私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第参話 本当に辛かったら

 

――旅館内にて

 

受付けが終わりそれぞれに割り当てられた部屋へ荷物を置いた私達はカナと雪と共に、椿の祖父と楓に連れられて奥の建物の地下へ向かっていた。

ちなみに狐2人も勿論一緒である。

 

なお、私と椿の部屋は手前側の一般人向け建物の方でカナ達と同じ場所だ。

なんせ元から人間な私と、普通の人から見たら妖術で人間に見える椿なら傍から見ても"ただの女子中学生"として映るから何の問題は無いのである。

 

そして、その奥の建物が妖怪用宿泊施設となっているのだが、驚くべき事にそこの地下が妖怪食の工場となっている。

そういう訳で私達は、楓の父親であり妖怪食の職人でもある"妖食茶釜"という人へ挨拶しに向かっているのだ。

 

「ちょっ・・・か、楓ちゃん。ここ、手摺りは!?」

 

「あ、やっべこれ・・・怖いわ、手元に何も無いのめっちゃ怖いわ〜・・・」

 

と、まぁ外観の荘厳さに違わぬシッカリした旅館の中を椿と「うわぁ〜」とか「ほやぁ〜」とか言いつつ後を着いて行っていたのだが、地下へ降りる為の螺旋階段まで来た所で手摺りが無いというトンデモな事に遭遇してしまったのだ。

 

もっと言えば、一応食べ物の工場なだけあってか冷房もそこそこ効いていて、40メートルはある階段の高さによる恐怖と共にゾクリと背筋に寒気がしてくる。

 

「此処の工場で働く妖怪さん達の中には空を飛べる妖怪もいるっす。その妖怪達からしたら、チマチマと階段で上がるより飛んだ方が早いっすからね。それで飛ぶ邪魔にならないように、手摺りの無い螺旋状になってるっすよ」

 

「そ、そっか・・・働く妖怪達の事を考えた、良い職場なんだね」

 

「そりゃ、こんだけの高さもあるって訳なんだな・・・うぅ」

 

私達がそれぞれ狐2人にしがみついてしまっているせいで、楓から見たら此方の事を師匠として見損なったのではないかと少し不安になるが、意外にも彼女は何処か納得した様子であった。

 

「姉さん達はあんまり妖怪の世界に馴染んでないと聞きました。何だか・・・親近感を感じるっす。自分もそうでしたから。だから、姉さん達に幻滅はしないっすよ」

 

「ん?それは一体、どういう事?」

 

「あっ、大丈夫っすよ綾姉さん。自分は記憶を消されていないので。ただ自分も以前は人間として、ある家族に育てられていたっす」

 

逆に私達の事を気にかけていた楓からそう返され、そして彼女は自分の事について語り始める。

 

「流石に姉さん達みたいに波乱万丈ではないっすけど、自分は幼稚園と小学校を"人間の学校"の方で行っていました。・・・5年前までの話っすよ」

 

「じゃあ、その時にまさか・・・」

 

曇った顔をして話す楓に私が答えると、彼女は少しはにかんで笑ってから先程の暗い表情に戻って頷いた。

 

「それまで自分は人間だと思っていたっす。でも綾姉さんの言う通り、5年前のある日の朝に――鏡を見て驚きました。いきなり、狸の耳と尻尾が生えていたっすからね」

 

その衝撃的な楓の告白に、私も椿も言葉を失う。でも、椿の方はどちらかというと楓の話をより重く受け止めようとしている風にも感じられる。

 

「自分はどうやら妖術で人間にされていて、更には赤ん坊の頃に妖怪の両親の下から誘拐されていたんだと、そう聞かされたっす」

 

「なんだって?」

 

「えっと、じゃあその・・・育ての親は?」

 

これまた楓からとんでもない真実が飛び出し続ける中、私達は嫌な予感がしつつも彼女に聞き返した。

 

「自分がこの姿に戻った瞬間、育ての母親は泡を吹いて卒倒。父親の方は警察に電話をした後に、何処かへ連絡を取ろうとしていたようっすけど、それは駄目だったみたいで後から来た捜査零科の人達に2人とも逮捕されたっす」

 

「逮捕?何で?」

 

「その育ての親だって、楓が妖怪だって分かるまでは本当の子みたく育ててきたはずだろ?どうして、そんな・・・」

 

きっと何かの間違いであって欲しいと、そう思わずにはいられなかった。

 

