私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――襲撃騒動を鎮圧して
旅館を襲ってきた、合計20人の人間を縄で縛り付けた後に椿の祖父は零課の人達へ連絡を入れる。
此処に来るとしたら私達と面識のある犬吠崎さんか、私と椿の下僕もとい杉野さんが来たりするのだろうか。・・・遠いから別な人である可能性も無くはないかもしれないが。
札に封印されてしまった妖怪達も、何とかして封印から解放されてホッとした様子を浮かべている。これで、ひとまずは大丈夫といった所だろう。
「ところで楓が活躍してたのシッカリ見たよ、お疲れ様。なんかデカい牛みたいな妖怪に変化してたみたいだけど、いつも通りに耳と尻尾がバレバレだったからすぐ分かったよ」
「うぅ〜・・・綾姉さん、手厳しい評価っす〜」
「それにしても、白狐さんに黒狐さん。この妖怪さんは誰なんですか?」
「あぁ、そういえば・・・」
椿がヒョウタンを持って寝ている大柄の妖怪を見ながら質問する。
その妖怪は大柄な人型をしており、使い古したようなヨレヨレのトレンチコートが目立つ服装で、みすぼらしく見えるボサボサな髪と無精髭をしていた。しかし、その人物の額には何処かで見た事があるような2本の角が生えており――って、まさかこの妖怪は・・・。
『まぁ、この格好から分かるかもしれんが・・・こやつは"酒呑童子"よ』
「マジですか、白狐さん?"酒呑童子"ってあの最強の鬼の!?」
「でもその妖怪って、悪い事をして退治されたんだよね?じゃあ、どうして此処に?」
困惑する私達に、白狐さんの隣へ来た椿の祖父が酒呑童子を見下ろしながら呆れた顔をして答える。
「こやつは改心したらしくてな。その言葉を信じて、色々と仕事をやらせとるのだが・・・仲間である"もう1人"と違って、酒は止められんかったようだな。酒も没収するべきか・・・」
「そんな事があったんですか・・・ん?"もう1人"?それって、まさか――」
ふと訓練中に出会った、色々と行動が謎過ぎた薄い桃色の髪をした2本角の"自称作家"の妖怪少女が頭をよぎった。
「ん?僕の事も呼んだかい?・・・おっと、これはこれは。そこに随分久しぶりな顔触れが居るじゃないか」
すると、私の心を読んでいたかのように、突然白狐さんと椿の祖父の後ろへ彼女が現れた。
そして、酒呑童子と呼ばれた妖怪に向かって懐かしげな目をしながら、またバッグからメモ帳を取り出して色々書き込み始める。
「おほぉ、絶景絶景〜最近は、下に何も履かないのが流行ってるのか?」
「えっ?」
下から声が聞こえてきて、私と椿は何か嫌な予感がしつつゆっくりと視線を降ろしていくと・・・なんと酒呑童子が起きて椿の真下から、私が着せたシャツの「中身」を覗いていたではないか!
「ぎぃやぁぁあ!!」
「こんのスケベ野郎!椿のは、は、恥ずかしい所を覗きやがって!!」
「ぐほっ!あでっ!」
すっかり忘れてた・・・椿は今、下着を履いてないんだったよ。とにかく、これ以上覗かれないように私達は酒呑童子の顔に乗っかり、全力で両足を使って踏み付ける。覗かれた椿に至っては顔が真っ赤になってて涙目だ。しかも、そんな様子を伊吹は楽しそうにメモしているし・・・やだもう、こんなエロ親父と怪しい作家が最強の鬼とか信じられない!
「おじいちゃん!記憶を・・・記憶を食べる妖怪さんを連れて来て!」
「無かったら、頭を叩いたら記憶が無くなる妖具とかでも大丈夫ですから!早く!」
こうなったら、すぐにでもコイツの記憶を消し去らないと!何せ、椿の1番大事な部分が見られたとあっては、彼女が一生恥ずかしくて生きていけなくなる可能性だってあるし!
「お〜こりゃ・・・美少女に足蹴にされるのも堪らんな〜」
「なん・・・だと?不良を一撃で蹴り倒せる私の蹴りが通用しない!?」
「効いてな〜い!うわぁぁあん!!」
なんてこった・・・まさか、ここまでされても全然平気だなんて。それでも、私達は酒呑童子の顔を踏み付け続けた。ちなみに、椿は完全に泣いてしまっている・・・これは本当に可哀想だ。こんな事になるなら、覗かれたのが私だったら良かったのに!
