私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
なんやかんやあったとはいえ、美味しく朝ごはんを済ませられた私達は壁時計を見てある事を思い出した。
「嘘、もうこんな時間なの!?のんびりし過ぎた!」
「あっ、しまった学校!行かなきゃ・・・」
椿の声が徐々に弱々しくなっていったのを聞いて、「電磁鬼」を退治する前までの日常が脳裏に浮かぶ。そうだ、椿は今まで沢山の人からいじめられてきたんだ。そんな時に今更学校になんて、行きたくなくなるのが普通のハズだ。
「行かなきゃって言ってもさ、今からじゃ間に合うのかな・・・。遅刻するぐらいだったら――」
「それなら問題無い。空を飛ぶ妖怪に連れて行ってもらえばよい」
マジでそんな便利な妖怪が居るの!?なんというか、これも漫画の中だけの話だとばかり感じていたよ。そう思うと、なんだか乗りたくてワクワクしてきた。
「ほれ、まずは制服に着替えてこい。お前さん達が寝とった場所に置いてある」
「あっ、ありがとうございます!」
「う、うん。分かった」
『手伝ってやろうかの?』
「白狐さんは来ないの。着替えくらい、椿だって1人で出来るんだから!」
サラッと自然について来ようとしないの!もし椿にいやらしい事でもしようとしたら絶対に許さないんだから。
『クク・・・白狐よ、あんまり優しくし過ぎても自立出来んぞ。厳しく躾て、後々亭主を立てる良い嫁にするんじゃ!』
『黒狐よ、分かっとらんな!優しさの中に厳しさ有りじゃ。厳し過ぎたら駄目になるぞ!むしろ椿のあの可愛さは、愛玩にしても良かろうて!』
「はいはい、2人とも他所でやってよね〜」
いがみあう2人を襖から追い出して、私は椿の手を握って先程まで眠っていた部屋へと急いだ。
━━━━━━━━━━━━━━━
私と椿は慌てながら皆の居る部屋に「ある理由」で文句をつけるべく駆け込んだ。
「これはどういう事なの、おじいちゃん!?これ女子の制服なんだけど!」
「いくら何でも用意が良いな〜って思ったら、どうしてこんな事になるんです!?」
『『!!??』』
部屋に入ってきた途端に白狐さんと黒狐さんがまた鼻血を噴き出したけど、それもあながちおかしくはないだろうね!だって――
椿がセーラー服を着てるんだから!!
いや何の疑問も持たずに着替えを止めなかった私にも責任はあるかもしれないけれど!
「あ、椿ちゃん。ちゃんとブラも付けないと」
「さ、里子ちゃん、そうじゃなくって!僕は男の子なんだからさ、この格好自体がダメなの・・・」
「そもそも椿はブラ付けてなかったの!?」
「そんな可愛くモジモジされても、説得力ないですよ〜椿ちゃん」
モジモジっていうか、完全に羞恥心からだろうけどね。椿が可愛いのには同意しておくよ、里子。
「おじいちゃん、男子の制服はどこ!?」
「何を言うとるんじゃ椿よ。お前はもう女子だろうが」
そんなキョトンとした様子をされても、人ってのはそんな簡単には割り切れないんですよ天狗さん!あ〜もう、こんな事になるって分かってたなら翼だった時の服を幾つか持ってきておくべきだったよ〜・・・
「も、元々が女の子で、今の姿が本当の姿だったとしても!僕はなんだか、それがすごく嫌なんだよ・・・男の子なんだよ、僕は?」
「う〜む、やはりまだ無理か・・・」
「無理もウリも無いです」
「椿よ。そうは言っても、学校にはもう連絡しとるんじゃ」
「へっ?な、何を・・・?」
ものすごく嫌な予感、というかほぼほぼ確定してような答えしか思い浮かばない質問をする椿。
「女子になったという事じゃ。いや、元々女子だったと言っておる」
「よく通ったね、それ!?」
むしろ納得した学校側にビックリだよ!
ほら、勝手に色々余計な事をするから椿がポロポロと泣き始めちゃったでしょ〜・・・
「いたっ!?」
「椿?」
すると突然椿が頭を抱えた。また謎の頭痛かと心配して彼女の肩に触れると、今度は私の頭の中に声のようなものが流れ込んできた。
【そいつを我が嫁にする】
【駄目です!!止めてください!この子は、〇〇の元に嫁ぐ事になっているのです!】
【お願いします!どうか、それだけは!】
『・・・い!おい、椿!』
「はっ!?あっ・・・」
白狐さんの声が聞こえ、私は椿と同時に我に返った。
今の声は一体誰?まるで誰かが此方に何かをしようとしていたような・・・そんな嫌な記憶の感覚。
「やはり妖狐に戻った事で、記憶の封の一部が外れたのかの?それで椿と同じくらいに感知能力の高い綾にも影響が・・・」
「う、うぅぅぅ・・・」
それは椿も同じ、いやそれ以上だろう。泣きそうになる椿の頭を白狐さんが優しく撫でる。いつもこれくらい気が利いてくれれば、私も少しは安心出来るのにね。
『おぉ、よしよし椿よ。泣くでない、我らがついとるから安心せい』
『・・・白狐よ、やはり変われ。』
『嫌じゃ』
「またそうやって2人は〜」
「・・・」
『うぉっ!?つ、椿?』
すると、椿は無言のまま白狐さんに抱きついた状態で黒狐さんにも抱きついた。
「椿よ。元に戻ったものはしょうがないのでな。理不尽ではあろうが、男に戻ることはもう出来んじゃろ。強力な妖術で男子にされておったようじゃからな。一生に一度しか効かない、強力な妖術をな」
そんな中、鞍馬の天狗は更なる衝撃的な事実を告げる。
もし、それが本当だったとしたのなら――椿が翼として生まれ生きてきた記憶、それ自体も妖術で改竄されているという事なんだろうか。
「そもそもじゃな椿、封じられとるその記憶は――60年以上も前の記憶だ」
「なんだって?60年・・・?」
「えっ!?待って、ど、どういう事?」
え、つまり椿は私よりも随分歳上なの?そりゃ本人だってキョドって混乱するに決まってるよ〜!
