私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――その日の夜
「うぅ〜ん・・・」
「寝られない・・・」
私と椿は、昼間に酒呑童子から言われた話が頭から離れなくて眠れずにいた。
「なんで私まで、あの2人の所に居られなくなるんだろう・・・訳分かんないって、本当に・・・」
「白狐さんと黒狐さんの元には居られない・・・そんなに、僕と綾ちゃんの封じられた記憶は酷いものなの?それとも、僕達に封じられてる力の方?どうして、綾ちゃんまで・・・」
椿の記憶が戻る事については最初から、どんな記憶だろうと椿を受け入れる覚悟が出来ていたのに・・・こんな所でまさか私自身の記憶が出てくるとは思ってもみなかった。そして、それのせいで「私は本当に椿の隣に居て良いのか」と不安になってきてすらいる。
こんな事を考えるなんて、私らしくもないというのに。
すると、そこへ横からカナが心配そうに話しかけてくる。
「椿ちゃん、それに綾さん・・・眠れないの?」
「ごめん・・・どうしても、酒呑童子さんに言われた事が頭から離れなくて」
「私も椿と同じ。なんか、1度気になるとずっと・・・ね」
そう答える私達に、ズイとカナが少しだけ此方の方へ近づいてきた。
「2人とも、気になるのはしょうがないよ。でもね、会ったばかりの酒呑童子の言葉を信じるの?」
「うっ・・・そう、だけど・・・」
「でも、正直言って信じたくはないよ」
確かにカナの言う通り、それを話してきた酒呑童子は亰嗟を作った張本人だ。亰嗟を追い出された理由も分からなければ、もしかするとまだ繋がっている可能性すらある。
でも、それでも私は、彼が昼間に言ってきた話については嘘だとは言い切れなかった。私達を弄って遊んでいた時の目とは違って、凄みと真面目さが強く感じられていたからだ。
とにかく、まだ隠している事はあるのかもしれないが、あの話だけは本当なのかもしれないと思わせるだけの気迫だった。
そんな事を考えていると、ふと椿が呟く。
「僕、完全に女の子にならない方が良いのかな・・・」
「椿・・・」
椿のその言葉に、私は何も言う事が出来なかった。一体、何が彼女の為になるのか・・・それすらも私の中では曖昧になってきていて、不安ばかりが募っていく。
そんな中、椿の姉である夏美が彼女に声をかけた。
「椿、それに綾。あんた達は今、中学生じゃ決められない程の難しい問題に当たってるの。そんな事を真剣に悩んでも、すぐに答えが出る訳ないでしょ」
「でも、やっぱり――」
「あのね、答えを出すのを急がない方が良いわよ」
椿が反論しようとして、夏美に止められる。彼女の言葉に何かを感じた私は、それに続いて夏美へ質問をぶつけた。
「その言い方だと、夏美さんにも昔何かあったりしたんですか?」
普通なら、こういう話は深く踏み込むべきではないと思っていたのだが、今はどういう訳か夏美の話について聞いてみたいという欲求が出てきていた。彼女の話を聞けば、ひょっとすると椿や私自身の心を少しは落ち着かせる事が出来るのではないか・・・そんな淡い期待があったのかもしれない。
夏美は、そんな私の考えを知ってか知らずか、ゆっくりと自身の事を話し始めた。
「・・・昔、まだ私がこんな格好をする前、私は真面目で八方美人だったのよ。分け隔てなく、皆と仲良くしてた。でも、クラスの中でグループが分断された時に、私は真面目グループなのかギャルグループなのか、どっちなんだと言われて早く答えを出さないと1人になると思った私は・・・有り得ない答えを言ってしまったの」
「それって・・・」
「私は・・・"どちらでも無い"って言っちゃった。ただ、クラスの皆と仲良くしたいと・・・正直に言ったわ」
そう話す夏美の視線は、いつの間にか天井の方へと向けられていた。そんな彼女の様子から察するに、その後に彼女がクラスの人間からどう扱われたのかは想像に難くなかった。
