皇我リキさん主催の企画小説になります。雑な面もありますがご容赦くださいませ。

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泡狐竜と絵描き狩人

 モンスターは美しい。

 自然の覇者たる彼らの独特の風格は、見るものを圧倒し、虜にするだけの魅力がある。とりわけ生態系の上位に君臨する「大型モンスター」はそれはすさまじく、畏怖さえ覚えるほどだ。

 とはいえ一般人が大型モンスターを目にする機会はほとんど無い。彼らは絵画や書物のスケッチ、あるいは伝記や口伝でモンスターを知る。

 故に、それらは写実的で、生き生きとしていて、風格を感じさせるものでなくてはならない。

 そう信じるが故に、私はモンスターを描く。

 それを叶えるために、私はモンスターを狩る。

 

 回復薬、消散剤、罠、作ったばかりの弾と予備の弾倉、そしてスケッチブックとデッサン用鉛筆をポーチに詰め込む。

 「本に載せるタマミツネの絵が欲しい」というのが今回の依頼だった。

 タマミツネを狩ったことはある。ただその時はパーティを組んでいて、満足に観察することはできなかった。手元にあるスケッチは死骸を元に書き起こしたもので、お世辞にも満足な出来とはいえない。

 もちろん、そのスケッチを元に絵を描いて依頼人に渡すことはできるだろう。だが私はそうしようとは思わない

。自分でも満足できないような出来の作品が本に載って後世に残るなど、想像しただけで吐き気がする。

 どうしても生き生きとした姿を見て、記憶に刻み込んで、イメージを固めたい。ならば「もう一度会いに行く」のが手っとり早いだろうというわけだ。

 幸先がいいことに、ギルドにはタマミツネの狩猟依頼があった。道具を買ってくるついでに依頼書も貰ってこよう。

 

 

 数ヶ月ぶりの渓流に足を踏み入れる。高台に設けられたベースキャンプからでも聞こえる、澄んだ水の音が心地いい。

 持ち込む武器は「デザートテンペスト」。ライトボウガンの中でも群を抜いて軽く、リロードしやすく、扱える弾も多い。クセのない良いボウガンだが、重り代わりに(一度見つかってしまえば消音効果は意味をなさない)サイレンサーを取り付けてやると、フロントヘビーになりさらに扱いやすくなる。もちろん今回も付けてきた。

 ガレオス素材のボウガンらしく水冷弾も装填できるが、海竜種のタマミツネ相手では効果が薄いと思い今回は置いてきている。

 代わりにありったけの徹甲榴弾と麻痺弾、それにLv2通常弾の材料を用意してある。デザートテンペストはクセがない反面火力が今一つ足りない。それを少しでも補うための徹甲榴弾だ。

 ポーチのアイテムを確かめ、爆弾を積んだ荷車をテントの近くに置いておく。デザートテンペストのレバーを引いて初弾を装填し、弾用ポーチの予備弾倉をすぐ取り出せるよう整えてから立ち上がる。

 

 山の陰から朝日が差し込み始めた。

 

 

 それを見つけた瞬間、その美しさに魂ごと心をもっていかれるのではないかと思った。

 絹を思わせる海竜種独特のすらりと伸びた胴、異国の着物のような上品な菫色のヒレと紫の体毛、シャボン玉のように宙を漂う分泌液由来の泡、珠のような輝きを放つ鱗、繊細さと獰猛さを併せ持つ、つんと立った鼻先とは虫類を思わせる鋭い眼。以前組んだハンターと狩ったタマミツネよりずっと美しく見えた。

 今すぐスケッチブックを取り出して描きたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえる。この姿だけでも十分すぎるほどだが、私が見たいのはモンスターの猛々しさだ。

 「ごめんよ。少しばかり私のエゴに付き合ってくれ」

 それを目に焼き付けたいが故に、私はデザートテンペストのトリガーを引く。くぐもった発砲音がして、タマミツネの傷一つ無い鱗に毒々しいピンク色の花が咲いた。

 初弾のペイント弾が命中したのをスコープで確認し、すぐさま通常弾の弾倉に入れ替える。

 弾用ポーチにペイント弾の弾倉を投げ込むのと同時に、タマミツネと目が合った。ご自慢の鱗を汚した闖入者をにらみ付けるその目は、今すぐ裸足で逃げ出したいくらいの気迫をはらんでいた。

 全身の毛穴が逆立つような感覚をふりほどくようにトリガーを引き絞る。

 一発、二発、三発。速射された通常弾がタマミツネの鱗を散らす。いよいよこちらを敵と認識したらしいタマミツネが首をもたげると同時に、私は武器をしまって真横に駆け出した。

 「ギャアァァァァァァ!」

 空気を震わせる、タマミツネのバインドボイス。本能的に足がすくむ。頭が割れんばかりの音量に耳を両手でふさいだ。あのまま武器を持っていたら取り落としていたかもしれない。

 間髪入れず、氷の上でも滑るようにタマミツネが突っ込んできた。そのままの勢いで繰り出された牙をすんでのところで避ける。

 恐怖はあった。だがそれ以上にこの美しいモンスターの生き生きとした様を間近で見られることに歓喜していた。

 前転で距離を取り、すぐさまデザートテンペストを構えて発砲。再び迫るタマミツネの突進を左ステップで回避して振り向きざまにもう一斉射。体勢を立て直す直前のタマミツネの足に有効弾を叩き込む。

