CPHを影にさせるトロコンRTA【完】   作:トウカ

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幕間 扉間の黄金冒険譚

 蒸し釜によって蒸されているかのような暑さだった。

 我慢はできる。

 気温が高すぎるわけではない。熱放射が強すぎて視界が遮られるわけではない。

 無視はできた。

 

「……」

 

 だが……。

 人体の生命維持に必要な水分を奪い取られ。

 頭の中が霧で覆われるかのような感覚に襲われ。

 風に乗って飛んでくる微弱な酸により段々と全身が痺れ。

 じわりじわりと、一歩ずつ確実に、自身の限界が近付いてくるのを扉間は感じていた。

 密林の中心地にて独り、座禅を組んで只管待ちの態勢を取ること早一日。

 死の淵が視界の端を掠っている現状であっても、扉間の心には雫一滴分たりとも、動揺も、焦りも、汗が流れることはなかった。

 

「……」

 

 此処は知る人ぞ知る三大秘境の一つ、〝湿骨林〟

 正確には湿骨林の一歩手前、云わば秘境に入る玄関に位置する大密林である。

 ()()はとある目的の為に其処へ訪れた。

 名高い秘境三種の内、何故二人は湿骨林を選んだのか?

 それは、妙木山と龍地洞はそれぞれ他言無用の道順を通らなければ辿り着かないが、三大秘境の中でも湿骨林のみ、道順が秘匿されていないからだ。

 しかし、その代わりと言ってはなんだが湿骨林に入るには必要な手順が存在する。

 手順を熟さずに侵入を試みる無礼者には即座に居場所を特定、四方八方から強力な酸が吹きかけられ、一秒足らずで肉塊と化す洗礼が送られるという。

 よしんば酸の溶解力を防いだとして、そこから新たに生み出される酸水素ガスを絶え間なく爆発させ続けることにより、周辺から酸素を奪い窒息死を狙う二重トラップも潜んでいる。

 だが二人は侵入者として湿骨林に入り込むつもりはなく、このような罠は気にしていない。

 正規の手順を通り、湿骨林の主・蛞蝓仙人と面会する機会を得る。

 当初からそのつもりだった二人が今、一日もの時間をかけて大密林に籠っている理由とは、この状況こそが熟すべき手順――――湿骨林に入る為の試練であるからだ。

 二人が大密林に踏み込んだ直後、蛞蝓仙人の使いを名乗る小さな蛞蝓が現れ、互いが本当の仲間であると主張するならば半数は人質という形で大密林唯一の安全地帯・中央部にて待機、もう半数は魑魅魍魎蔓延る大密林にて試練を受けよと命じられてから、そろそろ一日と半日。

 幾らかの話し合いの結果待機組となった扉間は、身体に限界が差し迫っていると己の体調を診断し、黙して待ち続けた。

 

 大分時間が経ったな……。

 

 湿気の多い霧隠れや砂漠に囲まれた砂隠れなどといった、生活環境の厳しい国出身の忍であれば、まだ耐えていたかもしれない。

 だが扉間は四季が緩やかに移行し土地も気候も人が生きることに特化した火の国出身だ。安全地帯の中心地は大きく開けた場所で、襲い来る獰猛な動物がいない代わりに太陽を遮る木々は何一つ存在しない。

 実行役が試練を進めている間、人質役には飲食の禁止を言い渡されている。

 

 

 まだ奴は戻らない……。

 

 

 そして、人質役が中止の声を訴えれば即座に試練は取り止めとなる決まりだ。

 傍には蛞蝓仙人の使いの蛞蝓が常に控えている。

 これ以上は無理だ。これ以上は死んでしまう。人質役が判断するならば、試練はそこで終いだ。

 その反対に、実行役。何時でも中止させることの出来る人質役とは異なり実行役に権限は無い。

 実行役には血に飢えた動物や仙術チャクラを使う蛞蝓との戦闘。

 人質役には熱帯雨林特有の湿度と温度の中で無飲無食での待機。

 この試練は人質役のみが中止することが出来る。

 

 

 

 既に諦めて、逃げ帰っているかもしれない……。

 

 

 

 実行役が戦いに敗れ骸と化そうが。

 実行役が臆して大密林から脱走していようが。

 

 試練を突破する手段がなくなっていようとも、()()()()()()()()()()()()()()

 

 喉がからから、水が欲しい、欲しくて欲しくてたまらない。

 だが、試練の最中ではしてはいけないことになっている。

 しかし、奴は未だ戻らない。

 それにもう、これほどの時刻が経過している。

 

 ……いいのではないか?