「次の日から、クラスの皆は私を無視した。つまり、仲間外れにされたのよ。私の"誰とでも仲良くしたい"という、その"想い"が仇となっちゃったのよ」
椿や私、カナにまだ起きていた雪も、その話を静かに聞いていた。かつて椿をいじめていた人物であったとか、そういう偏見も無く。
どうして夏美があんな性格となってしまったのか・・・以前の私だったら同情すらしなかったかもしれないが、今は何となく理解出来るような気がする。
「夏美お姉ちゃん・・・」
「ごめん、なんか昔の私に戻っちゃったわ。・・・だけど、良い?あんた達は答えを急ぐな、伝えたかった事はそれだけよ。急いでも、良い結果にはならないの――私みたいにね」
夏美の言葉に、椿と私は静かに頷いた。
それから、椿がモゾモゾと布団から出ようとしているのを見て、私も後に続くとカナが声をかけてくる。
「椿ちゃんも綾さんも、どこ行くの?」
「トイレです。それと、ちょっと頭を冷やしに・・・あっ、お姉ちゃん・・・話してくれてありがとう。僕は僕なりに、悩んでみるね」
「なんというか、私も少しは気持ちが落ち着きました。こっちから聞いてしまったとはいえ、話してくれて本当にありがとうございます」
私達は部屋の扉から出る前に、夏美へそう感謝の言葉を送った。本人は布団から出る事もなく、そのまま潜っていってしまったが・・・きっと、彼女自身もつい感情的になって話してしまったのだろう。
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――トイレを済ませて
「うぅ・・・トイレに行く度に思い知らされる・・・僕の身体が、完全に女の子なんだって事を・・・」
「今更気にしてても仕方ない・・・って訳にはいかないよね。はぁ、ちょっと外で涼んでみよっか」
「う、うん・・・ごめんね、綾ちゃん」
「いいのいいの、私だって自分の事で心の整理がまだついてないんだからさ」
再び悩みだしてしまった椿が落ち着けるようにと、私は彼女の手を引いて今居る3階から外へ出てバルコニーのように開けた場所へと向かう。
いかにも和風の旅館といったその場所には、そこに使われている物と同じような木で出来た長方形のテーブルが置いてあり、そしてそこには見慣れた姿があった。
『うむ。こういう時は、少し甘めの酒が良いな』
『飲み過ぎるなよ、白狐。ジジイの介抱は勘弁だぞ』
満月の光に照らされた狐2人の姿は何時ぞやに家の屋根で見た時のように、尻尾や耳の毛がキラキラと光輝いており、普段2人を何とも思っていない私でも少しドキッとさせられてしまいそうだった。
「なんだか、綺麗だな・・・」
ふと口から言葉が零れる。すると、椿も同じ事を思ったのか僅かに顔を赤らめていた。
「くっ・・・綾ちゃんと居るこんな時に、ダブルで僕を魅了しないで欲しいです・・・」
『ん?おぉ、椿に綾か。どうした、2人とも寝られんのか?』
『ふふ、やはり椿は俺の毛の感触が無いと、ゆっくりと眠れんのか?』
椿は黒狐さんの言うような、そこまで依存はしていないと思うのだが。とはいえ、確かに狐2人に挟まれている状態の方が、フカフカとした毛のおかげでグッスリと眠れてしまうのもまた事実だ。
・・・そう考えると、意外に椿だけじゃなくて私も依存している気がしてきた。
「ちょっと暑くて寝られないだけです」
「そうそう、だから夜風に当たろうかな〜って思ってさ」
『ん?そうか?今夜は風もあるが、割と涼しいぞ』
「うぐっ」
黒狐さんに痛い所を突かれてしまった。
やはりというか、神様をやっているこの2人に隠し事は通用しないって事だろうか。流石に鋭い。
仕方なく、私達は狐2人の座っている場所へ行き、彼らと背中合わせになるようにして背もたれの無い長椅子の半分に腰掛けた。
僅かではあるが、狐2人からは酒の匂いがする。きっと、ゆったりと月を見ながら飲んでいたのだろう。