しかし、返ってきたのは――最悪な答えだった。

 

「――"妖怪売買"の罪っすよ」

 

「え?そ、んな事・・・え?び、白狐さん・・・」

 

あまりの衝撃に言葉が震えつつ私は椿と白狐さんの方を見ると、彼は重苦しい雰囲気でゆっくり頷く。

 

『これも前々から問題になっていてな。犯人の目星は付いとる、"例の組織"じゃ』

 

酷い話だ、まさか楓が椿よりも過酷な人生を送ってきていたなんて・・・。

 

しかも白狐さんが言った"例の組織"なんて考えれば、それは亰嗟の事ではないのだろうか。妖具や呪符を売るだけでなく、そんな事に手を出しているなんて連中には"優しい心"が無いんじゃないのか。

 

「まぁ、何で妖術が解けたかは分かんないっす。半永久的な妖術だって言ってたっすからね。そんな事よりも、もうすぐ狸オヤジの所に着くっすよ」

 

それでも、そんな酷い目に合わされてきた楓は何とも無いと言いたげに前に向き直る。

 

でも、私からしたら"そんな事"で終わらせて良い話ではなかった。

 

「楓ちゃん・・・」

 

そして、それは似た境遇だった椿も同じで、私達はそれぞれ優しく楓を後ろから抱きしめた。

 

こうでもしないと、私は楓に何をしてあげれば良いのかと自分自身が嫌いになってしまいそうだった。

 

「へっ!?ちょっ、姉さん達・・・何を!?」

 

「今、楓ちゃんは"本当の両親"の事を親と思えていないんでしょ?それに、自分の事も・・・」

 

「ずっと人間として生きてきたってのに、本当は妖怪でしたなんて・・・多分私でも引きずるよ」

 

私達の言葉に楓は立ち止まり、少し照れながら頬を掻く。

 

「あ〜やっぱり、姉さん達には分かっちゃいますか。姉さん達もそうですよね?」

 

それに私達は静かに頷いて肯定する。それでも、私達は私達でキチンと前に進めている事を示さなくてはと思うと、楓を1人にしてしまうような気がして少し辛くなる。

 

「私は人間だけどさ、親が生きてるのかどうかすら分かんない中で妖怪の事を知るまで、ずっと「変な物が見える」って感じて大変だったよ。だってオジサン以外、誰に話しても信じてくれなかったし・・・だけど――」

 

「その上、僕は記憶も封じられているからね。綾ちゃんと同じで、まだ本当の両親にも会っていないし色々と不安だらけだよ。でもね――」

 

私達は後ろの狐2人を見て、自分らが持ちうる中で最大の笑顔を向けてみせる。突然向けられた椿の笑みによるものか、2人はすぐに顔を真っ赤にしてしまう。

 

「こうして今も前を向いていけるのは、"自分の考えは間違ってない!"って信じて進んでいけるのは、親の代わりをしているオジサンだけじゃなくて、椿みたいに私の事を信じて背中を押してくれる人達がいたから・・・って感じかな」

 

「それでも僕が僕でいられるのは、自分が人外の者で実は妖狐だったって事を、こんなにもスンナリと受け入れられたのは・・・綾ちゃんに、白狐さん黒狐さんが支えてくれているからなんだよ」

 

「そうっすか、2人とも羨ましいっす。自分も、そんな人が居てくれたら・・・」

 

楓はそう言って、私達の腕に手を置いて震えだした。私達の事を聞いて、やはりというか自分の境遇を振り返ってしまったのだろう・・・静かに泣く声が聞こえてくる。そして――

 

「毎日毎日、自分の親だと言われても、自分には一緒に過ごした記憶が無いんですよ!物心ついた時から自分と一緒に居てくれたのは、人間なんですよ!?化け物に両親だって言われても、自分の姿を見ても・・・どれもピンと来ないんすよ!!」

 

楓が溜め込んでいたものは、相当大きかったようだ。そして、話している内に耐えきれなくなって私達へ溜め込んだ想いと感情をぶつけてきているのも、きっと真に理解してくれる相手が居なかったからなのだと強く感じ取れる。

 

――なら、その心の支えに私達はなってあげるべきだ。

 

そう思った私と椿は、より強く楓を抱きしめる腕に力を込めた。

 

「それで君は跡を継ぐのも嫌がったし、くノ一になりたいって言ったんだね・・・」

 

