私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――椿の祖父の家にて
妖気を使い果たしてお腹がペコペコな状態の私と椿は、皆と一緒に車で戻ってきた。
・・・はい。乗用車ですよ乗用車、書き間違いなんかじゃありません。流石に人気がある場所で空を飛んだら、絵面が百鬼夜行のそれになって目立ちまくるらしいので当たり前といえば当たり前なのだが。
とにかく、カナや雪だけでなくセンター長である達磨百足も一緒に来ている。椿の方はいつの間にか白狐さんから黒狐さんに交代しており、おんぶした状態で帰宅した。付き添いの先生と男子共はというと、椿の祖父が病院の前に放置してきたとの事だが・・・幾ら何でも雑すぎやしないだろうか?なんだか心配になってくる。
「お〜い!里子、帰ったぞ。言われた通りに用意は出来とるか?」
「は〜い、翁!妖怪食でお夜食を用意しておきました〜バッチリです!」
「時間も時間じゃが、とにかく椿と綾の妖気を補充せんとな。話はそれからじゃ」
玄関で椿の祖父が叫び、里子がそれに元気な返事を返した。なるほど、予め家から出発する前に里子へ食事を準備するように頼んでいたのか。これは私も椿も大助かりだ。
そんな中、私達の後ろに隠れるようにしていたカナと雪がおずおずと椿の祖父へ確認の言葉を取る。
「あ、あの・・・私達も、お邪魔して良いんですか?」
「わ、私は帰りたい・・・」
そういえばカナは以前に椿の家へ行ってみたいとか何とか言っていたような気がする。まさかこんな形で来る事になるとは思っていなかったからか、何処かソワソワした様子で落ち着かないようだ。
雪の方はというと・・・まぁ、そうだろうとは思ってた。彼女の母親である氷雨さんと目が合った瞬間に私の後ろへ隠れたのだが氷雨さんも雪を見つけていたらしく、廊下から玄関へと瞬時に彼女の元まで猛ダッシュしてきた。あれ?雪女って早足な話あったっけ?
「雪〜!!お母さんに会いに、久しぶりにこっちに戻って来てくれたの!?」
「ちが、う!私は椿と綾に着いて来た、だけ!」
とか思っているうちに母娘で鬼ごっこを始めたよ、ちょっと。
雪が母を嫌がる理由というか、これ単に氷雨さんが雪に構いたがりだから避けられまくってるだけだわ!私でもオジサンからあんなに積極的に構われた事が無いから、そりゃ物静かな雪は嫌になるだろうって!
「雪ちゃ〜ん!母娘とのスキンシップくらい良いじゃない!!」
「それが過度・・・迷惑!」
そうやっているうちに氷雨さんが雪の足元を凍らせて動けなくなった所を捕まえ、頬ずりをし始めましたよ!お、おう・・・まるでワンコが嫌がっているのを分からない飼い主みたいな感じだ。
「うぎぎぎ・・・は、離して・・・」
「た、たはは・・・」
雪を助けようにも、妖気がすっからかんで何にも出来ない私達は苦笑いするしかなかった。
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――夜食を食べ終えて
私と椿は狐2人やカナと雪、美亜と共に向かいの席に座る椿の祖父と達磨百足へ視線を向ける。
雪はつい先程まで氷雨さんからハグだの頬ずりだのされていたおかげで疲労困憊し、美亜はそんな彼女に良い物が見れたようなニヤニヤした笑みを浮かべていた。
「さて・・・不本意ながら椿の記憶の封よりも先に、"神妖の力"の封の方が解けかけるとはな」
「あの・・・一体椿には、どれだけ封印がかけられているんですか?」
椿の記憶だけで無く、更に封印されている事が分かってしまった私と椿にとって一番気になる点だ。私自身の方は戸籍とか色々調べれば何とかなりそうなものなのだが、妖怪である椿には箝口令が敷かれている現状もあって過去については謎が多い。