『どうした、2人とも。やはり、昼間に何かあったのか?浮かない顔をしとるな』
「ん〜ん、別に」
「・・・そこまでって程の事じゃないよ」
そうして椿が白狐さんに寄りかかると、それを見た黒狐さんがヤキモチを焼く。
『椿、何故いつも白狐ばか――!?』
すると、椿は黒狐さんがそう言う事も分かっていたかのように、黒狐さんの方にも寄りかかった。その彼女の表情は、とても穏やかで落ち着いているように見える。
しかし、次の瞬間に椿はとんでもない事を言い出した。
「ねぇ、白狐さん黒狐さん・・・それに綾ちゃん。もし、僕が居なくなったらどうする?」
椿の突然の言葉に、私は狐2人と驚いて、それぞれ互いに顔を見合わせて椿へ視線を戻した。それから、黒狐さんが思わず椿を抱きしめたのを見て、私も椿の左手をそっと握る。
私には、彼女がどんな意図であの言葉を言ったのかが理解出来なかった。たとえ私に何があったとしても、椿の事は狐2人と同じか、それ以上に大切に思っている。だから、彼女が自ら居なくなるような発言をしたのがとても不安になったのだ。
「椿・・・なんでいきなりそんな話をするの?」
『そうだぞ椿、それに2人とも少し心が濁っているな。本当は何があった?』
黒狐さんの言葉にいよいよ心を抑えられなくなった私と椿は狐2人から少しだけ離れて、昼間に酒呑童子が来た事と彼に言われた話の事を話した。
・・・ただし、最後に言われた事だけは伏せて。
椿だけが封じられた記憶のせいで彼らの元に居られなくなるだけなら私も椿を守るつもりでいたのに、そこで私まで同じく記憶のせいで居られなくなるかもという事態が知れれば、場合によっては彼らから危険視されて椿との距離を開けられてしまうと、そう不安に思ってしまったのだ。
『なるほどな。だが椿に綾よ、それは薄々感じていた』
私達の話を聞き終えた白狐さんがそう答える。
とはいえ、亰嗟の事について調べている彼らからすれば、きっとそれくらいについては情報を得ていると思っていたので予想はしていた。
『安心しろ、椿。それに綾。例えお前達が亰嗟に攫われようと、俺達は何としてでもお前達を助ける。磯撫でのように、放置なんかしたりはしない』
そんな黒狐さんの言葉に、まだ本当の事を隠していた私は騙しているような罪悪感を覚える。
きっと彼らは、椿の言葉を「亰嗟に攫われたらどうするのか」という意味で受け取ってしまったのかもしれない。
それに、以前までは椿だ椿だと言っていた狐2人が、こうして私なんかの事まで不安に思ってくれている事がより辛く感じてしまっていた。
"彼らなら私が居なくなっても椿を守ってくれるかもしれない"と、偶にそんな風に考えてしまって途端に自分の事が嫌になりそうだった。
でも・・・ああして椿も狐2人も幸せそうにくっついている所を見て、安心してしまう自分もいるのも確かだ。
「ねぇ、綾ちゃんに白狐さん黒狐さん。僕が居なくなっても、ちゃんと迎えに来てね。何処に居ても・・・絶対、だよ」
『む?当然の事を聞くな、当たり前だ』
『むしろ、俺達の元から去ろうとしても無駄だからな。良いな?お前は絶対、俺の嫁になるんだ』
すると、そう黒狐さんが答えてしまったせいで、白狐さんはまた何時もの如く彼と言い争いを始めてしまうのであった。
『黒狐よ!いい加減に引かぬか!』
『断る!貴様が引け!』
そんな狐2人の喧嘩に呆れつつも、私は椿の手を握ったまま彼女の目を見て、彼女の今の言葉に答える。
「椿・・・」
「何、綾ちゃん?」
「私・・・私、絶対に見つけてみせるよ。封印された記憶のせいで椿が居なくなっても、私に辛い過去があったとしても・・・必ず、必ず椿の所に行くから」
「ふふ、ありがとう・・・ふぁぁ。なんだか安心したら、眠くなって・・・すぅ」
「うん・・・私もちょっと、眠・・・」
私の膝の上に頭を置いて眠ってしまった椿に続いて、私自身もそのまま眠りについてしまった。
――この幸せが、出来ればずっと続いて欲しいと願いながら。