私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
衝撃的な話をされてプレッシャーから布団へ突っ伏した椿に、白狐さんは何処か重々しい雰囲気で声をかける。
『椿よ、しっかりしろ。お主も自分自身が普通では無い事に、薄々気付いてはいたのだろう?』
そんな中、椿は布団に突っ伏したまま、自分の祖父へ感じていた違和感を確かめるかのように質問する。
「おじいちゃん・・・僕がおじいちゃんの親友を殺したのに、何でそんなに軽いの?」
その言葉を聞いて私も、確かにどうしてこんな辛い出来事の事を、特に何も気にしていないかのように話せるのだろうかと思って彼へと視線を向けた。
「む・・・いや、なんというかの。その時は蟲蝿に対する怒りしか無かったのじゃ。それに椿・・・お前さんは言ったじゃろう?"過去は過去、大事なのはこれから"・・・じゃろ?」
椿は自分の祖父からそう言われ「そういえば、そうだった」と驚いた顔を浮かべる。私も話の衝撃で、その事がスッポリと頭から抜けてしまいかけていたが、お陰でハッと思い出す事が出来た。
「それと、その時のお前さんの力は発現したばかりか、そう強力でもなかったのじゃ。その時はまだ焦る程でも無かったわい。つまる所、儂とセンター長で何とか封じ、お主の記憶を抜き取って2度と暴走せぬようにしたのじゃ。そして刀剣は、その時に見失ってしまったのじゃが・・・わらしよ」
それから椿の祖父は、一旦私から視線を外してわら子へと向ける。わら子の方は、その視線に顔を強ばらせて緊張してしまったものの、それでも椿の刀剣を隠した経緯を話してくれた。
「あの・・・その・・・ごめんなさい。これが狙われていたのは分かっていたし、これ以上椿ちゃんが・・・危険な目に、不幸な目にあって欲しくないって思って・・・封じてあった木箱と一緒に、私が隠したの」
それは、わら子が椿の事を心から想っての行動だった。彼女が誰にも刀剣を隠した事を伝えなかったのも、きっと再び誰かの目に触れたりして同じ様な事を避けたかったからに違いない。
わら子もまた、椿の事が好きな人物なのだと改めて私は感心した。
誰にも言わずに親友の宝物を隠しました、なんて行動は喧嘩っ早い私でも早々は実行出来ない。それを実行に移せたわら子の度胸は、多分私以上なのかもしれない。
わら子の気遣いを聞いて、椿は彼女へ優しく笑顔を向ける。
「わら子ちゃん、ありがとう」
「へっ?」
すると、椿から感謝の言葉を送られるとは思っていなかったのか、わら子は目を丸くして驚いた声をあげた。
「だって、この刀剣・・・ずっとわら子ちゃんが守ってくれていたんでしょ?だから、本当にありがとう。今まで悪い人の手に渡らなかったのは、わら子ちゃんのおかげだよ」
「う、あ・・・ちゅばきちゃぁ〜ん・・・!」
そう言って椿がわら子の手を取った事で、ついにわら子は我慢していたものが決壊してポロポロと泣いてしまった。
わら子も妖怪とはいえ、心は幼い子供そのものだ。家の主である椿の祖父にも、誰にも言えなかった事はどんなに辛かっただろうか・・・それでも椿から優しく褒められてしまえば、色々な感情が溢れてしまうのも仕方のない話だ。
「はぁ・・・まぁ、今までずっと敵に奪われてしまったものだとばかり思っとったから、ひとまずは安心じゃの。全く、わら子の機転には流石の儂も驚かされたわい」
わら子が椿へ抱きついて泣き続けているのを見て、彼女の祖父もホッと胸を撫で下ろすかのようにため息をついた。気付くと彼が手にしていた椿の記憶の木札はスゥッと溶けるようにして消えてしまっていた。
そして流れてきた椿の"想い"のその後は、病院で男の子として目覚め、父親として振る舞っていた『蟲喰い』と夏美の母親の姿があった辺りで終わっている。当時に椿の記憶が無かった事については、"交通事故に巻き込まれたショックで一時的に記憶喪失になっている"というカバーストーリーになっていたようだ。
しかし椿のそれとは別に、私は頭に何か引っかかるものがあった。
「嬉しい所、悪いんだけど・・・わら子。椿の刀剣の他に、どうして私の防具まで隠されていたの?」
「えっ・・・あ!そ、そうだよね、綾ちゃんの防具についても教えなくちゃだもんね!でも、なんて言ったら良いんだろう・・・椿ちゃんが居なくなってからのある日に庭で1人寂しく鞠をついていたら、突然目の前に知らない女の人が現れて"この木箱を誰にも見つからないように隠して欲しい"ってお願いされたの」
「その人物については、何か最近見たり聞いたりは!?」
「分からない。でも、この前に滅幻宗が襲ってきた時に私達に協力してくれた、あの女の人・・・なんとなくだけれど、雰囲気が似ていた気がするの」
「えっ・・・なんだって?そんな、雫さんが?」
私は雷に打たれたような衝撃を受ける。まさか今まで私達を助けてくれたのには、何か深い理由があって・・・?
