私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第参拾肆話 王子様とは呼ばないで

 

閃空が10個のヨーヨーを全て展開してきたのを待っていた私達は作戦通りにそれぞれバラバラに全力疾走を始める。

 

椿はジグザグに走り回り、美亜は2階と3階を様々な動きで行き交い、小次郎1号2号はグルグルと相手のヨーヨーが当たりそうで当たらないギリギリの位置を飛ぶ。私もモールの通路に置かれているソファや店の棚を閃空へ投げたり蹴ったりして飛ばしながら、ヨーヨーを避ける事にも集中する。

 

「この、コイツらぁ!!いいから当たれよ!街を、人を滅ぼそうとする害悪だろ!!」

 

「まーだそんな事言ってやがんのか、アイツは・・・」

 

そもそも椿達の様子を見れば悪そうな気配など1ミリも感じないと思うのが普通なのだが。それに椿達妖怪だって、人間の世界に行く時はなるべく目立たないようにと努力までしてくれているというのに・・・こういう人間は話すらロクに聞いてくれないから本当に大嫌いだ。

 

そんな事を思いながら、私達は各々の妖術などを使って相手の注意を散漫させていく。向こうがこちらを追う事にだけ集中していれば、いずれコントロールしているヨーヨーが上手く動かせなくなっていくという寸法だ。

 

回避し続けながら椿が閃空へ尋ねる。

 

「あのさ・・・1つ聞きたいんだけど、君達の目的って妖怪退治をして人を守る事なの?」

 

「当たり前だ!!」

 

「でもさっき、その一般の人を傷つけたよね?」

 

「なっ、ぐ・・・だ、黙れ!」

 

閃空は自分のやっている事と周囲に及ぼしている被害について完全に矛盾しているのが分かっていない。そのせいか椿に指摘された事で話し方にも余裕が無くなり、強い憎しみを込めた眼差しを向けてきた。

 

・・・先程の発言も合わせて考えると、恐らくは過去に滅ぼされた街の生存者だったりするのだろう。しかし、もし本当にそんな事があれば災害やら何やらといった形でニュースになるはずなのに、私達と同い年くらいの人間で報道等でそういったものに巻き込まれたという話は聞いた事すらない。

 

そこで私は疑問に思い、椿に続いて質問を投げかける。

 

「なぁ、その街が滅ぼされたってのは一体"何時の話"の事なんだよ?」

 

「あっ!?そんなの・・・そ、そんなの――あれ?」

 

すると閃空はヨーヨーを操る手が止まり、突如として頭を抱え込んで悩みだしてしまう。勢いよく飛ばされていたヨーヨー達はそれによってスピードを失っていき、ついには他のヨーヨーともぶつかったりして紐が絡まって地面へと転がっていった。

 

その様子は、まるで昔の事を思い出せなかった事を今になって気がついたかのようだった。

 

「しまった・・・ちくしょう!何時あったかなんて、そんなのは覚えてないが・・・とにかくあったんだよ!」

 

「やっぱり・・・君も滅幻宗に?でもね、それでもやったらいけない事はあるんだよ」

 

椿はそう言って閃空に向かって歩いていく。

ヨーヨーの殆どが絡まって使えなくなっているとはいえ、それでも奴はまだ何とか使えそうなヨーヨーを残していそうだ。

 

彼女に私も着いていこうとした瞬間に今度は美亜と小次郎2号が上から再び突撃して、先程引っ掻いたのとは別な手の方へ同じように爪でクロスアタックを仕掛けていく。

 

「うぐっ!?くっそ・・・」

 

その攻撃によって閃空は更に手に持っていたヨーヨーを取り落とし、たった1個の状態で私達に投げつけようとする。だが、美亜と小次郎に引っ掻かれたせいかヨーヨーはまともに飛ぶ事なく地面へテンテンと転がっただけに終わった。

 

「終わりだ、閃空。無駄な抵抗は止めて、いい加減諦めろ」

 

「とにかく、君は君のした事に対して償いをするべきだよ。だから・・・大人しく捕まって」

 

