私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
それから私は椿を降ろしてすぐに美亜の後を追いかけて閃空の落ちた場所まで向かうと、とっくに美亜は奴をロープでグルグル巻きにして縛っていた。
――そのロープが赤い上に値札が着いていたのはそっとしておこう。
「はぁ、はぁ・・・美亜、縛ってくれてたのはいいけど、後でちゃんとロープの金は払っとけよ?」
「あら、2人とも案外早かったわね。もうちょっとロミオとジュリエットの気分を味わっていても良かったのに」
「おいおい、それだとラストに死ぬんだけど!」
全く美亜は・・・本当に私達をからかう時にはとても楽しそうにしてくれるから大変だ。私も椿も、もう慣れてしまったから別にそこまで気にしないけれども。
「それにしても、よく美弥子ちゃんは避難しないで私達の戦いへ入ってこれたね?危ない所だったとはいえ、無理して隠れてなくてもよかったんだよ?」
「いえ・・・私もあの閃空という人が、綾さん達だけじゃなくって一般の人まで巻き込んでいたのを見逃せなかっただけですから・・・ごめんなさい」
「別に謝らなくったって大丈夫だよ、美弥子ちゃん」
ショボンとする美弥子に私は優しく頭を撫でる。
それから閃空の様子を伺ってみるが、どうやら先のダメージで伸びてしまっているらしく何もしてくる事はなかった。それに見た所では特に死にそうといった感じも無さそうなので、とりあえずは大丈夫そうだ。
そうしている内に、私達が居る1階吹き抜けの辺りへ杉野さんや犬吠崎さん達が他の警察官も連れてやって来た。そこには勿論カナや雪、そして椿の姉である夏美も――と、ここで私は自身が戦闘スーツ姿に変身している事と椿がまだ狐に変身したままなのを思い出して「あ、やべぇ・・・この姿どう説明しよう?」とか色々心の中で少し焦ってくる。
「君達、よくやってくれた!さっきまでの事は全て見させてもらったよ。一応、俺達もすぐに援護が出来るようにと吹き抜けが見える所で様子を伺っていたけれど、あまりのとんでもないバトルっぷりに全く手が出せなかったよ・・・すまない」
「本来なら私達が取り押さえるべき相手なのに・・・あなた達には感謝してもしきれないわね、ごめんなさい」
2人はそう言って申し訳無さそうに私達へ謝ってくる。でも、彼らがいたからこそ一般の人達の安全が確保されたのは間違いないのだ。だから、そんなに酷く落ち込まなくても良いと私は思うのだが。
「いえいえ。杉野さんも犬吠崎さんも、一般の人に危害が加わらないように避難誘導してくれたんで、逆にこっちがお礼を言いたいくらいですから謝らなくても!そ、それに・・・椿の方もちょ〜っと人型に戻ったりしなきゃいけないんで、その・・・服とか――」
何とか彼らにフォローの言葉をかけつつ、上手い事一旦その場から椿を離れさせようとすると、そこへ夏美が真剣そうな顔をして椿の元へやって来てしまう。
「椿、あんた・・・なんて危ない事をしてるのよ。ずっと見てたわよ、ハラハラしながらさ。あんた、そこのお友達と違ってドジで危なっかしいんだから、あんな奴を相手に無茶しないでよね!」
「えっ!?」
椿が驚きの表情を浮かべるのを他所に、夏美は彼女をギュッと力強く抱き締めた。確かに夏美の言う通り、あれだけ危険な戦いをしていたのだ。きっと酷く心配させてしまったのではないだろうか・・・。
「え、えっと・・・ご、ごめんなさい」
呆然としながらも椿は謝るが、夏美は無言のまま只管に椿を抱き締め続けている。
なんというか・・・これでは巻き込んでしまったように感じて、私まで申し訳ない気持ちになってきそうだ。
「な、夏美お姉ちゃん?ごめん・・・もう、心配かけたりはしないから。だから――」
すると、更に言葉を言いかけた椿が夏美の異変に気がついた。よくよく見ると、夏美の手つきはいつの間にやら椿の耳や尻尾まで撫で回している。
あっ、これはまさか?まさかのまさかですか?
