私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾弐話 美しい妖狐

 

椿が覚悟を決めた事を示すように視線を彼女の祖父へ向ける。すると彼は少し頷いて、懐から1つの木の札を取り出し私達へと見せてきた。

 

『妖狐、椿。一九伍三年〜二〇一九年。記憶封札』

 

そう木の札には椿の名前が刻まれていて、書かれた年代から概ね椿がこの家で暮らしていたとされる60年の時期と一致している。どうやら、この札に椿の記憶が封じられているようだが、ここで私は1つ疑問に思った。

 

「なんか・・・椿の封印されている記憶としては結構細かく分けられていません、コレ?」

 

「気づいたか、綾よ・・・そしてすまんな、椿。お前さんは、"記憶の封印"とは別に"記憶を抜き取られている"んじゃ。封印されておるのは"妖界の伏見稲荷大社での事件"までで、抜き取られているのが"男の妖狐として此処で過ごした60年"という訳じゃ。話すとは言うたが、この記憶を戻した方が早かろうと思ってな」

 

なるほど・・・椿の記憶を"想い"という形で感じ取れていたのは、全て彼女が幼くて男に変えられる以前の記憶だったという事か。こうして言われなければ、その程度の事に全く気付かなかった自分が恥ずかしく思う。これでは親友としては怪しい所じゃないか。

 

そんな事で悩む私を他所に、椿の祖父は話を続ける。

 

「さて・・・そこで1つ、問題があっての。この記憶を一気に戻すと、脳がその情報を処理し切れずに何らかの障害が出る恐れがあるんじゃ」

 

「えっ?それじゃあ、どうすれば・・・」

 

「そう不安そうにするな、椿。そこで儂は自分の見た出来事を話しつつ、それと同時にゆっくりと記憶を戻していく事にした。もう一度だけ聞く、本当に良いな?どんな記憶だろうと、後悔はせんか?」

 

椿の祖父が視線を向けると、彼女は覚悟こそ出来ていたとはいえ身体が強ばってしまい尻尾までピーンと垂直に立ててしまう。

 

「ふむ、もう目を見れば分かるわい。さて・・・綾、そして白狐に黒狐よ。この期間には、お前さん達はいない。たとえどんな事があろうと、椿を守ると誓うか?」

 

その様子を見た椿の祖父は、試すかのようにして私や狐2人へと視線を向けてくる。

 

だが私からすれば、それは聞くまでもない話だった。

 

「当たり前です、椿の爺さん。私は椿と初めて会った時から、彼女を守ろうと決めたんですから」

 

『全く、愚問だな。何があろうとも我が嫁、椿は守ってみせる。無論、裏切ったりも幻滅したりもせん』

 

『俺も、右の2人に同じだ』

 

狐2人も椿を信じてくれる事に、どうしてか心でホッと安心してしまう私が居た。この2人が即答なのは分かっていたのに、それでも何処か心の底では不安に感じていたからなのかもしれない。

 

「良かろう。では椿、ゆくぞ」

 

「んっ・・・」

 

私と狐2人の返事を聞いた椿の祖父が、彼女の額へと記憶が封じられた木の札をゆっくりと押し付けて妖気を流し始める。

 

それと同時に、私は椿から記憶の中の"想い"が溢れてくるのを感じた。

 

だが、それは――

 

「あの、おじいちゃん・・・」

 

「えっと、すいません。私も、なんか椿が平和に暮らしてるイメージが流れてくるんですけど・・・」

 

「あぁ、すまんの2人共。実は50年以上は、割りと平穏に暮らしとったんじゃ」

 

「ずこ〜っ!!」

 

「ちょっと〜!僕のドキドキを返してください!!」

 

なんだって、こう真剣に構えていた自分が恥ずかしくなってくるんだ・・・思わず、前のめりにずっこけてしまったではないか。

 

