私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――それから、しばらくして
ひとまず何とか、明後日の方向へ泳いでいた美亜を捕まえた私達は水着を取り返して、今度こそ脱がされないようにシッカリ付け直した。
現在は私と椿で美亜の腕を引っ張り、ゴールである岩まで誘導中だ。
「分かった、私が悪かったから・・・だから離して2人とも〜!」
「駄目です。また変な方向に泳がれると困ります」
「そもそも、いきなり私達の水着剥ぎ取っといて泳ぎだしたのは美亜の方でしょうが〜もう!」
ため息をつきながら泳いでいると、ふと頭で「そういえば、いつもイタズラされる仕返しに尻尾を掴めば良かったか」と思ったせいか、いつの間にか小次郎が私達の後ろに現れて美亜の尻尾をギュッと掴む。
「フミャァ!ちょっと綾、あんた何使い魔呼び出してるのよ!」
「別に悪気が――めっちゃあるから、とりあえず普段の行いを反省してね美亜。これはその罰って事で」
「ま、まさか拙者を無意識の内に呼び出せるようになるとは・・・流石主殿であるな」
「うぅ、覚えてなさいよ〜!」
そして、そこで椿も私だけに見えるように、薄くイタズラっぽい笑みを浮かべて"ある人物"を呼ぶ。
「あっ、そうだ。妲己さん〜」
【ふわぁ〜何よ?まだあんたの"浄化の力"を受けた影響で起きてるのキツいんだから、とにかく早く成熟した妖魔を取り込ませてよ〜】
「まぁ、そう簡単に妖魔は出てきませんよ。それよりもさ、猫の妖怪の子は尻尾をどう弄ったら悶えるの?」
「サラッとえげつない事聞くね、椿〜」
【ふ〜ん、あんたも責めに目覚めたの?】
「そうじゃないです。ただ綾ちゃんみたく、いつもの仕返しをと思って」
椿の返答に妲己さんは少し残念そうな感じで舌打ちしたが、やはりこういう事にはノリノリだったのか私達へ弄り方を教えてくれた。
「ちょ、ちょっと椿に綾。さっきから誰とブツブツ話してるの?ま、まさか・・・妲己じゃないわよね!?」
「残念ながら、逃げようとしても今は拙者が尻尾を掴んでいるから無駄であるがな〜文字通りに――ゲフゥ!」
「あだぁ!美亜、小次郎を後ろ足で蹴るの止めろよ!私にまでダメージが来るんだぞ!」
「うるさいうるさい!あんたはいい加減イタズラで使い魔使うの止めなさいよ、綾!」
うぐぐ、油断した。美亜に蹴られた衝撃で小次郎が一時撤退してしまったけれど、ちょうど椿も準備万端なので仕返しはまだまだ続くぞ〜!
「ふっふっふ・・・今まで散々、僕を悶えさせてくれましたよね?綾ちゃんと一緒に、ちょっとくらい仕返ししても良いよね?」
「あっ、ま、待って・・・椿、あんたその笑顔。妲己が乗り移っている時と同じ笑顔だからぁ!――あぅ!?」
そう言ってる椿の笑顔は確かに美亜の言う通り似てはいるが、さっき妲己さんが寝たのを意識で確認したので正真正銘、椿本人の笑顔である。
それにしても、椿もこんな顔するんだ・・・と少し怖くなったのは内緒だ。
「にゃあ!?ちょ・・・椿、だめ!くっ、うにゅぅぅ・・・」
「お〜、悶えてる悶えてる」
椿が美亜の尻尾を摘むようにして、スル〜と強めに手を上下させる。美亜の普段の小悪魔みたいな態度が嘘みたいに、悶えて声が出そうになっているのを我慢している姿がジワジワと私の心に「もっと弄りたい」という感覚をくすぐる。
も〜ちょっと、も〜ちょっとだけ見てたい・・・。
「は〜い、2人とも。そこまでにしとかないと、美亜ちゃんが昇天するよ〜」
「へっ?わぁっ!み、美亜ちゃん、大丈夫!?」
「あっ、ヤベ。悪い美亜!つい調子に乗りすぎたよ・・・」
ゴールの岩から里子に注意をされて、私達はそこでやっと美亜がブクブクとうつ伏せでグッタリ浮かんでいる事に気づいた。
「ご、ごめん美亜ちゃん!やり過ぎた・・・」
「まさか、ここまでなるなんて思ってなかったわ・・・ホントごめん」
「ふ、ふふ・・・ふふふ。あんた達ねぇ・・・」
すぐに2人で抱えて救出したから良かったものの、美亜は恨みたっぷりな雰囲気で里子の元へ後ろ向きに泳いでいってしまった。とはいえ以前と比べると、すぐに仕返ししてこなくなったので彼女も多少は反省しているのだろう。
「もう〜美亜ちゃん何やってるの?ちゃんと作戦通りにしてくれないと〜」
「おいおい、初めから私達の恥ずかしい姿見る為にそんな事しようとしてたのかよ?」
「でも残念でしたね。逆に美亜ちゃんの方が恥ずかしい目に・・・いや、僕と綾ちゃんも水着取られてるから引き分けだね」
美亜をゴールの岩に引き揚げ、その近くで先に到着していた里子とそうやって談笑していると、ふと椿が岩について気になる事を話しだした。
「それよりも、綾ちゃん。何だかこの岩、ちょっと変わってるよね?」
