幽霊さん可愛い。
初期艦だったらなーの妄想。

※アズールレーンの二次創作なので
作者の独自解釈・妄想・エゴが多分に含まれております。無理をしないで下さい。

危険な時に引くことも勇気

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三枚目指揮官と幽霊さん

日が高く昇り始め、暖かい波風が窓から執務室に流れ込む。

最近になって散発していたセイレーンの襲撃もなく、久しぶりに平和な午後の昼下がりと言える今日。

 

KAN-SENの少女達に『指揮官』と呼ばれる男は思い詰めた表情で自席で腕を組んでいる。

指揮官が午前中に片付けた書類が横に積まれた執務机の真ん中、手に収まるサイズのリングケースが二箱置かれていた。

 

「二つしか手に入らなかったな」

 

苦い顔つきで不満を零す指揮官の執務机の横から猫耳を生やした少女、明石が顔を出す。背には身の丈程のレンチを背負っているが、苦も無く執務机に上半身を乗せている。

 

「仕方ないにゃ、これはどこの母港でも需要があるから、一回に供給できる数には限りがあるってこの前言った通りにゃ、むしろ二つ用意した明石を褒めてくれにゃ」

 

返答の代わりに指揮官が明石の頭を撫で、明石が満足気に目を細める。

 

「とは言え4人いるからなー、渡すのにあまり順番を出したくない気がして」

 

躊躇するようにジェリーケース前で唸る指揮官に明石が不思議な顔を向ける。

 

「指揮官、女性好きなスケベだと思ってたにゃけど、意外とそういう所は気にするんだにゃ?」

「いやまあ、下心込みで女性好きなのは否定しないけども……この容の意味を軽んじる積もりはないよ」

「にゃるほど、そういう所は先代に似てるにゃ。――まあ、結局のところ、これをどうするかは指揮官の自由にゃ、明石としては今後の為にも戦力は余裕がある時に強化して欲しいけどもにゃ」

 

納得した明石が頷きながら机から離れ、執務室を出ようと背を向け歩き出し、扉を開けると含むような笑みを浮かべ指揮官へ振り替える。

 

「頑張るにゃ、若者」

 

鍵の落ちる音を聞き届け、指揮官が息を吐いて椅子を深く座りなおす。

 

「誰から、どうやって渡すべきか……ええと、今月はまだ休暇とってなかったから――」

 

指揮官がメモと付箋だらけになった手帳を取り出した。

 

 

 

「しーきーかーん! お待たせ~」

「おはようロング・アイランド」

 

母港の入出管理を行う入口前、滅多に着ない私服で指揮官が待つこと5分。待ち合わせの相手が現れた。

足の膝まで届く黒い長髪に淡い青の瞳を持つKAN-SENの少女、ロング・アイランドだ。今日は私服でブルーグリーンのタックカットソーにツイードショートパンツ、その下にストッキングを履き、靴も運動靴と、普段とは違った雰囲気をまとっていた。首に下げてるヘッドホンが普段との数少ない共通の部分だった。

 

「おお、これは……」

「えへへ、私もやれば出来るんだよー」

 

普段の様子を知っている指揮官がロング・アイランドの格好に関心を示し、彼女が得意げに胸を張る。

 

「普段からこれくらいしっかりしてくれると嬉しいんだが」

「う゛っ……あっちの方が動きやすいしー、着てて楽なんだもん。それに頑丈だし、もっと言えば普段の格好は私に限った事じゃないでしょ~」

「それもそうだな……なのにわざわざ今日の休日でこのしっかりした格好は……あっ」

 

指揮官は自分が言いかけた言葉に気づき、ロング・アイランドを見直す。淡い青の瞳が照れ混じりに膨れっ面を浮かべていた。

 

「何か照れるな」

「も、もう早く行こうよー! 街の方に連れて行ってくれるんでしょ!」

 

黙って見張りをして目の前の行為を見せつけられていた門兵が知らずに奥歯を噛みしめる。横で一緒に仕事をしていた強化型オフニャが優しく肩を叩く。

 

指揮官がロング・アイランドの手を取り、車へと向かう。

 

