私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第玖話 烏森の血筋

 

椿が何者かからわら子を庇って撃たれ、小次郎も"あの女"に捕らえられてしまった光景を目の当たりにした私は、気が付くと背中から落下するようにして真っ暗な空間を落ちていた。

 

そして、水中を泳いでいるかのように身体が動かせる事を悟って上半身を起こしてみると、先程までフカフカのベッドに眠っていたかのような感覚と共にいつの間にか何処かの地面に横たわっていた。

 

此処は一体何処なのだろうか・・・そんな事を考えていると、いきなり暗闇が晴れていって見覚えのある景色が目の前に広がる。

 

「この景色、まさか・・・朱雀門か此処は?どうして、目が覚めたらこんな所に?」

 

誰かに連れてこられたという訳では無さそうだし、いつか見た夢のように変な景色では無いので不思議な感覚さえ覚えてくる。しかし、普段なら観光客でごった返しているハズの朱雀大路には誰の姿すら見当たらない。

 

「やけに静か過ぎて気味が悪いな――うわっ!?」

 

その途端、突然子供が私の横を通り過ぎていったのを感じたと同時に、振り返って笑うその子供が幼い頃の私である事が分かった。

 

『えっへへ〜!すごいよ、すっご〜い!!ほんとに誰もいないんだね〜!』

 

『少しは落ち着いて下さい、綾様。〇〇〇様が一緒ではないとはいえ、今日は特別な日で天狐様から結界まで張ってもらっているのです。なので、私達からは普通の人間は見えず、また向こうからも私達の姿が認識されていない状態なのは承知のハズでしょう?』

 

『う〜ん・・・小次郎の話はむずかしくて、よくわっかんないや!』

 

私の後ろから、幼い頃の私を追いかけて歩いて来た着物姿をして雑に短い黒髪の青年が苦笑いを浮かべる。しかし今の言葉からすると、彼は"使い魔の小次郎"と同一人物なのだろうか?

 

『全く綾様は・・・何時にも増して、元気なようだな。これまでの"依代"と違って"あの方達"が期待するのも無理はない』

 

先程思い出した記憶の中にも居た、小次郎と呼ばれた青年の言った、"依代"に"あの方達"という言葉が妙にすんなりと納得出来てしまうが、その意味については何故か未だに思い出せない。だが不思議な事に、青年の事は"小次郎である"と強く認識出来ていた。

 

「それにしても、あれが小次郎だとするなら昔は随分と堅苦しいタイプの性格をしてたんだな〜」

 

そう私が呟いても、これは記憶の中での出来事なので2人とも気付いた様子すら無い。

 

それから2人が朱雀門の前まで辿り着くと、巨大な門の影から見覚えのある人型が直接生えるようにして姿を現わした。

 

『来てくれたか。烏森の子に、その付き刀である小次郎よ』

 

そう、その姿は間違いなく私が覚えている時からずっと親のように一緒に暮らしてきてくれたオジサンであった。

しかし私の知っているオジサンとは違って、少し年老いたような低めの声で普通に話してきたので流石に少し困惑している。オジサンって、喋れたんだ・・・という思いもあるからだけど。

 

『すまない、大地殿。これでも急いだつもりではあったのだが、例の連中のせいでな』

 

『それは分かっている。亰嗟か・・・相変わらず連中の目的や行動理念には謎ばかりが目立つ。まさか"歴史の影の立役者"烏森までも狙ってくるとは予想外だった』

 

小次郎がオジサンが少し話し合った後に門の先へと進んでいく。幼い私も彼の後を追いかけようとすると、彼が立ち止まって私へ簡単なジェスチャーで"待て"の仕草をした。

 

『申し訳ありません、綾様。私は少しばかり、"あの方達"と話をつけてきますので・・・』

 

そう言われた幼い私は「はーい」と何処かつまらなさそうに返事をしてから、門の前の段差へズッカと腰掛ける。

 

「なんていうか、昔の私は結構素直な性格してたんだな。それに普通に女の子の着物とか着て・・・本当にホワホワしてて可愛いかも――って自分の昔の姿にそんな事言っても仕方ないけどさ」

 

我ながら変な事を考えてしまったな、と私は苦笑いしながら深くため息をついた。あんな純粋そうな子が、今では立派な不良女子になってしまったのだからオジサンが大変だったのも少しばかり納得してしまう・・・後で色々謝っておこう、親不孝ばかりしてきた事とか。

 

『綾様、そこまで拗ねなくとも私はすぐに戻って来ます。そして大地殿、綾様は貴方に会うのは初めてですから挨拶をお願い出来ますか?幾ら貴方が〇〇〇様の使いとはいえ、烏森の今後の事にも関わるでしょうから』

 

『了解した。そう不安そうな顔はしなくても良いぞ、小次郎。我も最低限は人としての立ち振る舞いは心得ているからな』

 