『何をしとるか、酒呑童子!!』
「ぐえっ!?」
そうやっている内に、ようやく白狐さんが来てくれて、私達が足蹴にしていた酒呑童子を蹴っ飛ばしてくれた。そして、黒狐さんもやって来て重力の妖術で酒呑童子にお灸を据え始める。
未だ怒りが冷め止まない私もそこへ加わり、さっき暴走した時に発動出来るようになったばかりの氷の妖術を使って、針灸のようにしてチクチクと刺してやった。
「うぐぐぐ・・・!す、すまん。お前達のものだったのか・・・わ、悪かった!」
『い〜や!まだ酔っているようだから、こうやってしっかりと押し付けて、中の酒を吐き出してもらわないとな!』
「さ〜て、記憶を失うツボは何処にあるかな〜?」
『椿の裸体は、我らでも見た事が無いんだぞ。同性である綾はとにかく、貴様は万死に値する』
すると、狐2人とノリッノリで酒呑童子にお仕置きを加えている所に椿の祖父がやって来て、羽団扇で少し私達を遠ざけながら酒呑童子の上に乗っかって制止してくる。
「白狐も黒狐も、それに綾も、そこまでにしておけ。そして酒呑童子よ、お前さんには重要な仕事を任せておったろう。それに"星熊童子"、お前さんもこんな所で何をやっておる」
「はい?あぁ、いえ・・・とりあえず、僕は休憩ついでに新しい作品のネタを仕入れようとしたんですけれどもね」
「全く・・・昔、お前さん達が作った組織"亰嗟"が行っている事への、その尻拭いをさせる為に組織の本部を破壊しろと言ったはずだが、それはどうなったんじゃ?」
なるほど、2人はそんな重要な仕事を受けているのに放ったらかしにしていたのか。それにしても、亰嗟という組織か・・・何か厄介そうだ――
「「――って、えぇぇぇえ!?」」
とんでもない事実がサラッと出てきた事に、私と椿は素っ頓狂な声を上げてしまった。まさか、酒呑童子と伊吹が亰嗟を作った張本人だとは・・・予想外にも程が有り過ぎる!
しかも、椿の祖父は伊吹の事を"星熊童子"とも呼んでいたし・・・おいおい、鬼の四天王がこんな所に2人も居るぞ!?
「何じゃ白狐も黒狐も、話してなかったのか?」
『いや、任務の事はな・・・椿に危険が及ぶかもしれんかったのでな』
2人のそんな話を聞いてか、椿が少しだけ頬を膨らますのが見えた。
「はぁ・・・とりあえず私達に気を遣ってくれるのは良いけど、椿は仲間外れにされたって感じで嫌だったみたいだよ?」
『なるほど・・・椿、そう拗ねるな』
「拗ねてません。それに綾ちゃんも、変な事を言うのは止めてください」
「はいはい。早とちりして、すいませんでしたよ」
その時、私と椿は後ろからいきなり何者かに頬をつつかれた。それに驚いて振り向いてみると――
「そうやってね、頬を膨らまして不機嫌になってたら、誰だって拗ねてると思うよ〜椿ちゃん。でも、綾さんも良く椿ちゃんを見てるよね〜」
「カナちゃん!それに雪ちゃん、夏美お姉ちゃんまで!」
「皆無事だったんだね、本当に良かった良かった」
そこには何処かへ避難していた為か、ずっと姿が見えなかったカナ達が私達に向けて心配そうな様子を浮かべていた。どうやら、旅館の人から騒動が収まった事を伝えられたらしく、居ても立っても居られずにすぐに駆けつけたようだ。
「まぁ、私達は従業員の控え室の方に避難をしてたんだけどね・・・一刻も早く出たかったわ」
「ん?それって、どういう事?」
何故か夏美が震えている事に疑問を感じていると、ボソリと雪がその理由を呟く。
「まるで、霊安室・・・」
「ちょっと雪・・・駄目だって」
「は?そ、そういえば此処で働いてる従業員の人って・・・あっ、まさか」
「べ、別に遺体は無かったよ、綾さん。ただ・・・位牌がね、沢山ね・・・あと、ちょっと背筋がゾクゾクしたかな」
「あぁ・・・なんていうか、ドンマイ」
カナ達が一足先に夏のメインイベントを体験してしまった事に同情した。
うん、これは確かに怖いわ・・・うっ、何か後ろに誰かいる感覚が。きっと気のせい気のせい・・・。
「ほぉ〜これはこれは何とも、逸材だらけじゃね〜か」
そんな時、酒呑童子の声がカナ達の後ろから聞こえてきた。嫌な予感がしたと思った時には既に遅く――
「きゃっ!」
「っ!?」
「ちょっ・・・何このおっさん!」
なんと彼はカナ達の尻を触っていた。本当にもうやだ、このエロ親父・・・。
尻を触られた事に怒った夏美が酒呑童子へビンタをかまそうとしたが、やはりというか彼はまたしても酔っ払った千鳥足の状態でギリギリの所を回避する。その後にカナも雪も酒呑童子へお仕置きしようと拳を振るったのだが、それも簡単に避けてしまう。
それにしても、攻撃が当たりそうなのに当たらないとは・・・例えるならば蝶が羽ばたいている感じに見える。一体彼は、どんな力を使って避けているのだろう?
