私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
それから椿は一瞬にして火車輪を解き、カナと雪にも熱烈なキスをしてその場にへたり込ませてしまう。
私も何とかして彼女に抵抗するが――
「んんっ!んんむぅぅ〜ぅ!?んぷぁ、あ・・・え・・・」
椿にキスをされた後から、舌を絡めて激しくされたのもあってか妖気を出して小次郎を呼び出す事も出来ない上に身体に力が入らない。
「はぁ、はぁ・・・わ、私達まで、こんな・・・」
「は、初めてが・・・私の初めてが・・・」
『くっ、接吻で妖気を吸い取るとは・・・道理で、我が負ける訳だ』
カナと雪、白狐さんが愕然として椿を見ている。
そんな私達に向けて椿は何処か勝ち誇ったような笑みを浮かべペロリと舌を出した。
「堪能しましたか?それにたっぷりと愛情ある接吻をさせて頂いたので、私が悪い妖狐じゃないというのは分かりましたよね?」
そうして彼女は、再び亜里砂へと向き直った。
「くっ、有り得ない!あの小娘の方は何とかなるにしても、こっちは金狐の力を超えてるわよ・・・一体何なのよ、その力は!」
「いい加減諦めなさい、負なる者。まだ私に牙を剥きますか。そうですね・・・ではまず、この地を浄化してあなたの目的を無くしてしまいましょうか」
そう言って椿は片手を狐の形にして天に向ける姿勢をとる。その手からは妖気とはまた違った、より純粋な白い光のような力を感じる。
「それでは、この地を浄化しちゃいましょう。天神招来――」
「くっ、そんなのさせな――あぐっ!?」
「妖異顕現、"妖霊封鎖(ようれいふうさ)"」
亜里砂も抵抗しようとするものの、椿が空いている方の手で狐を作り、妖気の鎖を呼び出して彼女へ巻き付けた。亜里砂が動けなくなっている所を見るに、相当強力な捕縛妖術のようだ。
「――浄化浄霊」
椿がそう言って、上に向けていた方の手を下ろして狐の口が床へ付くように触れさせる。すると、そこから一気に暖かな光の気が溢れ、それと同時にその力を浴びた悪霊や祟りの気配が無くなっていくのを感じ取れた。
「何なんだ、この暖かい力は・・・悪霊とか祟りがどんどん消えていっている・・・?」
『いかん、椿。幾ら何でも、それは・・・』
私達が呆然としている内にも、最も強く感じていた2階の悪霊の気配も跡形なく消えてしまい、更には家に潜んでいたであろう妖怪達も椿の力を感じた瞬間に一目散に逃げ去っていってしまったのだ。
「・・・さて。では次はあなたを・・・おや?」
再び椿の動きが止まる。ひょっとすると、彼女は"元の優しい椿"に戻ろうとしているんだろうか?だから、こうしてただ使命感だけで動いている今の彼女を止めようと無意識に働きかけているのではないのか。
すると、そこへあの助けを求めてきた男子までも操られてしまったのか、男子共が2階から強力な呪いの力を感じさせる札を手にして降りて来たのが見えた。
「そんな、いつの間に!?」
「ふふ・・・あなた達、良くやったわよ。浄化される前に何とか回収出来たわね」
「酷い事をしますね。その男子達の手、負の念に直接触れたからもう使い物になりませんよ」
「知ったこっちゃないわよ。目的さえ達成出来たなら、こんな所に長居は無用よ!妖異顕現!」
亜里砂が叫び、一瞬にしてその場から姿を消してしまった。それに、椿もまだ元に戻る気配がない。このままだと椿が消耗し続けて大変面倒だぞ・・・。
「くそ、逃げられた!椿、どうなっているのか分からないけど、このままだと妖気の減りもキツいだろうし、早い所いつもの姿に戻って!」
「・・・?普通なら、この姿でも私は妖気を安定させられるのですが・・・儀式が最後まで上手くいかなかったのでしょうか?」
「――いんや、お前には強力な封印が施されているだけだ」
「その声・・・センター長!?」
私の言葉に訝しげな様子を示す椿の後ろから、なんとセンター長の達磨百足が姿を現して彼女へそう告げる。
よく見ると、椿の足元にはいつの間にか6つの点の形に呪符が打ち付けられていた。
「その力――"神妖の力"はまだお前には早い。抑えよ」
「えっ?それは、どういう・・・」
『やれやれ、ようやくセンターの援軍が到着か・・・遅かったな、達磨百足よ』
「これでも急いだ方だわい。しかし綾の方はどうやら自力で元に戻れたから良いものの・・・まさか椿の記憶よりも先に、秘められていた力の方が解放されているとは一体何をやっているんだ、白狐よ。」
打ち付けられた呪符の効果か、椿の身動きがとれなくなっている。白狐さんを叱る達磨百足は、この状態の椿を元に戻す方法を知っているようだった。
「説明は後だ、綾。ひとまず、お前ら始めい」
「「「「「「はっ!」」」」」」
6人の狐の面を付けた神主っぽい格好の妖狐達が椿の動きを封じている札の場所へ移動し、何かを唱え始める。すると椿の身体が光っていき、5分程してそれが収まる頃には元の姿に戻った彼女が倒れていた。
『椿!』
すぐに白狐さんが駆け寄って椿を抱き起こす。
私もその後に続いて彼女の無事を確認し、大きく安堵の息を吐いた。
「よかった・・・元に戻ったみたいだね」
「ふむ、何とか成功したな。さっ、後は此処から出るぞ」
『椿、大丈夫か椿!』
「う〜ん・・・白狐さん、顔が近いです。キスでもするつもりですか?」
『おぉ、椿。戻ったか!』
私は椿が目を覚まして気持ちも落ち着いてきたので、先程あった自分自身の事について思い返してみる。
