私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第肆話 親心って複雑

 

――1番下の階にて

 

妖怪食の工場となっている階に到着した途端に、楓は私と椿の後ろへ隠れて気まずそうな顔を浮かべる。

 

ここまで来れば多分案内してもらう必要も無いし、楓の気持ちもまぁ分からなくはないのだが・・・椿への仕返しついでで彼女の尻尾と一緒に私のポニーテールの先っちょまで弄らないで欲しい。

 

「ちょっと、楓ちゃん。隠れるのは良いけれど、尻尾は勘弁してよ」

 

「というか私のポニテまで触って、そこまで触り心地が気に入ったの?」

 

「2人とも、モフモフしてて気持ちいいっすのに・・・」

 

どうやら楓もモフモフが好きなばかりか、私のポニーテールも椿の尻尾並みにモフモフしているのだと知って複雑な気持ちになる。

これは普段から手入れしてないから起こった奇跡なのか、それとも単に私の髪質が似ていたからなのかは謎しかない。

 

すると、いつの間にやら椿の方がくすぐったさそうな声をあげている。

 

「ちょ・・・楓ちゃん。待って、だから止めてって・・・はぅん・・・」

 

「あぁもう、ほら楓。私の髪だったら好きなだけ弄らせてあげるから、いい加減椿の尻尾から――」

 

「えっと・・・綾姉さん?自分は、もう椿姉さんの尻尾は触ってないっすよ」

 

「「えっ?」」

 

何だか嫌な予感がしつつ、油が切れた機械のようにギギギと首を後ろへ向けていくと――

 

『うむ。あれから更に毛艶が良くなっているな』

 

『そうだな。触り心地も格段に上がっている。流石は、俺の嫁に相応しい尻尾だ』

 

『我のだぞ、黒狐!』

 

はい、何時もの狐2人ですよね!そうですよねチクショウ!

 

「何やっとんじゃ2人とも〜!!」

 

私は即座に狐2人の腹へ肘打ちを見舞った。

 

「何してるんです――か!!」

 

椿もそれに気付くと同時にため息をついて白狐さんの力を解放して、尻尾を大きく振って私の肘打ちで怯んだ狐2人を前へ投げ飛ばす。

当たり前といえば当たり前なのだが、少しは彼らも愛情表現を自重すれば良いのに・・・。

 

ちなみに白狐さんは華麗な着地をしたのに対して、黒狐さんは盛大に頭から落っこちてしまっている。哀れ黒狐さん。

 

『ぬぉ!?と、おぉ・・・やるようになったの、椿』

 

『ぐはっ・・・!』

 

「黒狐さんの好感度、マイナス1ね」

 

『何!?』

 

とはいえ、黒狐さんも椿の言葉ですぐに復帰する辺り、白狐さんとは別な意味で凄いと思う。主にタフさとか。

 

『我が1歩リードじゃな』

 

『ぐぬぬ・・・』

 

何か白狐さんが勝ち誇った感じで黒狐さんを見ていたが、まぁ今はそんな事どうでもいいので私達は黒狐さんを放置して早く工場の様子を見ようと先を急ぐ事にする。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

――妖怪食の工場内にて

 

ようやく工場内へと入った私達は、その大きなスケールの設備があちこちにあるのを見て呆気に取られる。

 

左右に並べられた沢山の巨大な釜へ管が上から差し込まれており、そこから上がる大量の湯気が吹き抜けとなっている天井に消えていく。釜へ差し込まれている、あの管からは多分妖気が流し込まれているんだろうか。

 

すると、並べられた釜の先にある少し開けた場所へ椿の祖父が歩いていき、そこにある不自然に1つだけ置かれた蓋のされている釜へ声をかけた。

 

「お〜茶釜よ、毎年スマンの。今年も世話になるぞ」

 

その突然の奇行に私は椿と共に目を丸くしていると、今度はなんと釜が喋りだした。

 

「おっ、鞍馬天狗の翁!今年も来たか!」

 

そして釜の蓋からこれまた巨大な狸の顔が現れ、釜の脇にある穴から両手両足が飛び出して、汗だくとなった大きな狸の妖怪が姿を現したのだ。

 

「よっと・・・いやいや、翁の頼みなら聞かねばならん。どうか、ゆっくりしていってくれ」

 

椿の祖父へ朗らかな笑みを浮かべて返事をする様子からして、この妖怪も古くから付き合いのある仲だと分かる。

 

それにしても、何故この妖怪は汗だくなのだろう?