 このままでは干乾びて死んでしまう。

 ……許されるのではないか?

 控えの蛞蝓が口を開くのは実行役が勝利したことを報せる場合、その時だけ。

 ……誰も批難などしてこないだろう?

 蛞蝓は、今も何も話さない。

 

 

 『己の命を守れるものは、己だけ』

 

 

 

 

 苦しい思いを耐え続けている意味など、ないのではないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――木ノ葉を舐めるなッッ!!」

 

 

 腹の底から放った、鋭い一喝。

 その瞬間、脳裡にかかっていた思考を鈍らせる幻の霧は掻き消え――――突如激高した扉間の怒気に吃驚してぴょんっと跳ねた、控えの小さな蛞蝓がおろおろと右往左往するばかりだった。

 

「たっぷりと時間をかけて染み渡らせたというのに、よもや……」

「生憎だが……オレは()()の対処法を編み出す為に幾度の犠牲と研究を重ねてきた。無論、感知方法もな。この程度の瞞し、何の障害にもならんわ」

 

 長時間全身に滲む汗のせいで最早意味を為さないが、普段の癖で服の裾を使い掌の汗を拭う。

 煙に覆われていた周辺に一陣の風が吹き、霧払いがされて美しい風景が表れたかのような感覚。

 肌身で感じる湿度とは裏腹に、幻術を破った扉間は晴れやかな気持ちで蛞蝓に言った。

 

「……術に気付かれたからには、これ以上嘘偽りを塗り固める気はありません。どうぞ、貴方の気の済むまでお待ちください」

「ああ、貴様が勝利を告げるアラームとしての機能を果たすまで、のんびり待つことにしようぞ」

 

 小さな蛞蝓は心の内側から湧き上がる胡乱気な感情を直接声に乗せる。

 

「斯様に相方を信じ抜いているということは、お二人は固い絆で結ばれているのでしょうね」

 

 途端、扉間は心の内側から込み上げるツボの成果が抑えきれずに噴き出した。

 蛞蝓はその姿を見て、何処に笑う要素があるのだろうと訝しんだ。

 くつくつと喉を震わせた扉間はすっかり枯れてしまった口を絞りだし、掠れた声で囁く。

 

「そのようなものではない。オレは、知っているだけだ」

「知っている、とは?」

「夢を想うことに関して、奴は兄者以上のバカなんだと骨身に沁みているのだ」

「何を仰っているのか分かりません」

「そうだな。どういう表現が正しいのか、オレも分かっていない。ただ、奴はやると言ったことは必ずやるし、やり遂げる為に己の全てを擲つも厭わない大馬鹿者であることは理解している。だから、オレは……ゴホッ」

 

 

 朦朧とした意識、霞んだ視界。

 死が一歩ずつ近付いてくる、深淵の気配。

 目の機能が果たされているのか怪しい状態だったが、確かに扉間は見た。そして、笑った。

 

 

――俺が戻るまで、座って待ってろ。

 

(お前がそう言ったから、オレは待ちに徹している)

 

 

 0.013秒の先。高速を一つ飛び越え、次元は更に向こう側へ。

 目にも留まらぬ光速移動。

 星の瞬きが如き時間を超え、はやく戦を終わらせたいと願う忍たちへ勝利を運ぶ。

 火影曰く、人体の出せる反応速度を極めた忍。

 ふわりと柔らかい風が吹くと同時に、爛々と赤く光る瞳が現れる。

 燃え上がる双眸が地上を駆け抜ける様を遠目から視認した木ノ葉隠れの忍は、口々に其れをこう言い表すのだ。

 

 そう、あれはまさに――――

 

 

「――――赫い、流星?」

 

 

 蛞蝓仙人はその時、夜空にあるべきそれが、地上で輝く姿を目撃した。

 

 

 

 

 

 

 直ぐに表情を引き締めた扉間は、呆れたように肩を竦めて相手を睨みつける。

 

「遅すぎるぞ、待ち草臥れたわ」

「悪い悪い、お詫びに茶の一杯でも煎じてやるよ」

 

