私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾壱話 ――小次郎は

 

――訓練が始まって

 

私と椿は特別枠という扱いの為、開始10分前から逃げて良いという事で、ルールに定められている旅館から半径5キロ以内の訓練エリアを逃げ回っている。

 

椿とは二手に分かれて行動しているので、多少広めで民家もちょくちょく見かけるエリア内でもそこまで目立たないで動けるかもしれないが、それでもやはり色んな意味で派手に動けないのは少しキツい。小次郎を使ったり変身して戦ったりすれば、ほぼほぼ間違いなく周囲の注意を引くはずだろうし、下手すれば一般人にすら見つかる恐れがあるからだ。

流石に後者だけは、椿の祖父から別な理由で説教をされてしまうので絶対に避けなければ。

 

「参ったな・・・椿と反対方向に動くって作戦でいくつもりだったけど、何処に誰が潜んでるやら分からないや」

 

とりあえず、椿が向かおうとしている民家側とは反対方向に進んでみている訳だが、まぁ森の木々ばかりで面倒だ。

 

きっと椿の祖父も、以前に私達が一般人に見られたりする等といった、かなりヤバい事をやらかしてしまって不安になって今回の訓練に参加させる事にしたのだろう。

 

「ふむ・・・大変そうな訓練だな、主殿よ」

 

「どわぉ!?い、いきなり勝手に出てこないでよ、小次郎」

 

突然真後ろに音もなく出てくるものだから、少しビックリしてしまった。ふと「小次郎が居たら」と意識しただけでも呼び出せるようになってきている辺り、そろそろ何とか考えておかないと後々困りそうだ。

 

「すまんすまん。しかし、そう不安になっているのは何故だ?あの椿という狐の子のように、主殿も他の誰とも違う特別な力を持っているというのに・・・」

 

「もしかして、亜里砂と戦った時に出てきた、あのよく分からない状態の事を言ってる?あれ、実際は私の中にいる"誰か"が、勝手に私の身体を乗っ取って動かしてる感じだから、万が一の事があったらって考えて嫌なんだけど」

 

木々の隙間を静かにソロリソロリと隠れながら、私は小次郎と会話を続ける。

それにしても、あの状態の時には小次郎を1度も呼び出せなかったのに、一体どういう理由でそんな危険な提案をしてくるのだろうか?

 

下手をすれば、今度こそ周りの味方まで巻き込みそうな気がして不安でならない。

 

「そう警戒するな、主殿。そちらの記憶を一部共有して当時の状況を見てみたが、もう1つの意識が暴走さえしなければ、その妖怪や妖魔に対する知識を得る力・・・より主殿の助けとなれるはずだ」

 

「そう言われても、また暴走するかもしれないしなぁ・・・」

 

私がため息をつくと、小次郎はそこでとんでもない言葉を口にしてきた。

 

「そうか?どうやら、あの時をきっかけに今の主殿でも、多少はその力を使えるようになっているはずだと思うのだが」

 

「えっ、マジで?」

 

「それに、どうこう言っている余裕も無いようだしな。後は主殿のやり方次第、という事だ」

 

すぐに小次郎の話を全部信じられる訳ではないが、確かにもう楓と美弥子の妖気が此方に向かってやって来ている。椿の方にも狐2人が迫っていて、今から作戦を立て直すという事も出来なさそうなので、こうなったら多少危険な賭けではあるが小次郎の言う通りにやってみるしかないだろう。

 

「それで、小次郎・・・その力はどうやったら発動したり出来るの?」

 

「至って簡単だ、主殿。頭の中で顕微鏡を意識して、それを優しく静かに動かす形で妖気を少しずつ込めるのだ」

 

「そうすれば、あの時みたく相手の弱点とか見えるようになるって事?」

 

「とりあえずは、その通りだな。暴走しそうだと感じた時にはレンズを手で閉じるように妖気をスッと遮断して一呼吸するんだ。それから、この身体

は自分自身の人格の物だと強く意識する。・・・主殿がその力を扱いやすくなるように、私は一旦消えるぞ」

 

小次郎がそう言って、再び姿を霧散させて消えた。どうやら、普段から使っている"使い魔の力"と"妖気を解析する謎の力"は両立するのが相当難しいようだ。

 

とはいえ、いくら使い魔であるからといって小次郎がここまで私に親身に接してくるのはどういう事なのだろう・・・?

