私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
妖魔を吸収し終えてから妲己さんは再び椿に身体を返して、私達はやっとこさ海岸へ戻ってきた。
ちなみに、妲己さんは妖魔を吸収した事でかなり回復出来たのか、先程からしきりに椿と私へ話しかけてきている。
【いや〜アイツ案外育ってたわね〜!そのお陰様でかなりの時間、起きていられるようになったわ〜】
「妲己さんにそう言われると、私はとても不安になるけれどね・・・」
それに、妲己さんが長時間起きていられるという事は、椿も私も常に彼女からちょっかいをかけられる事にもなるので正直面倒臭いのだ。
「全く、妲己さん。あんまり調子に乗ってたら、本当に浄化するからね」
【あら、なら・・・やってみなさいよ】
椿が少し威圧的に注意すると、妲己さんは更にその上をいく威圧感を含んだ言葉を返してきて私達は押し黙ってしまう。
確かに、少し考えてみれば椿の"神妖の力"を封じていたのは妲己さんであると聞いていたので、流石に簡単には浄化されないようにしているのだろうか。
それならば、他の方法で――とも思ったのだが、これまでの妲己さんの行動を思い返してみると、彼女は本当に悪い妖怪だったのか?と思えて仕方ないのだ。・・・いやまぁ、命に関わらないとはいえ椿と一緒に恥ずかしい目に合わされたりはしてはいるんだけどね。
とにかく、根本的な所で椿の事がハッキリしてない以上は警戒しておくくらいしか出来ない。そして今後、椿の事を守る為にも私はより強い妖術を使いこなせるようにならなくちゃいけない。
「はっは〜!どうよ、俺様の力はよ〜・・・つっても星熊が手伝っちまったからちと微妙だし、それにコイツ美味そうに見えね〜な」
「全く、一々酒呑は細かい事を気にし過ぎだ。それにしても・・・ふむ、"赤ゑいの魚"の実物は初めて見るな」
そんな事を考えていると、酒呑童子と伊吹が会話しながら此方へ歩いてきた。しかも、2人共赤ゑいを釣り上げたからか随分と上機嫌で酒呑童子は酒を飲みながら、伊吹は赤ゑいのスケッチを取りながら歩いてくるので私達はついつい後ずさってしまう。
「おいおい〜2人共逃げんじゃね〜よ〜。折角助けてやったのによ、礼の一つでもな――」
「それはそれとして何してくれとんじゃワレぇ!さっきので私達が死んだらどうすんだよ!!」
「ふげっ!?」
「おぉ〜、中々良い拳を振るうね」
ふと忘れかけていた事を思い出して、私はとりあえず酒呑童子の鳩尾に1発正拳突きをお見舞いしてやった。そして、それに続けて狐2人も怒った様子で酒呑童子の脳天にゲンコツを振り下ろす。
結果的に赤ゑいの暴走を止められたとはいえ、一歩間違えたら椿も私も命が危なかったのだ。これくらいは当然だと思う。
『酒呑童子、お主はもう少し考えてから行動をせぇ!』
『そうだぞ!椿に何かあったらどうしていたんだ!』
「ま、待て待て・・・釣れって言ったのはそっちだろ!だから言う通りにしたんだろうが」
「文字通り"釣る"なんて思ってなかったんだっての、こっちは!!」
本当に酒呑童子と伊吹の怪力ぶりには驚かされる。ここまで常識が通じない力があるなんて・・・これからは気を付けておかないと。
すると、酒呑童子は私や狐2人に殴られた箇所を押さえつつも、引っ繰り返って気絶している赤ゑいを見て舌なめずりをした。
「まさか酒呑童子さん、本気で食べる気でいるんじゃないよね!?」
「まぁ、一応エイは食べられるからな。全部は無理だろうが――って、何だ?」
私がヤバいと思って酒呑童子を止めようとした時、なんと椿が彼の前へ立ち塞がって睨みつけた。
「あの赤ゑいの魚は烏天狗さん達に頼んで、何処か広い海まで運んでもらいます。だから、酒のツマミにしようとしないでください!」
「あぁ!?折角の酒のツマミを逃がせだぁ!?」
勿論、酒呑童子は椿の様子を面白く思わず、彼女よりも鋭く目元を尖らせて睨みつけてくる。そこですぐに私は彼女のフォローへ入ろうとすると、更に椿は酒呑童子へ言葉を続けた。
「赤ゑいさんは寄生されて、あんな事をしていたんだよ。自ら悪い事をしようとしていたんじゃないんだから逃がしてあげて」
「テメェは勉強が足りね〜な。寄生されていようとされていまいと、アイツは間違って上陸したり近づいてきた船を、自分の身体に積もった砂をふるい落とす身震いだけで何隻も沈めているんだぞ」
「それは人間達が間違っただけでしょ?赤ゑい自身に手配書は無いよ」
