私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾話 ちょうど良いハンデ

 

――翌日。旅館内の大ホールにて

 

私達は1階に大宴会場やら大ホールやらある旅館の広さに改めて驚きながらも、大ホールの前方にある壇上へ立っている椿の祖父と楓の父親である妖食茶釜さんを見た。

大ホールには家に住まう妖怪達だけでなく、地下の工場で働いている妖怪や海の妖怪達まで集まっている。

 

こんなに人を集めて、今日は何をするつもりなのだろうか・・・妖怪の中の誰かが旅館でやらかしたとかでなければ良いのだが。全校集会とか、そういうのは私はとても苦手だし。

 

「今日は一体何をするんだろうね、綾ちゃん?」

 

「さあね。っていうか、亰嗟が此処を狙ってるかもしれなかったり、閃空が脱獄したって話を聞いたばかりだから逆に私は落ち着かないんだけど・・・」

 

私はそう言いながら、後ろを気にしながらソワソワする椿を見る。

 

今私達は椿の祖父からの指示で普段とは違う服を着て来ているのだが、どういう訳なのか椿は家で何時も着ている巫女っぽい服のミニスカート版で、私も妖怪の職人が手がけた緑色の体操服であった。もっと言えば私の体操服がブルマなのもあって、椿の服装と合わせると完全に場違いな姿にすら見えている気がするのだ。

 

『椿に綾、亰嗟や閃空の事を気にしていてもしょうがなかろう。今は捜査零課の者に頼るしかない』

 

「やっぱり気づいてた、白狐さん?さっき椿のお爺さんからも同じような事を言われたけど、なんだかんだ言って心配なのは心配な訳だし・・・主に椿とか」

 

『大丈夫だ、2人とも。まだ確実に脱獄した訳でもないし、1度撃退しているだろう?それなら、心配する必要はない』

 

「その油断が命取りなんですよ、黒狐さん。でも、確かに心配し過ぎてもしょうがないですよね。綾ちゃんも少し落ち着こう?」

 

椿の言葉に、とりあえず私は無言で頷いた。

それにしても、旅行していて気分が晴れそうな時にまた面倒そうな話が出てくるとは、私と椿の周りには何か厄介事を引き寄せる何かでもあるんじゃないのかと疑ってしまいそうだ。

 

そして、何か予定していた時間になったらしく椿の祖父が壇上で大きく声を張り上げる。

 

「さて、皆の者。今年もやってきたぞ・・・"競技式合同訓練"の日がな!」

 

「「「うぉぉぉおおお!!!」」」

 

その声に続けて、大ホールに居る妖怪達も高いテンションでデカい声を上げた。私と椿はそのあまりの大音量についつい耳を塞いでしまう。

 

「な、なんつ〜ハイテンションだよ・・・」

 

「皆張り切り過ぎ・・・」

 

すると、私達の横に居た里子が私達へ何で妖怪達があんなにテンションが高いのかを呟いてくる。

 

「皆、翁の罰を受けたくないからね」

 

「え、これ・・・罰があるの?」

 

「それは嫌だな〜・・・」

 

それから里子に軽く説明された話では、この"競技式合同訓練"とやらは毎年恒例で行われており、場所は年ごとに交代しているそうだ。

 

ついでに知ったのは、この旅館も椿の祖父の家と同じく、妖界から来た妖怪達の住処にもなっているのだとか。そして、こちらもセンターとの橋渡しもやっていて、ライセンスを取得したり昇級を狙う妖怪達の修行場としての一面もあるらしい。

 

なお、里子の話からすると全国にもそういった場所が何ヶ所かあるそうな。京都では私達が今住んでいる椿の祖父の家と、妖怪食の工場を兼ねている、この旅館の2箇所なのだそう。

 

そういう理由から、年1でその2箇所から妖怪達が集まって合同訓練をしている訳である。そして、その訓練もライセンス取得や昇級へ向けた目的となっているので内容はかなり本格的になっている。

 