 

まぁ、そんな事を考える時間も無く、2人が私の所に到着しちゃった訳なんだけれども。

 

「綾姉さん。逃げずに戦う事を選ぶなんて、やっぱり姉さんは尊敬するっすね」

 

「別に私は、ハナから全員捕まえるって腹積もりでいたけどね」

 

木々の上を跳んでやって来た2人は私の目の前に降りてきて、やる気のある視線を向けてくる。

その様子からして、楓も美弥子も私の強さがどれくらいなのか知った上で、それでも挑戦したくてウズウズしているようだった。なんというか、いかにも修行が好きそうな楓は分かるが、まさか美弥子までもが私に挑戦したがるとは思ってもみなかった。

 

だからといって、私は下手に手を抜く真似はしないつもりだが。

 

「すごい覚悟ですね、綾さん・・・なら、私も本気で綾さんを捕まえさせてもらいますよ!その時には、昨日言えなかった事を・・・ふふ」

 

「2人とも、やる気たっぷりだな〜!」

 

私が構えたと同時に、2人が嬉しそうな顔をしながら飛びかかってきた。

彼女達の動きから何とか逃れながら、私は姿勢を低くしてさっき小次郎が説明した通りに目を閉じてイメージを思い浮かべる。

 

そうやって、妖術を使う感覚で頭の中に浮かべた顕微鏡を触っていると、私の内側から目の所に何かが徐々に集まってくるような、細々な妖気が湧いてくるのを感じてきた。

 

この感覚は――あの時に感じたものと同じ、亜里砂の行動が自然と読めていた感覚だ。

 

「えっと・・・綾姉さん?な、何をしているっすか?」

 

「まぁ、ちょっと面白いものを見せてやろうと思ってね・・・と、これ以上はヤバいな。おっとっと・・・っと、よし」

 

「い、一体何をするつもりなんでしょうか・・・?」

 

2人が少し不安げに私を見ている。

 

今のは少し不味かった・・・なんというか、レンズの中を深く覗いている内に、レンズの向こう側に意識が持っていかれそうになってしまいそうだった。そこで何とかイメージを遮断して、1回深呼吸してから「この身体は"私"のものだ」と意識する事で、とりあえずは向こうから私を引っ張り込もうとする力を抑えられた。

 

こんな所で楓と美弥子に迷惑をかける訳にはいかない、少しここは力をセーブして戦うとしよう。

 

「綾姉さん、その力って・・・まさか、それが他の人から聞いた、あの事件の時の力なんですか?」

 

「平たく言えば、そんな感じだね。・・・それにしても、視界にゲームのステータスっぽいのが出まくるってのは、意外と落ち着かないものなんだな」

 

目を開いて、視界へあの時のように楓や美弥子に関する知識が視覚化されているのを確認した。

 

「綾さん・・・あなたは一体・・・?」

 

楓と美弥子は、私が出している妖気が変化している事に気づいて心配しているようだ。それに2人とも、私のこの力については初めて見る為に、とても驚いているようにも見える。

 

とはいえ、この力自体はそれ程長くは使えないと感じた。

 

・・・少しずつではあるが、「自分は魔を殺す"モノ"である」と機械的な声が頭に呼び掛けてくるのだ。今はそれを、途中途中で遮断して何とかイメージを押しとどめている。

 

「さて、と・・・じゃ、まずは2人とも捕まえさせてもらうとするよ!」

 

「あっ、綾姉さん!」

 

再び深呼吸をした私は、周囲に他の人の妖気が無い事を確認して地面を蹴り、いつもの戦闘スーツ姿に変身しながら間近にあった木の枝を足場にして、木々の上へと飛び上がった。

 

そして、この動きは視界に映った"楓と美弥子の両方が想定していない可能性"の情報を参考にして実行したのだ。この後に2人がどうやって私の所に来るのかまで読めて、正しく彼女達の動きが手に取るように分かる気持ちだ。

 

「妖異顕現、重の剥奪!」

 