「車は向こうに止めてる」

「指揮官が運転する車に乗せてもらうの久しぶりだねー」

「ロング・アイランドを乗せるの、一緒に来た配属日以来か」

「安全運転、忘れずに~」

「もちよ」

 

用意した軍から拝借した車へ向かうと、指揮官が取り出した鍵のスイッチで車のキーを遠隔で開ける。左側の運転席に指揮官が乗り込むと、反対側からロング・アイランドが助手席へ入り込んだ。

 

2人が同時にシートベルトの金具をはめ込み、金属音が静かに重なる。指揮官が車にエンジンをかけ、港街へと車を走らせる。

 

「へへへ、まだ見習いだった時はー、休日に羽を伸ばす為に出かけたよね~」

「2人で人気の無い昼寝スポットでダラダラしてたばっかりだったなー、俺が訓練キツくて休日気力なかったからだが」

「いや~、私の方も面倒くさいことは多かったよー、人間社会に馴染めるようにって、そっちのお勉強ばっかり~、幽霊さん的には一番辛い時期だったよ、うん」

「たはは、お互いにプライベート皆無の集団生活は辛かったよな」

「本当だよー、だから今の幽霊さんはきっと、その時の反動がでたんだね~」

「そうか? 会った頃から今とそんなに変わってない気もするが」

「そうかなー」

 

流れていく道路の景色を確認しながら2人で駆け出しの頃を振り返る。

指揮官にとっては目標に向けてがむしゃらに走り続ける日々だったが、隣に座っているロング・アイランドにとっては自分と世界を理解し、形成していく毎日だった。

 

自分が意思を持って生まれた理由、繋がった縁。自分を必要とした張本人の横顔をロング・アイランドは助手席から眺める。自然と頬が緩む。

 

「……指揮官は雰囲気変わったかな~」

「うん?」

「あの時よりは落ち着いてて、行動とか態度とか大人の男性っぽい感じ~」

「そ、そうか? ふ……俺も遂にロング・アイランドが感じる程の男としての色気をみにつけたか」

「でも女性にだらしなくなった気がするの~」

「うがっ!?」

 

笑顔でロング・アイランドに痛い腹を突かれ、目に映った交差点の黄色から慌てて車を減速させ止まる。歩行者側の信号が青に変わると、ボランティア活動中のアーク・ロイヤルが子供とお年寄りを誘導し始めた。平和の光景を前に指揮官の顔色が引きつる。

 

「しょ、職場環境的なものも加味して欲しい」

「あ、別に幽霊さんその事は別に怒ってないの~、指揮官としての立場とか職務ってそういう所あるし~、こうやって穴埋めに気を遣ってくれてるしー」

「はは、いやすまん……助かる」

 

固く笑う指揮官に向かってロング・アイランドが頬を染めて綻ばす。

 

「……だから今日は甘えさせてね~」

「――ああ、どんとこい、だ」

 

 

 

アズールレーンの母港から車で数十分程で到着する港街。

大手電化量販店の人混みの中でロング・アイランドが指揮官と共に赴くままに買い物を続けている。

 

「んへへへ、ネットでの買い物もラクチンだけど、欲しい物を現物で購入する喜びはまた別だよね~」

「確かに、自分の手で手に入れたっていう実感が楽しいよな。……それにしても来る度に思うが、街の規模の割に大きな繁華街だよな」

「んー、土地柄ってやつなのかな~って幽霊さん思うの。ここ、貿易の要所だもんねー」

 

袖をまくった状態で荷物持ちを買って出た指揮官とロング・アイランドがお互いの空いた手を繋いだ状態で店内を散策する。指揮官が店内にぶら下がっているフロア案内に目を付けた。

 

「次はゲームショップか?」

「うん、綾波達と遊ぶ用に幾つか買いたいのー」

「俺も交じりたいけど、育成とかやり込む系はどうやっても遅れるからなあ」

「指揮官が来た時は、ス〇ブラとか〇リカーやゴール〇ンアイ、カスタム〇ボで遊んであげるから拗ねないの~」

「はは、カセットをフーフーしてた時期が懐かしい」

「今度はcoop系も用意しといて上げるの~」

 