「良いか!内容は、毎年恒例となっとる「鬼ごっこ」じゃ!」

 

それにしてもこの爺さん、ノリノリである。

 

とはいったものの、「鬼ごっこ」のルールも里子から再び説明されて随分大変そうなものだと判明してしまったからどうしたものやら・・・。

 

「鬼ごっこ」のルールは"椿の祖父の家側"と"旅館側"の2チームに分かれて行われ、それぞれ相手チームの人を鬼になって捕まえるのだが、ここもまた単純な話ではない。

 

その捕まえる相手は、事前に1人ずつ配られた紙に書かれている妖怪を捕まえる事になっているからだ。

 

その為、自分自身も相手側の誰かから狙われていると認識した上であれこれ行動を考える必要がある。ちなみに鬼として相手を捕まえた後は、自身を狙う鬼から逃げるだけになるのだとか。

この点を踏まえると、早めに自分のターゲットを捕まえてしまった方が楽に動けるという事である。他の妖怪達の手助けをしてもOKらしいので、こちらも色々と考えておかないと。

 

そして捕まったら、案の定ではあるが「訓練が終了するまで、椿の祖父による説教を正座で聞く」という罰が待っている。

 

訓練の勝利条件は単純で、相手チームの人を全員捕まえれば勝ちだ。とはいえ、この訓練が終わるのは短くとも半日くらい余裕でかかるのだという。こ、これは・・・初っ端に捕まったりなんかしたら地獄なんてものじゃ済まないだろう。

 

「っていっても、多分私と椿は参加してない扱いなんだろうけどね〜」

 

「皆ご苦労さんだね〜」

 

きっと、私達がこんな格好で呼び出されたのも応援とかそういう奴なのだろう。それに、もし参加なんかしたら上である五級である私と椿が強過ぎるかもしれないし・・・

 

「何をのんびりしとるんじゃ、椿!綾!お前達も参加じゃ!そのままで良いと思っとるのか!?」

 

「「えっ!?」」

 

そんな私と椿の穏やかな空気は、残念ながら椿の祖父から怒鳴られて簡単に粉砕されてしまうのであった。

 

しかし、つい最近に椿の中にある"神妖の力"が暴走した椿は不安げだ。

 

「でも、僕には――」

 

「良いか椿!神妖の力に怯えたままでは過去の記憶が蘇った時に、お前はお前でいられなくなる!それが嫌なら、神妖の力を扱えるようになれ!」

 

「そ、そんなむちゃくちゃなぁ!」

 

巻き込まれ体質のせいもあって、可哀想な椿・・・。

 

まぁそういう私も、全く知らない自分の中にある人格に身体を操られてしまった事が少し気がかりだし。

 

だが、次の椿の祖父の言葉で、私は俄然やる気が出てきた。

 

「綾も同じじゃ!恐らくお前さんには、他の人間とは違うとんでもない力が秘められている可能性がある。だが、それを抑えられれば、今以上に強くなり守りたい者を守る力となってくれるはずじゃ!」

 

「な、なるほど!なら、その力さえ扱えれば椿の事を・・・」

 

「ええっ!?なんで綾ちゃんも乗り気なんですか〜!?」

 

椿から「なんで裏切ったの?」みたいな目をされたが、そもそも私が妖怪の世界に関わる事になったのも、元をたどれば「椿を守りたい」という想いからなのだから、彼女の祖父の話は至極真っ当だと思う。

 

「センター長からも許可を得ておる!良いか皆!そこの妖狐、椿と霊能力者の綾は特別扱いじゃ!彼女2人はそれぞれ全員を鬼として捕まえられ、また全員が鬼となる!今年初の特別仕様じゃ!」

 

「ちょっと〜!!」

 

「ははっ!これくらい、喧嘩慣れしてる私にはちょうど良いハンデだね!」

 

依然として椿は困った顔をしているが、こういう四面楚歌なシチュエーションは私からすれば大歓迎だ。皆の私達を狙う眼差しが、かつて体育館裏で複数人で喧嘩を吹っ掛けてきた男子共の目を思い出させてテンションが上がってくる。

