私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
椿と私の一撃で家の壁まで吹っ飛ばされ、大きなダメージで起き上がれなくなっている丘魔阿の胸ぐらを掴みながら私達は皆の石化を解除する方法を聞き出す。
「ゲホッ、はぁ・・・はぁ、ま・・・真ん中に、もう1個スイッチがあるの。それを長押しすれば、石化の状態はリセットされるわ」
「案外簡単に吐いてくれるんだな、嘘とかじゃないだろうな?」
「今更、嘘なんか言っても仕方ないでしょう・・・それに男が敗北を認めたなら、そこはスジを通さないといけない。そうでしょう?」
「えっ、あんなに女らしく振舞っていたのに男で良いんですか?」
「あらヤダ、恥ずかしい」
なんというか、こんな状況になっても相変わらずな相手に私は大きくため息をつきながらパッと掴んでいた手を放す。相手の怪我の具合や態度の余裕の無さからも、どうやら嘘は言っていないらしい。
それから私達は皆の石化が解除された事を確認してから、全員に石化の影響で変な怪我をしていないかの確認を行っていく。
『椿に綾よ、2人共その武器は一体?こんな物、我らも知らないぞ』
『あぁ、しかもどっちも凄まじい力じゃないか』
しかし、狐2人からは逆に心配されて不安げな顔をされてしまったので、私達は必死に「大丈夫だから」と2人を宥める事となってしまった。
「それにしても、さっきの言葉・・・椿のお爺さんは何か知っているみたいだったけど」
「うん。多分、それは僕が思い出した事と同じものだと思うよ綾ちゃん」
『なっ!?椿、お主まさか記憶が!?』
「あっ、大丈夫・・・全部じゃないよ。この刀の事と、僕の"神妖の力"についての事しか思い出せていないから」
「やっぱり椿も何か思い出したんだ・・・実は私も防具の事と"大切な人"から、それを貰った事を思い出したんだよね」
「"大切な人"?」
「顔すら分からないし、その記憶もボンヤリとしか思い出せなかったけどね」
そんな私達の言葉で、椿の祖父は誰よりも安堵した様子を見せていた。そこから察するに、どうやら椿の記憶が戻るとあまり良くない事に直結してしまうのかもしれない。
それから私達は、それぞれ自身が思い出した記憶について簡単に皆へ話した。具体的には、椿には生まれ付き"神妖の力"があった事や椿の刀は産まれた記念に渡された物である事、そして私も"烏森の力"とやらを持っていて椿と似たような経歴で防具を誰かから渡された事などだ。
その記憶の中には小次郎の雰囲気を纏った人物も居たが、それについては確信が持てていなかったので話すのは止めておいた。
「それで、僕の思い出せた記憶はそこまでなんです・・・。だから、わら子ちゃんがどうして僕や綾ちゃんの武器を持っていたのかまでは分かりません」
「私も椿と同じ感じだよ。より詳しい事についてはサッパリ・・・って所かな」
そうウッカリ私達が話してしまった事で、皆は一斉にわら子へ視線を向けてしまった。そのせいでわら子は怖がってしまって龍花の陰へと隠れてしまい、龍花の方も「何怖がらせてくれとんだ」的な眼差しで私達の前に立ち塞がるように睨んでくる。
「まぁ、わら子には後で事情を聞くとして、まずは襲って来た連中を全員縛ってから零課に連絡じゃな」
しかし、そうして妖怪の皆が倒れている襲撃者達を縛ろうとした途端、突然上空から突風が吹き付けられて近づこうとした人達は紙吹雪のように吹き飛ばされてしまう。
「残念ですが、その方を捕らえられては困るんですよ」
「我々の計画の為にも・・・ね」
その風を吹き付けてきた方向を見ると、この前の旅行で蟷螂坂を連れ去っていった烏天狗と更にもう1人の烏天狗が降りて来ていた。
「貴様ら!!どの面を下げてやって来た!!」
椿の祖父がそいつらを見て真っ先に怒鳴り声を上げる。彼からすれば信頼していた同族が、こんな悪事に手を染めていたのだから怒るのも当然だろう。
しかし、椿や私でさえ思わずビクッと震え上がってしまう程の怒気をぶつけられているにも関わらず、その2人の烏天狗は平然として様子で丘魔阿を連れて行こうとしていた。
勿論、そんな事を許す訳にはいかない。
「逃がすか!綾、使い魔で援護を頼むぞ!!」
「分かってます!小次郎、あいつらの翼に傷を付けて逃げられないようにして!!」
椿の祖父が羽団扇でつむじ風を巻き起こしたと同時に、呼び出された小次郎も私の言葉に答えるより早く2人へと飛びかかっていく――だが。
「「喝っ!!」」
「ぬぅおっ!?」
