私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第参拾壱話 絶対悪夢を見る気しかしない

 

やっとの思いでたどり着いたというのに、妖魔の妖気の出処辺りには何にも無い事に私達は狼狽える。

 

「妲己さん、まさか私達を騙したんじゃ――」

 

【そんな訳無いわよ、綾!こっちだって知りたいくらいよ!これはどういう事なの!?何で妖魔が居ないのよ!アンタ達の方こそ場所間違えたんじゃないわよね!?】

 

「はぁ!?私達の感知能力がイカレてるって言いたいんですか!」

 

妲己さんの物言いに私がブチ切れそうになっていると、椿が訝しげな表情のまま手を突き出してくる。

 

「綾ちゃんも妲己さんも落ち着いて!・・・確かにここが妖気の1番濃い所だよ。何回も確認したから間違いはありません」

 

「やっぱり間違ってない、けど!うぅぅ・・・また暴れ出したよ〜!」

 

椿の言葉で色々考えを立てようにも、再び赤ゑいが暴れ始めた事で集中力が途切れてしまう。

 

「うぐぐぐ・・・!こ、こいつをしばらく大人しくする方法が有れば良いのに」

 

「こう何度も暴れられたら、いくら体力があってもジリ貧だよ・・・くそっ」

 

振り落とされそうになるのをずっと掴まって耐えていたせいで、私達の腕の方もいよいよ限界に近い。

 

しばらくして赤ゑいは落ち着いたが、その直後に白狐さんの声が聞こえてきて、更にそれと同時に向こうの方でドッボーン!と大きな水音が聞こえてきた。

 

これは、嫌な予感が・・・。

 

『椿に綾よ、まだか!こっちでは海坊主が吹き飛ばされた!それに、もう他の妖怪達も限界だ!しかも、それを見越してか・・・赤ゑいが遂に人間達を捕食しようと動き出したぞ!そっちは本体を見つけたのか!?』

 

「分かってるよ!たった今その音が聞こえてきたし!」

 

「僕達の方は妖気の出処にたどり着いたんですけど、肝心の妖魔が・・・寄生している妖魔が何処にも居ないんです!」

 

こうなったら、狐2人のどちらかにでも来てもらった方が・・・と思ったのだが、向こうも向こうで皆を守る事で精一杯のようだ。

 

そうこうして悩んでいると、耳に付けている白狐さんの勾玉とは反対側の勾玉から、私達の耳へ黒狐さんの声が聞こえてきた。

 

『椿、綾。今は背中を必死に探しているのか?』

 

「そうだけど・・・!」

 

『――なら、腹の方は見たのか?』

 

「えっ?あ・・・」

 

「まさか、この妖気って・・・」

 

その黒狐さんの言葉で私達は目を丸くした。

 

なにせ妖気の濃さが分かるとはいえ、それは大まかな位置でしか認識できないので「背中と腹の中心」という形でしか濃い妖気の部分が分からなかったのだ。

 

要は、位置的に考えれば腹の部分まで調べるべきだったのである。

 

【・・・この、バカ】

 

「あなただけには言われなくないよ!くっそ〜!」

 

「妲己さんも焦っていたし、気付いてなかったでしょ?」

 

【なっ・・・!?あ、あれよ。わ、私は・・・そうよ、椿と綾が妖気を感知出来るか、そのテストをしていたのよ。そ、そう、テストよ!】

 

「「へぇ・・・」」

 

如何にもバレッバレなくらいに動揺している妲己さんの声に私達は意地悪そうに目を細めた。

 

「って、そんなコントやってる場合じゃなかった!すぐにでも赤ゑいの腹の方に向かわないと!」

 

「う〜ん・・・でも今からじゃ時間も無いし僕達の体力も限界だし・・・そもそも海の中からじゃないとお腹までたどり着けませんよ?」

 

「そ、そこは根性で!」

 

「いや、それも流石に無理があるからね!?――って、うわぁ!」

 

そんな時、赤ゑいが今度は今まで以上に激しく身体を動かし始める。しかも、その動きからするとどうやら皆を捕食しようと動きだしたようだ。

 

「くっ!もう海まで戻っている時間なんて無いよ!どうしよう、どうしよう・・・」

 

「こんな時に、なんか良い考えでも浮かべば良いのに〜私の馬鹿野郎!なんで何にも思いつかないんだよ〜!?」

 

必死に椿と考えを巡らせても、頭がパニックを起こしてしまっているからか次から次へと真っ白になっていく。

 

こんなの、本気でどうすれば良いんだ・・・!?

