私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
目が覚めてすぐに私は隣の布団に椿が寝かされているのを見つけて、重い身体を何とか動かし這うようにして彼女の無事を確認する。
「つば、き・・・椿、椿?」
「あれ、僕・・・生き・・・てる?あ、綾・・・ちゃん?」
「良かった・・・撃たれた傷は――そっか、白狐さんが治してくれたのか」
「ちょ、くすぐったいって」
椿の撃たれた所をそっと触って確認し大きく深呼吸して私は安堵する。それから、先程まで見ていた夢の内容を思い出して、その途端に色々な疑問が湧いてきた。
幼い頃の私は小次郎と誰に会いに行っていたのだろうか?そして、そこから思い出せない記憶の先では一体何が起こってしまったのだろう?
少なくとも、記憶の中の"大切な人"が私を助ける為に戦う光景――あれに繋がった可能性も有り得なくはない。
「亜里砂ちゃん、妲己さん・・・」
「えっ?椿、何か言った?」
「あ、うん・・・僕の夢の中で白狐さんや本来の姿だった妲己さんに亜里砂ちゃん、それにお父さんにお母さんが出てきたんだ」
「なんだって?それに妲己さんと亜里砂って・・・実は私も夢で、あの2人と出会ってたんだ」
「綾ちゃんも会ってたの?でも、多分だけど僕の夢で見た妲己さんは進んで悪い事をやろうとしていなかったと僕は思ってるんだよね」
「私も、そう思うかな。まだまだ色々と思い出した訳じゃないけどさ」
どんな偶然かは分からないが私の夢にも椿の夢にも2人が出てきたという事は、もしかしたら私の記憶は椿の失われた記憶にも関連しているのだろうか。頭に浮かんでくる謎は深まっていくばかりだ。
すると突然、私達の頭に妲己さんの声が聞こえてくる。
【あら、呼んだかしら?椿、綾】
「呼んでません。ちょっと綾ちゃんと話してただけです」
【あっ、そう。だけど危なかったわよ、貴方達。特に椿は本当に死ぬ所だったんだから】
その妲己さんの言葉で、私達は微睡んでいた頭が晴れていき慌てて身体を起こした。
「そうだった!あれからどうなったの?敵は!?」
「それに皆は大丈夫なのか!?小次郎は――う、くっ・・・!」
しかし私も椿も相当なダメージを受けていたからか、すぐに頭がクラクラとして布団へ一緒に倒れ込んでしまう。私は妖気で繋がっていた小次郎を無理やり切り離された訳だし、椿も何者かに撃たれて酷く出血していたので、恐らくはその時の影響かもしれない。
【あ〜もう、2人共無茶したら駄目よ。椿は弾が肺の直前ギリギリで止まったから致命傷にならずに済んだけれど出血は酷かったんだし、綾も丁度妖気切れを起こして使い魔とのリンクが切られたから良かったものの、身体の妖気をゴッソリ持っていかれたのと同じなんだからね】
「マジでか・・・じゃあ私達、下手したら死んでたかもしれないって事だよな」
【まぁ、端的に言えばその通りね】
「そうだったんだ・・・皆に心配かけちゃったね」
そうして今度はゆっくり起き上がってみると外は既に夜だったらしく、しかも部屋にはずっと居てくれたのか私達の他にも数人が眠っているようだった。
狐2人は椿の布団の近くで座ったままで、里子も私と椿の布団の間で突っ伏して眠っている。そしてオジサンも外を見張ってくれていたらしく窓際の壁にもたれかかって首をカクン、カクンとさせて眠っていた。
「皆、私達をずっと見ていてくれたんだね・・・こんなに疲れるまで」
「でも、あれ・・・?もしかして、あれから何日か経ってるのかな?」
【そうよ、あれから既に3日経ってるわね】
「3日も、寝てたのか私達は・・・」
「そんなに寝てたんだ・・・」
それだけ私達の状態は悪かったのかと驚くが、それでも皆が3日も寝ずに付きっきりで傍に居てくれたのかと思うと申し訳無く思ってしまう。
そして部屋の扉へ視線を移すと、それと同時に声が聞こえてきた。
「あら、お2人共に起きたのですか?」
「龍花さん?」
「えっ・・・な、なんで此処に居るんだ?」
扉を開けると、そこには縁側に腰掛けて青いリボンでポニーテールを結び直していた龍花の姿があった。
