私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
その後、椿の祖父やオジサンが鬼2人を扱き使ってくれたお陰で、数日程度で家は何とか元通りに修復する事が出来た。
そして私達は部屋が直るまでの間、美亜の部屋へお世話になっていた。
初めは椿の提案で、わら子の部屋へお邪魔する予定ではあったのだが・・・案の定というか、あの4人の完全防御態勢の前には歯すら立たずに失敗してしまった。
「あぁ〜やっぱり、朝にシャワーを浴びるのは気持ちが良いんじゃ〜・・・」
そして、今は椿と朝にシャワーを浴びていた。
最近は夜も暑くなってきたのもあって、寝汗を結構かいてしまうようになったので、身体をサッと洗うだけでも大分スッキリする。
「綾ちゃん、シャワーを浴び終えたらタオルでちゃんと身体を拭いてね?最近は結構、雑に拭いているから夏風邪とかになりやすいよ?」
「はいはい、分かってますよ〜。なんか椿って、世話焼きな姉みたいで色々助かるよ」
「むっ、僕は綾ちゃんが心配なだけなんですから・・・もっと自分の事はちゃんとしてください」
「は〜い」
それにしても、以前までは夏でもこんな風に毎朝シャワーを浴びる習慣はつかなかったというのに・・・私も結構変わったかもしれない。
椿の方も、以前まで男の子として暮らしていたのが夢だったのでは?と思ってしまうくらいに、最近はかなり女の子らしくなっているような気がする。
いうなれば、椿と一緒に女子力急上昇中・・・といった所だろうか。そう思うと、別に変な事ではないハズなのに何だか恥ずかしくなってくる。
「ふぅ・・・寝汗を気にするようになるなんて、心も女の子になっていると思った方が良いのかな?」
「でも、サラリーマンのオッサンとかでも朝にシャワー浴びたりするって聞くから、私は別にそこまで問題無いと思うけどね」
「それ、色々と台無しだよ綾ちゃん。途端に自分自身が気持ち悪く感じちゃったじゃん!」
そんな他愛も無い話をしながら、私はふと椿の顔や身体を見て意識してしまった。
なんというか・・・椿が男の子であった時は、それこそ実の弟みたく可愛らしい人だとしか感じていなかったのだが、今となっては完全に女の子といった感じだ。
それに彼女の胸も、以前より大きくなってきているようで男子共からの視線が心配になるのは勿論なのだが、私自身ですら時に椿が魅力的な女性に感じてドキドキしてしまう。
「ん?綾ちゃん、そんなに見つめてどうしたの?」
「あ・・・い、いや!なんか前よりも椿の胸が大きくなったな〜って思ってさ〜あはは・・・」
「そうなんだよね、それで男子の視線が顔から胸にいくようになっちゃったから流石に気になっているんだけど・・・う〜ん、これの何処が良いのかな?」
そんな椿の"胸なんて飾り"みたいな発言に、何時まで経っても胸が成長しない私はついついムッとしてしまって、椿の胸を後ろから揉みしだく。
「むぅ〜、どうして胸が欲しい女子の前でそんな話しちゃうかな〜椿は〜?」
「あっ・・・ダメダメ!何だか変な気分になっちゃうから止めてよ綾ちゃ〜ん!」
そんな事をやっている内にスッカリ湯冷めしてしまって、窓から入り込む微風に私達はブルルと身体を震わせた。
「うぅ〜そろそろ上がらないと、朝ご飯が冷めちゃうよ」