 「ライトボウガンの速射は、三発がちょうどいいです。隙が少ないし、モンスターに動かれて無駄弾を撃つことも無いですから」以前会った流れのガンナーがそう言っていたが、彼の言うとおりだった。高速で動き回る相手に、デザートテンペストはうってつけだった。

 大きく跳んで距離をとったタマミツネが、人の背丈ほどある泡を放つ。思わず泡めがけて撃った。

 いともたやすく泡が割れる。が、タマミツネはそこにいない。

 「なっ…!?」

 逡巡する間もなく衝撃が来た。なすすべもなく地面に転がってからようやく、泡を囮にして側面から突進をかけてきたのだと気づいた。

 痛む体にむち打って起きあがる。慌てて周囲を見回し、明後日の方向から跳ねてくるタマミツネを捉えた。

 着地と同時に尾をしならせた、鞭のような一撃が横殴りにやってきた。ボールのように吹き飛ばされた私の身体が半ば朽ちかけた廃屋に叩きつけられる。衝撃に堪えきれず肺の中の空気を全て吐き出した。背骨が折れなかったのが幸運なくらいの力だった。

 「うぐ……」

 起き上がろうとした瞬間に猛烈な殺気を感じ、力を振り絞って横に転がり避ける。とっさのことで目の前がよく見えなかったが、避けなければ死ぬと感じた。

 直後に、私が叩きつけられた壁が鋭い水ブレスで縦真っ二つに裂ける。タマミツネのそれは、水とはいえ岩を粉砕する威力だ。ガンナー用のバトルSシリーズなどは気休めにもならない。今は避けたが、次同じ攻撃をもらえば確実に保たない。

 体中の痛みを感じながら顔を上げて、目の前のタマミツネを見つめる。菫色だったヒレは真っ赤に染まり、澄んだ青色の目は怒りにつり上がっていた。

 「ははっ…」

 笑った?いや、確かに今私は笑った。一歩間違えたら確実に死ぬというのに。人間より遙かに強大なモンスターと対峙しているというのに。

 

 「ああ…綺麗だ」

 

 こんなにも美しい存在を目の当たりにして、嬉しくて仕方がない。今私を殺そうとしている目の前のタマミツネが愛おしくすら見えてくる。

 

 「素晴らしい。最高だ」

 

 その猛々しさが、本能をむき出しにした生物の生き生きとしたその表情が、ひどく美しい。この美しさを永遠に閉じこめておきたい。心に刻みつけておきたい。そのためなら命だって賭そう。どんな痛みにも耐えてみせよう。

 

 「さあ。もっと私にその姿を見せてくれ。その美しさを隅々まで描かせてくれ」

 

 デザートテンペストを杖代わりにして立ち上がり、通常弾の弾倉を捨ててLv1徹甲榴弾を装填。牙をむき出しにして迫りくるタマミツネの口内に二発、続けざまに撃ち込む。

 「ギャアオォォォ!?」

 突き刺さった徹甲榴弾が爆発し、タマミツネの牙を灼く。突進の勢いが削がれ、すらりとした巨体が地面に倒れる。鱗で覆いようのない口に爆発物を撃ち込まれたのだ、無事で済むはずがない。

 弾倉を捨て、リロード。

 地面をのたうち回るタマミツネを隅々まで観察し、死骸では見られないその動きを目に焼き付ける。スコープを覗き、頭を狙って再び徹甲榴弾。頭蓋骨と鱗に覆われているとはいえ、爆発の威力そのものは脳を揺さぶって脳震盪を引き起こす。

 二発撃ち込んだところでタマミツネが起き上がった。すぐさま麻痺弾をリロード。武器を背負って走り、タマミツネの左側面に回り込む。興奮で痛みが鈍っているのが自分でも分かった。

 跳躍で距離をとったタマミツネが巨大な泡を飛ばしてきた。今度は避けず、泡に向かって強引に突っ込む。泡が弾け、石鹸水のようなぬるりとした液体が全身に降りかかった。

 「うっ……まだまだ!」

 これをあと一度もらえば、泡だらけになって身動きが取れなくなる。だがこれでいい。

 泡を突き破ってすぐに振り返る。突進しそこねて隙をさらしたその巨体めがけてLv2麻痺弾を撃つ。一発限りの弾倉を捨て、リロード。跳躍からの飛びかかりを横に転がって避け、至近距離からもう一発。弾倉をLv1麻痺弾に替え、直後の噛みつきをギリギリで避ける。

 「その荒々しさをもっと見せてくれ!」

 素早く照準。装填した三発を撃ちきると、タマミツネの動きが止まった。体を痙攣させ、苦悶している。麻痺弾の効き目が出てきたのだ。

 「[全弾装填]」

 撃ちきった弾倉を捨て、特製の連結弾倉を装填。中身は全ての徹甲榴弾と私の大好きな「とっておき」だ。

 あらんかぎりの徹甲榴弾を頭めがけて叩き込む。爆炎でタマミツネの頭が見えないが、アタリをつけて撃ち続ける。麻痺弾の効果が切れたところで、持ち込んだ徹甲榴弾が尽きた。

 それと同時に、脳震盪を起こしたタマミツネが倒れ込む。連結弾倉の最後の一発を確認し、タマミツネに駆け寄って頭に銃口を押しつける。

 「ありがとう、おかげでいい絵が描けそうだ」

 トリガーを絞る。銃口からちろりと炎が出て、それから竜撃弾の巨大な火球がタマミツネの頭を包み込んで、焼き尽くした。

 

 

 数日後、「狩りに生きる」の特集の扉絵には生き生きと跳躍する、精巧なタマミツネの絵が描かれていた。


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