 

「勝利条件は変わらんからな。要するに、椿と綾は特別キャラという事じゃ!そして見事どちらか1人でも捕まえた者には、次のライセンス試験でその旨を伝え、斡旋をしてやろう!」

 

「それって違法になりませんかぁ!?」

 

「椿、だからセンター長も許可しとると言っただろう?」

 

「こりゃ、逆に皆をコテンパンにして、私達とはレベルが違う事を示さなくっちゃね!」

 

そんな椿の祖父の説明で、更に皆の眼差しに血の気が多くなったのを感じた。良いね、良いね〜そうこなくっちゃ!

 

「椿姉さん、綾姉さん!悪いっすけど、2人とも自分が捕まえるっすからね?」

 

「えっ?楓ちゃんも出るの?皆ライセンス持ちなんだから、君にはキツいんじゃないのかな?」

 

「でも楓だってやる気みたいだし、本気でやり合う訳じゃないんだろうから多分問題無いんでしょ、白狐さんに黒狐さん?」

 

楓を心配している椿に、私は狐2人へ目配せする。

狐2人は待ってましたと言いたげな表情で、腕を組みながら更なる解説をした。

 

『その通りじゃ、綾。何も本気の戦闘をする訳ではない。あくまで捕獲する事を前提とした鬼ごっこじゃから、安心せい椿。それに、ライセンスを初めて取ろうとする者も積極的に参加しておるのだからな』

 

『捕獲用の妖具もあるぞ。そもそも多少の怪我程度なら、治癒妖術の使える者もいるから全く問題ないしな』

 

そう言って、黒狐さんは結構重そうな手錠の形をした捕獲用の妖具を見せてきた。

そして、試しに彼はおもむろに近くへいた美亜へ、その手錠をパッとかけてみせる。

 

「ミギャッ!?」

 

「ほぉ〜!ちょっと身体の一部に触れただけで、一瞬で両手にワープして自動で手錠がかかるようになってるんだ。こりゃ便利だな〜!」

 

美亜は手錠の重みで地面から腕を上げられなくなって、それをかけた本人である黒狐さんへ怒鳴る。

 

「ちょっと〜!何で私で試すのよ!!」

 

『そりゃ、嫁に手錠はかけられんからな』

 

「あはは・・・そういえば、センターの方から派遣されてきた美弥子ちゃんは、一体どっちのチームになるんだろう?」

 

私が首を傾げたのを見て、椿がそれに答えた。

 

「確か、旅館側で参加するって聞いたよ綾ちゃん」

 

「OK、ありがとう椿。美弥子ちゃんの"剥奪の力"・・・中々厄介そうだけど、頑張っていきますか!」

 

「・・・まぁ僕も、とりあえず分かりました。おじいちゃんの命令だし、仕方ないよね。うん、僕も出来るだけ頑張ってみます」

 

私達が気合いを入れていると、狐2人はちょっと信じられない事を口にした。

 

『そうそう。我らも翁側のチームとして、訓練に参加するからな』

 

『ふふふふ・・・真っ先に椿を捕まえて、じっくりと・・・』

 

「き、聞いてないよそんなの!!」

 

「うっわ〜・・・まーた面倒そうな奴が・・・」

 

まさか、神妖の力を扱える狐2人までもが参加してくるとは、これは本気で大変そうだ。私も椿も、この2人を相手する時は何かしら手立てを考えておかなくては。

 

「頑張ってね、椿ちゃんと綾さん!私、応援するから!」

 

「絶対勝利。大丈夫、椿も綾も強い」

 

こうして私達の事を、カナと雪が応援してくれているのだ。どうせ訓練をやるのであれば、ここは気持ち良く椿と一緒に勝ちたい所だ。

 

・・・それに、負けたら最短でも半日正座させられるし。あれ凄く足にクるから嫌なんだよね〜。

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