「そ、そうだね椿・・・」
すぐに浴室から出て、私達は濡れた身体をバスタオルで拭いていく。
椿は動物の耳や尻尾がある妖狐な為、その部位は動物のそれと同じようにジットリと濡れてしまっている。なので、耳や尻尾の方はより重点的にタオルで水気を取らなくてはならないようだ。
「んっ・・・!よし、これくらいにしておいて・・・っと」
丁寧に身体を拭いた椿は、洗いたての犬のように耳と尻尾を細かく震わせて残った水気を払い飛ばしていく。だが運の悪い事に、その水気の一部は私の顔面にかかってしまった。
「わぶぶっ、椿〜私の方にまで水が飛んできたんだけど・・・」
「あっ!ご、ごめん綾ちゃん!」
「大丈夫、私は大丈夫だよ。それにしても、やっぱり毎度払い飛ばした水気が壁まで飛ぶのは大変そうだね」
「う〜ん、そうなんだよね・・・尻尾と耳は特に邪魔じゃないんだけど、濡れた後の処理が大変なのが困り物なんだよ」
「なんか良い拭き取り道具とか乾かし道具が有ればな〜」
そう苦笑いをし合いながら、私達はドライヤーで髪を乾かした。ちなみに、その後に私が適当に髪を乾かしていた事が椿にバレて、もう一度彼女に「綾ちゃんは女の子なんだから、もうちょっと身だしなみに気を付けてよ〜」と髪を乾かされたのは内緒の話だ。
「んっ、終わった?」
「よし、これで綾ちゃんも完璧だね!」
やっと椿による二回目のドライヤーも終わり、彼女も尻尾を乾かし終えて、私達は普段着ている服に着替えて鏡の前で身だしなみの最終チェックも済ました。
ついでに、椿から以前「綾ちゃんは笑っている顔の方が良い」と言われた事を思い出したので、隣で笑顔の練習をしていた椿の真似をして私も笑顔を作ってみるが・・・なんというか、余り意識して笑顔を作った事がないので顔がぎこちない感じだ。
「いや〜椿ちゃん、綾ちゃん。2人共、かん・ぺきに恋する乙女だねぇ〜」
すると、何処からともなく里子が現れて私達の後ろから話しかけてきた。
「うわっ!さ、里子!?」
「へっ、里子ちゃん!?何時から居たんですか!」
「えっと、椿ちゃんが綾ちゃんに胸の話をして触られている所からかな〜」
「という事は、覗いていましたね里子ちゃん・・・はぁ」
「えっ、それマジですか?うっわ、恥ずかしい所見られたよ・・・」
それにしても、つくづく里子は気配を消すのが上手いと感心してしまいそうだ。とはいえ、それを椿や私への覗きに活用しているのはどうかと思うが・・・男子じゃあるまいし。
「ところでさ、里子。私や椿が笑顔の練習してるからって、それで恋をしているとは限らないよ?」
「そうだよ、里子ちゃん。別に恋をしている人だけが笑顔の練習をする訳じゃ――」
「あら、海坊主と仲良くしていたからといって、私は練習なんてしていないわよ2人共?」
更に追い討ちをかけるかの如く、今度は里子の後ろから美亜までもが姿を現す。
すぐに私と椿はあれこれ弁明をして誤解を解こうと必死になった。
「うぐ・・・私は単に椿から笑顔の方が良いって言われたから気にしてただけであって・・・」
「綾ちゃん、それは・・・いや、あの、でもね?僕だって別に白狐さんや黒狐さん、それに綾ちゃんの為とかじゃなくて・・・ね?」
「2人共・・・私はそこまで言ってないでしょ?」
「「うぐっ!?」」
なんという恐ろしい奴だ、美亜は!