楓は椿の言葉にグスと泣きながら頷く。

だが、楓はまだ人間に戻りたいと思っているのも感じたからか、椿が更に話を続けた。

 

「楓ちゃん、僕も色々聞いたけど――」

 

「人に変化する妖術は余りにも強力過ぎて、生涯に1度しか使えない・・・だから、半永久的なんすよね。知ってるっすよ。椿姉さんと同じ妖術をかけられていたんで」

 

「まさか、人間に戻ろうとしたい理由って・・・」

 

私の言葉に、楓は少し頷いてから答えた。

 

「そうっすよ、綾姉さん。自分はまだ人間だって、妖怪じゃないんだって、自分の心がそう言ってるんです!だから、人間に変化するオリジナルの妖術を編み出して・・・!」

 

「楓・・・」

 

「楓ちゃん・・・」

 

「椿姉さん・・・綾姉さん・・・ヒック、自分・・・グス。自分は、どうすれば良いんすか?どうやっても人間になれないのは、分かってるんです。でも、諦めたくない!だから忍術なり何なり、何でも良いから人に戻りたいんです!!」

 

楓の悲痛な叫びは、今この場に居る全員がしっかりと受け止めている。それに、いつの間にか半妖であるカナと雪も他人事ではないと感じてか、私達と一緒に楓の頭を撫でていた。

 

そして、私達は泣き続ける楓に優しく声をかける。彼女は、その私達の言葉に涙でぐしゃぐしゃになりながら振り返った。

 

「楓ちゃん。その答えは自分で探すしかないだろうけれど、楓ちゃんが潰れないように僕達が支えになってあげるよ」

 

「楓も、無理に全部1人でやろうとする必要はないんだからさ。本当に辛かったら、私達で良ければ何時でも助けになってやるよ」

 

「えっ?ほ、ほんとっすか?」

 

「うん。だからさ、君は君で納得のいくまで好きなようにやってみたら良いよ」

 

「今の自分に自信を持って前を向いてれば、自然と理想の自分にも胸を張っていられる。そういうもんさ」

 

「分かったっす!」

 

楓が袖で涙を拭い、私達に向き直って笑顔を浮かべた。すると、彼女が私達の腕から離れて歩きだしたのを見計らって、カナが私達へ何事かを呟いてくる。

 

「しっかしアレだよね。椿ちゃんも綾ちゃんも〜今のね、あなた達が男の子だったら完全にその子落ちてたわよ」

 

「え、ちょオイ!?」

 

しかし、椿はそれが聞き取れなかったのかニヤニヤするカナと雪に首を傾げている。

 

「何が?」

 

更に楓も足を止めて、何か思い出したかのように顔を真っ赤にして私達の後ろへ隠れてきた。

 

「し、ししし、しまったっす!此処が何処か忘れて、カミングアウトしちゃったっす・・・!」

 

――あ、そうか。

 

私達が今いる所って確か、螺旋階段だっけ!

オマケにあと少しで下に到着する辺りで楓が大声でカミングアウトしたって事は、つまり彼女の両親にも聞こえている可能性が高い訳で・・・。

 

「やっと気付いた?」

 

「ね、姉さん達・・・知ってて!?」

 

「いや、少なくとも私は全く意識してなかったよ!マジでごめん!」

 

楓が必死な顔をして私に掴んでくるので慌てて謝っていると、椿は最初からそのつもりだったのか意地悪らしく舌を出して微笑んでくる。

 

「姉さ〜ん!!」

 

「つ、椿!?どういうつもりで・・・」

 

「本当は楓ちゃんが泣き出した所でだけどね。でもさ、両親ともシッカリ話し合ってくれないと。いがみ合っているだけじゃ、解決策は見つからないよ?」

 

「はぁ・・・椿はそういう人の心理って物を突くの、本当に上手だよね。偶には私にもコツを教えて欲しいくらいだよ」

 

「え〜?綾ちゃんはイタズラに使いそうだから教えたくないんだけどな〜」

 

「な、何をぅ!?ちょ〜っと狐2人を懲らしめるのに使うだけだい!」

 

そうやって私達は笑い合いながら、さっきまで重苦しかった雰囲気が嘘だったように互いをからかっていた。

 

けれども、さっきの椿の言葉のおかげで私も、敵対関係となってしまった湯口先輩の事について少しだけ前向きになれたと思う。

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