私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――自室にて
私達は風呂を済ませてからパジャマに着替え、川の字に並べられた布団に入ってのんびりと雑談していた。
それにしても、こうして椿に好感を持ってくれる人物が居てくれるというのは、人見知りしやすくて臆病な彼女を心配していた私としては嬉しい事だ。亜里砂のように自身の目的の為だけに近づいてくる奴がいたのは少し残念であったが、それでも椿にベッタリなカナや雪の事に強い不信感を抱かずにまだ信用出来ている辺り、大概私もお人好しなんだなと思ってしまう。
「――それにしても、雪は戦闘能力が無かったじゃない〜」
「うっ・・・そ、そんな事ない。敵の周りの空気から熱エネルギーを冷やして、綾を捕まえた時みたく手足を凍らせたり出来るんだから」
「それでも、ある程度は敵に近づかなきゃ駄目だし、それだって運動神経が無ければ無理でしょ?そして、雪は運動が出来ない・・・良い?今後も、椿ちゃんと綾さんのサポートは私がするからね」
「くっ・・・」
「おいおい、2人とも椿の前でそんな喧嘩みたいな事しないでよ。椿にとっては、両方とも大事な友達なんだしさ」
「「もう、綾(さん)ったら!」」
私が宥めようとした言葉に、カナと雪の2人は赤面しながら私に苦笑いを向ける。やはり此処は友人の手前、皆喧嘩せずに仲良くしてもらいたい所だ。
「ねぇ、3人とも。何の話?」
椿が私と2人にキョトンとした顔を向けてくる。
「いんや、何も?」
「ん?あぁ、何でもないよ椿ちゃん。こっちの話だから」
「何でも無い。椿は気にしないで」
「3人とも怪しいなぁ・・・気になるんですけど?」
それに私達3人は椿を困らせる訳にはいかないと皆で適当に誤魔化すが、うっかり3人ほぼ同時で反応してしまったので逆に椿に怪しまれる結果となってしまった。
まぁ、よくよく椿の位置を考えてみれば私が椿の左側で寝ていて、2人がそれぞれ椿と私を挟む形で寝ているのだからバレバレなのも仕方ないけれども。
すると、椿が突然何やら違和感のある様子で自身の胸を触りだした。
「ねぇ、椿・・・自分の胸を触りだしたりして、どうしたの?ひょっとして・・・大きくなってるとか?」
「いや・・・あれ?綾ちゃんの言う通り、ちょっと大きくなってるのかな?なんだか、擦れて痛いんだよ。やっぱり、もう着けないと駄目なのかも・・・う〜ん」
「マジでか・・・って、そこの2人!なんかニヤニヤしないの!」
まさか椿の胸が大きくなっているなんて・・・私なんか未だにぺったんこだぞ、ぺったんこ。
風呂場や着替えの時こそ胸のサイズの話には敏感な私だが、やはり親友の真摯な悩みという事もあって今回は真面目に聞いている。
「そうねぇ〜それじゃあ、明日一緒に買いに行こっか!椿ちゃんが女の子になってからの――初ブラをね!」
「うぇぇ・・・やっぱりですか」
心底嫌そうな顔をする椿に私とカナは安心して欲しいと太鼓判を押す。
「まぁ、そうなるよな普通。私もそろそろ自分用のを買わないと、って思ってたし今回は付き合うよ」
「今回"も"でしょ、綾さん?それに、もう椿ちゃんは女の子なんだし、そうやって生きていくって決めたんでしょ?それだったら何も迷う必要ないわよ、私達に任せて!」
確かに、自身の胸の貧相さからマトモにブラを買った事の無い私だけよりも、カナや雪が居てくれた方が――
「・・・ん?ちょっと待った。なぁカナ、椿から頑張って女の子になる宣言なんて、あんたは何時聞いたんだ?」
「へっ・・・?あっ」
「馬鹿・・・」