つい失礼そうな言葉をかけてしまったが、あの状況から推測すると彼女達4人も皆と同じく私達を看護してくれていたのだと分かる。
「貴方達の心配をしたら駄目なのですか?」
「いや、その・・・今のはそういうつもりじゃなかったよ、ごめん」
「ご、ごめんなさい」
龍花の言葉に少し申し訳無く思った私は、自然と謝ってから顔を俯かせてしまった。椿も布団を頭から被ってビクビクしながら表情が見えないようにしてしまっている。
とはいえ、流石に初対面であんな事があったのだ。龍花達4人の厳しくて少し怖い印象から、こうしてしまうのも仕方ないと思う。
すると、そんな私達を見て龍花は静かに私と椿の間へ入って来て座り、そのまま頭を下げて謝ってきたのだ。
「それと、申し訳ありません。貴方達の事、少し誤解しておりました」
「「へっ?」」
余りに意外な事を言われ、椿と同時に素っ頓狂な声を上げて龍花の顔を見ると、彼女は真剣な顔付きをして私達へそれぞれ更に一礼をしてくる。
なんというか、わら子の事一筋な雰囲気で真面目な龍花からそんな言葉が出てくると妙に気恥しくなってしまいそうだ。
「貴方達は自分の命をかけてまで、座敷様を守ってくださった。それに比べて私達は、つい目の前の敵かつ幹部クラスの者を捕まえる事ばかりで、皆頭が一杯になってしまっていました」
「そ、そんな事は無いよ。だって、わら子ちゃんを守ろうとして、敵の主力を捕まえようとしたんでしょ?」
「そうそう、椿の言う通りだよ。龍花の方だって間違った事はしてないと私も思うかな」
その結果としては余り良い状況じゃない事になってしまったが、と思っているが。
特に、あれだけ昔の記憶の無い私を助けてくれていた小次郎が連れ去られてしまった事については「私がもっと注意を払っていれば」と、今でも後悔ばかりが心に溢れてきてしまう。
そう思っていると龍花は私達の手をそっと握ってきて、ぎこちないながらも穏やかな笑顔を作って見せてきた。
「もう、無茶はなさらないように。もし貴方達に死なれていたら、私達は自分の不甲斐なさを一生胸に刻み続ける事になっていましたから」
「あっ、う・・・うん。でも、大丈夫だよ。だって、僕や綾ちゃんと仲良くしてくれているわら子ちゃんだったからね」
「それに、この家の人達も私達にとっては今じゃ家族みたいな存在だからね。助けなきゃ、って思うのは当然の事だよ」
「そうだとしたら、尚更ですね。今、分かりましたよ・・・貴方達も、座敷様と同じように自分の事など考えずに行動していますよね?」
「そうかな?僕はそうでも無いと思うんだけど・・・それなら綾ちゃんの方が、よっぽどだと思うよ?」
「いやいやいや!そんな私が凄いみたいな扱いしても、私からしたら椿だって相当じゃんか」
私と椿がそうやって互いを気にかけあっていると、龍花から呆れた様子で大きくため息をつかれてしまった。
それを見た私は思わず椿と一緒に吹き出した。
「くっふふ・・・なんか、どっちもどっちって感じっぽいね。私達は」
「ふふっ・・・ひょっとすると僕達、実は案外似たもの同士なのかもね」
なんというか・・・他人から見たら私も椿もそれ程変わりなく、自己犠牲的な人だと思われているようだ。
「さて、お2人共失礼します。今から話す事は、私達姉妹4人で話し合って決めた事です。椿様、綾様――我々4人は今後片時も離れる事無く、座敷様と貴方様がたをお守りします。この命に代えてでも・・・」
すると龍花は、片膝をついて右手の拳を地面につける形で更に深く頭を下げてきた。
流石にヤ〇ザ染みた主従関係みたいな行動を見た私達は、慌てて龍花が取った行動に反論する。
「待て、待て待て待て!なんで、いきなりそ〜なるんだよ!?」
「そうですよ、そんな事をしなくても僕達は自分の身は自分で守っ――」
「お2人共に守れていないから、今のようになっているのではありませんか?」
「うぐっ!?は、はい・・・」
「は、反論出来ません・・・」
その後に龍花は再び私達に近づいて手を優しい握ってくる。私達の頭は、いきなりの事ばかりで色々と困惑して目が回ってしまいそうだった。
