私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
私達を睨みつけながら、丘魔阿は先程4人に振り回した大斧を片手に持ってズシリ、ズシリと此方へ近づいて来ている。
『逃げろ椿、綾!恐らく、あの大斧は妖怪を封じた札を2、3枚使っているぞ!今のお前では勝てない、とにかく逃げろ!』
「に、逃げろって言われたって、手足が動かないのにどうすれば良いのさ!?」
「そうですよ、黒狐さん。逃げたって状況は改善しませんよ」
『椿と綾の言う通りだ・・・そもそも、我らが手足を石化されている時点で既にピンチだ』
流石に今回は何も良い策が思い付かない。
いや、こんな状況は割と最近から良く起こっているような気はするけれども、それでも相手の正体が分かり切っていない事もあって今まで以上に勝てる気がしないという点ではヤバいと直感してしまう。
【替わろうか?椿】
「ぐっ・・・妲己さん、今更声をかけにきて何なの?いきなり話しかけられたからビックリしたよ」
「それに今の状況は、妲己さんだと余計に勝てないんじゃないですか?」
【あら、2人共失礼ね〜。これでも座敷わらしを抱えて逃げる、という事くらいは出来るわよ】
「いや、それ駄目だろ!」
「しかも、そんな方法だと他の皆が人質にされて余計にピンチな事になっちゃいますって・・・」
【えぇ〜良い案だと思ったのにな〜】
「ど・こ・が・だ・よ!!」
改めて思うけど・・・もうヤダ、この人。
とことん自分に関わるかもしれない事しか解決しようとしないから、本当にピンチな時に限って困るんだけど。
「2人してブツブツと何を言ってるの〜?まさか、まだこんな状況を覆せると本気で思っているのかしら?」
「うわっ!!」
「あ、あっぶね〜!サンキュー椿、助けてくれて」
丘魔阿が横薙ぎに大斧を振るってきて、あわや直撃といった所で、椿が勢い良く石化して動けない私を抱えてその場に倒れ込む。
だが、丘魔阿はそのまま大斧を振り抜く直前に持ち手を切り替えて、今度は叩き斬るかのように振り下ろしてきたのだ。
「ぬぉわぁ!!」
それを私は椿に抱えられた状態で、辛うじて動く身体の力をフルに使ってゴロゴロと転がって回避する。小次郎を呼び出して戦おうにも、手足が石化させられている影響からか何の応答すら無いのだから椿を助けるのも大変だ。
「くっ・・・!綾ちゃん、ありが――うわぁぁぁ!?」
「ど、どんだけ馬鹿力なんだよコイツ〜!?」
それでも丘魔阿は疲れ一つ見せる事無く軽々と大斧を切り返して攻撃を続けてくる。
そこで椿が私を抱えたまま後ろに飛び退きつつ、片手を狐の形にして丘魔阿へ向けて妖術を発動した。
「妖異顕現――黒焔狐火!!」
椿の指先から放たれた黒い炎が狐の様な姿となって丘魔阿へと向かっていく。
これで燃やされると椿本人が妖術を解除するか強力な妖術を使わない限りは、文字通り全て燃やし尽くすまで燃やし続ける・・・ハズなのだが、なんと丘魔阿は大斧を向かってくる炎に向かって振るい、同時に発生させた物凄い勢いの風でその炎をかき消してしまったのだ。
「ぐぅっ!?」
「う、ぐっ!?」
しかも、この強風を空中で受けてしまった事により私達は思いっきり屋根をぶち破る勢いで家の中へと叩き落とされてしまった。
「いったた・・・」
「あででっ・・・つ、椿?私の腕とか折れてないよね?石になってるからか、どうにも感覚が無いんだよ」
「特に壊れてはないみたいだけど――って、ちょっと待って綾ちゃん。相手は僕達の方に向かって来ようとしてないみたい」
椿が訝しげに向けている視線の方を見ると、確かに丘魔阿は少し面倒臭そうにしながら、私達が家から外に出てくるのを待っている様子だった。
どうやら、あの大斧では家を壊すまでは出来ないのかもしれない。
しかし、このまま籠城しようにも外にはまだ他の人が取り残されている訳だし、家の中から椿が妖術で反撃しようにも大斧の巻き起こす風で逆に痛手を被ってしまうし・・・あれ、これ不味くないか?