2人で取り留めの無い話を繰り返しながら買い物を続けていく。

指揮官がアズールレーン所属の指揮官を目指し、メンタルキューブの適性を証明した時からの付き合いの2人だが、母港に着任してからはお互いに仕事や私的な意味でも関わる相手が増え、結果的に以前よりは頻繁に2人でいることはなくなった。日中を通して2人でいるのは久しぶりだった。

 

お互いにその事を口には出さなかったが、それ故の恥ずかしさと嬉しさを感じていた。

 

「昼飯はどこにしようか」

「幽霊さんはハンバーガーがいいかな~」

「なら、飲食店のある通りに出て港の方に行こう。食後は2人で波の音を聴きながらゆくっり……とかどうだ?」

「えへへ、何か本格的なデートっぽいね」

「元からその積もりだよ」

 

涼しい顔を崩さずに歯の浮くようなセリフを吐いた指揮官に、ロング・アイランドが頬を染めつつ冷静な視線を向ける。

 

「指揮官、何時か刺されそう……幽霊にならないでね?」

「急に恐いこというな……気を付けておく」

「いざって時は~、幽霊さんの部屋で匿って――やっぱり恐いからやめとくの、幽霊さんスプラッターはごめんなの」

 

頼もしさがあったロング・アイランドの顔が思い当たる人物たちを想像し、途端に血の気が引く。軽空母は打たれ強くはないのだ。

 

「まあ、KAN-SENの子に刺されるのを恐がってたら指揮官は出来ないからな!」

「油汗かいてるよー?」

 

指揮官もこればかりは無茶を言えない事は解っているので青い顔で頷いた。2人の間に神妙な空気が漂う。

 

「ハンバーガー、食べにいくか」

「うん」

 

指揮官とロング・アイランドが手を握り直し、昼食へと足向きと気持ちを切り替えた。

 

 

 

太陽が空高くのぼり陽が快晴の空から降り注ぐ昼時、テラスから浜辺が見える飲食店街は食事を謳歌する人の喧騒に満ちていた。昼休みを無駄にしないように料理をドカ食いする海の労働者に負けない勢いで、食を楽しむKAN-SEN達もおり、時折通行人たちが厳つい男達と同量の食事を消化していく少女達を物珍しそうに眺めていく。

 

指揮官とロング・アイランドは仲間の存在に少しだけ気を遣いながら、お気に入りハンバーガー店のテラス席で2人そろってだらけていた。

 

「買い物つかれた~」

「昼時にのんびりできるの久しぶりだ~」

 

ちょうど良く木陰になるテラス席でお互いの頭を突き合わせるように突っ伏せる。ロング・アイランドが物足りなそうにテーブルにのせた手をぶらつかせると、指揮官が何となく手を差し出す。

 

ロング・アイランドが指揮官の手を握り意味もなくぶらつかせ始め頬を綻ばす。指揮官はお返しにともう片方の手でロング・アイランドの頭に触れ、指の間を滑っていく髪を楽しんだ。

 

「んふー、くすぐったいよ~」

「KAN-SENは海にしょっちゅうでてるのに髪も肌も傷まないよな」

「おかげでらくちんなの~」

「こっちは意外と日焼け止めとか強すぎる日射とか結構たいへんなんだぞ、うりうり」

「うあぁ、指揮官、幽霊さんの頭ゆらしすぎー」

 

子供っぽい悪戯をする指揮官にロング・アイランドが緩い抗議を行う。ロング・アイランドの表情が物憂げになり、指揮官はやり過ぎたと思ったのか頭から手を放す。

 

「――今みたいに指揮官や皆と、ずっとのんびり生きていけたらなぁ」

「……それはまだ、難しいな」

「だよねー……えへへ、ちょっと湿っぽくなっちゃったのー」

 

から元気に顔色を戻すロング・アイランドに指揮官がどう声をかけようか言葉を選ぶ間に、店員が頼んだハンバーガーのセットを持って来た。バンズには自家製のトマトソースと溶けたスライスチーズが焼き立てのパテにかかり、肉汁と混じった匂いが空腹の体に食欲を促す。

 