 

『椿!綾!とにかく今は俺達が押さえておく。2人は集中して、何としてでも妖魔を探すんだ!』

 

勾玉の向こうからは黒狐さんの声だけでなく、後ろで戦っている人達の声も聞こえてきた。

 

「良いか、お前達!椿と綾が何とかしてくれる!お前達は絶対に食われるな!だが、それでも一歩も退くな!気を引きつけろ!」

 

「いや、鞍馬天狗の翁よ。流石に難しいぞ、それ!」

 

「何だ?旅館の妖怪達はそんなもんか?骨があると思っていたのに、実力は俺達の見当違いか?」

 

「何だと!その妖狐と人間・・・椿と綾が強いのは知っているわ!お前達がそれに見合っているのかって、そう言ってんだよ!」

 

「当たり前だぁあ!!」

 

なんというか・・・こんな非常事態なのに、よく喧嘩出来るなと思ってしまう。

 

だけど、こうして皆が椿や私に頼ってくれているのを知ると――なんでか分からないけど、妖怪が関わってくるまで椿を守っていた事を思い出してきた。

 

この暖かい感覚は・・・私の中ではきっともう有り得ない事だと思ってた。こんな喧嘩が強い事しか能がない私が、椿以外の誰かに強く頼られるなんて絶対無いんだと諦めかけていた。でも、そうじゃなかったんだ。

 

そんな時、ふと勾玉から聞こえる喧騒の中で私と椿の耳に"ある2人の人物"の声が聞こえてきたのだ。

 

「ウ〜イ・・・んだ・・・こりゃ・・・して・・・綱・・・大会かぁ?」

 

「なるほど・・・ふむ・・・これは・・・次の・・・使えるかもな?」

 

正直、よくこんな小さな声を聞き取れたなと我ながら感心するよ。

 

この声は、酒呑童子と星熊童子・・・もとい伊吹の声だ。こんな状況でも2人は相変わらずなようだけど、2人の今の状態を考えるともしかしたら何とか出来るかもしれない。

 

「ねぇ、椿!あの2人さえ居れば、この状況を覆せると思うんだけど!」

 

「そうだね、綾ちゃん!僕もちょうど同じ事を考えていた所だよ!」

 

そして椿は黒狐さんの勾玉へ向かって叫んだ。

 

「黒狐さん!浜辺に酒呑童子さんか伊吹さんが居ない!?どちらかでも居たら、この赤ゑいを"釣り上げて"って言って!!」

 

『ぬぉっ!そんなに怒鳴らんでも・・・あぁ、居るな。・・・なるほど』

 

「2人は鬼だから、釣り上げてもらえば――ん?"釣り上げて"!?」

 

その椿のトンデモな発案に、ついつい私は素っ頓狂な声を上げてしまったよ。

 

「え?何か問題ですか、綾ちゃん?」

 

「い、いや・・・ちょっと斜め上な方向だなって思っただけだから・・・」

 

まぁ確かに、酒のツマミを探すような酒呑童子に、小説のタネを探すような伊吹の2人の事だ。どちらも、その言い方で多分上手く勘違いしてくれると思うよ。

 

椿と話した理想的な流れとしては、酒呑童子か伊吹が相手を全力で気絶させるだろうから、そこで椿の水を操る妖術を使って赤ゑいを裏返して妖魔の元までたどり着く作戦だ。

 

【なるほど、悪くないけれど・・・果たして、酒呑童子と星熊童子が動くかしらね〜】

 

「そこは正直賭けだけど、さっきの口調からしたら2人共綱引きだけでも参加するかもね」

 

「そうなったら、後は余裕余裕!何せ相手は変人小説家に酔っぱら――」

 

自信満々に私がふんぞり返るが、次の瞬間に足元から重力が感じられなくなり、その後の光景に絶句して自分の目を疑った。

 

なんと、突然赤ゑいの巨体が持ち上がって宙に舞い上がったのだ!

 

「どぬぉわぁぁあ!?」

 

「うきゃぁぁあっ!!」

 

あまりにいきなり過ぎる事態に、私達は赤ゑいの身体にしがみついていられず赤ゑいが引っ繰り返ると同時に弾かれてしまった。

 

『椿、綾、2人共無事か!?』

 

「無事じゃないです〜!一体何があったんですかぁ!?」

 

「何がどうなって、こんな事になった訳なの!?」

 

『すまぬ!酒呑童子と星熊童子が、まさかの一本釣りをしたのだ!』

 

「はぁ!?何なのそりゃあ!!幾ら何でもぶっ飛び過ぎだって!」

 

酒呑童子と伊吹がそこまで凄い力があったなんて、こればかりは予想外なんてものじゃなかったよ!

 

・・・というか、このままじゃ椿と仲良く海に落っこちちゃう!

