私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――自分は深い眠りの中にいた。
それだけは今、主である綾に呼び出されていない事から自然と自覚が出来ている。そして、この夢の記憶は普段では思い出す事すら出来ない。
この夢から引き揚げられ、いつの間にか水中へ落ちるように再び夢へと落ちている感覚は、もう何度も体験してきて今更驚く事はなくなっていた。
そんな自分・・・鉄烏という使い魔「佐々木 小次郎」の名前を与えられて私は「烏森 綾を守る」、それだけの存在理由を与えられて生み出された・・・はずだ。
しかし、最近では何故か「自分ではない、別の何者かの記憶」が浮かび上がってきて、その存在理由に"どうしてなのか"という疑問を抱いてきている。
呼び出される時の光以外には何もなく、ただ闇一色が広がる空間の中――
私は「また夢を見る」。
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――何処か見覚えのあるような山。景色は秋の時期なのか、紅葉があちらこちらから舞い降りている。
歩く私の前には、綾と良く似た幼い少女と海のような紺色の着物を着た女性が隣合って仲良さげに山道を歩いていた。
いつ頃の記憶なのか、それは分からないが「私自身にとって非常に大切な記憶」である事は確かなようだ。
そして、もう1つ思い出せたのは「自分達はある理由から、あの少女を連れ出して逃亡生活をしていた」事だった。
「えっへへ〜〇〇〇と一緒に暮らせるなんて楽しみ〜!」
「ふふ、はしゃぐのは早いわよ"アヤ"。まずは、ちゃんと皆で暮らせる家を探さなくちゃいけないんだから」
楽しそうに紅葉の絨毯を跳ね回る少女"アヤ"に、女性は諌める口調ながらも同じく嬉しそうな表情を浮かべている。その女性の顔立ちは最近何処かで見たような気がするのだが、頭にモヤがかかったかのように目の前の女性と一致している感覚はしなかった。
そう思っていると、「自分の身体を持った何者か」が前へ離れた2人へと声をかける。
「綾様、それに〇〇〇様も。あまり私から離れないようにしてくださいね」
「わかってるよ〜小次郎!ほんとう、〇〇〇よりもしんぱいしょうなんだから〜!」
「すまないわね、小次郎。屋敷で私の護衛を勤めていた貴方を、こんな形で巻き込んでしまって・・・」
――思い出した。紅葉の山へ寝そべってむつける、あの少女は今の我が主だ。
そして、女性は申し訳なさそうな顔で私の方へと振り返る。
「いえ・・・貴方様方に誠心誠意仕える事こそが、あの家に送られた時からの私の役割ですので」
「そうね、貴方は昔からそうだったわよね。でも、あの狂った家から解き放たれた今からは、貴方も自分の生きたいように生きてみると良いわ」
「私の・・・生きたいように、ですか?」
その女性の言葉も、何故忘れてしまっていたのかと思い出す事が出来た。
そうだ、私はかつては――とある家に仕える人間であった。
「そうよ、小次郎。今まで自分がやりたくてもやらせてもらえなかった事とか、そういうのを始めるの。新しい私達の生活と共にね」
元々はその家と古くからの馴染みがある家の生まれだったのだが、当時における「口減らし」の意味も込められて送られた・・・そんな人間だった。
穀潰しの自身に役割を与えてくれ、そして必要としてくれた家に仕える以外に自分の価値は無いと思っていた。
だが、あの女性と綾に仕える命を受けてからは全てが変わって見えるようになったのだ。屋敷の人間からは感じる事のなかった人からの感謝の"思いやり"、こんな自分を気にかけてくれる"暖かさ"にいつの間にか私は惹かれていったのだと思う。
「しかし〇〇〇様。もはや私には、自分でも何をしたいのか分からないのです」
「う〜ん・・・まぁ、でもその内にきっと見つかると思うわ。だって、私達をここまで支えてきてくれたんだもの。それは紛れもなく、貴方自身の意思が起こしてくれたからこそよ」
「そう、ですか・・・お褒めに預かり光栄です」
だからこそ、この2人は絶対に守り抜こうと思えた――しかし、