ロング・アイランドと指揮官の顔が一気に輝いた。2人がお互いの顔を見合わせ、涎をこらえて頷きあう。

 

いただきます。言葉を同時に交わすと両手でとったハンバーガーへ思い切りかぶりつく。ふっくらとした温かいバンズと瑞々しいレタスの食感に挟まれた、芳醇なトマトソースと塩気のあるチーズが熱々のパテと口の中で交じり合い、2人の口一杯に踊る。

 

一口食べるごとに生き甲斐を感じる2人が完食するのに時間はかからなかった。

 

「――食べるのって楽しいね」

 

バンズの欠片が口についたまま笑うロング・アイランドに指揮官はハンバーガーを噛み締めながら肯定した。

 

昼食を食べ終えると買い物を駐車した車内に残したまま、2人で浜辺の方へと散歩を始める。

 

波の音が徐々に届き、少しづつ大きくなっていく。指揮官とロング・アイランドはリラックスした表情のまま特に会話をしない。お互いの肩が触れるのと離れるのをロング・アイランドがもどかしそうにしている事に指揮官が気づくと、自身の腕を差し出す。

 

ロング・アイランドが青い瞳を光らせると両腕で指揮官の腕に飛びついた。指揮官は差し出した腕一杯にロング・アイランドを感じ、だらしなく口元が緩んだのを自覚した。

 

「指揮官のパッとみ細いけど、しっかりとした腕すき~」

 

子供の様に甘えるロング・アイランドに指揮官が目を細めた。

 

「そういって貰えると日課の筋トレ続けてる意義があるよ、戦場で現場指揮の体力を維持出来ないと根本的に不味いしな」

「切実なのー」

「……本音を言うと今みたいな役得も多いからモチベーションになってる」

「指揮官はやっぱり女好きになったのー」

「正直ちょっと子供の時の自分に負い目を感じなくもない……当時の俺、必死だったからなぁ」

「指揮官がKAN-SENの指揮官を目指した理由、私は好きだよー」

 

何処か誇らしげに微笑むロング・アイランドの反応に指揮官の耳裏が少しだけ熱くなる。本人にとっては気恥ずかしさが勝つものだった。

 

浜辺に辿り着くと穏やかな波と眩い日差しを静かに楽しむ人達が散見していた。ロング・アイランドは指揮官の腕にくっついたまま自分の下半身と浜辺を交互にみて、灯台の方へ腕を指した。

 

「指揮官、灯台の方に行こう。ストッキング脱いで浜辺歩こうとかとも思ったけど……」

「さすがに人前で脱ぐのは恥ずかしいよな」

「そっちもなくもないけどー、どちらかというと面倒だったからなの」

「……それも、そうだな」

 

君らしい、と指揮官は胸に秘めつつロング・アイランドの要望に沿って灯台へと移動する。ゆるやかな坂道になっていく灯台への道は、人気が全く無いまま整然と舗装されていた。波風に飛ばされた岸辺の砂が路の隅で詰まっている。

 

「しきかんー、ここって人は全然来ないのー?」

「灯台自体は無人で動くようになってて、定期的な検査でしか人は入らないな。後はたまにカップルがこっそりと来てるとかは仕事で聴いた」

「ふーん……その話を聴いたから、今日はここに?」

「そんなところ、ロング・アイランドと2人きりになれるならどこでも良かったけども、ムードって大切だろうし」

「指揮官と2人きり……ムード……ふええぇひ、久しぶりにアダルトな空気……」

 

何かを思い出したのかロング・アイランドの顔が今日一番で赤くなっていく。体をもじもじとさせる素直なロング・アイランドの様子に、指揮官も背中がむずがゆい気持ちになる。

 

指揮官は意を決して今日の本題に入る覚悟固めた。

 

「なんだその、ロング・アイランドとそういった時間が久しぶりに欲しいって言うのも勿論あるんだけど、今日はちょっと特別」

「そ、そうなの?」

「ああ、取り敢えずあとちょっとだしゴールを目指そう」

 

指揮官がロング・アイランドの手を引きながら灯台へと向かう。2人への波風が幾ばくか強くなり、ロング・アイランドの長髪が風に強くなびく。

 

