I'm here, for you.

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本編時空とはまた別の大人ネプテューヌの話としてご理解ください



Postcard from the Planeptune

 

 拝啓、どこで何をしているのかも分からない、私のお姉ちゃんへ。

 この手紙があなたへ届くのかどうか、それすらも分からないけれど、ここに記しておきます。

 

 私のことを覚えていますか?

 私は、あなたのことを覚えています。ネプテューヌ。いつも元気で明るくて、時々、というか毎回ドジばっかり踏んじゃうけど、決して諦めることなんてしない、私の自慢のお姉ちゃん。

 趣味の昆虫採集はまだ続けてるのかな? お姉ちゃんがずっと大事に使っていた昆虫図鑑は、まだ大事にとってあります。今度時間がある時でいいので、忘れずに取りに来てね。

 私は、あなたの妹でした。

 でした、っていうのは戸籍上のことであって、本当は今でもお姉ちゃんの妹で……とにかく、誰がなんと言おうと、私はネプテューヌの妹。ずっとお姉ちゃんの帰りを待っている、妹なんです。

 

 お姉ちゃんがいなくなってからのことを、書いておきますね。

 ある日突然、私のお姉ちゃんはこの次元からいなくなりました。理由は分かりません。誘拐なのか、それともいつもの様にふらふらとどこかへ昆虫採集へ行ってしまったのか、はたまた何か思うことがあって家出をしてしまったのか……もしそうだとしたら、今すぐに帰ってきてほしいです。私はいつでもお姉ちゃんの味方だから。何があってもずっと、お姉ちゃんと一緒にいるから。

 とにかく、いなくなったお姉ちゃんを私達は探しました。

 お母さんとお父さんも、必死になって探しました。でも、この世界のどこを探しても見つかりませんでした。私達の国の女神様に頼んでみても、なんの手がかりも得られませんでした。本当にお姉ちゃんは、この世界からいなくなったんです。跡形もなく。別れの言葉も、何もなしに。

 別にそれを怒っているわけじゃありません。本当は怒りたいけど。

 でも、それよりお姉ちゃんが無事でいてくれれば、私はそれでいいって思っています。

 

 しばらくの時間が立って、お姉ちゃんを探す人はいなくなりました。

 お父さんとお母さんも、もう諦めていました。私達の中で、お姉ちゃんのことは口に出してはいけないことになりました。お姉ちゃんの部屋も、鍵をかけて開けないようにしていました。私だけは家族に内緒で掃除をしたり、昔の写真なんかを眺めたりしているけどね。

 私はお姉ちゃんが死んだなんて思っていません。だって、お姉ちゃんはそんなことで死ぬような人じゃないから。きっとどこかで冒険をしたり、呑気に昆虫を集めていたりしているはずです。

 ねえ、お姉ちゃん。あなたは今どこで、何をしているんですか?

 

 本当は、寂しい。

 お姉ちゃんがいなくなって、私は自分でも分かるくらい、すっかり暗くなっちゃいました。

 元よりお姉ちゃんよりも活発じゃなかった。私の元気は全部、お姉ちゃんがくれたものだから。今までお姉ちゃんがいない人生なんて、考えられなかったもん。ひどいよ、お姉ちゃん。

 こんなことを言っても仕方ないことなんて分かってる。

 でもね、私は信じてるから。いつかお姉ちゃんがひょっこり帰ってきて、今まで何をしていたのか、どんな冒険をしてきたのかを、私に話してくれるって。

 そう思えば、一人で待つのも悪くないって思えます。楽しみにしてるね、お姉ちゃん。

 

 ちょっと、私の話をしますね。

 私は今、プラネテューヌの教会職員として働いています。

 もちろん、プラネテューヌのために働きたかったから、というのもあるけど、本当はプラネテューヌの教会に保管されていた過去の記録を探りたかったからです。女神やイストワール様にもちゃんと許可は得ています。いなくなったお姉ちゃんのこと、二人とも覚えていてくれてたよ。