そいつらが一喝した瞬間につむじ風はすぐさま消え去ってしまい、小次郎も何かに跳ね飛ばされたかのように空中で弾かれてしまった。
「この力・・・翁よ、これは並みの妖怪のものではないぞ!」
「何じゃと!貴様ら・・・何をした!?」
余裕そうな相手の様子に、椿の祖父も小次郎も声に少し焦りが現われる。もしかしたら捕まった妖怪達を助けられるチャンスかもしれないと思ったのに、これでは情報の一つも掴めないまま逃げられてしまいそうだ。
「これだから、"古い考え"の貴方は駄目なんですよ・・・翁」
「貴様・・・!ちょっとばかし怪しい道具を使っているだけで良い気になるな。それに亰嗟は妖怪を札に無理やり封じ込めて、自分勝手に使役させているのだぞ。お前さん達も、このままではいずれ同じ目に合わされるぞ!」
ふと見ると、私と椿は問答を繰り広げている3人の周囲に他の妖怪達が取り囲むようにして動いている事に気づいた。どうやら椿の祖父は話を長引かせる事によって、少しでもコイツらを捕まえられる時間を稼ごうとしているようだ。
「ふん、貴方の"古い考え"のままでは妖怪達は今すぐにでも消滅してしまい、そして皆滅んでしまう。だが・・・亰嗟の考えは違うぞ。"人間界を魔界に変え、世界中で妖怪が安心して生きていける世界"・・・そんな世界を目指しているんだ!」
もう1人の烏天狗が、椿の祖父の言葉に触発されて興奮気味に声を荒らげる。
確かに、今の世界で妖怪が姿を隠しながら生きていくのは厳しいかもしれない。だが、その為に関係の無い人間を妖気の危険に晒して良いなんて考えは、絶対に間違っていると思う。
「そんな――」
「そんな事が許されると思っているのか?良いか、妖怪は"人間達の恐怖の感情"から生まれて、その感情をもって成り立っておる。人間が妖怪を怖がらなくなるという事は、恐怖を克服された儂らは用済みという事と同義だ。"人間の感情"という自然の摂理によって生み出された儂らは、人間によって自然に消えるのが運命であろう」
椿の言葉を遮る形で、彼女の祖父が2人へ言葉を続ける。この話は、椿と一緒に何度も彼から聞かされてきた"妖怪としての人生"だ。
だが、私だって可能であれば椿と一生ずっと居たいと思ってしまっている・・・しかし、その上で私は犠牲を払ってまで平穏を得るやり方は間違っていると、本当の意味で妖怪として生きている人達の為に亰嗟へ立ち向かう決意をさせた。
――妖怪の誰だって皆、人間を食い物にしてまで生きていたい人は居ないハズだ。
そんな椿の祖父の心からの説得すら烏天狗2人には届かず、そのまま丘魔阿の腕を担ぐ形で飛び去ろうと羽を羽ばたかせ始める。
「だから、貴方は駄目なんですよ!生きとし生ける者ならば、生にしがみつくのは当然の理だ」
「何時までも枯れた事ばかり言う、そんな貴方には我々はもうウンザリなんだよ!」
「それは考えの相違じゃな。この続きはジックリと、牢で聞いてやろう・・・皆、捕らえよ!!」
椿の祖父の号令と共に、周りで構えていた皆は一斉に烏天狗2人へと飛びかかっていく。私も彼らを援護するべく再び小次郎へ上空に逃げられないように大きくジャンプをさせた。
「甘いですよ、だから散々駄目なんだと言っているでしょう?」
「ちっぽけな妖術の事しか頭に無い、"古い考え"のお前達はな!」
「何じゃと?」
しかし、次の瞬間――私の目に飛び込んできたのは余りに信じ難い光景であった。
突然、意味も分からず椿がわら子を突き飛ばしたと同時に、銃声のような音が聞こえて椿がその場に倒れる。
そして、上空へ飛び上がっていた小次郎はいつの間にか現れた、あの大鎌を持った黒髪の女に腹を武器で貫かれて真っ逆さまに落ちていく姿だった。
それと同時に、私の腹部も妖気で繋がっている小次郎のダメージが反映された事で酷い激痛が襲い、徐々に意識が薄らいでいく。
「あっははは!やった!やったぞ!!直接殺したって事にはならなかったが、コイツを札に吸収した事でやっと"烏森の力"は正式に私のものになった!あははは!!」
クソ女の高笑いする声と共に小次郎が札へと吸い込まれていく。
「椿ちゃん!なんで・・・なんで!!」
「あっ・・・わら子ちゃん、大丈夫?」
倒れた椿にわら子が駆け寄りボロボロと泣いているのが見える。
「あ、や・・・すまんが、俺はここまでのようだ・・・後、は・・・」
そう言い残して小次郎が完全に札へと吸い込まれたと同時に、二つの悪夢を見せられた私の意識はコンセントが抜かれたテレビのようにプッツリと途切れてしまった。