2人が辿り着いた灯台は浜辺から離れた岬になっており、浜辺の様子も一望できた。昼過ぎの陽が余すことなく降り注ぐ海洋は穏やかであり、さざ波が無数に現れては消えていく。

 

「やっぱり高い所から見下ろす景色は良いな」

「幽霊さん疲れたのー、もーうごけなーい」

 

灯台の景観に喜ぶ指揮官とは反対にロング・アイランドが灯台の内部に繋がる階段前で座り込んでしまう。

 

「ロング・アイランド、髪が」

「後でシャワー浴びるからいいもーん」

「んー、なら……」

 

多少の長髪を下に敷いて座っているロング・アイランドを見かねた指揮官が彼女の隣に座り、膝を叩く。意図を察したロング・アイランドがお気に入りの椅子に腰かける様に、指揮官へとロング・アイランドが背後からもたれかかる。

 

「んふー、特等席なのねー」

「喜んで貰えた様でなにより」

 

指揮官へと体を預けたまま、ロング・アイランドが灯台から見下ろす景色を見渡す。どこまでも広がっている輝く青い海は、陸地から離れるほどに色が深くなり、眺めていると吸い込まれる様な感覚さえ持つ。

 

「海って不思議だよねー、こんなに綺麗な時もあれば滅茶苦茶な時も沢山あるの」

「だなー、皆と海へ出るのが日常になってきても、コロコロと顔色を変える海には振り回されっぱなしだ」

「んふふ丸で海を口説きたいみたい」

「口説けたらいいんだけどなあ、俺も皆もそれだけ安全になるし」

 

冗談交じりに笑う指揮官の顔にロング・アイランドが柔らかい笑みを返す。

 

指揮官がロング・アイランドを離さない様に浅く抱き留めるために腕を回すと、ロング・アイランドが自分の腕を指揮官の上に重ねる。華奢で柔らかな彼女の存在を確かめつつ、その長髪に軽い口づけをした。

 

「でもね、私思うんだー、これだけ不思議な海だから……これだけ不思議な海が在る世界だから、幽霊さんと指揮官がこうやって出会えたのかなーって」

「確かになー、セイレーンにメンタルキューブに鏡面海域、それにKAN-SENの皆、俺にとっての善い事と悪い事は今振り返ると大半は海に絡むわ」

「指揮官がー、一番愛されてるのは海かもねー」

「いやーないない、俺の地元はド田舎で海近かったけど肝心の港は廃港になってたし、どっちかと言うと森で兄姉と遊んでたか」

「私もあの子見たいに指揮官と子供の時から遊びたかったなー」

「んー、どうだろうなー、俺んち田舎なのもあって遊びはアウトドアオンリーだったぞ」

「幽霊さん、指揮官のキューブ適性試験結果の初期艦として出逢ったのは、きっとベストタイミングだったと思うのー」

「変わり身早いなおい」

「指揮官が色んな子とお互いに仲良くなって関係を深めても、見習いの指揮官が指揮官になるまで見守ってた守護霊さんの立場だけは、代われないのねー」

「そういうもんだよな――なあ、ロング・アイランド」

 

誇らしげに笑うロング・アイランドを見つめていた指揮官が自分の懐へ手を伸ばし、手のひらに収まるリングケースをロング・アイランドの前に差し出した。

 

いきなり自分の目の前に差し出されたリングケースにロング・アイランドの青い瞳が何時もより丸くなる。差し出された物の理解が追い付かないロング・アイランドが不思議そうに指揮官を見上げた。

 

「実はな、今日はこれをどうしても渡したくてな……」

 

両手を使って指揮官が差し出したリングケースの蓋を開ける。中には一つの指輪が収まっており、二つの星をかたどった指輪の装飾に挟まれる様に、桜色の宝石がハートの形状で、羽の意匠に包まれていた。

 

「えっ、えっ?」

「あー……とな、ロング・アイランドは誓いの指輪って知ってるか?」

「う、うん……指揮官とKAN-SENの関係が深くなると支給されるとか、貰ったKAN-SENの子は何故か戦闘の調子が良くなるーとか……」

「実は明石が上層部からの意向でKAN-SENと指揮官の関係を図示したものを毎月提示してきてな、その結果を踏まえて指揮官側が任意で指輪の申請をするんだが、需要の関係で来るまで時間がかかってなー、催促とか結構大変だった」