「座敷様が貴方達を気に入った理由は分かりました。椿様が撃たれた時、そしてほぼ同時に綾様が倒れた時、座敷様は必死だったのです。『何で椿ちゃんも綾ちゃんも、私なんかの為にまた同じ事をするの!』と、そう言っていました」
「えっ、そんな事をわら子が?」
わら子が、そこまで椿と私を想ってくれていたとは・・・ふと"また"といった言葉の内容に疑問も覚えたが、今はそれを追求するべきではないだろう。
「あんなに取り乱した座敷様は私達も初めて見ました。私達は負の感情から座敷様を守る為に存在しているのです。貴方達が傷付く事で座敷様自身に負の感情が芽生えてしまうなら、いっそ貴方達を守る事で座敷様を負の感情に飲まれないように出来ると思ったのです」
「ず、随分な極論だな〜それ」
「あのさ・・・わら子ちゃんに負の感情を芽生えさせたくないって言うなら、普段から厳しく接するのを改めた方が――」
「それは却下です」
「そこは駄目なのかよ!?」
あまりにもバッサリ言い切るものだ。
どうやら龍花達にも譲れない所がある・・・というよりも"信念"のような物があるらしい。しばらくは、彼女達4人を説得するのは厳しいだろう。
それにしても"信念"と言われると、私には「椿を守りたい」という"想い"が当て嵌るのだろうか・・・そんな風に自分らしくない事を考えてしまって少し恥ずかしくなる。
「あ、そういえば敵の方はどうなったんだ!?」
ふと先程まで抱いていた疑問を思い出した私は再び慌てて龍花に質問する。椿も私が質問した事でそれを思い出し、ソワソワと落ち着かない様子になる。
「敵は――逃がしてしまいました。しかし、座敷様は怪我一つ見つからずに無事です。そして貴方達も助かった事ですし、今回は最悪の事態を免れただけ良しとしましょう。座敷様の事は、今は他の3人が守護をしています」
「そう、ですか・・・」
「そっか、なら良いんだけどさ・・・」
それから私達は肩に乗っていた物が落ちたようにして天井へと視線を向ける。
私は小次郎が居なくなってしまった以外は大きな事が終わって一息ついた、といった感じだが・・・椿は今回の事をどう思っているのだろう?
やはり自分のせいで敵を取り逃がしてしまったと、また責任を感じてしまっているのではないだろうか?
「お2人共、どうしました?」
そう思っていると、そんな様子を不思議に思ったのか龍花が心配そうな声で尋ねてくる。
「うん。ここまでの話で、龍花さん達に信念がある事は良く分かりました。だけど、ふと思ってたんです・・・きっと、アイツらにも"妖界を救う"という信念があるのかなって」
「そっか・・・私は人間なのに妖気を扱えるから、妖怪とは全然違うって事を忘れてたよ。あんな方法とはいえ、あの連中にとっては正しい事をしてるつもりなのかもね・・・」
そんな私達の言葉に、龍花は私達の頭を優しく撫でながら「大丈夫」と言っているかのような笑顔を浮かべて見せる。こんな笑顔を見せられると、何となくではあるが彼女達に任せてしまいたくなる気持ちになってしまいそうだ。
「大丈夫ですよ、椿様に綾様。それと今の話についてはかなり難しい問題ですし、今は無理に考えない方が宜しいかと」
「ごめん龍花、なんか変に気を遣わせちゃったな〜」
「今はゆっくり寝なさい。お2人共まだ完全には回復していないのですから、無理は身体に毒となります」
「ん・・・分かりました」
それに、こうして私達を優しくしてくれる龍花を見ていると別世界のような人だった印象を持っていたのが嘘のようで、まるで厳しい中に優しさがある姉を持った感じがして何処か安心してくるのだ。
「あの・・・おやすみなさい、龍花さん」
「えっと、その・・・私も色々とありがとうな、龍花。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい・・・椿様、綾様。見張りはしっかりとしておきますから」
何故だろうか・・・いつの間にか私は龍花に、オジサンや椿のような"家族"に似た安心感を覚えていた。
ずっと前から、心からそれを願っていたかのような、それくらいに満たされている気さえしてくる。