「まぁ落ち着け。こんな事になるとは、儂も思ってはいなかったのだ。そもそもこの60年間は、男の姿となった妖狐として此処で過ごしていたのじゃよ。勿論、記憶は封じられておったから自分の事は分かっとらんかった。じゃが事態が急変してな、此処で過ごしていた記憶を消して貰い、そして人間の男子として中学校に通わせたんじゃ」
「・・・おじいちゃん。それなら僕は、此処に居たら危ないんじゃ・・・?それに、急に言われても信じられないよ、そんな事。僕がもう、60年も生きてるなんて・・・」
「椿・・・」
私には現実を受け止める事が出来ず、泣きそうになっている椿へかける言葉が無かった。
「お前さん、考えや言葉の端々が大人っぽい時があるとは思わんか?どうやら身に付いた物に関しては、完全に消去出来んらしいからな」
それでも鞍馬の天狗は首を振りながら、諦めろとでも言いたげに真実を告げる。
「・・・そうそう、此処で過ごすのが危険ではないかという事だが。お前さんを人間として中学校に通わせるようにしてから、その危険性が無くなったわい。――しかし、何時また危険になるかは判らん。用心はするに越した事はないな」
なんで危険なのか、そういった事は結局教えてもらえないまま、鞍馬の天狗は椿を少しでも安心させる為に頭を撫でた。
「とにかく、白狐と黒狐が勝手な事をしおったからな。もう男に戻れんのだけは確実じゃ」
そう言ってチラと白狐さんと黒狐さんの方へ視線を向けた。2人とも心做しか落ち込んでいるように見えるから、あまり過ぎてしまった事で責めないであげて欲しいと思うよ。・・・彼らなりに反省もしてるだろうし。
「分かったよ、おじいちゃん。もう、戻れないならしょうがないよね・・・。だけど僕が60年以上も生きていたという事は、実感が湧かないから受け入れるのは難しいよ」
椿が決心したように袖で顔を拭い、真っ直ぐ頭を上げた。こうして椿が強くなっていく姿を見るのは彼女を心配してきた私にとっては嬉しいハズなのに、どうしてだろう。
・・・私だけが取り残されたように、何処か寂しく感じてしまう。
━━━━━━━━━━━━━━━
「準備は出来たか、椿よ?」
「あっ、うん。おじいちゃん。それに綾ちゃんも心配させてごめんね」
「いいのいいの!そんな教科書が出来上がりそうなくらいに隠された過去なんて、私からしたら頭が破裂するんじゃないかと思うだけだもん」
椿と共に玄関へ向かう。私達を連れて行ってくれるという妖怪はきっと一反木綿に違いない。むしろ知ってる空飛ぶ妖怪なんて、それ以外に思い浮かばない。
「よし、来てくれ『浮遊丸』よ」
「えっ?一反木綿じゃないの?」
「まさか存在しない妖怪って事は・・・」
すると鞍馬の天狗の顔が気まずそうに曇る。
「うす!じ、自分を呼びましたか?」
「・・・え?」
「わぁ!?」
えっと、その・・・何でしょうコレは。
振り返って見てみると、太くてバタバタした感じの・・・例えるならバスタオルを酷く伸ばしたような見た目の何かが出てきたんだけど。
「いや実はの、この一反木綿の木綿を交換する職人達が歳で次々引退しての。交換するのに莫大な費用と時間がかかるようになってしまったのじゃ。その間にあまり動けなかった一反木綿が食っちゃ寝した事により、この様な姿になってしまっての・・・」
「つまりはメタボリックシンドローム、肥満ですね分かります」
なんてこった、不況の波はこんな形で妖怪達にまで影響が出てたなんて!私の輝いていた頃の少女時代の夢を返せ〜!
「こんなのでは飛べんのでな、そこで此奴の出番じゃ!」
「おぅ!宜しゅうな!」
「えっ?これって・・・」
私と椿が呆然と立ち尽くしていると、今度は玄関前から軽い挨拶をしてくる、巨大化させたドローンにブヨブヨした感じの肉を纏わりつかせたような妖怪が姿を現した。ただでさえ見た目がちょっと乗りづらいというのに、更に追い討ちをかけたのは――
「ど、ドローンみたいだけど・・・」
「「め、目玉がたくさんついてる〜!」」
やだもうこの世界。私の想像がつかないくらい気持ち悪い妖怪が次から次へ出てくる・・・