私達は完全に戦闘能力を失った閃空を捕まえるべく、相手が何かする前に走りだした。

 

しかし、閃空が取った行動は意外なもので残していたポーチのヨーヨーを上に放って、なんと吹き抜けの板に引っ掛けてそのまま上の階へ飛び上がったのだ。

 

「う、嘘・・・」

 

「まさか逃げに使うなんて!」

 

これには私も椿も驚きで開いた口が塞がらない。

だが、美亜と小次郎1号2号はヨーヨーに引かれて登っていこうとする閃空に対して逃走を妨害しようと試みる。

 

「残念、そんな事させないわよ!」

 

「「逃がさんぞ!」」

 

「馬〜鹿!それは読んでいたよ!!」

 

すると閃空は私達に向かって投げた方のヨーヨーにチラと視線を向けた。私達がその視線に気づいた時には、そのヨーヨーは逆回転を始めて動こうとしている。

 

「しまった、美亜ちゃん!さっきのヨーヨーにバックスピンをかけられてた!気を付けて、そっちに飛んでいくよ!」

 

椿が慌てて美亜へ叫ぶが、その途端にヨーヨーが激しく地面を跳ねて私達の間を掠めて閃空の元へと戻っていく。

そして奴は戻ってきたヨーヨーの回転を止める事なく手首で方向を変えて美亜へぶつけようとしてきた。

 

「くらえよ、化け猫――なっ!?」

 

だが、閃空は攻撃の瞬間に意外そうな顔をした。

 

なんとヨーヨーの軌道が逸れて美亜から外れたそれは、私と椿のいる位置付近の柱の陰へと吸い込まれていったのだ。

 

そして、その柱の陰から現れたのもまた意外な人物であった。

 

「これで終わりです!私の"剥奪の妖術"で、あなたからこのヨーヨーの"操作権限"を奪わせてもらいました!」

 

「あっ!君は美亜ちゃんの妹の――美弥子ちゃん!!」

 

「くっそ〜!それ返せよ・・・うぐっ!?」

 

パーカーのフードを脱いで顔を見せた美弥子に閃空が叫ぼうとすると、今度は奴が苦悶の表情で呻いた。

 

突然起こった敵の異変に困惑していると、美亜が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「ふふふふ・・・その手が痛むのね。ほら、頑張らないと3階にも辿り着けないわよ〜」

 

「いっ・・・つ。く、くそ、何だこの手は!お、お前・・・その爪に毒でも仕掛けたのか!?」

 

閃空の言葉を聞いて奴の手を見てみると、驚く事に閃空の手は真っ赤に酷く腫れ上がっていて、見ているだけでも痛そうな姿となっていた。

 

「ふっ、毒でも何でもないわ!猫に引っ掻かれると時にそうなる場合があるって事よ!聞いた事は無いかしら?猫引っ掻き病って」

 

「「ほぅ・・・中々やるな、黒猫の娘よ!」」

 

「えぇ・・・は、初めて聞いたわ〜そんな話」

 

「ま、まぁ医療の発達した最近ではあまり聞かないでしょうしね・・・」

 

なんというか、聞いたら聞いたで微妙に感じてきた。実の姉である美亜があんな自慢げな為、美弥子もかなり気まずそうに苦笑いをしているし。

 

しかし意外にも閃空へのダメージは大きかったらしく、何とかしようとしていても手に力が入っていないようで上に引っ掛けたヨーヨーすら回収出来ずに最終的には紐が手から外れて落ちた。

 

「ちっ・・・くしょ!」

 

相手を完全に捕まえられるようにするなら、今がチャンスで間違いない!