その椿の言い分に、私もとりあえずは正しいと思ったのだが、それでも酒呑童子は気を緩める様子は無い。
「はぁ・・・あのな、例えばだ。人間が間違って熊の巣穴に入り込んで、それを熊が追い出そうとしただけなのに、そのせいで危険だからと言って熊を殺して食ったりもしているだろうが」
「それと一緒だって言いたいの?でもね、それはちょっとやり過ぎな所もあると思うんだよ。別に人を食べた訳じゃないんだから、命を奪う必要は無いはずでしょ。そりゃ、人間の味を覚えた熊は凶暴だし殺さないといけない場合もあるかもしれないけれど・・・でも、それは人間による身勝手な行動のせいだよね?」
「うん・・・私も、今は椿の言う事の方が正しいと思っているよ。だから、赤ゑいが今回こうして暴れただけで命を奪おうとするのは止めて、酒呑童子さん」
それから私が椿を守るべく彼女の前へ出て酒呑童子を睨みつけると、彼は先程までの威圧感など嘘だったかのようにニッと口角を吊り上げて笑った。
「はっはっはっ!!すまんな、流石にちょっと意地悪が過ぎた。んん、いやいや・・・ちゃんと"こっち側"じゃね〜か。さっきのはな、お前らを試したんだよ」
「それって、どういう――って、痛い痛い!」
「あで!あだっ!ちょっ、それは褒めてるんですか!それとも、まだ怒ってんですか!?」
酒呑童子の突然の豹変に私達が困惑している中、彼は笑顔のままバシバシと手のひらで頭を叩いてきた。
「んな訳ねぇだろうが、綾。ちゃんと"自分の立ち位置"ってやつが分かってる、それを褒めてんだよ。それに自分がもう"人間じゃない"って自覚出来てんならよ、2人共今更何を迷う必要があるんだ?昨日はあんな言い方をしちまったが、お前らはお前らの"なりたいもん"になれや。お前らの中じゃ、もう答えは出ているんだろうしな」
「えっ?」
「はぁ・・・?」
それだけ言った酒呑童子はキョトンとする私達を後目に、砂浜に落ちている白い岩らしい物体を拾って興味津々で眺めだした。
「アイツの背中を殴った時、こいつを取っておいて正解だったな。こりゃ、質の良い岩塩だ。良いツマミになるな」
「ふぅ・・・これだけ資料が集まれば、次の作品の土台も固まりそうだな。それじゃあ、僕はここら辺で失礼するよ」
そう言ってから2人は、ポカーンとしている私達を気にする事もなく立ち去っていった。なんというか・・・酒呑童子は酒呑童子で塩を酒のツマミにする凄い酒飲みだし、伊吹も伊吹で本当に小説の事以外には興味すら示さないから、鬼は皆こんな変人ばかりなのだろうかと思ってしまいそうだ。
すると、そんな私達の後ろから白狐さんが納得した様子で声をかけてくる。
『ふん。どうやら試されたようだな、椿に綾よ』
「えっ、試された?」
「う〜ん・・・よく分からないけど、椿がまだ人間側にいようとする事とか気にしてたのかな?」
その言葉を聞いてか、白狐さんは更に私達へ問いかけた。
『椿、それに綾。やはり昨日、アイツに何か言われたのか?』
「まぁ、ちょっとした小言をね・・・」
「ん・・・大丈夫、大丈夫だよ。白狐さん、黒狐さん」
椿も私も、いつまでもそんな事で悩んでいく訳にはいかない。そして、たとえこれからどんな事があったとしても、1度道を決めた以上は真っ直ぐ貫こうと決心したのだ。
だからこそ、本当の意味で椿を守る為にも、今よりも強くならなければならない。
それに多くの事を椿自身が背負い込もうとするのなら、私は少しでも彼女にかかるであろう負担を軽くしてあげなくてはいけないんだ。
「あっ!そうだ!さっき吹っ飛ばされた海坊主さんは大丈夫だったの?」
ふと、椿が思い出したように話の流れを変える。
『むっ?あぁ、我の治癒妖術で無事だ・・・というか椿よ、先程の話を誤魔化――』
『まぁ待て、白狐。今根掘り葉掘り聞くのではなく、夜になってから部屋に連れ込んで身体に聞・・・い――すまん、冗談だ』
「はい、宜しいです」
また変な事を言い出しそうになった狐2人を椿はジッと睨みつける。全く、この2人は本当にいつも通りというべきなのか何というべきなのか・・・。
【あらあら、椿〜アンタも目覚めたの?】
「目覚めていません!妲己さんは黙っていてください!それに今思い出したけど、あの時だって綾ちゃんは使い魔の小次郎さん呼べたよね?」
「ぐぇ、すいません。完全に変身の事で頭いっぱいになってて忘れてました・・・あ〜もう、全然締まらないなぁ」
「今度からは気を付けてね」
それから私達は、他の妖怪達に囲まれて感謝の言葉や賞賛を浴びて嬉しそうにしている海坊主を見つけた事で、無事であったと共に友達も出来たらしい姿にホッと一安心して小さく笑みが零れた。