「ど、どうするよ椿。このサングラス使って、相手を石化させるとか出来ない?」
「多分、それは厳しいかもね。相手はこれの使い方を知っているんだし、対処法だって持っててもおかしくないよ」
「じゃあ、援軍を待つか――って言っても、今居ないのが酒呑童子と伊吹じゃあなぁ・・・絶対色々と手遅れになるじゃん、くっそ〜!」
レイちゃんにセンターへ助けを求めに行かせようにも、この状況じゃ危ない上に「ムキュ」としか言えないから無理だろうし。
そして昼寝をしている美亜と楓が起きてこないのは流石にどうかと思う・・・けど、ひょっとしたら起きてて見ないフリをしているのだろうか。
オイ、少しは助けてくれよそこは。
そう考えていた、次の瞬間。
「きゃっ!」
「え、椿――うぉわぁ!?」
いきなり私達はロープか何かで引っ張られたかのようにして外へと引き摺り出されてしまった。
椿の女の子っぽい悲鳴にドキッとしたのは置いといて、私の方は顔面から思いっきりズサーッといきました。止めてください、めっちゃ痛いです死んでしまいます。
「うふふ、そんな家の中に篭ってないで私と遊びなさいよ〜!貴方達、私の好みでちょっと良い感じなのよね〜」
引き摺られて来た先では、丘魔阿が私達へ向けて片手を突き出していた。そして人差し指の方を良く見ると細い糸のような物も見える。
「ぐっ、これ何か糸みたいなので縛られてるみたいだ・・・」
「もしかして、貴方は蜘蛛の妖怪の半妖なんですか?」
「あ〜ら、流石に分かっちゃうわよねぇ。大正解よ〜私は大蜘蛛の半妖。で・も、今更気付いてももう遅〜い!」
そして、そのまま丘魔阿は椿へ向けて大きく大斧を振りかぶってくる。
何とかして椿を庇おうと動こうにも、手足が石化させられた上に糸で動かせる身体の部分も固められてしまって身動き一つ取る事が出来ない。
『クソ、椿!』
「止めて!椿に酷い事しないで!!」
狐2人も私と同様に手足が折れてでも動こうとするが、そっちの方は地面にも同化させられてしまったらしく、その場から動く事すらままならないようだった。
「大丈夫よ、殺さないわ〜・・・ただ、腕の1本や2本は仕方ないわよねぇ!」
丘魔阿の大斧が振り下ろされる。
もう駄目だ・・・私が迂闊な行動を取らなければ、こんな事なんかにはならなかっただろうに・・・頼むから、誰か助けて欲しい――と、そう思った瞬間。
「椿ちゃん!!綾ちゃん!!」
わら子の声が聞こえてきたと同時に、離れの部屋から石で出来た小柄の刀剣が椿の目の前に突き刺さり、そこから発生した衝撃波で椿に巻きついていた糸が解ける。
「くっ!!」
椿が咄嗟にその刀を手にしつつ、ギリギリの所で大斧の攻撃を転がって避けた。そして、私の身体にも気が付けば同じような素材で出来た篭手や脛当てが装着されており、石化が解けて動けるようになっていたのだ。
「椿!!」
すぐに私は刀を抜いて、その勢いで転がっていった椿の元へと駆け寄る。
「あたた・・・あ、危なかったけど、僕は大丈夫だよ綾ちゃん。でも、何これ?武器なの?綾ちゃんの手足にも似たような物があるし・・・」
「むっ!そ、それは!?わらし、お前さんが持っておったのか!」
椿と私を助けた道具を見て、彼女の祖父は驚きの声をわら子へ向ける。
「ご、ごめんなさい、翁・・・。椿ちゃんに綾ちゃん!それは貴方達の武器なの!色んな事情があって私が預かってたの!」
「えっ?これが僕と綾ちゃんの、武器?」
「そんなの、今初めて聞いたんだけど・・・」
戦闘中にわら子の姿が見えなかったのは、てっきり守護の4人が何処かへ避難させていたからかと思っていたが、私達へ道具を持ってきた様子からするとそうではなかったようだ。
しかし、折角持ってきてもらったのは良いのだが・・・こんな神社とかに祀られていても不思議ではないような物が武器になるかと言われると、些か不安だ。
そう思っていると、突然私の頭へ直接声が聞こえてくる。
【使用者の妖気確認を要求。当機は主と認める者以外への使役を禁じられている】
「なんだ、この声は!?」
「妲己さんなの?」
【2人共、今のは私じゃないわ。声の主は、その刀剣と防具よ。あ〜それにしても、これは・・・私も知らなかったわね〜アンタ達、凄いの持ってるじゃん。ほら2人共、自分の力を出してみなさいよ】
なんというか、また適当なアドバイスだと思ったが、今は丘魔阿相手にそれ以外は何か出来る訳でもないので試しに私達はそれぞれ"神妖の力"と"知識の力"を解放してみた。
「わぁお・・・これはちょっと不味いわね。流石に止めといた方が良いかしら。でも、あぁん・・・足が、動かない・・・何よ、あの刀剣に防具。すっごい力じゃない」
すると丘魔阿は怯えたように身体が震えていく。
しかし、驚いているのは椿と私も一緒だ。何せ私達が自身に秘められている力を解放していくにつれ、石そのもののようだった刀剣と防具は表面が剥がれるみたく金色に光輝いてきたのだから。