ちなみに椿の記憶の方については、最初こそ自分の事も分からぬまま不安げにしていたが、その内に家の妖怪達とも打ち解けていって仲良くなっていく"想い"が見えた。

そして、そんな中で椿は自分の事を男子であると認識しきってしまっていた為に、異性として興味を持った里子に対して色々とイタズラをしていた事まで知ってしまった・・・うん、これは変態な子に育ってしまった訳だ。なんというか、色んな意味で酷い。

 

なお、その事について説明している時の椿の祖父は一字一句を丁寧に言葉にしていました。うわぁ・・・本人は天狗の妖怪なのに、まるで鬼のようだ。

 

「椿・・・」

 

「もう止めてぇ!っていうか、綾ちゃんもドン引きした顔をしないで〜!!」

 

「だ、大丈夫だよ椿。でも、その・・・もし溜まっているなら、私なんかで良ければ色々――」

 

「だから、そうじゃないって〜!!」

 

『椿よ、観念せい。翁が言っていたのは、これも含めてじゃろう・・・多分』

 

「僕が想像していたのと違います〜!これ、ただの黒歴史だよぉ・・・」

 

うん、私も椿の言う通りだと思う。

大丈夫大丈夫、黒歴史くらいなら私だって小学生の時は、正しくロシア人形みたいな服を着たりしてて普通に可愛い子だったって思い出があるから。あの頃の記憶は本当に男子共からのアタックがヤバかったので抹消したい程だ。

 

それにしても説明している当の本人は更に大きな声で話してくるし、カナはニヤニヤしていて雪も意味深な笑みを浮かべているしで新手の公開処刑かと思うくらいである。

 

追撃と言わんばかりに龍花達4人も何か凄みを感じる笑みを浮かべているわ、里子はモジモジとしているわで椿のメンタルが心配になってくる・・・主に羞恥心的な意味合いで。椿本人は布団へと潜って恥ずかしそうにはみ出た尻尾をバタバタさせているし。

 

しかしそんな中でもわら子だけは、依然として暗い表情のままなのが私は気になった。

 

「さて、と・・・椿の黒歴史については、この辺にしておこう」

 

「おいサラッと黒歴史って言ったよ、この人」

 

「まぁ、落ち着け・・・これからが本題じゃからな、綾よ。とにかくじゃ、その事件が起きたのは今から2年前。冬の寒さも和らいできたある日、椿とわらしが遊んでいた時じゃ」

 

そして、その言葉を皮切りにして椿の祖父は途端に真剣そうな様子になった。恥ずかしがっていた椿も、それに気付いて布団から顔を出して話の続きへと耳を傾ける。

 

椿から流れてくる"想い"もより強くなり、日常の一コマ一コマで見えていたようなイメージも映像のようにハッキリとした形となってきた。

見えたイメージによると、事件があった時――どうやら椿は宝物をわら子に自慢したくて、子供心ながらに出す事を禁じられていた刀剣を持って来てしまっていたらしい。

 

「その刀剣や防具はの・・・箱で封じられている間は誰かに存在を感じられたりはせんが、箱から出してしまうと刀剣の力を感じ取れてしまう事がある。その事件の時も、その椿の刀剣を狙って賊が侵入して来おった」

 

「それで、まさか椿は"わら子が攫われる"と勘違いして・・・!」

 

椿へ確認を取るように彼女へ振り向くと、椿は無言のまま真剣な表情で頷いた。

感じられる"想い"のイメージには、椿が妖気を扱えないにも関わらずわら子を守る為に敵へ向かったものの、逆に斬られて瀕死となってしまっていた。

 

「それでね、その時に襲って来た人達は椿ちゃんの刀剣を奪おうとしたの。私、必死になってそれだけは守ったの。だって・・・椿ちゃんの大切な物だって聞いていたし、私のせいであんな事になっちゃったんだもん!」

 

わら子が泣きそうな顔で椿の手を取って、うずくまるようにそのまま彼女の手に顔を埋める。

 

「わらし、お主のせいではない。あの時に奴がどんな状況に陥っていたか、それが早くに分かっていれば・・・あの攻撃は防げた」

 

