内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 183 様々な不調和音

 

 

 

 

―王都・冒険者ギルド―

 

もしかしたらまた何か起こったのかもしれない。その考えはミツルギさんも同じだったようで私とミツルギさんは若干ながら強ばった表情をしていた。そんな私達の気持ちが伝染するかのようにゆんゆんも戸惑いを隠せていない。何が何だかと疑問符を浮かべた様子なのはアクア様くらいだった。

 

「落ち着いてください、用件なら聞きますから」

 

「あ、は、はい、すみません、私、ギルド職員になりたてでまだこういうのに慣れていなくて…!!」

 

それを聞くなり私は軽く落ち着けた気がした。

 

 

 

なるほど、この職員さんの落ち着きのなさは案件の内容が理由ではない、単純に慣れない業務で緊張しているだけのようだ。そう考えてみたら自然と張り詰めそうになっていた空気が緩和していくような感覚を覚える。

 

仮に何か異常事態だとしたら職員になりたての新人さんに案件を任せるはずがない。

もしかしたらようやく魔王軍に動きがあっただとか、あるいは以前の変異種のような事件が起きたのではないかと思ってしまったがそういう訳でもなさそうだ、と、そこまで安易に予想ができてしまう。

 

「すみませんすみません…!そ、それでその、アリスさんにこちらが届いてまして…!」

 

何度も頭を下げながらも職員の女の人は両手で持った封書のようなものを私の前に丁寧に差し出した。これは手紙だろうか?

 

「そんなに謝らなくても……とりあえず拝見致しますね」

 

とりあえず見て見なければわからないと私はそれを受け取るなり開封……しようとしてその手が止まる。

 

「……これは…」

 

「?どうしたのよアリス、読まないなら私が読んであげるわよ?」

 

「あ、アクア様、お言葉ですが王族からの手紙を本人以外が読むのは…」

 

「お、王族!?」

 

ミツルギさんが小声で促すと、アクア様は驚いてその手を止める。確かにその封書にはこの王都の象徴と呼べるべきベルゼルグの紋章が刻まれている。既に数回に渡り見た事があるので間違いはないだろう。

これは新人の職員さんからしてみれば震えて当然だ、ただの手紙ではないのだから大事そうに持っていたのも理解ができる。何故こんな大事な手紙を新人さんに託したのかとか疑問はさておき…

 

 

ざわ……ざわ……

 

同時に周囲が騒がしくなってきた気がする。…どうやらアクア様の驚いた拍子の声が大きすぎたようでギルドにいる他の冒険者達に聞こえてしまったようだ。あちらこちらから冒険者達の視線を感じてしまう。

 

「……このままここで確認しづらくもなりましたね…、とりあえずここを出ますか」

 

これでは手紙を見るのも落ち着かないので溜息がてらにそう促せば、ミツルギさんとゆんゆんは苦笑気味に頷く、そしてアクア様はどこか気まずそうにもじもじしていた。

 

「待ちなさい、私も行くわよ」

 

…そのまま冒険者ギルドを出ようとしていた私達に声がかかる。その声は先程話して去っていったメリッサさんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

王族からの手紙――。

 

王族とは言うまでもない、アイリスの父親である国王様を筆頭としたこの国のトップに君臨する方達である。それにはクレアさんやレインさんのような主従も然ることながらダクネスの家系、王国の懐刀と位置付けられるダスティネス家などもそれに含まれるが、この手紙の封書の紋章は以前アイリスの護衛を依頼された時と同じものである。つまり直系であるアイリス、あるいは国王様よりもたらされたものと推測される。

 

しかしながら内容は全く分からない。今や私達のパーティは週1という間隔ではあるものの王城に赴きアイリスを外出させることになっているので必然的にクレアさんにも出逢うことになる。

なのでわざわざこのような手紙を送らなくてもその時に要件を告げてくれたら済む話なのだ。しかしこうやって手紙が届いているとなると考えられるのは――

 

 

「……何か緊急を要する事態になったのだろうか?」

 

「……その可能性は高いですね」

 

「なんでもいいから早く読んでみなさいよ」

 

厄ネタでなければいいのだが。少しばかり不安になりながらもいつもの喫茶店に入った私達は一番奥に位置する目立たないテーブルについて封書を開けて中を確認することにした。

 

 

 

……

 

 

「……うわぁ……」

 

露骨な声を思わずあげてしまう。なんというか予想通りと言うべきなのだろうか、遂に来たと思うべきなのだろうか。

 

「い、一体何が書かれてたの…?」

 

ごくりと息を飲むゆんゆんを横目に、私は視線を手紙に戻す。…多分今の私は物凄く微妙な顔をしていると思われる。その表情でミツルギさんは何かを察したようだ。

 

 

 

