私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾壱話 閉ざされた椿の60年の記憶

 

――翌朝

 

目覚めた私と椿の前に待っていたのは、ずっと心配していた皆からの熱烈な抱擁だった。

 

ぶっちゃけ夏もまだ途中だというのに、クソ暑くなるだろう・・・と思ったのだが、雪女の氷雨さんや氷魚も抱きついてきてくれたお陰で意外とそこまで暑くなくて助かる。

 

ついでと言わんばかりに私達の部屋の前にも、家の他の妖怪達も心配して中を覗き込んできている。なんというか、まだ病み上がってもいないのに皆の熱気でクラクラしてしまいそうだ。

 

それからも午前中いっぱいまで、皆から心配の言葉やらハグやらで落ち着かず、昼ご飯になってようやく皆から解放されたのであった。

 

そして、今は昼ご飯を食べ終えて椿と一緒に狐2人と会話をしていた。

 

『しかし・・・今回ばかりは、流石に我らも焦ったぞ。まさか、綾までもが倒れてしまうとは思ってもみなかったわ』

 

『あぁ、本当にな・・・肝を冷やしたわ。椿も綾も、もう少し自分の身の事を考えろ』

 

「うぅ、ごめんなさい。龍花さんからも昨日、色々と言われました・・・」

 

「はい・・・ごめんなさい。使い魔で小次郎を呼び出せるからって、今回は油断し過ぎたよ。そのせいで、あの女に捕まえられるなんて・・・」

 

狐2人から厳しい言葉をかけられて、私達は気分が落ち込んでしょんぼりとしてしまう。椿は耳や尻尾が元気無く垂れてしまっているし、私も昔から一緒に居てくれた小次郎が捕まってしまった事に強く責任を感じてしまって、申し訳無さで目から涙が出そうだ。

 

「大丈夫ですよ、白狐さんに黒狐さん。この次からは、私達が付いていますから」

 

すると、そんな私達の後ろから龍花が"頼りにして欲しい"といった様子でキッパリと言ってくる。そして、共に居る朱雀と同じく腕を組んで私達へ信頼の眼差しを向けてきていた。相変わらず、2人共に分身でもしたかのような見た目をしていて、リボンの色の違いさえ無ければ全く見分けが付かない。

 

龍花達の態度が違う事に気付いた白狐さんが、私達へ不思議そうな顔を向けてくる。

 

『椿、それに綾よ・・・これは一体全体どういう事なんじゃ?何故コイツらが、お主らの事も守護をしとるんだ?』

 

「えっと・・・なんでか分からないですけど、わら子ちゃんと一緒に僕達も龍花さん達から守護されるって事になっちゃいました」

 

「うん、私も何が何だかって感じだけど・・・どうして、ここまで気を遣われちゃうんだろうね?」

 

『全く・・・椿も綾も、何かある度に色んな奴から好かれるな。ちょっとだけ妬くぞ』

 

そう言って黒狐さんは少し不満げな目をして見せているが、口元がにやけているせいでどうにも"本当は嬉しいのではないか"と思ってしまう。

それに黒狐さんが嬉しそうにしているのは、椿には他には無い魅力があって、それで良く皆に好かれているからだとも考えていそうだ。

 

椿の事は確かに理解出来るが、しかし私からしたら自分の方は彼女と同じくらいの魅力があるのかと疑問を抱く話だ。

 

『それはそうと・・・椿よ、何故我から視線を逸らす?』

 

すると、白狐さんは何故か視線を外していた椿に気付いて声をかけてきた。

 

「んぇ?な、何でもないですよ」

 

『そう言っておきながら、先程からこっちを向いていないぞ。おい、我が何をした!?もし何か悪い事をしたなら、謝るから許してくれ!!』

 

白狐さんはそう言って慌てるものの、それでも椿は恥ずかしそうにして顔を逸らしてばかりだ。もしかして、彼女は白狐さんの事で何か思い出したりしたのだろうか?

 

『おい椿よ、頼むからこっちを向け!』

 

「んん・・・」

 

『くっ、何故顔を逸らす!』

 

「とりあえず、白狐さんは一旦深呼吸して自分の行動に心当たりが無いか考えてみたら?私から見たら、割りと思い当たりそうな節はあるんだし」

 

『むむむ・・・綾まで、なんという事を言っとるんだ!?』

 

そこは流石に椿が何にも言ってくれないので、白狐さんの事をフォローしたくても出来ないのだから仕方ないし、日頃のバチが当たったのだと思って反省してもらいたいと思う。

 

そんな白狐さんをツッコミに据えた漫才のような会話をしていると、いきなり下の階の玄関がガラガラ!と勢い良く開けられる音がして、ほぼ同時に私達の部屋へと走って来る音が聞こえてきた。

 

なんだろう、そういえば誰か忘れていたような・・・あっ、やべぇ人が1人残ってましたわ。

 

「椿ちゃ〜ん!!綾さ〜ん!!」

 