椿の祖父は優しくわら子を宥めるが、この後の事については残念ながら、椿から流れてきていた"想い"のイメージはここで途切れてしまっていた。

どうやら、椿はその辺りで一旦意識を失ってしまったらしく、2年前という状況から考えて"抜き取られた記憶"もそこが最後なのだろう。

 

「椿、お前さんの刀剣を狙った賊の正体は、お前さんの家族役を任されていたあの『蟲喰い』の父親。センター長と儂の親友でもあった、蟲の大妖『蟲蝿(こよう)』と呼ばれていた奴じゃ」

 

そういえば・・・そいつが滅幻宗の連中に殺された時に、椿の祖父は辛そうな様子を浮かべていたし、里子からも昔に彼らの間で何かがあったという話を聞いた事があった。

 

「これは、センター長と儂だけの秘密だった。実は、奴は部下全員を人質に取られておったのじゃ。その交換条件として、亰嗟から椿の刀剣を盗んで来いと頼まれたようじゃった」

 

「亰嗟が!?人質を取ってまで、そんな事するなんて・・・酷い」

 

「じゃが、そんな事にも儂らは気付いてやれんかった・・・」

 

そう言って椿の祖父が項垂れるのと同時に、私もあまりの胸糞の悪さに怒りで眉間へシワが寄る。

亰嗟の考えている事とは、一体全体何なのだろうか。少なくとも、同じ妖怪を捨て駒にするような連中がマトモな理念を掲げているとは思えない。

 

「そして、事件は起きた。椿よ、瀕死のお前さんは暴走をしたのじゃ。今にして思うが、アレがお主の本来の力によるものなのかの・・・」

 

"椿が暴走した"という言葉で、椿はハッとしたように目を見開いたが、きっと以前に廃墟で暴走した時の事を思い出したのだろう。

あの時、私も何か変な意識に乗っ取られる形で椿に続いて暴走してしまったので、恐らく2年前に彼女が暴走したという時も何かあったのかもしれない。

 

だが椿はそれに恐れる事なく、自分の身体に秘められた力の事を打ち明けた。

 

「えっと・・・僕が思い出したのは、自分には産まれた時から"神妖の力"があった、という事です」

 

「そうか。ではやはり、アレはお前さんの本来の"神妖の力"か。見た事が無いの・・・あんな姿は」

 

長く生きてきた椿の祖父が言うのだ、恐らく相当凄い姿になったろだろう――

 

「あんな、美しい妖狐はな・・・」

 

「ちょっと待って、何でウットリしてるんですか椿の爺さん!?そんなに椿の暴走した姿はヤバかったの!?」

 

ドン引きしながら入れた私のツッコミと里子が慌てて膝を叩いてくれたお陰で、少ししてから椿の祖父は我に戻ったのであった。

 

「すまんすまん・・・いや、それ程だったのじゃ。自信を持て、椿よ」

 

「真剣な話をしているのに、緊張感も何も無いよ・・・」

 

「まぁまぁ、そして暴走した時だがな。始めは父親である銀狐に似た銀色へ変わったから、その力に目覚めたのかと思ったのだが・・・それから徐々に白く輝いていき、ついには白金――プラチナと言った方が良いか。そんな感じに毛の色が変わっていったのだ」

 

「白金だって?そんな色の妖狐って、見た事も聞いた事も無いな・・・」

 

「その通りじゃな、綾よ。そして、その時の椿は9本の尻尾を使って暴れ出したのじゃ。それと同じくして蟲蝿を殺してしまったのじゃがな・・・」

 

これは・・・私が想像していたよりも、とんでもない話かもしれない。

 

椿が九尾の狐だった?しかも暴走した力で、彼女の祖父と知り合いだった大妖怪をも殺してしまうなんて・・・。

 

私はあまりの衝撃的過ぎる事実に、椿と共に頭がオーバーフローしてしまって布団へと倒れ込んでしまった。

 

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