私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――それから少しして
私は角が生えた謎の妖怪少女と共に、山道沿いにあったボロボロの小屋へ隠れて、旅館から渡されていた弁当のおにぎりを食べようとしていた。
「とりあえず、ここなら安心して食べられるかな」
「なんていうか・・・敵のはずの人と昼飯を一緒に食べるって随分おかしくない?」
「ん?だからといって、見かけたら戦わないといけない道理もないだろう?」
「なんか調子狂うなぁ・・・」
竹の皮に包まれたそれには、紐を解いてみれば2つの大きな爆弾おにぎりが入っており、片方は中の具材が外に出ようと少し動いている。
「や、やっぱりお昼も妖怪食なのね」
「でも、これくらい大人しい方が僕は好みだよ。活きが良い物はどうにも食べづらくて困る・・・それも嫌いじゃないんだが」
結局、その爆弾おにぎりは動いていた方には半熟卵が入っており――もちろん卵が逃げる前に食べたが――動いていない方も具材の部分が危険だと直感して、その周りを食べる事で何とか食べ終える事が出来た。
「ふぅ〜美味しかった。でも、ボリュームが凄くてお茶が無いとキツいや」
こうして、初めて食べる妖怪食で失敗しなくなってきたのも、私が妖怪の世界に慣れてきた証なのかもしれない。
「ごちそうさま。はてさて、腹も落ち着いた事だし・・・そろそろ君の事を、"烏森綾"の事を聞かせてはもらえないかな?」
それから続いて食べ終えた、その角の妖怪少女は私に向き直ってショルダーバッグからメモ帳とボールペンを取り出した。
「あのさ、1つだけ聞きたいんだけど・・・どうして敵対してるはずの私に、そこまで友好的な態度をとってくるの?ひょっとして何か企んでたりする?」
「そんな訳ないだろう。これは僕個人として、君という興味深い執筆対象を見つけたから、より良い題材を得る為に行っているインタビューみたいなものだよ」
「変わってるなぁ〜・・・まぁ、それで満足してくれるなら良いんだけど」
そして私は、小学校で外見からやたら男子共にモテた事や、それが堪らなく嫌で自分を鍛え始めた事、そのお陰で椿と出会って今に至るまでの話をした。
その妖怪少女には、何故か不思議と普段じゃ恥ずかしくて出来ないそんな話を、まるで元から親しい友人だったかのようにスラスラと話す事が出来た。
「――と、まぁこんな感じに、妖怪の世界で私と椿は頑張ってるよ」
「なるほど、なるほど。確かに普通の人間だった君達からしたら、これはまたとない奇妙な体験だと言えるだろうね。いやはや、君だけに話を聞くつもりだったのだが、椿という妖狐の子もまた興味深いね」
深く頷いて納得する妖怪少女に、いよいよ私は気になっていた事を一気に聞いてみた。
「ところで、あんたは一体何者なんだ?そもそも、あんたは何の妖怪なんだよ?」
「これまた、意味が重複する質問をするね。君に分かりやすく言うのなら、僕は"鬼"の妖怪の小説作家・・・といった所かな。名前は「星熊 伊吹(ほしくま いぶき)」さ。一応ペンネームも同じなんだけれど、本屋で見たことは無いのかい?」
「はぁ・・・?」
伊吹が誇らしげにしてるところ悪いが、私はそういった文字ばかりの本にあまり興味が無いので小説家の名前なんて知らないのだ。
すると、訝しげに首を傾げている私を見て察したのか伊吹は面倒臭そうにため息をついた。
「これだから現代人ってのは・・・まぁ良いさ、僕はこんな物を書いては時たま業界に名前を上げている。とりあえず、それを読んで僕がどんな作家なのかを認識してくれたまえよ」
「"魔魍の鉢植え"?なんか何処かで見た気がする本だな」
「それはそうさ。これは僕が1番初めに出版した本のタイトルで、そして僕が作家としての道を歩み始めたきっかけでもある。今になって自ら読み返してみれば、まだまだ荒削りな部分が多いが僕にとっては君に1番勧められる本だと思ってね」
パラパラとその本を捲って読んでみる。
話自体は単純で「酒に酔って殺してしまった恋人を山へ隠しに行った男が、そこで幾つもの奇妙な体験をする」という物語だった。
よく読んでみると、確かに伊吹が言うように動きの表現としては伝わりづらい部分が多いものの、それでも文章からは物語の不可思議で鬱屈な雰囲気を感じてきた。
「・・・思ったより面白いな、これ」
「ふふふ、気に入ってもらえたようで嬉しいよ。君という執筆材料が手に入った見返りとして、その本は君に進呈するよ――"手書きのサイン"とやらも添えてね」
そう言って伊吹が私の持つ本の最後のページにボールペンでサラサラッとサインを書くと、そのまま私に何をする事も無く楽しげな様子で1人、外に出ていってしまった。
そして、その後を追いかけて外を見てみても、彼女の姿は何処にも無くなっていた。
最初から最後まで何だったんだろう、あいつは・・・?