「おわっ!?この力、美弥子ちゃんの妖術か!」

 

2人が飛び上がって木の上に乗ったのを見てから、私は更に木々へ飛び移ろうとした時に、突然身体が羽のように軽くなって木の幹に激突しそうになった。

 

どうやら、美弥子の妖術は物にある概念すら"剥奪"する事が出来るようだ。

 

この状態だと、迂闊に動けないからどうしたものか・・・いや、頭に幾つか新しい妖術が浮かんできたから、今度はそれを試してみよう。

 

「えっと、妖術の使い方はショッピングモールの時を思い出しながら・・・妖異顕現、緊急祭繰龍(エマージェンシーサイクロン)!」

 

とりあえず浮かんだ中の1つを叫んで手をパーにして突き出すと、その手の平から竜巻が発生して楓や美弥子がいる辺りの木々を大きく揺らした。しかし反動が物凄く、美弥子の妖術で軽くなった私も片手で木の幹にしがみついて吹き飛ばされないように耐える。

 

「うわっと、とと・・・ふぅ」

 

やっと自分で起こした竜巻が収まり、葉っぱが全て吹き飛ばされた木々の枝に立った私は、ふとさっきまで居た楓と美弥子の姿が無くなっている事に気づいた。

 

「ありゃ?楓と美弥子ちゃん、何処へ行ったんだろ?」

 

「主殿・・・彼女達はさっきの竜巻で、木の葉と一緒に吹っ飛んでいったぞ・・・」

 

「うっわ、マジか〜!け、怪我してないよね?」

 

事が終わったと見て、小次郎がまた勝手に現れて私へ話しかけてきた。それにしても、つい脳裏に浮かんだ中から適当に使ってみたのだが、妖術の名前がまるで暴走族みたいで若干ダサく感じる。

 

そんな名前でも、あんな竜巻が起こせてしまうのだから驚きだ。やはりこれも、私にも妖術が扱えるようになってきているという証拠なのだろうか。

 

「とりあえず、今はそれくらいで抑えておいた方が良さそうであるな。少し暴走するのでは、と心配になったが妖気の余裕からして大丈夫そうだからな」

 

「確かにその通りっぽいかもね・・・。ところで、どうして小次郎は私にある謎の力について知っているの?もしかして、私と小次郎の関係に何か関係があったりする訳?」

 

顕微鏡を閉じるイメージをしながら妖気を抑えて、私は小次郎へと尋ねた。

今までにも小次郎が普通の使い魔ではないような、そんな出来事が幾つも起こってきたから不思議でならないのだ。

 

――小次郎は、一体"何者"であったのか。

 

少なくとも、ただ妖怪や妖魔の魂に妖気を与えて召喚されている存在とは思えない。

"鉄烏なんて名前の妖怪"は今に至るまで、全く聞いた事すらないのだから。

 

「さて、それはどうかな・・・だが、今は主殿にその力をしっかり扱えるようになってもらわないと困るのは本当だ。何故、私が綾にその力があるというのを知っているかは・・・正直、全く分からないのだ」

 

「随分、含みがある言い方するな・・・。でも、封印されていた力だとしたら、こんなに簡単に引き出せる訳が無いしな〜」

 

「とにかく、なるべく早くそれは制御出来るようになっておいて欲しい。頼むぞ、主殿よ」

 

その小次郎の言葉には、心做しか焦りのような感情が込められている感じがした。

ここまで小次郎が焦るような理由・・・それはまさか、かつて体育館で私を"裏切り者"と呼んでいた女に何か関係があったりするのだろうか?

 

「――と、主殿。どうやら、もう戻ってきたようだぞ、あの2人」

 

「え、ちょっと早くない!?」

 

「「綾(姉さ〜ん・さ〜ん)!!」」

 

すると小次郎が言った通り、遠くから楓と美弥子の声が聞こえてきた。一体何処まで飛ばされていたのかは知らないが、小次郎が「もう戻ってきた」と言ったのを思い出すと何故か寒気がしてくる。

 

おかしいな・・・そういえば楓も美弥子も、私や椿より全然妖気を捉えられないはずだ。

 

・・・えっ、嘘でしょ?どうやって見つけたの?何それ怖くね?

 

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