「おいミスカナおい、"あっ"って何だ"あっ"って。なんか凄く嫌な予感がするんだけど?」
私がその違和感についてツッコむと、カナが「やべぇバレた」みたいな顔で目を丸くして、雪がそんなカナを呆れた様子で見ていた。
そこへ更に椿が問い詰める。
「ねぇ・・・何で知ってるの?それに、僕達に初めて会った時も凄くフレンドリーだったよね。嬉しいんだけど、逆に"何でそんなに僕を?"って思っちゃうんですよ。ねぇ、カナちゃん・・・何か隠してる?」
「言われてみれば、その通りだね。変な事考えたりしてたら、幾らカナでも私は怒るからね」
「う、うぅ・・・いや、その」
「香苗、諦めて。もう詰んでるから」
雪にため息をつかれて、ようやく観念した様子のカナは布団に入ったままスクール鞄を手元に引き寄せて、その中から本のようなものを取り出した。
「ごめんなさい、悪気はなかったの。ただ、それだけあなた達に惹かれてて・・・」
「何これ?パンフレットみたいだけ――」
「どうしたの椿?そんな黙りこ・・・ん、で・・・」
カナから渡された物を見た瞬間に、私と椿はそれの予想外の衝撃に声を失ってしまった。
『"絶世の男の娘"椿ちゃんと"男前系イケ女子"綾ちゃんを守る会!』
「「・・・」」
パンフレットの表紙には一体いつ撮られていたのだろうか、椿や私のにこやかな表情が大きく印刷されており、表紙の右下辺りには"毎週火曜日発行"とまで書かれていた。
・・・え?え?待て待て、なんなんだこれは?
「カナ、これは一体――」
「あっ、それで今は椿ちゃんは女の子でしょ?だから、今はこっち」
『"絶世のボーイッシュ美少女"椿ちゃんと"屈指の不良系イケメン女子"綾ちゃんと仲良くなる会』
「「れ、レベルアップしてる〜!?」」
私と椿は更に手渡された冊子を見て、つい驚きの叫びをあげてしまった。それと同時にその冊子の事から察して、何故雪が一度は私達を避けたのかについてと、今さっきの不自然な会話の謎についてようやく合点がいった。
・・・"冊子"と"察し"は掛けてないですよ〜一応。
「2人とも、これの会員なんですね・・・」
「要はこれファンクラブ、っていった所なのかな・・・」
すると困惑する私達に、雪が更に更に驚くような話をし始める。
「私は椿が女の子になってから、その会に入った。だから会員ナンバーも三桁。でも、香苗は違う」
「なんだって?椿が男だった時の冊子を持ってるって事は、まさかカナは二桁ナンバーだったりするっていうのか?」
椿(男)のファンクラブの冊子をめくりながら、私達は最後に書かれている会員メンバーの数を見てため息をつく。結構前の物とはいえ、これでも十人くらいメンバーが居るとは全く恐れ入る。
書かれている情報についても椿や私の隠し撮りされた写真はまだしも、一体何処から知ったのやらそれぞれの好きな食べ物とか趣味といったものまでもが書かれている。
そして、椿が女になった後の冊子の会員メンバーの名前を見ていくと、よりビックリするような2人の名前があった。
「え、ちょっと待ておい・・・これってまさか!」
「あのさ、こっちの会員誌・・・新たに出来た名誉会員の所に白狐さんと黒狐さん、それに綾ちゃんのオジサンがいるんですけど?」
「どうりで詳しく情報が書いてある訳だよ〜!っていうかオジサン、私が知らない所で何やってんのホント!?おっと、カナの名前も見つけたな。会員ナンバー1で"創設者"ねぇ・・・って、これカナが作ったファンクラブだったのかよ!!」
やだもうこの子・・・嫌いだとかそういう感じは無いけれど、ここまでとんでもない真似が出来る子だったなんて思ってもみなかったよ!