 

私は椿と顔を見合わせ互いに頷いてから、身体の力を解放して閃空の元へジャンプする。

ショッピングモールの柱や壁を蹴って奴の上へ飛んだ椿は白狐さんの力から黒狐さんの力に切り替えて身体の色を変え、私も小次郎が空中で踏み台になった事で更に高く飛び上がった。

 

「なっ・・・何を!?」

 

「僕の友達にした事・・・そして、一般の人を傷つけた罪。滅幻宗がやってきた事に比べたら、これでも全然足りないけれど――自分の未熟さを、しっかりと噛み締めるんだ!」

 

「その頭――地面に擦り付けて冷やしやがれ!!」

 

椿が空中で前転するようにして尻尾をハンマー状へ変えながら妖術を叫ぶ。

私は彼女がそれを閃空へ叩きつけるのに合わせて右足に妖気が集まっていくのを感じると同時に自由落下しながら、ふと頭へ浮かんだ妖術の名前を叫んだ。

 

「――妖異顕現、黒槌土壊(こくついどかい)!!」

 

「――妖異顕現、稲妻雷霆蹴(いなずまらいていしゅう)!!」

 

「がはぁっ・・・!」

 

私達の妖術によるハンマーと蹴りのトドメが閃空に炸裂し、奴は吹き抜けの穴を真っ直ぐに勢いよく落ちて床面へめり込む形で墜落する。

 

「ぁぁああっ――っ!?」

 

ドガァァアン!!と、かなりヤバそうな衝撃音が空中にいる私達の耳にも聞こえてきたが、以前に玄空が"滅幻宗は妖怪との戦いに耐えられるよう特殊な訓練をしている"と言っていたような気がするので多分死んではいないはずだろう・・・多分。

まぁ、悪けりゃ再起不能で、良くても全治1週間コースだろうか。

 

そんな事を思っていると、下から美亜が声をかけてきた。

 

「椿〜綾〜着地の事も考えてる?」

 

「あ、やっべ何にも考えてなかった」

 

「えっ?あ〜!しまった!お、落ちる〜!」

 

「綾さん!椿さん!」

 

ヒュ〜と落ちていく中で、狐姿のままな椿が空中でジタバタと藻掻いた。

私も一瞬慌てたが、このままでは椿が地面に激突してしまうと判断してすぐに小次郎1号へ彼女の背中を掴むように指示する。

 

「ぐはっ!?」

 

「ぉぉ重っ!ま、全く主殿は私の扱い方が雑だな〜・・・」

 

なんとか椿を足でワッシと掴まえた小次郎がゆっくりと吹き抜けを降りてくる。私は一足先に小次郎2号の足へ掴まる形で1階へ降り立ってから、続けて降りてきた小次郎から椿を抱きとめるようにキャッチした。

 

「ご、ごめん綾ちゃん〜・・・」

 

「いいのいいの。主に小次郎が身体張ったようなもんだし、私は椿に怪我さえ無けりゃそれで十分なんだからさ」

 

「「す、少しは気遣って欲しいがな、主殿・・・」」

 

地面に着地しながら元の姿に戻った小次郎が肩で息をしながら私へ首を横に振った。そこへ美亜も現れてお姫様抱っこのように椿を抱えている私を茶化した。

 

「な〜んか、こうして見ていると王子様とお姫様みたいよね〜あんた達。・・・それはそうと、急いでアイツを拘束するわよ!」

 

「ちょっ――待って、美亜ちゃん!」

 

「なっ!誰が王子様だって〜!?」

 

折角閃空を見事に倒せたというのに、着地して早々場違いな事を言われるなんて・・・とにかく、ここ最近は同級生の女子からもイケメンモデル的な目で見られているんだから王子様とは呼ばないで!割と結構気にしてるんだから!

 

「ふふ・・・王子様かぁ。私も椿さんみたく、綾さんにああして抱きとめられたいなぁ・・・」

 

・・・美弥子ちゃんもコソッと小声で何をイッテルンデスカネ?

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

――3階から椿達の居る吹き抜け近くにて

 

「やっぱり負けたか。ま、幾ら"本人に近い"とはいえ、性格までそっくりそのままなんだもんなぁ・・・でも、これで向こうが力を付けてきてるのは判ったし、早い所何か対処考えとかないとな・・・」

 

そう言って上から少し椿達を見下ろし、何らかの方法で姿かたちや妖気すら隠していた何者かは姿を消した。

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