「そういえばそうだね。この岩だけ岩礁から突き出てるとかじゃなくて、海底からニョキって伸びてる感じがするし。ひょっとしたら何か封じてるのかもよ〜?」
私がそう言いながら先端にあるしめ縄を注視すると、椿は少し怖くなったのか此処をゴールに指定した里子へ声をかける。
「さ、里子ちゃん。此処って、あんまり来たら駄目なんじゃないでしょうか・・・?」
「それってやっぱり、このしめ縄のせい?」
「どわぁ〜!?へ、下手に封印されてそうな物に触るなって里子〜!!」
里子がしめ縄を掴んだのを見て私が慌てて触るのを止めさせようとしていると――
「だってさ、海坊主さん」
「「へっ?」」
里子が私達ではない"誰か"に話しかけたと同時に、海の中から巨大な手が現れて私達のいた岩を掴み、ゆっくり頭のような大きな何者かが浮上してきた。
「や、やっぱりだすか〜!一体、何がいけないんだすか!?」
クジラの鳴き声のように太く大きな声を響かせながら海面に姿を現したのは、丸っこい頭をして少し可愛げのある丸い目や鼻をした人の顔であった。なんというか、あの妖怪漫画の絵面で見た事のあるシルエットそのままといった感じだ。
お、おう・・・こ、これは・・・紛うことなき海坊主ですね本当にありがとうございました。
「むぅ、椿ちゃんも綾ちゃんも・・・驚かないですか」
「だから、もう慣れたってば。それに、その妖怪さんはあんまり恐くないですね。あっ、初めまして、妖狐の椿です」
「むしろ可愛く見えるけどね、私は。おっと、私も一応自己紹介しときます。妖怪が見える霊能力者の烏森綾です」
私達はひとまず、目の前にいる海坊主へ挨拶をする。いきなり出てきた時は正直少しビックリしたが、こうして見上げていると普通に大きいだけでクジラに似て可愛く見えてくる。
「ところで里子、その海坊主は此処で何をしていたの?この辺の海で海坊主の昔話とか聞いた事ないから、なんか気になるんだけど」
「実はね綾ちゃん、この海坊主さんは友達が欲しくて色んな海を回っているんだって」
「見た目だけじゃなく中身まで可愛いかよお前」
「あう、う・・・褒めてくれて嬉しいだす」
別にそこまで褒めたつもりではないのだが、と思っていると、今度は椿が海坊主へ質問する。
「だけど友達が欲しい事とこの岩に、何の関係が?」
「お、おら・・・とにかく友達が欲しぐて、その為には人が沢山来てくれないといけないと考えただ。そ、それで、何か神聖っぽいものを作れば、ひ、人が来てくれるかなと思で、この岩を作ったんだが・・・人っ子1人来なくて、困ってるだ」
「その前に、方言を統一しようよ。グッチャグッチャだよ・・・」
「何て言ってるかは全く分からんけど、とりあえず人っ子だったら私が来てるよね?」
私と椿が海坊主に軽くツッコミを入れる。
すると、途端に海坊主は申し訳なさそうな声で少し海へ潜って顔を隠してしまった。
「あぁぁ・・・すまなんだ〜!おらも良く分からなくなってしまってるだ・・・」
「椿ちゃん〜綾ちゃん〜この海坊主さん、打たれ弱いから気を付けてね」
「えぇ・・・マジでか」
「そう言われても・・・今の言葉、キツかった?」
椿が里子にそう尋ねると、彼女は言い方に問題は無いと言ってから少し考え込む仕草をする。
「確かに、そういう事はちゃんと言ってあげないといけないわよね」
「うん。それに、こんなに打たれ弱いと友達を作るどころじゃないような・・・」
「でも、あちこちの海を回れるだけの行動力はあるんだから大したものだと思うけど」
そして、更に椿がもう1つ質問する。
「それよりも、里子ちゃんは何時、この海坊主さんと知り合ったの?それに此処まで競走しようって言ったのは、海坊主さんに会わせる為だったの?」
その質問に里子は簡潔に、初めて海坊主と会った経緯を話してくれた。とはいえ、特に大きな出来事があったとかではなく、2〜3年前に偶然この辺りで出会って無理矢理友達認定されただけだったようだ。
「でも、何だか可哀想だから色々と協力してあげているんだけど・・・こんな風に引っ込み思案だから翁の家の妖怪さん達にすら挨拶が出来ないでいるんだよ」
「それはちょっと、重症ですね・・・」
「こりゃ随分な悩み――って、のわぁ!水中で喋るなぁ!」
本人のサイズが、こうして水の泡を起こしただけでも結構すごい事になる程だというのに、まさか肝っ玉が全然だとは流石に心配になってくる。
「う〜ん・・・それで僕達にも協力をして欲しいって事なんですね、里子ちゃん」
「あはは・・・そうなの。私1人じゃ無理だと思ってね」
「はぁ・・・これ程まで大きい相談相手、人生で早々居ないかも」
コミュニケーション能力の高い里子ですら手こずるとは、私達でこの海坊主の助けになれるかどうか全く分からないなと少し不安になった。