 そんな悪態にも慣れた様子でにっこりと笑い応じる、全身傷だらけで利き腕は明後日の方向に曲がり、止まらない流血を火傷で応急処置しているこの男こそが、今し方扉間が話したばかりの夢想バカ――うちはバイスであった。

 バイスが片腕を使い収納具から取り出した竹筒を黙って受け取った扉間は、ぐいっと勢いよく飲み干して突き返す。

 

「全然足りんな」

「だな。木ノ葉に帰ってちゃんとしたメシ食いたいなぁ」

 

 喉元を擦りながらぼやく扉間。

 密林での39時間の絶食は流石に辛かったらしく、試練が終わり気の抜けた扉間の腹からは音が鳴り響いており、それを耳にしたバイスはまた笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 それを観察する控えの蛞蝓――正確に言えば蛞蝓仙人の分身であり本人――は、一日半ぶりに再会した二人が互いに見つめる表情の奥、瞳に隠されている光に気付き……諦めた。

 

 強固な信頼を築いたと思っても裏切られて。

 平和は次の戦いの為の一時の小休憩に過ぎず。

 話し合いの場を用意すれば毒が盛られるだけで。

 

 しかし、人間が謳う信頼とやらを崩す罠の数々を各人共に正面から突破されては、諦めもつく(信じようと思う)

 ……本当は、私は早々に諦めたかっただけなのかもしれない。と、蛞蝓仙人は心中で自嘲する。

 人間を再び受け入れる決意を抱き、小さい蛞蝓は二人に話しかけた。

 

 

 

 

 

「此処に契約は為されました、これにて完了です」

「嗚呼、今後ともよろしく頼む、カツユ」

「そんなに堅苦しくなくて良いんだよ? カツユは仙人でもあるわけだし」

「元からこうなのです、お気になさらず」

 

 湿骨林とは、蛞蝓仙人であるカツユ本体からエネルギーというエネルギーを吸い上げられて枯れ尽くし、カツユの酸霧によって窪地となった、ジャングルの成れの果てというのが正体である。

 通常の人間ならば生きていくことの適わない完全なる不毛地帯、対処法もなく進めば呼吸によって潜り込んだ内側と外側から短時間の内に酸で焼かれるだろう。

 水遁に秀でた扉間がバイスの指示を受けて、塩基性を含んだ水溶液の球状を作り上げ酸の特性を中和し続けることで、二人は湿骨林の中でも生き永らえていた。

 人間と直接相見えるとまでは期待していなかったカツユは扉間の技に驚き、素直に嬉しがった。

 

「貴方方からの呼び掛けであれば、私は快く馳せ参じましょう」

 

 一時的に浮世離れしていたカツユだが、元来は人好きする性格である。湿骨林の真実を知った二人が本体の自分と会話をしたいと言ってきたこと、それを実行する知恵と手段を持っていたことに甚く感激し、口寄せの契約は非常にスムーズに進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「大金星だったな、治療特化型の味方は本当にありがたい!」

「うむ、今回は大分疲弊したがそれだけの成果を得られた。オレの休憩が済んだらB地点まで飛んで早く戻ろう」

「うんうん、ところで扉間」

「? なんだバイス」

「帰路ルートの途中にある湖に、六道仙人が隠した秘宝があるって噂があるんだよね」

「……」

「……」

「オレは先に帰――」

「よーしいざ往かん六道伝説!」

「離せ馬鹿、弟子たちを待たせているだろう!」

「カガミたちは良い子で待ってるよ!」

「マダラをフォローしてるのが兄者だけだぞ戻ろうとは思わないのか!」

「扉間は柱間さんをもっと信頼するべきだと思う!」

「信頼してるから不安なんだろうが!」

「今まで言ってなかったけど、兄さんから事前に許可とってあるんだよな。いやぁ楽しみだなー秘宝探し、どんなんだと思う?」

「黙れ!! バイスが持ってくる案件は全て面倒なものだから嫌なんだ!!」

 

 

 バイスと扉間の忍務延長戦はまだまだ続く……。

 

 






思った以上に接戦でしたね、寸での差だった……。
他4つの幕間も気が向けば書いていきたいと思います。
RTAものって一定の分野を極めたキチってるキャラが出やすくて、そういうキワミ系キャラが主人公で自由に動いてるタイプの小説が好きなので、自然とRTAもの小説も好きになったんですが、別キャラのRTAネタが思いつけばまた書きたいです。
次があるなら九話縛りは解放する、きっと。
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