私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――日が暮れて、海岸の祭り会場近くにて
私達はカナや雪達と共に、海岸沿いへ出ている出店前の道路を歩きながら打ち上げ花火がよく見える神社へ向かっていた。
「それにしても、妖怪も来ているとなると中々祭りも賑やかに見えるね。私は賑やかなのは好きだから良いんだけど」
「あ〜そっか・・・妖怪の方々も此処の祭りを楽しむから、なんというかその・・・とても良い光景だよね、綾ちゃん」
何故か椿は苦笑いをしていたが、きっとこういう人賑わいを経験した事が無かったから緊張しているのだろう。
まぁ、そうでなくとも一般の人に紛れて様々な妖怪が歩いているし、出店でも一部は妖怪が出している店もあるみたいだから色々驚いてしまうのも無理はない話か。もちろん、それらの様子は普通の人には何にも見えていないようだ。
・・・それを普通に面白いって思えてる時点で、私も相当妖怪の世界に染まってきているんだな〜と苦笑いを浮かべてしまう。
「それよりも椿ちゃんと綾さん。2人共その浴衣、可愛いね。海岸で花火をした時のとは違う浴衣じゃん」
「カナちゃん、ありがとう・・・」
「っていっても、これ実はどっちも里子が用意してくれていた物なんだけどね。なんか、いつの間にか私の分まで用意してもらっちゃって悪いなぁ」
私と椿はヒラリとゆっくり浴衣を翻してカナへ答えた。それにカナの目がまた正気を失いかかってるみたいだけど、よくよく考えれば椿は"見える人"には狐の耳や尻尾が付いた何処ぞの萌えキャラに見えるんだし、私だって銀色の髪をポニーテールしているんだから、カナにとって私達はどちらも非常に可愛らしく見えるみたいだ。
「でも、ごめんね2人共。綾ちゃんがいたからとはいっても白狐さんと黒狐さんの寵愛が無ければ、もう少し早めに・・・ひっ!ちょっと雪ちゃ・・・どこ触って・・・」
椿が遅くなった事を謝ろうとすると、雪が突然椿の尻尾を握ってモフモフしだした。
「椿。声、出したら気付かれる」
「おいおい雪、あんまり椿を弄らないであげてよ?」
「綾、大丈夫。一般人から見ても、私が何をしているかは分からないから、そのまま歩いて」
「き、聞いちゃいない・・・」
はぁ、と私はため息をつく。なんで急にそんな事をしてくるのかと聞こうとすると、雪は椿と私にとんでもない事を口走ってきた。
「椿。本当は、白狐さんや黒狐さんとイチャラブ出来て楽しかったんでしょう?綾も、今日は特に椿とずっと一緒にいて楽しそうだったし」
「ぶっふ!?ちょ、何をいきなり・・・」
「いや・・・た、楽しい訳じゃないけど・・・ひっ、ぐぅ!」
「楽しかったんでしょ?」
「「〜っ!!」」
それから更に雪が椿の尻尾を強く握って、此方へと少し強く問い詰めてきたので、椿も私もそれぞれ尻尾への刺激や恥ずかしさが頂点に達してしまった。
「か、カナちゃ・・・助け・・・」
「良いわ〜雪〜!2人の悶える表情、可愛いわ〜!」
「しゃ、写真撮ってるぅ!?」
ここまできて、私達はやっとカナと雪にまんまと嵌められた事に気付いた。
「うぅ・・・わ、分かったよ。楽しかった・・・楽しかったです!」
「だ〜もう!私も楽しかったよ、ちくしょ〜!ほら、言いましたよ!だから、いい加減に雪は椿の尻尾から手を離してあげて!」
「そう・・・」
すると、観念して私達の正直な気持ちを白状したというのに、雪はまだ尻尾を握ったまま寂しそうな顔をしていた。
「う、その・・・悪かったよ、強く言い過ぎた」
「ちょ、ちょっと・・・ゆ、雪ちゃん?僕、何か悪い事言っちゃった?」
「・・・ううん。さっ、早くかき氷、食べに行こ」
しかし、雪は首を横に振ってからすぐに椿の尻尾から手を離して、いつもの雰囲気へ戻って先へと歩いていった。
「本当、雪はとことんかき氷が好きだよね・・・とはいっても、何かさっきの顔は引っかかるなぁ」
「カナちゃん。ひょっとすると、雪ちゃんも何か言いにくい事を抱えているの?」
「多分、そうね・・・というよりは、半妖の人はほぼ全員、心の内に抱えているものがあるから、2人共一応気を付けておいた方が良いわよ」
「なるほどね、これからは気を付ける事にするよ」