「あ〜酒呑童子さんに捕まっちゃったか〜」
「酒呑の事だから予想通りとはいえ、あまり見ていて気持ちの良いものじゃないな・・・」
横で里子が嫌そうな顔を浮かべ、伊吹もメモを取りながらではあるが冷たい眼差しを酒呑童子に向けている。そして、美亜も呆れた表情をしながら、何があったのかと気にしている美弥子が前に出て来ないように手で押さえていた。
「まぁ今はあんなナリをしているけど、酒呑は酔拳の使い手だからね。実際はもっと強いよ」
「「それは見て分かりました」」
伊吹の説明に椿と一緒にため息をつく。
なんというか・・・あの酒呑童子と伊吹が同じ時代を生きた鬼だとは未だに信じ難い。だって、見た目で言ったら完全に酔っ払いの父と高校生くらいの娘に見えるのだ。よくこんな奴と仲良く出来るものだと感心する。
「はっはっは〜ほらほら、お嬢さん達〜もっと触っちゃ――ぐぇっ!?」
あ、また黒狐さんに、重力の妖術をかけられて地面に押し付けられた。ああやってベシャリとうつ伏せに押さえ付けられてる姿を見ていると、なんだか轢かれたカエルみたく見えるね。
『酒呑童子、遊びが過ぎるぞ。いい加減、此処に来た理由を言え!』
「そう怒んなよ、黒狐〜。ある情報が手に入ってよ、それを調べる為に鞍馬の翁に聞こうとしたんだって。そしたら、こっちに旅行中って言うもんだから、星熊の奴も呼んでわざわざ来てやったんだよ」
そんな会話をしている2人を見ていて、ふと亰嗟の事を思い出した私はすぐさま酒呑童子に質問をぶつけた。
「お取り込み中失礼するけど、さっきあなたが亰嗟を作ったって話が本当だとするなら、まずその事について色々と話を聞かせて欲しいんだけど・・・良い?」
「おいおい、ちょっと待てお嬢ちゃん。俺と伊吹はもう、亰嗟を抜けてる!というよりも追い出されたんだがな」
「なんだって?それは本当の事なの?」
すると、そんな訝しむ私達を見て、白狐さんが話に入ってくると頷きながら説明する。
『綾、そして椿よ・・・その事は裏が取れとる。それにじゃ、コイツらが亰嗟を抜けたのは丁度奴らが退治された年――千年以上前の事よ』
「えっ?そんな昔に抜けてって・・・せ、千年だって!?」
「亰嗟って、そんな昔からあるの!?」
私と椿はまたまた驚いた声をあげてしまう。
そしてすぐに周囲の空気から、また私達が仲間外れにされていたのではと感じてしまった。
しかし椿を危険な目に合わせたくないという皆の気持ちはとても良く分かるのだが・・・それにしたっても椿を身近で守っている私にだって、その話を聞く権利はあるのではと思ってしまう。
「2人ともも可愛いね」
「「むぅ〜」」
そう思っていると、カナから椿と共に頭を撫でられる。なんというか、いつもは私の事を"さん"付けするのに、こういう行動をされると実の姉から頭を撫でられているようで照れくさくなる。
その後に、酒呑童子は頭を掻きながら立ち上がって話の続きを進め始めた。すると、酒呑童子と伊吹の表情が途端に真剣なものへと変わる。
「まぁ、そんな昔だからよ。奴らのアジトも、今となっちゃ全く分からん。・・・ったく、あのバカ弟子が」
「積もる話は置いておくとして、ここからが本題だ。実は僕と酒呑は、亰嗟の内通者が鞍馬天狗の翁の居る場所に潜伏しているという情報を聞いたんだ」
「何だと!?」
またしても私達は話についていけなくなりそうだったが、伊吹の"内通者が椿の祖父の仲間に居る"という話を聞いて、ふと先程まで感じていた違和感の正体に気がついた。それと同時に、雨降り小僧がテクテクと歩いてくる。
「ねぇねぇ、皆。磯撫でさんと蟷螂坂さんを知らない?」
その言葉を聞いて、椿の祖父が茶釜さんに話しかける。
「なに、おらんのか?おい茶釜、磯撫でと蟷螂坂はどうした?」
「んっ?そういや、2人共ここでは見ていないな。だがどうせ、磯撫では海でまだ仁王立ちしているかもしれんし、蟷螂坂も戦う相手を探して森を彷徨っているんじゃないのか?」
「待って!そうじゃないかもしれないです!」
その違和感が確信へと変わった私は、すぐに2人に叫んだ。
『何じゃ、どうした綾!?』
「あの時は完全に気が付かなかったけど、よくよく考えたら蟷螂坂さんは亰嗟に捕まっちゃったかもしれないんだよ!だってそいつと戦った場所は、迎えに来た烏天狗からじゃ爆発した旅館が見えないはずの場所だったんだ!・・・クソ、何ですぐに気が付かなかったんだよ、私は!!」
それに、その時に視界に映っていたのは、旅館がある方角と戦っていた蟷螂坂の体調の情報だけだ。"知識の力"を使って、意識した相手の情報を得れる長点が、こんな所で裏目に出てしまうとは・・・さっきの自分を殴りたい。
「ぼ、僕も磯撫でさんと戦った場所は砂浜だったし、あの人もきっと亰嗟に連れて行かれちゃったと思う・・・ぼ、僕のせいだ!」
更に、椿が狼狽えた様子で磯撫でまでが捕まってしまった事を声に出した。
全力でボコボコにしてしまったとはいえ、まさか旅館で1、2番を争う妖怪が捕まってしまうとは・・・なんてこった。