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「とりゃっ!これで、え〜っと・・・4人目だったっけか」
「うぐぅ〜・・・椿ちゃんだけでなく、綾ちゃんにまで簡単にあしらわれてしまうとは強くなったな〜」
「まぁね〜。ぬりかべさんも元の姿に戻ったとはいえ、妖気の場所さえ分かれば何て事無いし」
その後に私は再び旅館方面を目指していく途中で、此方を捕まえようと建物の壁に化けて不意打ちしてきたぬりかべをあっさり返り討ちにしながら、長時間歩いてきた疲れから一息ついていた。
すると、またあの妖気を含んだ雨がシトシトと降り始める。
「ん・・・雨降り小僧が私の居場所を知らせようとしてるみたい。こりゃ雨が強くなる前に、すぐ隠れた方が良いかな?」
そう感じて、間近にあるぬりかべが隠れていた建物へ隠れようとした途端――急接近してくる妖気を感じ取り、すぐさまその場に屈み込む。
そして、その瞬間まで私の頭があった位置の壁にミシリと手錠がめり込み、私はそれが投げられた方向へ目を向けると、見知った顔がそこに居た。
「あら、こんな所で奇遇じゃない綾?」
「・・・誰かと思えば、美亜かよ。とりあえず私は、旅館側のチームが振らせてる雨から隠れないといけないんだ。幾ら美亜だって、敵側に狙われるのはゴメンでしょ?」
「残念だけど、私はいちいちそういうのを気にするタチじゃないのよ。それに今は、特訓の成果として得られた、私の強化された呪術であんたを倒さないと気が済まないわ」
完全に向こうがやる気モードである事を察して、私は大きくため息をつく。
やれやれ、やっぱり美亜と出会ったら戦わざるを得ないみたいだ。少しでも説得して撤退してもらえるなんて考えたのが馬鹿馬鹿しい。
まぁ、それでも私はやると決めたらやるつもりでいたけど。
「なるほどね〜・・・さては椿に逃げられたから、八つ当たりとして私を狙う事にした訳?生憎だけど、私もそっちと同じように手加減する気は一切無いからね」
「そんな事、何だって良いわよ。それに綾だって、本当は歩いても歩いても、全然行きたい方向に行けないからイライラしてるんじゃなくって?」
「このメス猫ぉ・・・」
とりあえず戦いやすくする為に、煽ってキレさせるつもりだったのだが、逆に図星をつかれて私の方が先にキレてしまいそうだ。
っていうか、多分もうキレてるな。
「いいぜ美亜、ちょうど私も強い相手とやり合いたい所だったんだ――さぁ、」
「ふんっ、それはお互い様よ――さて、」
それから、私は美亜と同時に息を大きく吸った。
「捕まりたくなけりゃ、ハナから本気(マジ)で来いよ!!」
「アンタをやっつけて、その首でトップを取ってあげるわ!!」
妖気の雨が降りしきる中で、私と美亜の極めて個人的な理由による戦いが始まるのであった。