「そうだったんですね・・・」
カナの話が雪にも当てはまるとするならば、きっと雪にはまだ悩み事が残っているという事なのだろう。
そして、それを私達にも話してくれないのは、恐らくカナが私達へ彼女自身の過去を隠しているように、椿や私に嫌われたくないからかもしれない。
そうなると、もう雪自身が私達へ悩みを打ち明けてくれるのを待つしかない。
あまり雪も、1人で抱え込まなければ良いんだけど・・・。
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――それからしばらくして
私達は皆でかき氷や焼きそば等を食べ歩いていると、ふとカナがくじ引き屋の前で立ち止まる。
「カナちゃん?」
「急に止まってどうし――わぉ、くじ引き屋ですか」
カナがやりたそうな目をしている横で私もくじ引きの景品を見てみると、棚の大当たりの場所には女の子っぽいアクセサリーに、一昔前に流行ったような抱っこちゃん人形のビニール風船が置いてあった。
少し景品が物足りなく感じるけれども、私からすればそんな古めかしさすらも楽しく思えてくる。
「私、こういうの当たった事がないのよね〜。でも毎年ね、何時かは当たると思って必ず1回はやる事にしているの!」
「えぇ・・・それならカナちゃん、向こうの方にあるゲーム機本体とかソフトとか、もっと高価な物の当たる方が・・・」
「チッチッチッ、甘いね〜椿は。こういうお店には"浪漫"ってのが沢山詰まっているからこそ面白いんだよ」
「綾さんの言う事にも一理あるけどね。椿ちゃんの言う、そういうくじ引き屋の方は大体当たりくじが少ないのよ。それなら、こういう所の方が当たりくじが多くて狙いやすいでしょ?」
「み、身も蓋もない事言うなぁ、カナは・・・」
「おじさん、1回お願い!」
「よっしゃ!なら私も1回やります!」
そして、カナに続いて私も屋台の人へ声をかけてくじ引きの代金を手渡した。
「ふっふっふ、今年こそは――とぅ!!」
「こっちの方も――あったれぇ!!」
私とカナはそれぞれ、手を突っ込んだくじの箱から勢い良く引く。
・・・ふっ、これは当たったな。
そう思って、引いたくじを見てみるが――そこには残念ながらハズレ感満載な3桁の番号が書いてあるだけであった。
「ありゃりゃ・・・お嬢ちゃん、残念だったな〜。ほら、この景品から選んでくれよな」
「だぁ〜ダメか〜!ん〜っと、じゃあ・・・この腕時計で!」
小当たりと書かれた箱からプラスチック製のデジタル腕時計を受け取った私は、くじを引いたカナの方へと視線を向ける。
彼女もハズレを引いてしまったのだろうか、そう思っていると――
「お、1桁番号か?大当たりじゃね〜か!よし、好きなやつ持ってけや!」
「うわぉ、マジで?良かったじゃん、カナ!」
「えっ、やった〜!遂に、遂にキタァァ!!」
なんと、カナは大当たりを引き当てたのだ!
そして彼女は大当たりの棚から、あの抱っこちゃん人形を貰って戻って来ると、ニコニコしながら事の始まりから終わりまで見て何とも言えない顔をしていた椿の腕に人形を抱きつかせてプレゼントする。
「うん、これで万が一椿ちゃんが迷子になってもすぐに見つかるね」
「へぇ〜!でも良いの、カナ?そんな大当たりの景品を・・・」
「そりゃ大当たりが当たった事は嬉しいけどね、綾さん。でも、私は椿ちゃんともその喜びを分かちあいたかったんだ〜」
「もうカナちゃんったら。嬉しいのは良く伝わったけれど、僕は子供じゃないから迷子なんてなりません」
「まぁ、まぁ・・・椿、似合ってる」
頬を膨らませる椿を雪が宥めている姿に微笑ましく思っていると、ちょうど左の方から今度は楓の声が聞こえてくる。
「お〜い、椿姉さ〜ん!綾姉さ〜ん!やっと見つけたっす!」
そして、楓の方へ視線を移す。
その視線の先には浴衣姿の楓がたった今椿がカナから貰ったような抱っこちゃん人形を腕に付けて嬉しそうにしており、その隣には人魚の海音が少しムッとした様子で私と椿の方を見ているようだった。
「お〜楓!そっちも、なかなか浴衣似合ってるじゃんか」
「姉さん達の方こそ、とっても綺麗で更に惚れちゃいそうっすよ〜。あ、それと・・・どうっすか?姉さん達、これ!当てたんっすよ!大当たり・・・っす」
