私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
僕の名前は"槻本 椿"。
今は妖狐ですけれども少し前までは妖怪センターの人やおじいちゃんが箝口令とか色々していて"槻本 翼"という人間の男の子として暮らしていました。
でも人を操る妖魔のせいもあったとはいえ、僕の日常は誰からも蔑まれていじめられている毎日でした。
――僕の初めての親友でもある"烏森 綾"こと綾ちゃんと出会ったのは、そんな中学1年生になったばかりの春から夏に移ろうとしていた頃です。
「おい槻本〜!どうせ昼は1人でヒマなんだろ?だったら俺達の代わりにコンビニでパン買って来いよ〜!」
「え、え・・・でも、まだ授業も残っているのに学校の外に出ちゃ――」
「うるせ〜な!分かったら早く返事しろよ!!」
「ひっ!」
その日は何時ものようにクラスメイトの男の子達から、昼の食べ物をパシらされて怯えながら買いに行こうとしていました。
しかし――
「さっきからギャーギャーギャーギャーって、そっちこそ私が上で寝てんのにうるさいわクソがぁぁああ!!」
突然ガシャーン!と僕と男の子達の間に勉強机が投げられてきて、それに続けてイライラした様子の銀髪をポニーテールにした外国人みたいな女の子が上の階段から飛び降りて来ました。
はい、この子こそが僕の後の親友となる綾ちゃんです。
「げっ!?ご、ゴリラ女・・・なんつ〜所で出てくんだよ!」
「じゃかあしいわ、ボケ!今は昼休みなんだから誰が何処で寝てようと勝手だろうが!!」
「おい、皆逃げるぞ!ゴリラ女が相手じゃ俺達が束になっても勝てないし!ついこの間だって、隣町の学校でひと暴れしたって聞いたからな!!」
すると、男の子達はその場からスタコラサッサと僕を置いて逃げるように走っていってしまいました。綾ちゃんの事を良く知った今になって思ってみると、多分本当に逃げたかったんだと思います。
それから綾ちゃんは、まだ不機嫌そうな様子で怖くて呆然と立ち尽くしている僕を見て近づいて来ました。
「ったく、逃げ足だけはやたら早い連中だな〜・・・と、お前。なんかアイツらに絡まれてたみたいだけど、なんでそんな事になったんだよ?嫌な事があって喧嘩売るんなら、自分の力を理解して相手くらいは見て判断しとけって」
「え、あの・・・ぼ、僕は特に何も・・・」
「んじゃあ、アレか?良くある「おい、コイツ弄ったら楽しそうじゃん」的に絡まれてたって事か?おいおい勘弁してくれよ、なんだって私は面倒事に首を突っ込んじまったっていうんだ!」
そう言って綾ちゃんは「やってしまった」といった様子で大きくため息をつきながら顔に手を当てて上を見ました。
でも、そのお陰で僕は買い出しをさせられずに済んだので感謝しかありません。だって、当時は先生も含めて本当に誰も僕の事を気にかけてくれませんでしたからね。
「あ、あの・・・助けてくれて、ありがとうございます・・・」
「あ〜別に良いよ、そんな礼なんか言わなくたって。私が勝手にキレてアイツらに襲いかかろうとしてただけなんだしさ。ところでアンタ、なんか見覚えあると思ったら同じクラスの奴か。名前は、え〜っと確か・・・」
「つ、槻本 翼って言います!クラス」
その時、僕はつい嬉しくなって自己紹介をしてしまいました。僕の名前を覚えてくれている人は、皆僕をいじめるのを楽しんでいる人達だったので、綾ちゃんみたいな人が居たんだと感激してしまったんだと思います。
「ほーん、翼・・・翼、ねぇ。なんか流行りのアイドルみたいでカッコ良いじゃん!私は烏森 綾、つっても多分喧嘩しまくってて有名だと思うけどね〜」
「綾ちゃん、かぁ・・・喧嘩で有名な割には、結構可愛い名前をしていますね」
僕がそう言うと、綾ちゃんは素っ頓狂な反応をしてブンブンと首を横に振り始めました。
「ぶふっ!?か、可愛いって・・・そんな褒めても私は、これからもアンタを助けたりなんかしないからな!今回助けたのはアレだ、単なる偶然!そう、ぐ〜ぜんだから!!」
「え、あ・・・ご、ごめんなさい!」
「あ〜もう、調子狂うな・・・だから謝らなくて良いよ、別に。それと私は普段屋上に続く階段の方に居るからさ、ヒマな時は遊びに来たって構わないよ。どーせ他に誰も私を気にはしないだろうし、他に人が居れば私に喧嘩をふっかけてくる連中も手を出しにくくなるだろうしさ」
「あ、えと、はい!ありがとうございます、綾・・・ちゃん」
「そこまで名前の呼び方でビビらなくて良いっての、普通に綾ちゃんで十分だ。とりあえずよろしくな、翼」
こうして、僕と綾ちゃんは友達とも言えないような微妙な関係として知り合うようになりました。
それからというもの僕は昼休みに綾ちゃんに会いに行ったり、"助けない"って言ってたのに時折僕がいじめられている所に現れては、いじめていた人を追い返してくれたりしました。
そんな毎日を送っている内に、僕はふと綾ちゃんについて思うようになったんです。
――どうして僕なんかに、あれ程まで積極的に構ってくれるんだろうって。
