの世に存在しない。
「下がって!」
「お、おう!」
鬼神。
僕の師匠がかつてそう呼ばれていた。
彼女の太刀捌きは双剣の鬼人化に近いものがあり、抜刀ではなく、抜いた後に本領を発揮する型としては珍しい部類である。
しかし、僕は師匠ではない。
─抜刀モード。 開。
抜刀の推進力でアルセルタスの群れをすり抜け、彼女の元へとルパンダイブを決める。
彼女はそれに応えるように口からブレスを吹き出す、ご褒美です。
これも一種の愛、彼女の愛を僕は受け止める義務がある。
彼女の一部でこの身体がベタベタになるのであれば僕としても本望である。
脳内に機械音が響き渡る。
─力尽きました。
※
僕の初恋はゲネルセルタス。
アルセルタスの数が激減したことと、ゲネルセルタスが活動場所を変えたことからクエストは達成という形で終わった。
「僕は、諦めない!」
僕の初恋、片想いはこれからも続く。
この世界に彼女がいる限り、僕の命が果て、この使命を成し遂げるまで僕は諦めない。
後日、ギルドでブラックリスト入りを果たしてしまったのは内緒である。
何故なら、僕の恋路には一切関係ないからである。