私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
祭りが終わってからの残りの日々も、私達は何度も海に行ったり様々な修行を体験したりと、これまでには無かった程に濃密な時間を過ごした。
――その楽しかった時間もあっという間に経ち、1週間の旅行が終わって帰る日となったのだった。
「楓、しっかりと修行してきなさいね」
「分かってるっすよ、母ちゃん!」
そして今は、私達の住む所へ一緒に過ごす事になった楓を待って、車の窓から両親と話している彼女を眺めている。
「まぁ、泣いて帰ってくるのが目に見えるがな」
「ぬっ・・・父ちゃん、そんな事ないっす!」
そう言って楓は両親に見送られながら私達の乗る車の方へと走ってくる。
海音も「来年の祇園祭は絶対に見に行くからね!」と私と椿へ窓越しに話していたので、その時は期末テストを無事に終わらせて、しっかりと案内出来るようにしようと思う。
私達の近くに座っているカナと雪は、両親と仲良く話していた楓の方を見てか、羨ましさと寂しさが混ざったように複雑な表情を浮かべていた。
・・・まぁ、ちょっと気になるのが、無意識なのか2人が椿の尻尾を掴んでニギニギとしている事なのだけど。
「・・・っ」
「椿、あんまり無理して触らせなくても大丈夫だと思うよ?」
「へ、平気だよ、綾ちゃん。カナちゃんも雪ちゃんも寂しそうだったし、それが少しでも紛れるなら・・・ね」
「う〜むむ・・・だったら、はい」
そんな椿の2人への気遣いに私は少し申し訳なく思い、自身のポニーテールをカナと雪の手元へ差し出した。
「うん。何だか分からないけれど、椿ちゃんも綾さんも気を遣ってくれているし、いっぱい触っとこうか雪」
「もちろん」
「なんだよ、無意識で触ってたんじゃないのか〜い。それなら、椿の尻尾は離して欲しいかな〜?」
そうして椿と私はカナと雪を無言で見つめるが、逆に2人は嬉しそうな笑顔を向けてきたのであった。
「椿ちゃんも綾さんも可愛い〜」
「2人共、そんな顔しても無駄」
「う〜」
「ぐぬぬ・・・」
全く・・・2人から可愛いと言われると、何とも振りほどきにくいではないか。
そうこうしている内に、楓の方も車の扉を開けて私達へ飛び込んできた。
「あっ!自分も混ざるっす〜!!」
「「混ざらなくて良い(です)!」」
もうやだ・・・これからの日常が更に大変になりそうだよ〜。
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――帰りの車中にて
車が出る直前までは「姉さん達と色々喋るっす!」と息巻いていた楓だったが、30分もしない内にウトウトとしてきて最終的には椿へもたれかかるようにして眠ってしまった。楓の寝顔に、先程まではあんなに騒がしかったというのに、眠ってしまうと結構可愛いものだなと思う。
『随分と好かれたな、椿に綾よ』
「そうだね。なんか、僕と綾ちゃんが楓ちゃんのお姉ちゃんになった感じがするよ」
「あはは・・・でも1週間も遊びまくって、その上に昨日も夜遅くまで起きて遊んでいたからね。そりゃ疲れて眠たくもなるかもね」
椿が膝上で眠っている楓の頭を優しく撫でる。
運転している白狐さんの方を見ると、その隣の助手席に座っている氷雨さんがため息をついていた・・・まぁ、理由は何となく察せるのだけど。
氷雨さんの愛しい愛娘である雪はカナや夏美と共に私達の後ろの席でグッスリ眠っているのだ。多分、楓と同じく車の中でも娘とたくさん話をしたかったに違いない。
『2人も、眠たければ寝ると良い。お主達も昨日は遅かったのだろう?』
「ん〜・・・まだ大丈夫です」
「私も、今はまだそんなに眠くはないかな」
眠いかと言われれば、確かに眠いといえる状態ではあるのだが、だからといってアッサリ眠れるという感じでもない。
そして特に何にも考えず、ぼぅっと窓の外に流れる景色を眺めていると、ふと椿が白狐さんへと質問する。
「ねぇ、白狐さんは・・・僕を独り占めに出来なくても良いの?」
「あ〜、そういえば。少し前に白狐さんと黒狐さんから色々言われてたっけね。2人のどっちかを選べない場合、椿は両方に嫁ぐ事になるとか何とか・・・私は全力で止めたいけども」
「綾ちゃん、今はそんな事言わなくて良いの」
「はいはい、意外と椿も2人には結構甘いよね〜椿の幸せを願う、私という親友もいるのにさ〜」
「気持ちは十分ありがたいけど、でもこれは僕自身の気持ちの問題なのです」
椿からそう言われて、私は何とも返す事が出来ずに苦笑いを浮かべてしまう。確かに、椿の気持ちを尊重したいのは山々なのだが・・・なんというか、まだ狐2人への"答え"を出して欲しくないといった感じだ。
『ふっ、本当に綾は椿の事を想っているのだな。さて、まぁ相手が黒狐というのが納得いかんがアレでも奴はスジを通すのでな。お互い同意しなければ、絶対に手を出すような事はしない』
「へぇ〜、信用しているんだね」
『まぁな。椿と綾の関係みたいなものだ、あそこまで仲良く楽しんだりは出来ないが』