「それを、私に?」

「ロング・アイランドとはとっくにそういう仲になってたしな。公正にするなら、関係が至った順かなと」

「おおー、指揮官が私との仲でそういう自覚あったんだー……」

「遊びで手は出さんて……酔ってもなければ」

「最後の言葉がなかったら、更に惚れ直したのにー」

「う゛」

 

残念そうな顔をするロング・アイランドに指揮官は内心で自業自得な傷を負う。今後は本当に調子にのって酒を飲み過ぎない様に気を付けようと指揮官は誓った。気を取り直す為に咳払いを一つする。

 

指揮官は自分が腕に抱いている初期艦のKAN-SENに改めてリングケースを差し出した。

 

「ロング・アイランド、俺とケッコンして下さい――俺が指揮官になれたのは君が応えくれたからだし、君がこれからも俺の傍にいてくれると、とても心強い」

 

ロング・アイランドは自分に差し出された指輪をジッと見つめ、指揮官へ顔を意思のこもった淡い青の瞳を向けると自分の手を差し出した。彼女の意思を示された指揮官が普段に似合わないぎこちない手つきで、ロング・アイランドの薬指に指輪をはめた。

 

2人の間に確かめ合うための沈黙が経ち、ロング・アイランドが自分の手にはめられた指輪を確かめながら指揮官の前に手を出し、喜びが滲み出る様な笑顔を見せる。

 

「えへへ、これで契約完了だね!」

「これからもよろしくな」

「うん!」

 

ロング・アイランドが振り返り思い切りよく指揮官の首へ手を回し抱き着くと、指揮官が後ろに倒れるのを耐えながら受け止める。

 

「んふふ~、指揮官とケッコンしちゃった~」

「うお!?」

 

ロング・アイランドが指揮官に抱き着いたまま、頬と体の全身を使ってすり寄せる。かつてないほどに甘えられていた。完全な密着状態でロング・アイランドの全身が訴えてくる柔らかで温かい感覚と、果物の香料が華やぐ髪の匂いに指揮官の中で愛おしさがふり切れていたが、最後の理性で今すぐにでも千切れそうな動物的本能の手綱を握りしめる。握りしめ過ぎて血が出て来たかも知れない。

 

「ねー、ねー、しきかん……」

「ロング・アイランド一旦、そのちょっとな……」

 

ロング・アイランドの淡い青の瞳が熱を伴うように揺れ、瞳に吸い込まれる指揮官の理性が断末魔を上げた。

 

指揮官の耳元でロング・アイランドが囁く。

 

「今日は、終わるまでずっと甘えてていいよね?」

 

ふっと、指揮官の脳裏で力尽きた理性の手綱が放れた。

 

 

 

休日が明けた母港の午前、前半の山場に当たる業務を片付けた指揮官が大きな欠伸をしながら執務椅子で体を大きく伸ばす。

 

「よーし、ニーミ、これを何時ものリーダー陣に確認のサイン貰って来てくれ」

「はい、了解です。何か言伝があれば付箋で貼ってお返ししますね」

「うん、頼む。……この作業、認証の箇所をどうにかして電子化したいな。書類仕事全般そうだが」

「効率的に出来る箇所は多いですけどね、機密保持のセキュリティ的な面も一応はありますから、簡単には……あれ?」

 

指揮官から書類を受け取ったニーミが、執務室の奥に何者かが横たわっているのに気づく。

 

平時には休憩や接待などで使用している空間だが、今日に限ってはソファーで横たわりながら携帯ゲームに興じるロング・アイランドがいた。だらけているのを隠そうともしないTシャツ一枚で、どこかで転んだのか絆創膏を首や腕、胸元、脚の内側と、あちこちに貼っている。

 

「ロング・アイランドさん、今日は非番じゃ?」

「うん、だからここで遊んでるのー」

 

オトナシクシロ! ヤッテミセル! ナンノ! ハジカレタ!? monadoooバスタアアアーー! ウワアアアアア!!