「ちょっと、夏美お姉ちゃん?まさか、僕の身体をモフモフしたいだけなんじゃ・・・」
「チッ・・・」
舌打ちしたって事は・・・や、やっぱりそうでしたか〜!やだもうこの人〜・・・。
これには流石の椿もお怒りだ。
「ひどい!夏美お姉ちゃん!僕のしんみりを返してよぉ!」
「うるさ〜い!あれは本音よ!罰としてモフモフさせろ〜!」
「ひぇぇ〜!綾ちゃん助けてぇ〜!」
「あ、あはは・・・」
逆に開き直って椿をモフモフしだした夏美を見ながら、私はドッと身体に疲れが押し寄せてその場に腰を落としたのであった。半分くらい呆れ果ててたのもあるけれども。
「ひょ、ひょっとして綾さんも椿さんの今の姿をモフモフしたいって思っているんですか?」
「ん〜、まぁね」
「そうなんですか・・・もっと私も触ってくれて良いのに」
「え?何か言った美弥子ちゃん?」
「い、いえ!何も言ってないです!」
撫で回される椿を見て私に質問してきた美弥子の顔は、どことなく羨ましさと嫉妬が混じっているような気がした。
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――それから少しして、フードコートエリアにて
あの後に美亜が椿の服を持ってきてくれたおかげで、やっと満足した夏美から解放された椿はすぐに試着室を借りて着替えて来た。
「む〜髪がグシャグシャだよ」
随分撫でられまくったせいか椿の髪は凄くボサボサになっており、何とか手ぐしでそれを直している。
「あ〜あ、私もモフモフしたかったなぁ〜」
「うんうん、そのまま逃げるなんて」
「お、お前らなぁ〜・・・椿はペットとかじゃないんだぞ、全く」
そんな椿の姿を見ながらカナと雪は羨ましそうな声をあげる。私がそんな2人にため息をついていると、そこへ杉野さんと犬吠崎さんもやって来て閃空について判った事を伝えてきた。
「おっ、ちょうど着替え終わったようだな。今色々と調べたけれど、閃空と名乗っているあの少年はまだ目覚めていないんだ。そこで持ち物に学生証らしき物があったから確認したんだが・・・君達とはそう歳は変わらない。あんな少年まで、何故・・・」
「杉野さん・・・」
私が杉野さんへ心配の目を向ける。そして犬吠崎さんがその言葉の後を続けた。
「綾ちゃん、今はそっとしておいてあげて。・・・それであの少年の事なんだけど――本名は「菱田千一(ひしだ せんいち)」。名前さえ判れば後は警察の方でこの子についてある程度調べられるんだけど・・・それで分かったのは、まず彼には両親はおろか親族まで居ないのよ」
「・・・なんだって?」
「えっ?そ、それって・・・何でなの?」
犬吠崎さんから明かされた衝撃の事実に、思わず私と椿は聞き返してしまった。
『妖怪が街を滅ぼした』と閃空は確かな自信を持って言っていたのもあり、その時の記憶が朧気なのはきっと強いショックによるものから来ているのだとばかり思っていたのだが・・・謎は深まるばかりだ。
「えらく食いつくわね、2人とも。ひょっとして、あの子から何か言われたの?」
「いや、その・・・ちょっと」
「正直、話しても信じてもらえるか分かりませんけど・・・」
「何にせよ、あまり彼の事は信じ過ぎない方が良いわ。何といったって、彼には戸籍すら無かった。だからこそ、両親についても親族についても何にも判明しなかったのよ」
「じゃあ「両親どころか親族も居ない」って、わざわざ変な言い方しなくても良かったじゃないですか」
私はそんな事を言いつつも、より謎の深まった閃空について考え込んでいた。戸籍が無い、としたら彼は一体何者なのだろうか?
ふと気がつくと、犬吠崎さんは真剣な顔で私の目の前に詰め寄ってきていた。
「あなた達のその様子だと、何か重要な事を言われたりしたのかしら?」
「あっ・・・」
「うっ・・・」
図星をつかれて、つい私と椿は目線を彼女から逸らしてしまう。それでもジッと見つめる犬吠崎さんの視線を感じて、もしかすると先程わざわざ変な言い方をしたのは私達から何か聞き出すつもりでいたのだろうか。それはちょっと無駄に疑われている気がして少し苛立ってくるので、椿がキッと睨み出したのに合わせて私も犬吠崎さんへ眉をしかめて見せた。
「「・・・」」
「あ、いや、ごめんなさいね!つい刑事の癖が出ちゃって・・・許してくれない?」
「「ん〜っ・・・」」
それからすぐに犬吠崎さんは謝ってきたが、私達はアイスクリームの店の看板へ指を差した。勝手にこっちを怪しんで無理やり聞き出しそうな雰囲気を出してきたのだから、何にもなしに許してあげるつもりはないですよ、私達は?