もしかしたら僕にわざと仲良く振舞って、実は裏で何か考えているんじゃないか・・・そう思うと、不安になって会う度に心の震えが止まらなくなっちゃったんです。
綾ちゃんに対してそんな不安を抱えたまま、それでも付き合いを断るのが怖くて何時ものように振舞っていた――ある日の事でした。
その日は綾ちゃんの所へ辿り着くよりも早くクラスメイトの人に絡まれて、持って来ていたお弁当をゴミ箱に捨てられてしまいました。もちろん、家の人は誰も作らないので僕自身が作ったお弁当です。
きっと僕が遅れて来た事について、綾ちゃんは色々気にして声をかけてくるんだろうな・・・そんな事を考えて、どう返事をすれば良いのかと悩みながら綾ちゃんが昼休みにいつも居る場所へと辿り着くと、普段と比べて様子が変でした。
屋上近くに並べられていた古い勉強机は乱雑に荒らされて、ビニール紐で束ねられていた昔の教科書も紐が解けてバラバラに散らばっていたのです。
そして恐る恐るその奥へ進んでいくと、殴られたりしたのか3人くらいの上級生の人が倒れていて、その真ん中に立つ形で全身が傷だらけになって制服もボロボロになった綾ちゃんが息を切らしていました。
「え、あ・・・綾ちゃん?こ、これは・・・?」
僕は、そんな綾ちゃんの現実離れした姿を目の当たりにして呆然としてしまいました。
「あぁ、まだ残ってるかと思ったら・・・翼じゃん。ごめんごめん、ちょっと眠ってたら不意打ちされちゃってね」
「不意打ちされちゃってね、じゃないよ!酷い怪我じゃん!なんで逃げなかったの!?」
それにも関わらず綾ちゃんは平然としていたので、僕はつい大声をあげて怒ってしまいました。
でも、その後に困惑した顔で綾ちゃんが返してきた言葉は、あまりにも意外な答えでした。
「いや、だってさ・・・コイツら、元はといえば翼が居るって私に聞きに来たんだよ?それで"翼に何か用事があるのか"って聞いたら、そいつら翼を殴ってストレス発散したいって抜かすから、つい――」
「だからって僕なんかの為に、そこまでボロボロにならなくても良いよ!なんで綾ちゃんは、いつも僕の事を助けたりするのさ!?」
僕は綾ちゃんがケラケラとした笑顔を浮かべているのを見て、とうとう溜まっていた気持ちを全部吐き出しました。
そんな事を聞いたらきっと嫌われるとか、そんな事は当時は全く考えていなかったと思います。
「うっ・・・そ、その、笑わないで聞いてよ。私、なんつーかさ・・・翼の事、実は結構気に入っちゃったみたいでさ。あっ、これは違うからね?男として好きって事じゃなくて・・・その、と、友達として!友達として好きになっちゃった感じだから!」
「・・・えっ?そ、それはどういう意味なの?」
僕の質問に、綾ちゃんは顔を赤らめて頭を掻きながら答えました。
「だ〜もう・・・恥ずかしいんだから2度も言わせないでよ!私は――翼の事を友達として見てるから、アイツらから翼が傷つけられるって聞いて我慢が出来なかったんだよ!!」
そんな綾ちゃんの言葉に、僕は驚きとか色々な感情が湧いてきて、再び呆然としてしまいました。
そして、気付くとポロポロと涙が止まらなくなってしまっていました。
「うぇ!?あ、ご、ごめん翼!やっぱり駄目だよね、私みたいな不良なんかに絡まれて・・・本当は怖かったんだよね?無理に話しかけたりなんかして、本当にごめ――」
「違う、違うよ綾ちゃん。僕、そんなつもりで泣いたんじゃないよ・・・ただ、こんなにも大切に想われたのが嬉しくなっちゃったんだ」
「ほ、本当?私に無理して答えなくたって良いんだよ?」
「本当に本当だよ。僕さ・・・家でも邪魔者みたいに扱われてたから、誰も僕の事を気にかけてくれないのかって諦めかけてたんだ・・・」
それからも涙は後から後から止まらなくって、同時に僕の溜め込んでいたものも全部綾ちゃんに吐き出しました。けれど、綾ちゃんはそんな僕に口を挟む事なく、ただただ真剣な顔で頷いて話を全部聞いてくれたのです。
そして僕にとっては、ここまで優しい顔をした綾ちゃんを見たのは初めてでした。
「うっ、ぐす・・・」
「・・・めっちゃ泣いて、気分は良くなった?」
「うん・・・ありがとう、綾ちゃん」
僕の中には、もう以前まで感じていた綾ちゃんに対する不安も無くなっていました。
この出来事をきっかけに、僕と綾ちゃんは本当の意味で"友達"になれたのです。
でも・・・今では僕に隠された過去があると分かって、これからの事で綾ちゃんに嫌われないか・・・そして、綾ちゃんに迷惑をかけないかが心配になってきています。
綾ちゃんにも同じように過去に謎があると分かったけれども、僕は"あの出来事"のお陰で今こうして自分に自信を持てている。
それに白狐さんや黒狐さんに助けてもらったお陰もあるけれど、それと同じくらいに僕は初めて手を差し伸べてくれた綾ちゃんの事が好きになっています。
だから、例え綾ちゃんがどんな過去を持っていたとしても僕はずっと傍に居てあげなくちゃいけないんだ。
今度は――僕が綾ちゃんを守れるように。