 

ロング・アイランドが遊ぶゲームの画面で派手なエフェクトがテンションの高いキャラと共に入り乱れている。

 

「な、何か凄い騒がしい戦闘ですね」

「先週出た新作なの~」

「えーと、指揮官の方針で執務室を常時開放してる手前で申し訳ないのですが、仕事中の指揮官にも配慮していただけると……」

「それもそうなのねー、よいしょ」

 

ロング・アイランドが首にかけていたヘッドホンを頭につけ、ゲームの喧騒が収まる。ロング・アイランドはそのままゲームに集中した。

 

「普段はこもりがちなロング・アイランドさんがここにいるの、珍しいですね?」

 

不思議そうにニーミが指揮官へと視線を移す。指揮官は自分の目蓋を指で揉むと机に突っ伏した。

 

「ロング・アイランドも誰かの隣にいたい時があるんじゃないかー?」

「そういうものですか……あっ、行って来ますね!」

「頼むー、足元に気をつけてなー、それまで少し休むわー」

「はい! 書類をダメにしないよう、ちゃんとタオルを敷いてくださいねー」

 

ニーミが書類を届けるために執務室を後にする。指揮官もニーミを見送るとタオルを枕がわりにしてものの数分で寝息をたて始めた。

 

ロング・アイランドがゲーム機のスイッチを押す音が続き、頃合いをみ図る様に止んだ。

 

「しきかんー、寝た~?」

 

指揮官は寝息を返すだけだ。

 

「昨日の今日とあって、ぐっすりなの~……しめしめ」

 

ロング・アイランドが悪戯な笑みを浮かべると、枕にしてたクッションの下から写真と油性ペンを取り出した。

 

 

 

「指揮官、ロドニーですが、陛下から書類を……あら、ロング・アイランドさん?」

「ロドニーさん、こんにちは~」

「はい、こんにちはです。遊びに来ていたのですか?」

「うん、そんなところなの~、でも指揮官さん今は休憩中だから、幽霊さんはこれからおいとまするのー」

 

何時も通りのマイペースさでロング・アイランドが退出するのをロドニーが見送る。

 

「……なぜでしょうか、勘が告げてますね……っと、今は仕事中でした」

 

鋭すぎる感覚を一先ずは横において、ロドニーが陛下から任された書類を執務室に持ち込む。寝ている指揮官を確認するが、起こすべきか悩んだ。

 

「ふふ、何時みても無防備な寝顔」

 

先代からこの母港で働いてるロドニーが、人生が僅差で後輩の指揮官へ可愛がる様に笑う。寝ている指揮官の襟元に、写真が挟まれていた。

 

「あら、そんな所に写真?」

「ん……帰ってきたのかニー……おお、ロドニーか、ごめん寝ぼけてたな」

「おはようございます、指揮官。襟元に写真が挟まってますよ?」

「あっ首の違和感これか……さてはロング・アイランドの悪戯だな」

 

指揮官がロドニーに教えて貰った通りに襟元から写真を取り出す。取り出した写真をみた指揮官の眠気眼が一気に覚醒した。

 

横から覗こうとしたロドニーから反対方向に写真を手に遠ざけ、ロドニーが再び覗きこもうとするとまた反対へと遠ざける。

 

「指揮官?」

「その、風紀的に良くないんだ」

「そうなんですか」

「そうなんです」

 

笑顔のままであるロドニーに対し、指揮官の顔色が悪くなっていく。指揮官が廊下の方へと視線を向けた。

 

「あっお帰り、ニーミ」

「あら」

 

ロドニーが視線を廊下へ向けた瞬間、指揮官がアクロバティックな挙動で窓ガラスに突撃した。

 

自室に戻ろうとするロング・アイランドが歩く廊下の反対側から、窓ガラスが割れる音が響き渡る。

 

――あっ! そんなに必死で逃げなくてもいいじゃないですか!!

――えっ! えっ!? 何が起きたんですか!?

 

ロドニーや、ニーミの驚いた声がロング・アイランドの耳まで届く。

 

「うん、悪戯大成功なの~」

 

ロング・アイランドが鼻歌交じりに自室へ歩き始めた。

 


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