 そうして二人の協力のもと、教会の記録を調べていると、ある一つの事実を見つけました。

 それは、ここ以外にも様々な次元が、この世界、ひいては宇宙に存在する、ということです。

 並行世界、と言えばいいんでしょうか。マルチバース。多次元宇宙論。少なくとも、私はそれと似たものだと理解しています。そして、実はお姉ちゃんはそうした別の次元へ飛ばされたのではないのか、とも。

 仮に別の次元へ飛ばされたとすれば、この十年でお姉ちゃんの姿も、死体すらも見つかっていないことにも辻褄が合います。飛ばされた理由は分からないけど、お姉ちゃんはきっとどこかで生きている。その仮説を立てられただけで、私はとっても嬉しかった。涙を流したのは、お姉ちゃんが居なくなってからの、十年ぶりでした。

 でも、その仮説を立てられたとして、私には何もできませんでした。別の次元へと渡る手段なんで今のプラネテューヌにはあるはずもないし、仮に別の次元へ渡れたとして、数多ある次元の中からお姉ちゃんのいる次元を引き当てるなんてこと、できるかどうかも分かりません。

 それに、次元同士では時間の流れが違うということも分かりました。ある記録では、一つの次元の一日が、もう一つの次元での一年にあたるとも言われています。もしそうだとしたら、私はきっとお姉ちゃんより年上になっているのかも。それは、なんだか嫌だな。私は、あなたの妹なのに。

 もう、同じ時間すら過ごせなくなったのは、悲しい。

 お姉ちゃんが、どんどん遠くに離れていく気がするよ。

 

 でも、私はずっとお姉ちゃんの帰りを待っています。

 たとえ私がお姉ちゃんより先に大人になったとしても、どこかの誰かと結婚しても、おばあちゃんになっても。私はあなたの妹として、帰りを待っています。

 お姉ちゃんは一人じゃない。寂しくなったら、いつでもいいから戻ってきてね。

 

 あなたの帰る場所は、ここにある。

 

 

「この次元はもうダメみてーだな」

 

 クロちゃんがそんな言葉を投げてきたけど、それすらも耳に入ってこなかった。

 

「崩壊して千年くらい、ってところか。もう誰も残っちゃいねーだろうな」

 

 それくらいは分かる。こう見えて、いくつもの次元を旅してきたんだ。どれくらい放置されているのか、もうこの次元に生きている人がいないなんてことは、とっくの前から理解してる。

 

「てか、なんだよそれ。誰の手紙だ?」

 

 そう言って、手元を覗き込もうとしたクロちゃんの頭を、軽く指の先で叩く。

 

「おい、なんだよ! ちょっとくらい読んでもバチあたんねーだろ!?」

「ダーメ。他人の手紙を勝手に読んじゃいけないんだよ?」

 

 それでもクロちゃんは納得できないようで、小突かれた頭に抑えながら、口を尖らせていた。

 

「それだったらお前もだろ? 他人のものなんだからよ」

「……そう、かもね」

 

 手紙を閉じる。

 

「ねえ、クロちゃん。ちょっと休憩していかない?」

「こんなところでか? 休むならもっと、平和なところで……」

「いいからさ、ほら。ここ座って」

「なんなんだよいきなり……まあ、今に始まったことじゃねえけどよ……」

 

 瓦礫の上に腰を下ろして、その隣へクロちゃんを座らせる。

 

「たまにはさ、旅の思い出とか話してみようよ」

「なんでだよ」

「いいから。クロちゃんもなんかないの? 旅してて面白かったこととか」

「そりゃあるけどよ……言い出したのはお前なんだから、お前から先に話せよな」

「それもそうだね。じゃあ、そうだな……まずは、あの世界を救った話からにしよっか」

 

 そう切り出して、私は旅の話を始めた。

 共に旅をしてくれた、ちょっとやんちゃだけど、それでも私についてきてくれる友達へ。

 そして、ずっと私のことを待ち続けてくれた、たった一人の妹へ向けて。

 

 




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