『ある意味では、そこが不安の1つでもあるのですがね』

 

『ん?それは一体どういう意味だ?』

 

その2人のやり取りを見て、私は「ああ、やっぱりオジサンはオジサンだな」と思う。この何処か間の抜けている感じはオジサンの良くある癖みたいなものだからだ。

 

ちなみに幼い私はというと、会話をしていた間ずっとオジサンの方を見上げて不思議そうに首を傾げていた。やはり私と言えども、初めて見る全身が鎧みたいな宇宙服みたいな姿には違和感を覚えるのが普通だろう。

 

『小次郎、行っちゃったね〜・・・ところで、あなたは小次郎とお友達なの?』

 

そう思っていると、幼い私は小次郎を見送ってすぐに仁王立ちしているオジサンへと声をかけていた。確かにオジサンと小次郎が知り合いであった事にも驚いてはいたのだが、それ以上に初対面とはいえ赤の他人に堂々と話しかけられる幼い私の気概にもビックリさせられる。今の私はあそこまで積極的には話しかけられないぞ、凄いな小さい私。

 

『まぁ、そうだと言ってしまえばそうなるな。そちらの方こそ、あれがただの付き刀だというのに随分と入れ込んでいるみたいだが?』

 

『あたりまえじゃん!だって〇〇〇とおんなじくらい、つっよい小次郎の事は頼りにしてるんだもん!』

 

『そうか・・・』

 

『でも、あなたはなんか寂しそうに見えるよ?〇〇〇の使いだって、さっき言っていたよね?』

 

『使いと言っても、遠くに派遣される伝書鳩のようなものだがな。それに寂しいと感じた事は、生まれてから今まで1度も感じた事はない』

 

『えっ?なんか雰囲気が寂しそうだから、そうなのかなって思ってたけど・・・』

 

そんな遠慮も無くズカズカと相手のプライバシーへ踏み込んでいく私の言葉は、見ている今の私からすると恥ずかしくなって顔が熱を持ってきてしまいそうだ。

 

『ふむ、なるほど。我には良く分からんが、今回の"依代"は人の僅かな動きの違いすら見分けられるのか。〇〇〇様だけでなく、分家の連中も期待する訳だな・・・』

 

オジサンはブツブツと何かを呟いていた様子だったが、聞こえた内容からすると私は"烏森の血筋"の中では一体どういった立ち位置にいたのだろうと気になった。昔の小次郎やオジサンが"依代"と呼んでいる事からすると、当時の私は相当大切にされていたのかもしれない。

 

『ほら〜1人でブツブツしゃべってないで、ちゃんと自己紹介したらどうなの!?私は烏森 綾、綾って下の名前は〇〇〇が付けてくれたんだよ!』

 

そんなオジサンの意味深な姿にすら、幼い私は何の疑問すら持たず真正面から大声で聞いている。ここは相手の雰囲気を察して――とはいっても此方の声は届かないのだから、例え言ったとしても意味が無い事を思い出して私は苦笑した。

 

『なんと、〇〇〇様が直々に・・・これはまさか、何か大きな事が起ころうとしているのか?あぁ、すまん。我は烏森 大地、名前こそ烏森の家の者ではあるが、実際は家事手伝いのようなもので血は繋がっていないがな』

 

『へぇ〜・・・でも、大きな事?そんなのは全然わかんないけど、もし起こったら貴方はそうなったらどうなるの?』

 

幼い私の純粋な好奇心による質問に対して、オジサンは無言で頭を掻きながら「参ったな」と言いたげに首を横に振って悩んでいるようだった。それを見て、幼い私は頬を膨らませて怒った表情を浮かべている。

 

『何にも決めてないの?駄目だよ、烏森の人がそんな不安そうにしてちゃ!まだ未熟な私だって、例え何があったとしても〇〇〇の事だけは守るって決めてるんだから!』

 

そうだ・・・確かに1度だけ、私はオジサンにそんな感じの言葉をぶつけていた事を思い出した。

 

『ふ、く・・・はははは!まさか、ここまで自分の意思が強いとは驚きだ!その守りたい意思、〇〇〇様に良く似ていらっしゃる!』

 

『そ、そこまで変な事言ったかな〜私!?』

 

『いやいやいや・・・此方の話だ、綾様。分家の者から噂はかねがね聞いていたが、その通りなようだ』

 

すると、先程まで幼い私の事を全く気にかけた様子の無かったオジサンの雰囲気が、今の発言をきっかけに少しだけ緩んだかのように感じられた。

 

『もう一度だけ聞こう。綾様は〇〇〇様を何としても守りたい、その言葉に嘘は無いな?』

 

『嘘なんかじゃないもん!だって、〇〇〇は本当のお母さんみたいに私の事を大切にしてくれるんだから、私がそんな〇〇〇を守りたいって思うのは当然の事でしょ?』

 