「カナ〜?これはどういう事なのかな・・・?」
「カナちゃん・・・あの・・・」
「ご、ごめん椿ちゃんも綾さんも!勝手にこんなの作っちゃって・・・」
カナが非常に申し訳なさそうな顔をして謝ってくる。別に怒っているのではない私達はその様子を見て、慌てて彼女を慰めつつ理由を問いただした。
「お、落ち着けってカナ。そこまで私達は怒ってないし、単純にビックリしただけだからさ」
「そうだよ、僕達は大丈夫だからカナちゃん。でもさ、カナちゃんって僕が"翼"だった時にこのファンクラブを作ったんだよね?割と喧嘩で有名だった綾ちゃんはとにかく、僕は今の僕になってからなら分かるけれど、この頃の僕ってクラスの皆にいじめられてて凄く暗かったよね?」
「そういえば、そんなのでも有名だったっけか私・・・嫌な意味で懐かしいなぁ」
「えっ、いや・・・それは、その・・・」
言われてみれば確かに、あの時妖魔に学校の皆が操られていたというのならばカナだって操られていてもおかしくはなかったはずだ。
それが気になった椿の質問でカナは更に顔を真っ赤にして俯いてしまい、恥ずかしげに私達を見てきた。
「あの、2人とも・・・ひ、引かない?」
「もう既にドン引きしてる気もするけど、とりあえず話は聞くよ」
「僕も寧ろ言ってくれないと、カナちゃんを信じられなくなっちゃいそうです」
するとずっと私達を見つめていたカナは「それだけは勘弁して!」と言いたげな表情になって、どうして彼女が操られなかったのかを洗いざらい話してくれた。
その理由は割と簡単なもので、あの時にカナはクラスの人と距離を取っていた為に「電磁鬼」の人を操るチェーンメール的な手段に引っかからなかったそうだ。
そんな話を聞いて、思いっきりガッチリ見ても何ら椿に悪い感情を抱いたりしなかった私はやっぱり変わっているという事なのだろうか。人間には無い妖気を感知出来たり、それを使って小次郎を呼び出したり出来るし。
「じゃあ、あの時はなんで椿に見て見ぬフリなんかしていたんだ?」
「えっと、あのね・・・私、椿ちゃんが"翼くん"だった頃から、あの子の事が好きなの」
「「えっ!?」」
カナからの意外過ぎる返答に私と椿まで顔を赤くしてしまう。ついでによくよく考えてみれば、"好きだった"ではなく"好き"と言っているので現在進行形な可能性だってある訳で・・・
待て待て待て待て、一旦落ち着け私。
私だって椿の事は好きだ。
でも、それはあくまで"友達としての好き"であって断じて"愛する意味での好き"って訳では・・・あの時のキスだって、親愛の意味を込めてのものだし・・・むむむ。
それでも、なんかカナの潔さが羨ましい。
「綾さんみたく、いじめられていたのを止めなかったのは悪いと思っているよ・・・でも、それ以上に――」
すると、その途端に如何にも反省してます的な顔をしていたカナの表情は崩れていって、二へ〜といった自身の欲望を隠しきれない笑みが姿を表してきた。
「それ以上に、弱々しくて可愛い子が私は好きなの。綾さんみたいにどんな時でも親友の為に身体を張って守ってくれるって人もまぁまぁ好きなんだけどね、それでも椿ちゃんみたいな子が味方の居ない状態で泣きながら「助けて」とすがってくるのが堪らなく好きなの。そうやって味方は私だけだと思わせて、依存する程に慕ってくれる。そんな状態にするのが、私は好きなんだ〜」
「うわぁ、これはひどい」
「お〜い、カナちゃ〜ん・・・」
完全に自分の世界に入ってしまってるのか、カナは私達の声も聞こえてない様子でウットリとした目付きで話を続ける。