「さりげに私の事を褒めても、特に色恋沙汰の手助けはしないからね?」
その私の言葉に、椿も白狐さんも苦笑いをした。
ところで、彼の例えとしては椿と美亜の関係も近く感じるものだが、そういえば美亜は海坊主の事はどうするつもりなのだろう。
正直、彼には友達が出来たのでそれ以上の事はどうでも良いのだけど・・・美亜には絶対知らず知らずの内にカモにされてると思う。とりあえず、美亜には後で一応注意だけしておこう。
そして、今の話題から切り替えるように白狐さんが話を続ける。
『そういえば、酒呑童子と星熊童子の奴らも翁の家に来るようだ。やはり、亰嗟の動きは京都市内が1番活発らしいからな』
「マジでか・・・また任務サボって面倒な事にならなきゃ良いんだけど」
『それと、亰嗟の支部らしき場所も見つかっているからな。今回捕まった妖怪も、そこに居たら良いが・・・』
「「・・・」」
白狐さんの言葉で、私達はまたチーム鬼ごっこの時の事を思い出してしまう。
恐らく彼は蟷螂坂や磯撫での事を気にしていると思い心配してくれたようだけど・・・確かに、まだ椿も私も完全には気持ちの整理はついていない。無事に救出されてくれれば良いけれど。
「白狐さん・・・ありがとう」
「うん。何時までも落ち込んでたって、しょうがないよね」
そんな白狐さんの気遣いに感謝して、私も椿の膝で眠る楓の頭をそっと撫でた。
「ん〜姉さん達・・・どうっすか?自分、こんなに胸が大きく・・・むにゅ」
「いっぺんシバいたろかコイツ」
「もう、綾ちゃんは胸の事で一々怒らないの。っていうか、楓ちゃんもどんな夢を見ているの?」
そう言いつつ元々男だったからか、椿は不思議そうに首を傾げている。
「そんなに女の子って、胸の事が気になるのかな?」
「めっちゃ気にしてるよ、うん。なんせ、私があんまり不良なもんだから街では――」
『椿よ、男の象徴の"アレ"と同じだ』
「あぁ〜なるほどね」
「なんでソレと一緒にされなくちゃいかんのだ〜」
せっかく、私が胸の小さいせいでアレコレと男子に間違えられる悩みを打ち明けようとしたのに・・・白狐さんめ。そんなバッサリと切り捨てた事、絶対忘れないからね。
そして何を考えていたのか、徐々に椿が赤面していく中で、更に氷雨さんが追い討ちのようにとんでもない事を口にする。
「白狐のも大きいわよ」
「ぶっ!?」
「えっ、本当に!?あっ・・・」
椿の思わぬ反応に私は驚いて彼女の方を見ると、椿は「やってしまった」といった様子に顔を真っ赤にして必死に顔を隠そうと俯いていた。
あー・・・これは、彼女の為にも敢えて触れないでおこう。
『何だ、椿。気になるか?よし、じゃあ今夜は一緒に風呂に――』
「入りません!」
「っていうか、そもそも一緒に入らせるかぁ!」
そして白狐さんも悪ノリするのは止めていただきたい。ついつい大声を出してしまったではないか、皆が起きてしまったらもっと大変だというのに。
皆がまだグッスリと眠っている事を確認した椿が、事の発端を言い出した氷雨さんへ文句を言う。
「氷雨さんも、いきなりとんでもない事を言わないでください。それに・・・白狐さんの、見たんですか?」
「ふふ、気になる?」
『やめろ氷雨。あれは不慮の事故だ・・・』
「うわぁ・・・ご愁傷さま、白狐さん」
「見せたんだ・・・」
『いや、だから椿に綾よ。故意ではない』
例えるならば、逆ラッキースケベといった所だろうか。うん、これは完全に不幸な事故ですね本当にありがとうございました。とりあえず、さっき私の胸についての話題を中断させたバチが当たったね。
「でも、凄かったわね〜白狐のアレ・・・」
「へぇ〜そうなんですか〜。参考までに、どれくらいなのか教えて貰えます?」
『氷雨、いい加減にせんか!綾も、先程話を切ったのは謝るから勘弁してくれぬか・・・』
「「ぬぬぬ・・・」」
私と氷雨さんは揃ってひょっとこのように口を尖らせる。なんだ、もう少しくらい弄らせてくれても良かったのに・・・それくらい、私は胸にコンプレックスを抱いているのだ。
そして、椿も無言のまま白狐さんへ訝しげな眼差しを向けている。
『おい、椿!何か勘違いしとらんか!?』
「別に・・・」
「あらあら、流石にからかい過ぎたかしら?ごめんね〜ウッカリ脱衣所のドアを開けてしまって、裸の白狐を見ただけだから」
「恋愛漫画で王道な事故だなぁ・・・」
すると、椿は拗ねてしまったのか白狐さんから身体を背けて私へもたれかかってきた。
「もう良いよ、寝ます。着いたら起こして、綾ちゃん」
『なっ、椿!』
「うん、なんというか・・・ドンマイ白狐さん。ついでに私も寝る事にするよ・・・ふぁあ」
椿が眠りに落ちるのに引っ張られる形で、私も腕を組んで瞼を閉じた。それにしても、普段は怒ったりしない椿があそこまで拗ねるなんて、白狐さんも相当好かれているんだな・・・そう感じてしまって、なんでか私の心も晴れ晴れしなくなってしまう。
多分、これは一時の気の迷いで寝てしまえば、またいつも通りに戻れると思うけど・・・ね。