「ぐがぼぉっ!?」

 

「かふっ・・・!」

 

カナの事を思い出したと同時に、部屋に飛び込んで来た彼女から思いっきり体当たりをされてしまった私達は、危うく昼に食べたうどんが出そうになりそうだった。

 

「大丈夫?2人共ちゃんと生きてる!?息してる!?」

 

「し、死にかけたけどな〜それも今!」

 

「あっ・・・う・・・」

 

白狐さんが膝枕する形で受け止めてくれたお陰で後頭部をぶつける事は無かったものの、そのせいで今度は椿が白狐さんとバッチリ目が合ってしまう事になり、彼女はヤカンを沸かしたように顔を一瞬で真っ赤にしてしまっていた。

 

もちろん、白狐さんは椿の顔をまじまじと見ながらニッコリとしている。

 

『ほぉ・・・なるほどな。その様子だと椿、お主はまた我との記憶を思い出したのか?』

 

「う〜」

 

「椿も、いい加減観念しなよ?黙っていたって、他の人から見たら怪しいのはバレバレなんだし」

 

『まぁ、椿の事については後でたっぷりと聞く事にしよう。それに・・・ほれ、2人共に今は心底心配していた親友に、しっかりと無事な姿を見せておけ』

 

「ぐぇ、分かってますよ〜白狐さん」

 

「うぅ・・・」

 

そして白狐さんはゆっくりと私達の背中を手で押して、カナへ突き出すように優しく上半身を起こさせてくれた。

 

「椿ちゃん、綾さん・・・ごめん。さっきのは大丈夫?」

 

「平気平気!これくらい、私は今じゃ何て事も無いね!」

 

「うん、大丈夫だよカナちゃん。僕の方は白狐さんの力で傷口は塞がっているし、綾ちゃんも妖気を一気に奪われた状態なだけみたいだから。まだちょっと血が足りなくてクラクラするけど、あと数日もすれば動けるようになるよ。僕達の方こそ、心配かけてごめんね」

 

するとカナの後に続いて、雪も呆れた様子をしながは部屋へと入ってくる。

 

「全く・・・"お見舞いに行ける"って鞍馬天狗から言われた瞬間に、学校を飛び出して行くなんて・・・」

 

「雪も来てくれたんだ!2人共、そんなに目にクマが出来るまで心配させちゃって・・・本当にごめんな」

 

「私と雪なら大丈夫だって!とにかく、椿ちゃんも綾さんも無事で良かったよ〜」

 

そう言ってから、カナは私と椿に抱きついたままポロポロと涙を流し始めてしまった。

やたらと自分のメンタルが強くて忘れそうになっていたが、実際はカナと同じ14歳の少女である事に変わりは無い。彼女が私と椿の命が危ないと知れば、そういう反応をするのは当然の事だろう。

 

「おいおいカナ、泣く程の事じゃ――いや、まぁ私達が悪かったけれども」

 

「ごめん、心配かけて。僕達も色んな人に注意をされたから、今度からは気を付けるね」

 

「そっか・・・それじゃあ、私からはもう怒らないね。でも、その代わり――ていっ」

 

「あでっ」

 

それからカナは椿と私の頭を順番に軽くチョップをして、はにかんだ笑顔を浮かべて見せた。

なんというか・・・こういう所がカナらしいな、と和んでしまいそうだ。そう思いつつ、私と椿もそんな彼女の頭を撫でながら優しく笑顔を作って返して見せる。周囲は、そんな私達の様子に微笑ましげな表情をしていた。

 

「叩かれて尻尾振ってる。椿・・・マゾ?」

 

「それくらい察してあげろよ、雪〜。カナにこうされて椿がどう思ってるか、尻尾を見なくても分かるもんだろ〜?」

 

「そう言う綾だって、顔がニヤニヤしてるし・・・」

 

「う、うるさいなぁ・・・良いじゃん、別にさ〜」

 

「雪ちゃんの言う通り、なんか綾ちゃんは猫みたいになってるよね」

 

そんな事を4人で楽しく話しながらニコニコ笑顔を浮かべていると――

 

「なんじゃ、賑やかなもんだな。椿も綾も、一応は怪我人だ。皆で見舞うのは良いが、無理をさせないようにの」

 

今度は扉の方から椿の祖父が真剣な様子で入ってきた。そして、その後ろにはわら子と守護の4人姉妹の2人――玄葉と虎羽の姿も見える。

そして暗い表情をしていたわら子は、私達を見るなり顔がすぐにパァと明るい笑顔へと変化していた。

 

どうやら、わら子も私達の見舞いに行きたかったのに守護の4人から硬く禁じられていたのだろう。

わら子自身が座敷わらしという珍しい妖怪である以上は仕方のない事ではあるかもしれないが、それでも少しはわら子に不自由の無い形にならないものかと思ってしまう。

 

「さて、椿に綾よ。その刀剣と防具なんだが・・・」

 