「だからね、いじめられている状態でも、そうすぐには助けずにタイミングを見て友達になって心の支えのような存在になってあげるの。そうしたら、最初は警戒しながらもちょっとずつ心を開いていって、そして、そして――ひゃ〜!」
「あのー、カナさん?こっちの声、聞こえてます〜?」
私が呼びかけてみてもカナは未だに妄想にふけっているようで、頬に両手を当てて"恋する乙女"みたくクネクネと身体をよじらせていた。
なんというか、カナは悪い奴では無かったけど危ない奴だというのは分かった。
「そのうち綾さんと同じくらいに親友になって〜そこから一緒に遊ぶ仲にもなって、悩みを聞いてあげたりしてからイジメを解決してあげる・・・そうしたら、更に私に惹かれていって〜夏休みまでに、お泊まりするような仲にまで持っていって、そして夏休みに、初めて――」
「言わせねぇよ!?」
「カナちゃん!しっかりしてください!!」
「はい!?あ、あれ?あっ・・・」
私の全力ツッコミと椿の本気の呼びかけで、ようやくカナは現実に戻ってきたようだ。
それにしても考えていた事が次から次へと漏れだしていた事で、恥ずかしさのあまりにマッハのスピードが出てるんじゃないかと思う速さで布団へダイブするとは余程私達にはバレたくなかったらしい。
「ご、ごめんなさい!だって椿ちゃんは私の好みなの。庇護欲をそそるようなあなたが、本当に大好きなの。も、もちろん今でもね!」
「お、おう・・・分かった、分かったからカナ。椿が好きなのはよーく分かったよ、うん」
布団から顔だけを出して椿や私の顔色を伺いつつ、それでも恥ずかしさを我慢して自分を曲げないカナに私は苦笑いをする。
「ひ、引いた?やっぱり、引くよね?」
「し、正直ビックリの方が色々と強いけどね・・・」
「ん〜・・・白狐さんと黒狐さんのお陰かな?綾ちゃんと比べると、そういうのには耐性がついたから全然引いてないよ」
椿がカナを宥めようとフォローするも、彼女はそこまで椿にバレた事が恥ずかしかったのか頑なに布団から出てこようとしない。
「それじゃあ、これなら引いてないって信じてくれる?」
「えっ、ちょっと・・・つば、き?」
すると椿がそう言ってカナの所まで体をずらしていき、軽く彼女の頬にキスをしたのだ。
椿がカナの事をどれだけ大切に想っているのか、それは確かに伝わっただろうが・・・前科がある私は自身がやった時と似たやり方をした椿に、ついつい顔を赤らめてしまう。
「つ、椿ちゃん?」
カナは小さく呟き、椿へ見つめるようにして目を見開いている。しかし、それから段々とカナの目がトロ〜ンとしていく。
「椿ちゃん!大好き!!綾さんも引いちゃったけど、それでも嫌わないでくれてありがとう!!」
「はぅぁっ!?」
「あぐりばっ!」
喜んでくれるのは良いが、突然カナが椿に抱きついた事で、仰け反るようにグリンとした椿の後頭部へ顔面を強打してしまった。
めっちゃ痛いんですけどぉ!
ついでといわんばかりに、雪も後ろから私達を抱きしめてくるし。
「香苗ばっかりズルい。私にも」
「ちょっと待ってよ!カナちゃんも雪ちゃんも、少し冷静になって〜!」
「駄目よ雪、あなたはまだ知り合いレベル。綾さんの幼馴染レベルに並んで、私は恋人レベル間近なのよ!」
「あっ、そうだカナ。ところで私も、椿のファンクラブってのに興味があるんだけど・・・」
「だから、ちょっと冷静になってってば2人とも!それに綾ちゃんも、なんで僕のファンクラブにここぞとばかりに入ろうとしてるの!?」
「えっ?」
いや、だって・・・ねぇ?そりゃあ、カナや雪に狐2人よりも私の方が椿とは付き合い長い訳だからね?そういう椿のファンクラブでどういう事をしているのか等、色々気になるんですよ〜!
これでも絶対に、椿の一番の親友ポジという所は譲らないつもりですわよ私?