『くっ・・・最初の頃の、あの弱々しい椿は何処へ・・・』
「何か言いましたか、黒狐さん?」
「もう、黒狐さんったら・・・」
『黒狐よ、まだ分からんのか?椿が無理をしているのを。分からんようなら、お前はまだまだだな』
それにしても、こうして改めて見てみると、やはり白狐さんの方が椿の事をよく見ている・・・ような気がするね。
なんというか、椿の貞操を始めとして、狐2人にまだまだ不安な所はあるけれども、流石に一つ屋根の下で暮らしている内に信頼の情も湧いてくるというものだ。
「はい、白狐さん黒狐さん」
そんな事を考えていた時、椿はポケットから貝殻のアクセサリーを取り出して狐2人へ手渡した。
『むっ?』
『これは・・・』
「椿、それいつの間に作ってたの?」
「ごめん、綾ちゃんのも作りたかったんだけど、集めるのに夢中になっちゃって・・・作る時間が、ね。そ、それと・・・僕はまだ白狐さんか黒狐さん、どっちかなんて選べないよ。今はまだ、両方に居て欲しいよ。だから、3人共交換はまた次の機会に――って、えっ?ちょっと?」
椿が驚いたのも無理はない。なんせ実は私も少ない時間で作った、あの派手な貝殻のヘアピンを彼女の髪へ付けてあげたのだから。
そして、狐2人もそんな私の行動に少し嫉妬したのか、それに続けて自分達の作った貝殻の指輪を椿の左手・・・白狐さんは人差し指に、黒狐さんは小指にそれぞれはめた。
「ふふ、そこまで気を遣わなくても良いよ。私は、こうして椿と一緒に楽しめた思い出だけでも十分嬉しいからさ」
『我らの方も、すまんな椿よ。答えを迫るには少し急かし過ぎたようじゃな』
『ふっ、だが・・・これはまだまだどちらにも可能性がある、という訳だな』
「全く2人共、調子に乗っちゃって・・・」
それから狐2人は立ち上がって、満面の笑みを椿へと向けて見せる。
そして2人から椿へ贈られた2つの指輪は夕陽に照らされてキラキラと輝いており、それに負けじと私の贈った貝殻のヘアピンも橙色の光を受けて琥珀のように輝いていた。
その光景に椿は嬉しいのか恥ずかしいのか、顔を夕焼けと同じくらいにボッと赤らめる。
「うぅ・・・で、でも・・・結婚するっていったって、どっちかなんて――」
「あら?妖怪の法律ってやつも、結婚出来るのは1人までなの?」
そう言って椿が悩みかけた時、私達の隣へ夏美が現れて不思議そうな顔で首を傾げてきた。すると、狐2人は少し驚いた表情をしてから再び元の真剣な表情に戻る。
『確かに、そんな法律は無いが・・・しかし、我は日本の守り神である以上、日本人のイメージを崩す訳にはいかんからな。よって、嫁は1人しか取らん』
『俺も同じくだ』
「な〜んだ、案外めんどくさいものね。守り神ってのも」
夏美の質問でひょっとしたら何とかなりそうなのでは?と思ったのだが・・・結局、狐2人の椿を取り合うのは防げそうになさそうだ。
『――というのは建前でな。神話では、日本の神も浮気をしていたり2人以上の妻がいたりするからな。法律を定めているのは人間だけ、我らには関係のない話だ』
『そうだな。本当は椿を独占したかったが、決められなかった時はそうするとしよう』
「え?マジですか?」
なんというか・・・うん、この2人は本当にブレないね。ちょっと面倒そうな事になるかも、と思っていた私がバカだと思うくらいには。
もちろん、そんな答えが返ってきたので椿は夏美を睨みつけて耳や尻尾まで逆立てている。
「あ〜、その・・・ドンマイ、椿」
「そんなに尻尾を立てて威嚇しても、ただ可愛いだけよ。まぁ、とにかく頑張りなさい。悔いの無いようにね」
夏美がそう言ってから立ち去っていくのを見届けると、狐2人は自信満々な様子で椿の前に立って彼女を担ぎ上げた。
『さて、祭りまではもうすぐだ。せめてそれまでの間、我らの寵愛を受けてもらおう』
『そうだな。久しぶりにそうするか!』
「ま、待って〜!白狐さん、黒狐さん・・・あの、僕、もう十分だから!十分ですからぁ〜!!」
「ちょ、ちょっと待ってっての〜!この変態狐共〜!!」
椿を担いだままピューンと駆け足で走っていく狐2人を追い掛けて、私も彼らの後に続いて旅館へと走っていったのだった。
あのまま狐2人のどちらかが椿と結婚する事になるっていうのには未だ賛成出来ないけれども、でもこうして皆で楽しく暮らしていたい・・・最近は特に、そう考えてしまう時がある。一体何でだろうね、私は狐2人とは違う・・・と思うのに。