『ふっ・・・確かに聞き届けたぞ、綾様。それならば、我も全力で綾様の"想い"を果たせるよう努力するとしよう。例え、どちらかが烏森に牙を剥く事になったとしても我は綾の"想い"を尊重する』

 

そしてオジサンが幼い私の前に屈んで、優しく頭を撫でながら静かに小指を差し出してくる。以前に何処かで、こうして確かにオジサンと約束した記憶があったが・・・これは、その時の記憶だった。

 

どうして、こんな大事な記憶すら朧気になってしまっていたのだろうか。

 

『だから、綾様も約束してくれ。我と貴方は絶対に〇〇〇様を守る、その事をな』

 

『うん!絶対の絶対にぜ〜ったい、〇〇〇は私達が守ろうね!もし〇〇〇が私達の敵になっちゃっても、必ず助けてあげるんだから!!』

 

『良い心がけだ、綾様・・・さて、其方の妖狐の2人は何者か。気配は感じている、危害を与える真似はしないから姿を現せ』

 

そうオジサンが言って雰囲気を元の硬い感じへと戻すと、話していたオジサンと幼い私の近くに着物姿をした2人の妖狐が現れる。そのどちらも私は知らず、両方とも少しだけ顔付きが違う以外は双子のように長い金髪が特徴的な姿をしていた。

 

『あら?そっちには話がまだ通っていなかったかしら?私は九尾の"華陽(かよう)"。お初にお目にかかるわ、烏森の家の大地さん』

 

『ふん、私は妲己よ。烏森の本家直属の人から直接お話があると呼ばれて来たのだけれど?分家の人間でありながら話が耳に入っていないのは意外ね』

 

片方が妲己さんと名乗った事に私は酷く驚いた。

 

そういえば彼女が封じられる前の姿については、何の情報も聞いた事が無かったのだ。

 

そして、もう片方が華陽という事は・・・玉藻の前という九尾は石になっているので、消去法からしてあれが以前に私達を襲撃してきた亜里砂の本来の姿という事になる。しかし、それにしても今の彼女と比べると歳を取っているようにも感じる。まさか、今は若返りの妖術とかで歳を誤魔化したりしているんだろうか。

 

『烏森の分家と言えども一枚岩では無いからな、そういう事もある。それに今日は本家から直接の大事な用事だ、分家に話をしていない可能性すらあるのかもしれないな』

 

『まぁ、私達には余り関係の無い事ですわ』

 

華陽と名乗った、昔の亜里砂がオジサンの話に納得して朱雀門の方を見る。幼い私とオジサンも同じ方向へ視線を移すと、先程その先に居る誰かと話をしに行っていた小次郎が戻って来ていた。

 

すると、それと同時に妲己さんと華陽の2人が何かをコソコソと話しだした。

 

『良いわね、妲己?〇〇〇からの頼みよ、絶対に失敗は許されないわ』

 

『そんな事は分かってるわ、華陽。流石にこんな所でやらかすのは、少しだけ気が引けるけれどもね』

 

幼い私は2人のそんな会話をキョトンとしながら見ていたようだが、当時では幼い事もあって何の事かは理解が出来なかった。

 

だが、この時に何かを企んでいた様子からすると、やはり妲己さんは悪の妖狐であった事には間違い無さそうだ。

 

そう思いながら華陽が朱雀門へ歩いていくのを眺めていると、その後ろで妲己さんが誰にも聞こえない程の小さな声でポツリと呟くのが聞こえてきた。

 

『全く、烏森のやっている事が紛れもない悪なのは仕方ないけどさ。でも、まさか私達にまで頼ってくるとは思ってもなかったわよ。これから華陽の悪巧みも止めなくちゃならないって時に・・・』

 

妲己さんは一体、私の過去で何をしたのだろうか?そして"歴史の影の立役者"である烏森の家が悪とはどういう事なのだろう?

 

そう疑問に感じたのも束の間、再び周囲の景色が黒く染まっていき初めの真っ黒な空間へと戻ってしまった。

 

「ちょっと待って!まだ私は重要な事を何にも思い出せてない!烏森が悪って何なの!?昔の妲己さんは私にどんな関わりがあったんだよ!?」

 

全てを知らない私は叫んだ。

 

その時、私の真後ろから"何処か聞き覚えのある"声が聞こえてくる。

 

「駄目よ、貴方は思い出さないで。それに、そろそろ現実に戻る頃合でもあるわ。あぁ、貴方が烏森の血さえ引いていなければ、私は――」

 

その声が聞こえる途中で再び身体が落下するのを感じて、それと同時にフッと意識も徐々に薄らいでいってしまった。

 

待ってくれ、私は一体何者なのか。

そんな疑問の言葉すら出ないまま。

 

「・・・はっ!?はぁ、はぁ・・・此処、は・・・」

 

目が覚めると、私はいつの間にか自分の部屋に居た。あれは、果たして何の記憶だったのだろう・・・?

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