「はぁ、仕方無かろう。天狐の奴まで椿を気に入り、その挙げ句に幼かった彼女に"神妖の力"を渡そうとしたのだからな」
「えっ・・・?」
椿が意外そうな声をあげる。
天狐といえば以前に椿が思い出した記憶の話で出てきた、稲荷神の祖かつ最強の妖狐ではなかったか。すると、やはり白狐さんと椿のあの記憶の後に彼女は天狐へ会っていたというのだろうか。
『ふぅ・・・やはり、その方が絡んでいたか。椿よ、"神妖の力"とは我と黒狐にもある力でな、神格化する妖怪達には必ず存在する力じゃ。しかし、その力にはランクがあってな・・・上から順に《天》《柱》《地》となっとる。ちなみに我らは《柱》じゃ』
「なるほどね、そんな感じで別れてるんだ。名前からするとそれぞれ特化した部分とかありそうだけど」
『それで翁、センター長。椿の"神妖の力"のランクはどの辺りだ?』
白狐さんの説明に私が納得している横で、黒狐さんが椿の祖父と達磨百足へ質問をする。
椿にも狐2人と似た力があるとするのなら、ひょっとするとそのランクは《柱》に相当する程に強いのではないだろうか。
だが、その後に出てきた彼からの答えはとんでもないものであった。
「――《天》じゃ」
「・・・なんだって?」
「えっ・・・?嘘・・・でしょ?」
思わずポカンとした顔になってしまう私と椿。
しかし、向かい合っている2人の表情は真剣そのものであり、今の言葉が嘘でない事は明らかだった。狐2人も納得した様子を見せて頷いている。
『なるほどな・・・椿に"神妖の力"まで一緒に渡さなくて良かったわ。我らの力を渡した時に、実は封印されていた力を見つけていたからな。もしかしたらと思っておったが・・・やはり"神妖の力"であったか』
『ふむ・・・だが、それでこそ俺の嫁だ。素晴らしい!』
『黒狐よ、我のだ』
「おう駄狐共喧嘩しようとすんの止めーや」
全くこの2人ときたら・・・結局また椿の事で暴走して。
「あの・・・翁、で良いんでしたっけ?何で今回、椿ちゃんはその力に目覚めかけたんですか?それと綾さんもどうして椿ちゃんと同時に、人が変わったような事になったんでしょうか?」
そんな中、カナが恐る恐ると椿の祖父へ質問した。きっと椿の家に来られた事自体は嬉しいのだが、今のこんな状況を聞いて半妖である自身にとって何処か居ずらい雰囲気なのかもしれない。
「うむ、それなんだが・・・2人とも、あの家で「かごめ歌」を聞かんかったか?」
「そういえば、奥の部屋から聞こえてきていたような・・・」
「うん、先生が人形達を相手に「かごめかごめ」をやっていたし、その歌も人形から聞こえたよ。でも・・・最後の方は歌詞がおかしかったかな?」
「どんなじゃ?」
椿の祖父はふと思い出したように彼女と私が怖がらないよう少しだけ笑顔を浮かべて聞いてくるが、悲しいかな・・・天狗の姿である為に私からは逆に怖く見えてしまう。
そして椿が奥の部屋で聞いた「かごめ歌」を口ずさんでみると、椿の祖父は訝しげに顎へ手を当て考え込む仕草をした。
「うむ、それじゃな。それは神降ろしの儀式にも使われていてな・・・椿が幼い頃にやらされた儀式の時と、全く同じ歌じゃな。その歌を聞いた事で断片的に封印が解けたようじゃ。綾については、儂らでもまだよく分かっておらんが、きっと似たように"中へ植え付けられたもの"が反応したのじゃろうて」
「神降ろし・・・」
私はその真実に思わず黙り込んでしまう。
椿に神が降ろされていたかもしれないとなると、彼女には一体何が降ろされていたのだろうか?
それは私も同じで神降ろし、そして人格の植え付けのようなものが行われていたのだろうか?