 

工場内は冷房が効いていて大して暑くはなく、釜から出ている煙も熱さが無いので湯気ではないようだからだ。

 

そう思ってよ〜く見ていると、左右の釜の周りで忙しなく動いている工場の妖怪達が目に入った。

その妖怪達が時たま釜の様子を確認しては、人間用の食べ物を入れたり出来上がった中身を取り出して運んでいく姿が見える。

 

案の定というか、その出来上がった中身は普通に動かなかった入れる前と比べて、かなり元気よく動いているようだ。

 

「この光景を見るのは初めて?妖狐の椿さんに霊能力者の綾さん・・・でしたよね?」

 

工場の景色に口をあんぐり開いていると、ふと後ろから誰かに声をかけられた。

それに驚いて私達が振り返ると、そこには花の入った涼しげな模様をした着物を着ている女性が立っていて、此方へ柔らかい笑みを向けてくる。

 

「あっ、えっと・・・」

 

「まぁ、はい」

 

「楓がご迷惑をおかけしています。母の妙子(たえこ)と言います」

 

「い、いえいえ!かえって彼女からは元気ももらってますし・・・あ、私は烏森綾と言います」

 

「あの、その、楓ちゃんについては僕も同じですよ。こ、こちらこそ、えっと・・・槻本椿と言います」

 

なんというか、こういうカチカチとした挨拶は結構苦手だ。

まさか、彼女が楓の母親だなんて・・・。

それよりも、この人の私達に笑いかけている様子がまるで実の娘へ向けるような、そんな感じがして少し恥ずかしい。

 

すると、妙子さんは並んだ釜の陰に隠れている楓に声をかける。

 

「さて、楓。話は聞いていたわよ。そこから出てらっしゃい」

 

「うぐっ・・・!?」

 

楓はギクリ!と一瞬飛び上がってから、恐る恐る妙子さんへ顔を覗かせた。

 

正直な話、さっき楓が"自分の本当の親を親として見られない"と言っていたので今しがた出会った彼女の父親の事もあって、あまり似ていないのではと思っていたのだが・・・性格が似ていないだけで、実際見た目は楓をそのまま大人にしたような感じで、見てすぐに楓の母親だと第一印象が頭に出てきた程だ。

 

「うぅ・・・お、怒ってないっすか?」

 

「そうね、怒ってないわよ。むしろ、今まで溜め込んでいたものをようやく吐き出してくれた、って感じね」

 

その言葉を聞いて、とても優しい人だなと思った。

 

こうして反抗期真っ盛りだった娘にも、ちゃんと向き合って話し合ってくれるのは良い親であると、似た雰囲気を持つオジサンと暮らしてきた私だから感じられる。

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

そして楓は釜の陰からゆっくりと出て、母親である妙子さんに謝った。すると、妙子さんは楓に近づいて優しく抱きしめる。

 

「ちょっ・・・姉さん達も見てる。恥ずかしいっす!」

 

「ごめんなさい。今まで、あなたが帰って来た事が嬉しくて、あなたの心のケアをせずに私達の気持ちばかりを押し付けてしまっていたわね」

 

そのまま妙子さんは楓の頭を優しく撫で始める。

愛おしそうに撫でる様子は、傍から見ている私からすると少し羨ましく思う。私にも母親がいたら、あんな風にしてもらったりしたのだろうか。

 

「んっ・・・その、母ちゃんは悪くないっす。だから、頑張って本当の両親だって自分に言い聞かせて――」

 

「本当は、育ての親に会いたいんでしょ?あなたにとっては、そちらの方が親だしね」

 

楓が黙ってしまった様子からすると、妙子さんの今の言葉は図星だったようだ。今度は楓の父親である茶釜さんが彼女へ話しかける。

 

「楓、無理はするな。今翁と話したが、育ての親の方はすぐに釈放されとる。向こうは何も知らず、孤児だと言われて引き取ったようだ。だが問題はその間に、ある業者が噛んでいてな・・・そいつら同士で金銭のやり取りをしていたようなのだ」

 

「えっ、で、でも・・・」

 

両親から気遣われて戸惑う楓。

だが、もう一度会えるというのであれば、私達は楓の背中を押してあげるべきだろう。

 