訝しげな表情で椿の祖父が、椿と私の枕元に置いてある例の石の刀剣と防具を指差す。

 

「お前さん達が眠っている間、それに厳重な封をして再び元の場所へ戻そうとしたのだが・・・誰1人として、椿や綾のそれに触れる事が出来んかったわ」

 

「え?これって、そんなにヤバい物なんですか?」

 

「ある意味では、その通りじゃ。椿、それに綾よ。その刀剣と防具は、お前さん達2人が"神妖の力"を使う為の媒介みたいな物なんじゃ。つまる所、それを長く持っとったら2人共に早い段階で記憶が戻ってきてしまう・・・いや、既に戻りかけておるか」

 

「「・・・」」

 

そんな椿の祖父の言葉に、部屋に居た他の人達は驚いた様子を浮かべていた。だが私と椿は特に驚く事も無く、ただただ静かに彼の話を座って聞いている。

 

正直な所、これが椿の過去や私の過去に繋がっている物である事は何となく理解が出来ていたからだ。

 

「昔はまだ、それは誰を持ち主とも認定していなかった。それ故に誰でも持ち運んだり出来たのじゃが、この間お前さん達を持ち主と認めてしまったからの・・・もう今では、お前さん達以外に誰も刀剣や防具に触れなくなってしまったんじゃ」

 

「そうだったんだ・・・」

 

「じゃあ、やっぱりこれは椿の過去に?」

 

「その通りじゃ、綾。とはいえ、お前さんの方は何時誰が此処に持ち込んだのか分からなかったからな。残念だが綾の過去の事は、幾ら儂らでも知らんのじゃ。センターにもお前さんのような人間の情報は無かったからの・・・」

 

「いえ、私は別に自分の過去については、そこまで気にしてませんから・・・」

 

「そうか・・・だが、一応は気を付けておくのだぞ。そして、椿よ。覚悟は出来ているのか?自分の過去を知る為の」

 

椿の祖父が強い眼差しのまま、椿へと視線を移す。

 

彼女は、決断をした真っ直ぐな目で戸惑う事無く彼に真剣な表情を返して見せた。

 

「僕も、綾ちゃんと同じです。もう過去の事は終わってしまった事で、大事なのはこれから・・・そうでしょ?おじいちゃん」

 

「ふん・・・お前さんが覚悟をしとるのなら良い。これはセンター長と話していた事なんじゃが、お前さんに過去を知る覚悟があると認めたなら――椿よ、お前さんの記憶に関しての箝口令を解く事にしたのじゃ」

 

「「・・・へっ?」」

 

あまりにアッサリと椿の祖父からそんな言葉が出てきた事に対して、ついつい椿も私も素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「つまりじゃ、儂らが知っている事は何でも話そう。しかし予め言っておくが、儂らは"妖界の伏見稲荷大社で起こった事件"に関しては何も分からん。妲己ならば・・・その事件をある程度は知っているだろうが、話してくれるかどうかじゃな」

 

「「・・・」」

 

私も椿も、突然の事で緊張して無言になってしまう。椿の過去を知る覚悟が出来たとはいっても、やはり実際に聞くとなると色々な不安で胸が張り裂けそうになる。

 

妖界の伏見稲荷大社で起きた事件――それが椿の失われた過去の記憶に深く関わっているのは殆ど確実だ。

 

今は分からないが、もしそれを理解した時に果たして私は今まで通りに椿と一緒に居れるのだろうか。そして、私が大丈夫だったとしても彼女が過去に耐えられるのだろうか・・・と。

 

そんな沈黙を先に破ったのは、1番私が心配をしていた椿だった。

 

「おじいちゃん、話して」

 

「ふむ、良かろう。しかし悪いが、他の者は――」

 

「私も、椿の過去を知る為に残ります。私自身の過去はどうでもよくても、椿の過去で椿自身が傷付くなら、私は彼女の為に傍に居てあげたいんです」

 

「ありがとう、綾ちゃん・・・それと、カナちゃんと雪ちゃんにも一緒に聞いて欲しいです。駄目?おじいちゃん」

 

「ぬぅ・・・まぁ、2人がそう言うなら仕方ない。良かろう」

 

私と椿の言葉に、カナと雪も私達を見ながら真剣な顔つきで頷いた。

 

恐らく、2人共に椿と私の覚悟を受け止める気でいるのだろう。そして、もし私も過去の事が分かった時には椿に全て打ち明けるつもりだ。

 

親友と自分で言うからには、何であっても私は椿に知っていて欲しいと思っている。

きっと、カナと雪も私と同じ"想い"で椿の過去を聞いてくれるのだろうから。

 

「さて・・・儂が知っておるのは、椿が男子になってから、儂の家で暮らし始めた時じゃな」

 

椿の祖父が私と椿の間へ入る形で座り、妖怪の天狗の姿から人の姿へと変化して彼女の過去について静かに話し始めた。

 

閉ざされた椿の60年の記憶、その事について・・・

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