 

「およぉっ!?」

 

「あぅっ!?」

 

"ヤバい"とそう思った時、ギリギリの所で私達は何者かに腕を掴んで助けられる。

 

「大丈夫ですか、椿殿!綾殿!」

 

「あなたは・・・烏天狗さん!」

 

どうやら、赤ゑいを引っ張っていた烏天狗達も今の一本釣りで散り散りになって、その内の1人が助けに来てくれたようだ。

 

「全く・・・一体何があったんですか?急に引っ張られたから、我々も戸惑ってしまって手を離してしまった」

 

「いや、離して正解ですよ。酒呑童子さんと伊吹さんが赤ゑいを一本釣りしたので・・・」

 

私達を助けてくれた烏天狗へ、椿も未だ信じられないといった様子で話す。すると、その途端に烏天狗は驚愕の表情を浮かべた。

 

「何!?全長12キロの奴を一本釣りだと!それは――陸地が大変な事になる!!」

 

「流石にちょっとビックリしますよね〜・・・って、とんでもない事になっちゃってるじゃんオイ!!」

 

「えっ・・・?あっ・・・うわぁ!本当だぁ!何て事をしてくれたの、あの2人は!!」

 

これまた更にヤバい!と慌てかけた私達だが、次瞬間にはもっと信じられない光景が繰り広げられた。

 

なんと、腹を上にして落ちてくる赤ゑいの巨体が、今度は下から強い衝撃で吹っ飛ばされるようにして私達の方に向かって飛んで来たのである!

 

「だぁぁああ!!何なんだよ、次から次にぃぃい!?」

 

「うわぁぁあ!!烏天狗さん、避けてぇええ!!」

 

「くっ!本当に何が起こっているんだ!!」

 

叫ぶ私達の声に、すぐさま烏天狗は私と椿の脇へ腕を通してグイッと一気に急上昇した。お陰様で、何とか赤ゑいとの激突はギリギリ・・・うん、つま先が触れるくらいにギリギリ避けられた。

 

「はぁ、はぁ・・・し、死ぬかと思っ――って、危ない!」

 

「ぎゃぁああ!!こ、今度は赤ゑいが落っこちた衝撃で津波がぁ〜!!」

 

「ま、間に合って〜!妖異顕現!!」

 

その津波も、ギリギリの所で椿が妖術を発動して止めてくれた。しかし、一度に大量の水を操ったせいか、肩で息をする程に彼女に大きく体力を消耗させてしまった。

 

「ごめん、椿!助かったよ!」

 

【ちょっと、椿に綾。今は余所見をしている場合じゃないわ――あそこよ!!】

 

そう叫ぶ妲己さんの声で、私達が引っ繰り返って浮いている赤ゑいへ目をやると、腹の中央辺りでグネグネと蠢いている気持ち悪い物体が見えた。

 

「あれが寄生している妖魔の身体の一部だね。ごめん、烏天狗さん。綾ちゃんと僕をあの場所に降ろしてくれますか?」

 

「あぁ、後は頼んだぞ2人共」

 

烏天狗に赤ゑいの腹の上まで行ってもらって降りると、足元には先程まで居た島そのもののようだった背中の感触ではなく、まるで巨大な風船の上に立っているようにブニブニとした感触が返ってくる。

 

今は引っ繰り返っているから大丈夫だとはいえ、いつ赤ゑいが身体を起こそうとするか分からない。とっととケリをつけてしまわないと。

 

「うっわ〜・・・椿、絶対これだよね?妖魔の本体は」

 

「なんだか、寄生する妖魔だからかなのか分からないけど・・・触手が赤ゑいの身体に根っこみたく張り巡らされてたりして気持ち悪いね」

 

そして近くまで寄っていってみると、ドクンドクンと脈打つ妖魔のその気持ち悪さに椿も私も顔をしかめてしまう。

 

【もう大丈夫よ、替わりなさい椿。コイツ自身には戦闘能力は無いわ。ただ単純に妖怪に寄生して、そいつを操って食べた妖怪の栄養を自分の物にするだけの奴よ】

 

「んっ、分かった。こんな奴、僕達じゃどうやって引き剥がすか分からないし、今回は妲己さんに任せます」

 

「うあ〜気持ち悪い!見た目だけじゃなくて生態まで聞いてるだけでゾワゾワしてきたよ・・・」

 

それから椿は再び妲己さんに身体を貸そうとする直前に忠告の言葉を一言言った。

 

「――だけど余計な事なんかしたら、僕の"神妖の力"で浄化するからね」

 

【ふふ、分かってるわよ。さて、それじゃあ・・・久々にいただきま〜す】

 

椿と交代した妲己さんは嬉しそうに返事をして、赤ゑいに寄生している妖魔を以前に見た時と同じようにして黒い球体へ吸収していった。

 

・・・まぁ、その妖魔本体の姿はタンポポの根っこかと思うくらいにやたらと長かったけれど。しかし本当に気持ち悪い妖魔だなぁ、今日絶対悪夢を見る気しかしないよ。

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