「その育ての親って、今何処に住んでるんですか?」

 

「つ、椿姉さん・・・!」

 

「楓。私は育ててくれた人に会わなくて後で後悔するよりも、時々会って話をする方がモヤモヤしなくて気が楽だと思うけど?」

 

「あ、綾姉さんも・・・」

 

楓から"そんな事を両親の前で言わなくても"と目で訴えられても、彼女の両親から先に話してくれたのだから、そこはちゃんと自分のしたい様にして欲しい。

 

結局、それを決めるのは楓自身なのだから。

 

・・・しかし、親心って複雑だなぁ。

 

「うむ、今は市内に住んでいるようだ。楓、お前が会いたいのなら何時でも会いに行けばいい。住所は翁が知っているのだからな」

 

「・・・」

 

それでも、楓は俯いたまま黙っている。

流石に少し遠いとはいえ、とりあえず会えるという事が分かったのは大きい。まだ、その業者についてとか不明な事や怪しい事も多いが。

 

すると、楓を目いっぱい抱きしめた妙子さんが、楓から一旦離れて後ろに回り彼女の肩へ手を添える。

 

「そうだわ、椿さんと綾さん。楓の事、これからよろしくお願いしますね」

 

「え?あの、それって・・・どういう?」

 

私と椿、そして楓もが困惑している中で、茶釜さんがその私の疑問に答えてくれた。

 

「楓。本当はライセンスを取ってからという事だったが・・・お前の心の成長とケアの為、翁の家に住む事を許可しよう」

 

「えっ、マ、マジっすか!?」

 

その言葉を聞いた途端に、楓は私が見てきた中で最も嬉しそうな表情で喜ぶ。

なるほど、妙子さんがいきなりそんな事を言い出した理由はこういう事だったのか。

 

「そういう事なので、またお手数をかけますが・・・どうか宜しく頼みます、翁」

 

「まぁ、仕方あるまい。それとじゃな・・・お前さん、その言葉遣いはそろそろ止めてくれんか?お主とは同期じゃろ。同じ神妖の力もある」

 

それを聞いた私は、つい驚きの声をあげてしまう。

 

「えぇっ!?お、お2人とも、椿や白狐さん達と同じような力を――って、椿?」

 

「綾ちゃん綾ちゃん。おじいちゃんは"鞍馬山の大天狗"なんだし、茶釜さんも尻尾から釜に妖気を注入してるみたいだから当然だよ」

 

「え、嘘?あ、本当だー・・・」

 

それを椿に小声で窘められて良く見てみると、確かに彼女の言う通り茶釜さんの丸太よりも太い尻尾からは沢山の管が釜へと伸びていた。

な、なるほど・・・汗だくだったのはそういう訳か。

 

そして、改めて楓が私達へ挨拶をする。

 

「それでは姉さん達、これから宜しくお願いします!」

 

「こっちこそ、これから宜しく頼むよ楓」

 

「うん、宜しくね。でも僕は、今は旅行の方を楽しませて欲しいかな?」

 

「あっ、そういえばそうだったっけか!私とした事が忘れてたわ〜」

 

「はい、分かったっす!堅苦しい工場見学はこれまでにして、海に行きましょう!」

 

なんというか・・・やはり楓は妹っぽく感じてしまうな。

 

そう思って少し笑いかけた途端――

 

「ちょ、つ、椿ちゃ〜ん!綾さ〜ん!助けてぇ!」

 

突然上からカナの悲鳴が聞こえてくる。

 

すっかり忘れかけていたが、工場に入った時からカナの姿が見えなかったのは――うわあ。

 

「・・・何しているんですか?カナちゃん」

 

「な〜んじゃ、こりゃ〜・・・」

 

カナの声が聞こえた方向へ目をやると、そこには妖怪食となったタコ足にカナが捕まって逆さ吊りにされている姿があった。とはいえ、実際には妖気を注入されて企業秘密な"何か"をされただけなので、タコ足が生き返ったとかではないのだが。

 

「わぁ〜!ごめんなさい〜!吸盤押したらこんな事に〜!」

 

「だから、妖怪食は下手に触るもんじゃないっての」

 

とりあえず、この後でカナは工場の人に助けられたから何とかなったものの、「タコはもう嫌」と怖がりながら呟いていた。

 

まぁ、その・・・なんだ、ドンマイ。

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