「お、奢れという事ね・・・」
その言葉に私達はコクリと頷いた。
「しょうがないわね、此方が悪かったし・・・」
「犬吠崎さんもウッカリする事あるんだな〜・・・あだっ!」
「余計な事言わないの、杉野君。それで、2人は何のアイスを食べたいのかしら?彼に買ってきてもらうんだけれども」
「キングのダブルでお願いします。チョコなら何でも良いし」
「なら、私は椿と同じキングのダブルに、ポッピングコーラシャワーとクッキーインクリームかな」
「ちょっ・・・!?」
そう言いながらも嫌がらずに買いに行ってくれる辺り、杉野さんも犬吠崎さんと同じくらい誠意があるんだなと思う。
ちなみに、ショッピングモールで大分とんでもない事になってしまったようだが、妖怪が関わって起こった事態だったので情報操作やらアレコレされて今では殆ど元通りだ。
店の店員も、さっきまで買い物に来ていた一般の人も皆記憶の一部を上手い事操作されているので誰もあの事態について大事になったりはしていない。
「あっ、杉野さん〜私達もキングのシングル!チョコレートミントでお願い!」
「私は普通のバニラ」
「便乗すな!」
2人にツッコミを入れつつも、ちゃんとそれを買っている杉野さんの気前の良さ――なのか、それともロリコン故のアレさには脱帽するばかりだ。
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――少しして
「ん〜美味しい〜」
「やっぱり、運動後のアイスは最高だわ〜」
私達はフードコート近くのエスカレーター辺りにある休憩用ベンチに座って、2人に奢ってもらったアイスに舌づつみを打っていた。
椿のアイスは、濃いめのチョコレートアイスと甘めなミルクチョコアイスにチョコチップの混じったアイスで、食べている彼女も杉野さんのチョイスに満足そうな顔をしている。
「満足いただけたようで何よりだ」
「ごめんね、杉野さん。私まで買ってもらって」
何故か周囲を警戒するようにキョロキョロとしている杉野さんに、間へ挟まる形で座っている椿ごと夏美が彼に引っ付いている。
さっき見かけなかった美亜と美弥子も、いつの間にやら2人からお金を渡されて妖界に繋がっているカウンター側からアイスを買っていたようだった。
「はは、まぁ構わないさ。俺としては、こんなに可愛い女の子に囲ま――」
嬉しそうに杉野さんがそう言おうとすると、途端に後ろからわざとらしく咳払いする声と必死に笑いを堪えている声が聞こえてきた。
私達の後ろには杉野さんの上司である三間坂さんと犬吠崎さんが居たのである。なるほど、キョロキョロしていた理由はこういう事でしたか・・・これはもう、杉野さん詰んだのではないだろうか?
「えらく楽しそうだな、杉野君?」
「じ、情報収集中です」
「杉野君〜?私、ひとまず簡単な事情だけでも聞いてあげてって言ったはずなんだけどね〜?」
「告げ口したのは犬吠崎さんか・・・はぁ」
目が泳いでいる状態で言い訳しようとする杉野さんへ、三間坂さんと犬吠崎さんの2人は少し怒り気味のようだ。
まぁ、確かにさっきみたく尋問っぽくされなければ、私達の話せる範囲で質問に答えたりするつもりではいたので、こうしてわざわざ私達に囲まれてご満悦そうな顔をしていれば逆に聞いてるか怪しくなるのも無理はない。
「それならば、早く聞き取りをして欲しいものだな。犬吠崎君と違って、そうやって休めているのなら来年のお盆休み、お前は半分で良いよな?」
「あっ、ちょっ、それは・・・」
そう言って三間坂さんは去っていってしまい、杉野さんはさっきのアイスの話以上に肩を落として落ち込んでしまった。
「えっと、ドンマイです」
「へ、下手にカッコつけなくて良かったのに」
「くっ・・・」
なんというか、うん。犬吠崎さんが撒いた種ではあるけれども、杉野さんも自業自得であると思った。世知辛い世の中ですな〜・・・