「ようやく見付けたぞ!我が一族を裏切っただけでなく、当主様までも連れ去りおって!」
「小次郎!貴様、自分が何をしたのか理解しておるのか!?」
「――っ!まさか、もう此処がバレたの!?」
そう言って私の後ろから、綾と女性に対する追手が刀を抜いて彼女らへと斬りかかろうとする。
「自分が何をしたのか、か・・・そんな事は、もうとっくに理解している。理解しているからこそ、お前達みたいな連中から目を覚ます事が出来た」
「なっ――ガっ!!」
「貴様、あの2人に何を――ぐごっ!」
私は脇を抜けようとする彼らへと素早く腰の刀を抜いて、居合の型で一瞬の内に首や胴を切り落とした。
紅葉の山道に汚らしい鮮血が飛び散るのを見て、私は遂に幸せの終わりが来てしまったのだと悟った。
「〇〇〇様!綾様を連れてすぐに逃げてください!ここは私が――ぐぅ!?」
それから急いで2人へ叫んだが、その瞬間に「この夢の私」の右腕が酷い激痛と共にドサリと落ちる。
そして現れた、綾と顔立ちがそっくりな黒髪の少女が、大鎌を持って深いため息をつきながら此方を睨みつけた。
「あーあ、ようやくマトモな"複製体"が出来たのに、よくもここまで台無しにしてくれやがったなテメーら」
「バカな・・・烏森の連中は「処刑人」の役割を持つ"複製体"まで用意していたというのか!?」
何故、そんな記憶がふと甦ったのかは分からない。しかし、この夢の私は腕を落とされた程度で身動きを封じられる程ではない人間らしく、残された片方の手で右腕から刀を拾って黒髪の少女へと投げつける。
「2人に手出しはさせ――!」
「だーかーら、遅いっての」
「ご・・・はっ・・・!?」
その満身創痍ながらも全力を出した一投さえも、黒髪の少女は大鎌で木っ端微塵に打ち砕いてしまい、気が付いた時には自身の胸・・・心臓へ大鎌の切っ先を突き立てられていた。
「〇〇〇様もよ、いい加減にそんな失敗作と家族の真似事なんかすんなよな。"何に対しても無感情である事こそ"が烏森の当主の条件だっていうのに、てめぇらが余計な事するから全部おじゃんになっちまって家の連中はブチ切れてるっつーのに」
「〇〇〇!?ダメだよ、もう〇〇〇はたたかわないって!」
綾の前に〇〇〇様が立ち、黒髪の少女を見据えた。その眼差しは、怒りと何処か哀れみを含んでいたように見える。
「お前達をこうなる前に、もっと早くに消していれば、こんな事には・・・!だが、もう逃がさん!ここまでだ!」
〇〇〇様は左手を前に突き出し、手の平から何も見透す事すら出来ない黒一色の玉を作り出す。
「――ごめんなさい、綾。妖異顕現」
それが、「夢の中の私」が覚えている最後の景色であった。
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「・・・次郎、ねぇ小次郎ったら!」
「むっ?どうした主殿よ、また何か困り事か?」
目を覚ませば、そこには酷く焦った様子の"主殿"と呆れた顔で首を振る狐の子――椿殿の姿があった。
はて、先程まで自分は一体"何の夢を見ていたのだろう"?いや、そもそも何故"夢を見ていた事を覚えている"のだろうか?
「実はさ、夏休みの宿題でアサガオの成長日記付けるの完全に忘れてたんだよ〜!それで今朝見に行ったら枯れちゃってて・・・とにかく何とかしてよ小次郎〜!」
「綾ちゃん、だから言ったのに〜・・・「最初の頃に咲かせちゃえばチャチャっと書ける」なんて初日から水をドバドバかけるから・・・」
まぁ・・・その事は今は置いておくとして。まずは使い魔たる者、主殿が困っているのならば助けるのが先決だ。
「む、むぅ・・・流石に、それはやり過ぎだな。どれ、とりあえず現物を見せて欲しい。一部だけ枯れずに残っていれば、そこに成長の妖術をかけて種だけでも回収出来るかもしれないからな」
「マジで!?うわぁ〜ん、頼りになるよ小次郎〜!」
「綾ちゃんは小次郎さんを変な風に使い過ぎですよ?」
それにしても、自分の存在理由について疑問を持つとは・・・全く、"使い魔らしくもない話"だな。
私には私の、「烏森 綾を守る」事と彼女の幸せを願う事が最優先の存在理由だ。
それ以外について考える必要など――今は何処にも無い。