「えっと、あ〜っと・・・その、色々とごめんな楓?」
楓が椿の方に近づいてから、同じ物が彼女の腕にもある事を知って足を止めたのを見て、その現場にいた私は少し気まずくなる。
「むむ・・・やるっすね、椿姉さん。流石です」
「いや待って、これはカナちゃんが当てたんだよ!僕じゃないからね!」
「えっ、そういうフォローになるのこれ?ま、まぁ確かに椿の言う通りではあるんだけどさ」
よく分からない否定をする椿に、私も困惑して思わず首を傾げてしまった。
ちなみに、楓達も今は普通の人から見えるようにする為の妖具を付けているので、何とか"何にも無い空間に向かって喋るヤバい人"にならずに済んでいる。
そして、今度は海音が私達へ挨拶をしてきた。
「こんばんは。都会に比べたら、こっちはショボいお祭りでしょ?」
「そんな事無いよ。こういうお祭りの方が、僕は好きだし」
「ショボいって、そこまで自虐しなくてもなぁ・・・私だってお祭りなら何でも好きだし、やっぱり賑やかなのは良いね」
そう海音へと答えると、彼女は更にムッとして口を尖らせてくる。
「またまた〜そっちは京都で有名な、あの"祇園祭"を見に行けるじゃん」
「あぁ、あのお祭りですか・・・ん〜」
「海音の言う通り、確かに見れるけどさ。その、何だ・・・行くのも帰るのも人混みが酷い有様で、あんまり好きじゃないんだよね」
私はそんな話をしながら、数年前くらいにオジサンへ駄々をこねてまで見に行ったのを思い出した。あの時も、乗り継ぐ為の地下鉄ですら人が渋滞していたので、何処で何を買ってもらったかなんて分からなくなる程に大変だったのは良く覚えている。
それならば、賑やかさや華やかさという点では劣るものの、こっちの昔ながらなお祭りの方が気分も程よく落ち着けて楽しめるというものだ。
「そうだ、海音さん!今度自分が姉さん達の所に行くので、その時に案内ついでに連れて行ってもらいましょう!」
「良いわね〜それ。そうしよっか」
すると、楓と海音はそんな話をしながら、テンションが上がって祇園祭へ行きたそうな顔をしだす。
ただ、2人には残念ではあるのだが「ある事」を伝えていなかったのを思い出して、私は途端に気まずくなってくる。
それを察してなのか、私よりも先に椿が2人へと「ある事」を打ち明けた。
「あのね、2人共。祇園祭なんだけど・・・2人が想像している、歩行者天国になったり沢山の出店が出たりするその祭りは、もう終わっているから・・・」
「うん、その・・・つまりは、そういう事。なんというか、楽しみにしてくれたのにゴメン」
それを聞いて、2人は心底驚いたような顔をして口をパクパクさせた。
「それに祇園祭は夏休みの前にやってるから、例え私達が行きたくても期末テストの追い込みのせいでマトモに楽しめないんだよ・・・」
「そういえば、クラスの子達が行ったって言ってたっけ。テスト前なのにね〜・・・あれって、案外早くにやっちゃうよね〜。でも、こっちとしてはありがたいよ」
「そうそう、カナの言う通り。夏休みにやられていたら、もっと地獄」
「やっぱりあれ、人混みがとんでもなさ過ぎるんだよね。そこだけ本当に何とかなって欲しいよ〜」
カナと雪の言葉に私も椿も同調して頷く。そして、楓の方は「ガーン!」という擬音が聞こえてきそうなくらい、とても残念そうにして頭を抱えていた。
・・・別に今のは「祇園」と「擬音」をかけた洒落のつもりで思った訳じゃないよ、うん。
「うがぁ〜!そ、そんな〜!知らなかったっすよ〜!!」
「あらら・・・それじゃあ楓ちゃん、来年まで翁の家で頑張ってね〜」
「サラッと海音も酷い事言うなぁ。まぁ、祇園祭自体は7月の初めから終わりまでやっているらしいし、2人が行きたがっていた1番有名な行事が終わったってだけだから、山車(だし)って神輿みたいな物の巡行だけなら何とか月末には見れるかもね」
「うぅ、神輿だけ進むの見ても楽しくないっすよ・・・」
「あはは・・・だよな、本当にゴメン」
ここまで楓が楽しみにしてくれたのだから、来年になったら今度こそ皆でちゃんと見に行きたいものだ。とりあえず、私は私で祇園祭に行く為に、来年の期末を楽々乗り越えられるくらいには勉強しようと思う。