完全に私達が動揺するのを知ってて、そんな言い方をしてきたのだろうか。
「ふふっ・・・認めなさい、椿も綾も。それこそ、自分が恋をしているって事なのよ」
それから美亜は私と椿の肩にポンと優しく手を置いてきたが、余程今のあれが面白かったのかイタズラな笑みが浮かんでいた。
彼女の好きにさせまいと、私は何か言い返せないかと考えるが・・・困った事に、上手い言い訳すら頭に出てこない。
そうこうしている内に、狐2人が私達を呼びにやって来た。
『おい、どうしたお前達。朝飯は出来ているぞ、早く来い』
『まぁまぁ、黒狐よ。女子の支度には時間が――って、どうした椿と綾よ。2人共、顔が赤いぞ・・・まさか、夏風邪か!?』
「ひっ、あっ、ち、違う!違いま〜す!!」
「ば、ばばばバカじゃねぇですか!?そ、そそそそんなに顔赤かか・・・うわぁぁぁ!!」
完全にパニックになってしまった私達は、気が付いたら猛ダッシュで洗面所を後にしてしまっていた。
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――それから、しばらくして
恋バナを振られた事でパニックになってしまった私と椿は、その後にパジャマ姿で起きてきていた楓に見つかり「朝ごはんを食べに行くっすよ!」と手を繋がれて、それで何とか心が落ち着いたので大広間の方へと向かう。
とはいえ・・・私はともかく、今の椿は狐2人と顔を合わせづらいかもしれな――
『おぉ、椿に綾よ。あんなパニックを起こしてしまって大丈夫か?』
『2人共、顔を真っ赤にしながら逃げていくとは純情だな』
考え事をしながら扉を開けたと同時に、狐2人が心配そうな声をかけてきたのを見て、私は"あぁ、里子と美亜が2人に何か吹き込んだな"と確信して大きくため息をついた。何せ、現場に居た当の本人達がホクホクした笑顔で、美味しそうに朝ごはんを食べていたからだ。
しかし、2人にそんな事をされてしまったというのに、私の心は思っていた以上に嫌な感覚はしてこなかった。普段であれば多分少しキレて2人の尻尾を掴みたくなるのだが・・・。
「椿姉さんも綾姉さんも、どうしたんすか?そんな所で突っ立ったまま、椿姉さんは白狐さんと黒狐さんを見て、綾姉さんは椿姉さんを・・・あっ、はは〜ん?そうっすか、それは失敬失敬っす」
「おぅ、何勝手に勘違いして・・・もういいや、お腹減ったし」
「か、楓ちゃん、早くご飯を食べましょう!」
「ね、姉さん達・・・混乱してるのは分かるっすけど、そっちは部屋から出ちゃいますよ?」
「「・・・」」
うん。落ち着いたと思ってたけど、全然落ち着いてないね私達。こりゃ、例えるなら朝からバナナの皮で滑ったくらいに不調だぞ。
『ふふ、黒狐よ・・・悪くない』
『ふっ・・・だろう?』
「ぐ、ぐぬぬ〜!」
「うぅ〜!」
そして狐2人も、そんな私達の素っ頓狂な行動にホクホクしているし。とはいえ皆が食事中なので、私は狐2人へ頬を膨らましてギッと睨みつける。椿も流石に怒っているのか、尻尾の毛を逆立てた状態でビーンとわざとらしく"怒ってますよアピール"を狐2人に向けている。
「椿ちゃ〜ん。怒ってる所残念だけど、逆に尻尾振って"喜びのアピール"をしているよ〜」
「あれ!?」
「それに、綾ちゃんも満更でもないって感じで椿ちゃんの方をチラチラ見てるよね〜?」
「ふぇっ!?」
里子に指摘されて、私達はまたしても可愛らしい声を上げてしまった。どうやら今の無意識な動きから察するに、私達は自分が思っている以上に、先程の事を怒っている事はなかったようだ。
ま、まぁ実際、椿の事が好きかと言われると・・・ね。
「「・・・」」
ぶつける当ての無い怒りを向けた申し訳無さや、限界に達した恥ずかしさで完全にフリーズしてしまった私達に、狐2人は満面の笑みを浮かべながらそれぞれ自分の膝を叩いて私達――もとい椿に"膝の上においでアピール"をしていた。
それから椿は白狐さんの方に、私は彼女に選ばれなくて不貞腐れる黒狐さんの膝の上へ失礼させてもらった。
なんというか・・・妖怪の世界へ関わる以前では想像がつかなかった程に、今の毎日は普段からドタバタしていると思える。
しかし今日は何故だか、妙に嫌な予感がして落ち着かなかった。
まるで、遠くから此方に向かって来ているような・・・そんな薄らとした感覚だ。