「……簡単に言いますと……、国王様と謁見しなきゃならないらしいです…」

 

「えぇ!?」

 

言葉と共に手紙から目を逸らすようにして頭を抱えてしまう。毎回思っていることなのだが私は平凡に過ごしたいのだ。アルダープの件もあり貴族様と関わるのは勘弁願いたいと本気で思っている。ならアイリスやダクネスはどうなのかと問われると反応に困るのだが彼女らはあくまで王族や貴族である前に友人であるので問題はない、ないのだけどそれでもこの国の重要なポジションについているのだからそういった事に巻き込まれることも覚悟はしている。それを込みで友人と思っているのだからそこはいい。

 

ならばこの国王との謁見はどうだろうか、関係としては友人であるアイリスの父親にあたってしまう存在である。

だから私の自論を当てはめたらこれも友人関係の延長で仕方ない事だと割り切れるはずなのだけど……、そんな単純に納得はできてしまえないのだからこそ、今の私は頭を抱えてしまっているのだが。

 

「流石は蒼の賢者と魔剣の勇者が連なるパーティね、まさか初めて聞く依頼が国のトップとの謁見だなんて」

 

「どういう気持ちで言っているのかわかりませんが私個人としては厄ネタでしかありませんよ…」

 

関心したかのようなメリッサさんの様子だが今の私からすれば嫌味にも聞こえてしまう。流石に本人にそんなつもりはないだろうけど。

 

そしてこれは国直々による私達への勅命である。この国に住んでいる以上当然ながら拒否権などありはしない、仮に拒否しようものならそれだけで罪をかぶることになるだろう。そんな案件なのだから本当に厄ネタでしかありはしない。

 

「それでどうするのよ?まさか今すぐに行く訳でもないんでしょ?」

 

この件で唯一無関係なアクア様は完全に他人事である。こちらの面々は注文した飲み物すら満足に口につけていないのに1人だけ美味しそうにフルーツパフェを堪能していらっしゃる。

 

 

「まっ、そういう話なら私は遠慮しておくわ、もし王様から話を聞いた後で私が必要であれば声をかけて頂戴、大抵は王都の冒険者ギルドに居るようにするわ、あるいはギルドの掲示板で連絡をとりましょう」

 

そう言いながらもメリッサさんは立ち上がるなり喫茶店から去っていく。ようは金目の依頼であったなら呼んでという事なのだろう、さりげなく何も告げずに自身の飲んだ紅茶代はテーブルに置かれているのを見ると憎めなさはあるものの、今の私からすればその自由奔放な在り方が羨ましいくらいとれてしまう。

 

「あ……いっちゃった」

 

「アリス、ホントにあんなのをパーティに入れるつもりなの?見た目からして協調性とか皆無だと思うわよ」

 

「……あまりこういう事を言いたくはないが……僕もアクア様と同意見だ。勿論アリスがそう決めたのなら僕はそれ以上何か言うつもりはないが…」

 

「ミツルギさん……その言い方は卑怯だと思います…」

 

「…っ!?いや僕は……!?……すまない、今のは聞かなかった事にしてくれ」

 

「……」

 

メリッサさんの姿が見えなくなるなりこの話題が出されて、少しばかり空気が重くなる。

まぁアクア様やミツルギさんが思う事は理解できなくもない。彼女を見た時に健全な冒険者に見えるか?と問われたら答えに困るのは事実だからだ。

 

だけど、私には私なりの考えがある。

 

「…確かに普通に知り合ってパーティに入った形でしたら…私も違う答えになっていたかもしれません。ですが……」

 

「…それはアリスから見てメリッサさんを信頼できる理由があるということかい?」

 

「…はい、私としてはメリッサさんの事は信頼してもいいんじゃないかと。…勿論希望的観測に近いかもしれませんが、私としてはアンリの在り方からそう思えるようになりました」

 

これが1番であり唯一の理由だろう。

 

アクセルの街でのキャベツでの一件でメリッサさんは身を呈してアンリを守ってくれていたのだ。それもあってアンリはメリッサさんに若干ながら好意的な目を向けていた。未だに一緒に住んでいるカズマ君のパーティではすら避けてしまう時もある超人見知りのあのアンリが、である。

 

……それにアンリやちょむすけと戯れている時のあのメリッサさんの幸せそうな顔を見てしまったらそんな風にも思えてしまって仕方ない。

 

「……確かにそう言われると…アンリは悪意などには敏感だからね、信憑性は持てるとは思うが…」

 

「あ、あの…アリス?」

 

私の話を聞くなり腕を組んで納得する素振りを見せるミツルギさんとは裏腹に、ゆんゆんは言いにくそうに口ごもっている。どこかおかしな事でもあったのだろうか?