「鞍馬天狗の翁。流石にそれ以上は・・・」
「達磨よ、もはや事態は加速度的に進んでおる。モタモタしとったら、取り返しのつかん事になるぞ。――良いか、椿と綾。ここから先、どうするかはお前さん達次第じゃ・・・良いな?」
確かにその通りだ。椿も私も、あの状態を何とかしない限りいずれはマズい事に繋がりかねない。
椿の祖父がキッと私達に決断を迫る眼差しを向ける。その発せられたプレッシャーに私と椿は思わず身動ぎしてしまいそうだった。
「くっ・・・」
「うぅ〜ん・・・」
事態の重さから頭を少し抱えて悩む椿の頭を、狐2人がソッと優しく撫でてきた。椿はそれだけで固くなっていた心が柔らかくなったのか、肩の力を落とし尻尾を振ってふぅと息をつく。
私も顔をしかめて今回の事を重く受け止めていたが、肩をポンポンと叩かれて気がつけばオジサンが「安心しろ。俺も綾の味方だ」というプラカードを持って私の傍に座ってくれていた。
「ありがとう、オジサン。親友に付きっきりで帰らないのに、私なんかの事を心配してくれて」
スッ『それくらい構わないさ。俺だって綾を守る為に翁の元へ泊まり込みさせているのもあるし、綾には綾のやりたい事をやっていて欲しいんだ』
オジサンが続けて出したそれに安心して私もしかめていた顔から力が抜けてフフッと解れた笑みを浮かべる。
「椿が悩むのもしょうがない。それだけの力が当時の神降ろしの儀式で、椿の中に入ってしまったのだからの。そのままでは強大な力に押し潰され、お前さんが消滅しかねんかったから、儀式をやった天狐は急いでその力を封印したんじゃ。それが椿の力が封印されていた理由じゃ。・・・天狐の奴も、予想外だったのだろう」
「じゃあ、あの「かごめ歌」はそれを呼び起こしてしまう力があったって事なんですか?」
私が疑問を椿の祖父に向けると、それに達磨百足が答える。
「不思議そうな顔をしているな、綾。そもそも「かごめかごめ」というのは「かごめ歌」に力があるのではなく、その行為に意味があるのだ。――真ん中の人物に神を降ろす儀式としてな」
「はぁ」
「まずは一般的に広まった歌で遊び、神を呼び寄せる。そのまま遊び、神の気を引くのだ。そして最後に、お前達の聞いた歌で呼んだ神を真ん中の人物に降ろすというやり方だ。」
「そんな遊びだけで神が降ろせるなんて・・・」
呆然とする私に、今度はオジサンが沢山のプラカードを掲げたり下ろしたりして達磨百足から説明を引き継ぐ。
スッスッスッ『昔椿がされたというのは、これの"力だけを降ろすタイプ"の儀式に間違いない。人形の後ろに鏡があったはずだ。あれを用いて神が降りる直前に、一瞬だけ神の本体を弾いて残った力だけを降ろすという手法だ。それに"神妖の力"が宿った者は、元々力を持っていた神の意識に引きずられるのか性格が変貌するようだ。詳しい事については、後で白狐と黒狐に聞いて欲しい』
「そうなんだ。じゃあ、あの狐2人も元は全然違う性格だったのかもね。ひょっとしたら今よりもマシな性格だったりして」
『『聞こえてるぞ、綾』』
「はい、すいませんでした」
スッ『全く、一言余計な所は胸と同じくらいに成長しないな・・・綾は』
「ねぇ、幾らオジサンでもそれはちょっと許さないよ?」
むしろ、そんな余計な一言をついつい言ってしまう所なんかはオジサンに育てられたからなのでは?とも思ってしまう。
「やれやれ・・・しかし、達磨百足よ。しっかりと管理をしておいて欲しかったの。あの場は確か前の住人の半妖が、自らを神格化しようとして同じ儀式を行った場所じゃろう?舞台をそのまま残しているのは感心せんのぉ」