誰かに身体を乗っ取られたような状態だった時、あれはまるで自分の身体に霊が取り憑いたとかそういう感覚ではなく――まるで"元から私自身が覚えていた"かのような感覚だった。
それに亜里砂が使ってきた妖術も全く知らないはずだというのに、何故かそれについての対処方法も自然と頭に浮かび上がってきていたのだ。
なんというか、先程の雪の言葉通りに身体だけが私の意識を無視したロボットみたいになっていたらしい。
「椿ちゃん!良かった〜!2人とも元に戻ったんだね!」
「やれやれ・・・」
「カナも雪も、心配かけさせてごめん」
「僕の方も、ごめんなさい・・・」
私達は白狐さんに支えられつつ2人に謝った。
私は狐2人と一緒にやらかした"前科"があるから良いものの、カナと雪にはきっと大きく心に傷が・・・
「私達なら大丈夫よ。女子同士だからね、ノーカンノーカン!」
「そう、挨拶。あれは挨拶・・・でも後で耳と尻尾、たっぷり弄る」
「って、割と余裕そうじゃねえか!」
「お、お手柔らかにお願いしますね・・・」
なんだ、心配するだけ損をした気分だ。
しかも2人の椿を見る目が少しギラギラしていたようにも感じて、椿の自業自得なのに私はほんの少しだけ同情してしまいそうだった。
「さぁ、積もる話もあるが先ずは此処から出るぞ。悪霊は浄化出来ても、祟り神は未だ健在じゃ。危険な場所には変わりない」
達磨百足がそう言って、援軍に呼んだ妖狐達へ洗脳が解けて倒れている男子共を運ばせる。
妖気を消耗して身体が動かせない椿は白狐さんにお姫様抱っこをされており、私はといえば重量オーバーだという事でやはり徒歩になってしまった。
トホホ、前にもこんな事があったような・・・一応、今のはダジャレでは無いからね?
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――その後
私達が入ってきた穴を救出の為に広げ、脱出した後にそこを援軍で来ていたぬりかべの力で塞いで外で待っていた人達と合流する。
『白狐、お前が居ながら情けないもんだな』
『ぐっ、今回は流石に何も言えん・・・』
黒狐さんが白狐さんへ厳しい言葉をかけた。しかし、美亜はそんな鬱屈とした空気の中でも私達に優しく心配をしてきてくれる。
「椿に綾、あんた達大丈夫?黒狐が中で何が起こっている事を全部実況していたから、2人の身に何が起こったのかは分かっているのよ」
「そうだったのですか?」
「マジかよ・・・」
まぁ、椿は白狐さんにお姫様抱っこされているし、私も肩から力が抜けてグッタリと立っているので誰でも見れば何かあったのはバレバレだろう。
我ながら情けなくて、美亜から何か文句を言われるのではと顔をしかめてしまう。
隣にいる椿の顔も何処か憂鬱そうだ。
「ちょっと2人とも、なんて顔してるのよ?そりゃ私だって、あんた達の事は心配するわよ」
「うっ・・・悪かったよ。美亜がまた緊張感が無いだの何だの言われるかと思ってさ」
「僕も、その・・・ごめん、実は嬉しいんだよ。こんな化け物みたいな僕を心配なんかしてくれて」
――私にとって、今回の件は重かった。
あの時に私の身体が勝手に動いてしまった事より、椿が別人のようになってしまった事の方が私は彼女の暴走に対して、自身が何も出来なかった無力感で辛かったからだ。
椿があんな事になっている時に、私は何もする事が出来なかった・・・それだけで私の心は彼女に対する強い罪悪感で埋めつくされそうになる。
そう自己嫌悪していると、突然私と椿の頬を美亜とカナ、そして雪の3人が同時につねってくる。
「あふぁふぁふぁふぁ!なんふぁなんふぁ!?」
「いふぁいいふぁい!はにふるんでふか!?」
随分強くつねってくるせいで、落ち込んでいたはずの気持ちも痛みで何処かへすっ飛んでいってしまった。
「良い事、あんた達はあんた達でしょ?2人がどんな性格になっても、私の仲間でライバルの・・・ドジな妖狐"椿"と単純バカな人間"烏森綾"でしょ!」
「2人とも、アレは別に悪いものじゃないんでしょ?それならきっと大丈夫よ。それに――」
「椿のキス、上手だった。愛情も感じた」
「なんでカナと雪は顔を赤らめてるんだよ!それと美亜もサラッと私を貶してないか!?」
「もうその話はしないでください!黒歴史として葬りたいから!」
なんて事を言うんだ、この2人は・・・おかげで、さっき私も椿にキスされた事を思い出して彼女の顔を見れないじゃないか。あぁもう、本当に最悪だ。
そんな感じで皆とボケやツッコミみたいな漫才染みた話をしながら歩いて、ようやく民家のある所まで降りてくると、椿の祖父の家からやって来たレイちゃんが私達の方へと飛んで来る。どうやら椿の祖父も一緒のようだ。
「ムキュゥゥゥ!!」
「あっ、レイちゃんありがとう。祟り神の結界を破ってくれて」
「そっか、レイちゃんのおかげでこうして普通に戻って来れたんだっけね。よ〜しよし、偉いぞ〜」
「レイちゃん、顔舐めすぎ・・・全くもう」
そうして、私は椿の顔を舐めるレイちゃんの頭を撫でた。家に戻った後は椿と私に件の家で何があったのかについて話し、一体私達にどういう事が起こっていたのか知らなければ。もし次に似たような事が起こったら、ひょっとすると椿も私も戻らないかもしれないからだ。
だからこそ今は皆やレイちゃんと笑っていられる時間が、とてつもなくかけがえのないものに感じられてホッとする。