「な、なんかどんどん光っていくけど大丈夫かな・・・これ?」
「ちょ、ちょっと、妲己さん。これ、ヤバいんじゃ・・・?」
【認証を確認。当機はこれより、使用者"烏森 綾"を主とし使用を許可する。当機の呼称は――】
そこで私は頭に響いてきた声から、その防具に付けられている名前を思い出す。
そして、私は自分の"本来の儀礼衣装"を呼び出した。
「"妖異変化"・・・烏鳩(からすばと)、展開」
そうだ、この防具は本来は私が"務めを果たす"為に"私の大切な人"が作り上げてくれた装備だ。
その名前こそ――
「五行大神(ごぎょうがたいしん)が神甲、その名は麒麟甲(きりんのこう)!!」
「御剱大神(みつるぎがたいしん)が神刀。御剱!!」
椿と共に自身の武器の名前を叫んだ瞬間に私達の持っていた武器は輝きの頂点に達し、椿の刀には虹のような綺麗な刀身が、私の防具には龍の鱗のような煌びやかな表面が姿を表した。
椿の刀は柄と刀身の間に小さくない穴が空いているものの、不思議と刃は落ちる事なく逆に最も光輝いている。
私の防具の方は装甲の1枚1枚が生きているかのように動いていて、それ自体がまるで単一の生き物であるかのようだ。
――この防具は、私だけにしか扱えない"神妖の力"を宿した道具だ。平安京に唯一残る東寺。そこで私は"大切な人"から受け渡されたのが、この防具だった。
そして思い出した私の"知識の力"、それの本当の名前は"烏森の力"。この防具は"悪しき者を祓う"宿命を受けた烏森の直系の血筋の人間にしか扱えない。つまりは、この防具は"直系の血を引く"私だけが使えるという事だ。
「何よ、なんなのよ・・・それは!それに、アンタ達のその姿は・・・!?」
「この姿は、神妖の力を使っている時の――」
丘魔阿が震える手で私達を指さし驚いているが、何故か狐2人や他の人達も困惑した顔を向けていた。
『い、いや・・・椿、それに綾よ。お主ら、暴走している時と全く同じ姿になっているぞ・・・だ、大丈夫なのか?2人共、あの変な性格になってはいないよな!?』
その言葉で椿も私も自分の姿を見て驚く。
「えっ、それはどういう・・・なんか服が真っ黒いし、ポニテにしてる髪も長くなってる!?」
「あれ?あっ、本当だ!僕の方も髪が伸びてる!?」
そんな様子を見て私達が正気であると判断したのか、緊張していた皆はホッと安堵する。
なんというか、あの状態がそれ程までにヤバいのは薄々理解出来ていたけど、ここまで警戒されるのも却って不安になってしまう。
「じょ、冗談じゃない・・・こんなの、こんなので失敗してたまるか!これでも食らえや!!」
すると、丘魔阿はとうとう追い詰められたと言わんばかりにニューハーフの演技を捨てて、素の言葉遣いで大斧を両手で振り上げてきた。
「ふふふ・・・醜いから、こんな力任せな攻撃はしたくなかったが、仕方ね〜よなぁ!!」
そして思いっきり大斧を私達に向けて振り下ろしてきたが、今ならこの攻撃を受け止められそうという"想い"がある。
椿と私は、それぞれ手にした武器を構えて振り下ろされた大斧を受け止めた。衝撃や攻撃の重さすら感じない所からすると、やはり相手の攻撃が相当軽いように思える。
「何!?」
その様子を見ていた4人は、信じられないと言いたげな顔で椿と私を見ながら呟き出した。
「御剱大神の神刀に、五行大神の神甲ですって・・・それが本当なら」
「えぇ、龍花。あんな斧くらい」
「そうね、虎羽。言い伝え通り、あの刀を振るう者とあの防具を操る者」
「その通りです、朱雀。そう、その全てにおいて」
「「「「――敵う者は無し」」」」
その言葉の意味は良く分からなかったが、私も椿も今は目の前の敵に集中し、受け止めた斧ごと丘魔阿へ同時に全力を込めた一撃を叩き込んだ。
「ちょっ!そんなぁぁあー!!あぁ・・・嘘、よ・・・この私、が・・・!」
大斧を木っ端微塵に粉砕しながら放たれた椿と私の攻撃は閃光のように一瞬で相手をボロボロにして家の壁へと吹っ飛ばされていった。
その一撃は私の予想を遥かに超えた、とんでもない威力だった。
流石に半妖なのもあって死んではいないだろうが、皆の石化も解かないといけないので口が効ける程度には無事であって欲しいと思う。
しかし、あの力を使って少し自身の記憶が蘇ったのだが、その際に思い出した"大切な人"について顔も何もかも不鮮明なのが気になっていた。それもまるで、今も時々出会っているかのような・・・そんな不思議な親近感のある人物である事しか分からない。
何はともあれ、敵を倒した事を確認した私と椿はそれぞれ解放していた力を抑えて、倒れた丘魔阿に色々聞く為近づいた。
まさか、椿だけでなく私にも"神妖の力"を扱う能力があったとは・・・未だに自分のした事が信じられなくて驚いているよ。