椿の祖父がそんな私達に呆れた様子を見せながら、達磨百足に向かって件の家の事を話し出した。
「勘弁してくれ、翁。こちとらしっかりと管理はしていたさ。だが、あの中の物は取り出そうしたり壊そうとする度に不可思議な現象が起こっては怪我人が出てしまう。誰も入れんようにするしか方法は無かったわ」
「それをしっかりと管理せぇと、そう言っとるんじゃ!人間の侵入を簡単に許しておいて、何が"管理はしとった"じゃ!ええか、そもそもお前さんは――」
すると、原因追求から脱線して椿の祖父と達磨百足が言い争いを始めてしまった。ひとまず私達は知りたい事を知れた訳なので、件の家についてはもうこれ以上何か言われる事は無いのだろう。
『椿に綾。後は大地と我らが残っておくから、お主らはそこの2人と一緒に先に寝て来るが良い。先程里子に言って、お主の部屋に布団を用意させてもらっていたからな』
スッ『あの2人はこうなると長いからな。いつまでも此処に居る理由も無いから、今は身体を休めておけ』
白狐さんとオジサンの気遣いには感謝するが、そこでウトウトと眠りかかっている黒狐さんを見ると少しだけ心配になる。
だ、大丈夫ですよね?ちゃんと場の空気を収めてくれるんですよね?
ついでに気づけば美亜も居なくなっていたので、私と椿はキョロキョロと目で周りを探してしまう。そこへカナがこっそり耳打ちをしてきた。
「椿ちゃん、綾さん。白狐さん達の言葉に甘えて、ここは部屋に行きましょう。美亜ちゃんなら"毎晩の日課をしてくる"って、さっきそう言って出てきた行ったから大丈夫よ」
結構私達の心配は顔に出やすいんだろうか、カナからそんな話をされた時にふと思う。
きっと美亜も私達に負けないよう、こうして努力している事を考えると「やっぱり何だかんだで憎めない奴だな」と少し笑みが零れそうになった。
「あっ、待って。その前にこれって、お泊まりだよね?雪ちゃんはともかく、カナちゃんはお父さんやお母さんに連絡しなくて良いの?」
長時間正座していた事から痺れている足で、何とか立ち上がりながら椿がカナへ質問した。
私も胡座をかいたり等、足が痺れないようにしていたつもりだったのだが、やはり椿と同じく痺れてしまって立ち上がる際に少し前のめりに転んでしまいかけた。
「あぁ、えっと・・・私、母親とは一緒に暮らしてないから」
「えっ?でも、お父さんは?」
「ん・・・とっくに亡くなっているよ」
シン、と一瞬私達とカナの間に沈黙が挟まる。すぐに私と椿は軽率な事を質問したのを謝った。
「あー・・・その、聞いたらいけない事を聞いて悪かったカナ」
「カナちゃん・・・えっと、ごめんなさい」
「良いの良いの2人とも、あんまり気にしていないんだから」
そんな申し訳なさそうな私達に対して、カナは両手を胸元で振って大丈夫だとジェスチャーする。
彼女の家庭には一体何が・・・と不安に思っていると、突然ふくらはぎにくすぐったい感覚が走って私達はつい声を上げてしまう。
「ひゃんっ!?ゆ、雪!?いきなり足は・・・ひょぉっ!」
「あっ、待って・・・!雪ちゃん、足つつかないで!今はダメェ・・・!」
無言で私達の足をつんつんしてくる雪のおかげか、先程まで作り笑い気味だったカナの表情は穏やかな笑みを浮かべていた。まさか雪はカナを元気づけようとして、いきなりこんな事を――
「つんつんつん・・・」
「だはぁっ!だから雪、その辺りをつつくのは止めろってぇ・・・!」
「ゆ、雪ちゃん・・・一体、何時までやるつもりなんですか!?うぅ・・・!」
前言撤回。雪が夢中でつついている様子からして、単に悶える私達の反応が楽しいだけだったらしい。