 

「…どうしました?ゆんゆん」

 

「いや……あの…その……、アンリちゃんが悪意とかに敏感なのは私もわかるんだけど……、忘れてない?あの子って確かあのシルビアにも懐いていた節があったような……」

 

「……あっ」

 

全然駄目だったと思わされるゆんゆんの発言に私はただ間抜けな声をあげるしかできなかった――。

 

 

 

 

 

 

 

……閑話休題。

 

 

いつの間にかメリッサさんの話にシフトしてしまっていたけど今考えるべきことは王様との謁見なのである。

……とはいえこれに拒否権はない。以前ダクネスが言っていたように王家からの手紙、つまり勅命である。それは国の法律として絶対厳守なのである。頑なに拒んでしまえば犯罪者の烙印をも押されかねないので行かないという選択肢は存在しない。

 

ただこの手紙に日時などは指定されてはいなかった。これは何時でも構わないと言うことなのだろうか、その辺はダクネスに確認を取った方がいいのかもしれない。

 

「…気を取り直してクエストに行きますか」

 

「…そ、そうだね…」

 

メリッサさんは帰ってしまったものの、今此処にはお金を稼ぎたいオーラをめちゃくちゃ醸し出しているアクア様もいたりするので今すぐ王城に行く訳では無いのならクエストには行くべきだろう。

 

「…たださっき冒険者ギルドでめちゃくちゃ目立ってましたからね…少し戻りづらさが…」

 

「…えっと…一応やれそうなクエストの依頼書は持ってきてあるけど…」

 

「…流石できる女ゆんゆんですね」

 

「だーかーらー、それやめてってば!!」

 

顔を真っ赤にしながら言うゆんゆんは可愛い。それはさておき、私はゆんゆんが差し出した依頼書に目を通すと同時に他の人も見れるようにそれをテーブルの上に置いた。

 

 

 

――マンティスロードの討伐

 

 

 

マンティスロードとは簡単に言えば巨大なカマキリの怪物だ。大きさは5mくらいあり、その大きさに似合わず俊敏な動きを見せる、更に両手となっている大きな鎌は鋼鉄でさえも容易く切り裂くことが可能である。

冒険者ギルドが定めた討伐基準レベルは50以上という王都でもそうそうない超高レベル指定のクエストである。

 

「…ちょっとこれ大丈夫なの?」

 

依頼書を見たアクア様は完全に萎縮してその顔は青ざめている。まぁアクセルではまず見かけるレベルの依頼ではないのでそこは仕方ない。

 

「多分大丈夫かと。似たレベルのモンスターなら何度か最近私達3人で討伐しましたし」

 

例を挙げるとするならミツルギさんがパーティに加入した時に倒したティラノレックスだろうか。無論それ以外にも私達はオーガやミノタウロスなどの強大なモンスターを狩った実績がある。

 

「今回は更にアクア様がいますからね、アリスはより攻撃に専念できると思いますのでより難易度は下がると思います」

 

「わ、私も最初はアクアさんに似た反応してましたけど、その…やってるうちにこのレベルが当たり前になっちゃってまして…むしろこのレベルじゃないと満足できない身体になったというか…」

 

とりあえずアクア様を落ち着かせるように私が取り計らってみれば、ミツルギさんが便乗して、ゆんゆんがなんだか誤解を招くような事を言い出す。頬を赤らめて言うと余計に誤解しか産まないのでやめていただきたい。何に誤解するのかは知りませぬ。ただ言えるのはゆんゆんが言いたい事はそこらのモンスターを狩るよりも経験値が美味しいという事だけである。

 

「…そ、そうよね、カズマさん達と一緒のノリで依頼書を見てたけど今回はアリス達が一緒だし…うん、なんだかやれそうな気がしてきたわ!!支援に回復、サポートは私に任せておきなさい!!」

 

なんとか調子を取り戻したアクア様は自身を納得させるように何度も頷きながら声が少しずつ大きくなる。まぁやる気を出してくれるのはこちらとしても有難い。まぁやる気を出した原因は多分報酬の300万エリスなのだろうけど。それは依頼書の下の方に書かれている額を見たアクア様の目が完全に$マークになっていたことであっさり察してしまった。

 

 

そんな時に、私はカズマ君のこんな一言を不意に思い出した。

 

 

 

 

――アクアが自信満々な時は大体ろくなことにならないから気を付けろよ――。

 

 

 

 

 

……まぁ大丈夫だろう。いくらアクア様がやらかすとは言っても今回はパーティが全く違うのだ、アークプリーストとしてだけを見ればアクア様は他所のどのアークプリーストよりも優秀なのは間違いないのだから。

 

 

 

――私は自分に言い聞かせるようにそう念じた。ただこの拭いきれぬ不安は一体なんなのだろうか、今の私には理解することができなかったのだから。

 

 

 

 

 

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