そう思って、すぐに彼女へと連絡を試みようとしたが電話やメール、それにSNSですら雫へと繋がる事は無かった。
私に残された雫の手がかりは、余りにも簡単に消え失せてしまったのだった。
「むぅ・・・綾にも何か、悪い事が起こらなければ良いがの。それにしても、どうした椿?まだ何か納得がいっていないようじゃが・・・」
すると不思議そうにしている椿の様子に気づいて、前で腕を組んだまま彼女の祖父が尋ねる。
「う〜ん・・・あのさ、おじいちゃん。僕の記憶の中に出てきたんだけど、妖狐の中で1番凄いとされてる天狐様って、僕の"この力"に気づかなかったのかな?」
「そういえば、見えた椿の昔の記憶だとその60年の記憶より前に、そんな妖狐の人へ会いに行ってたっけね・・・椿の爺さん、何か知らないんですか?」
「うん?いや・・・それは、儂には分からん。何せ、その現場には居なかったからな」
う〜ん、と唸りながら私と椿は何かと彼女と因縁のある狐2人へと振り返っては見るが、あの2人も記憶が封印されていて何も覚えていない事を思い出して肩を落とす。
「あぁ、それと1つ補足じゃが・・・この60年の間に白狐と黒狐が居らんのは、その間コイツらは行方不明になっとったからなんじゃ」
『『何だと!?』』
今度は狐2人が驚く番であった。
だが今の事実については、私も態度には出していないがとても驚いている状態だ。あの2人は元から、ずっと伏見稲荷の像として居たのではないのだろうか?
『翁よ、それはおかしいぞ!確かに昔の記憶は無く、気付いた時には伏見稲荷に居て、男となっていた椿が良く参って来て・・・あぁ、その間に60年経っとったのか』
「ちょっと〜!!」
「色々ツッコミたい所あんだけど、それは幾ら何でも時差ボケってレベルじゃ済まないぞオイ!?」
なんというか・・・私のオジサンばりに、狐2人の天然さには頭が痛くなりそうだ。オジサンも『まだ賞味期限を"少し"過ぎただけだから食べても大丈夫だ』と言っていた割りには、その"少し"が余裕で1ヶ月を超えていたりするし。
まさか長く生きると、こんな大雑把になってしまうんだろうか?そんな風になるんなら大人になりたくないよ、私は。
「そもそも、よくよく考えてみたら椿の爺さんが狐2人と会った時に、何の驚きも無く普通に話していた時点でおかしかったじゃん・・・」
「そうでした。ちょっと、おじいちゃん?白狐さんや黒狐さんと久しぶりに会った時、なんで全然驚かなかったの?」
「いや、それは儂も予想外というか・・・奴ら、普通にいつも通りのように接してきおったので、ついな・・・」
椿の祖父も椿の祖父で、その疑問についてよりにもよってそこで今まで言えなかったのはどうかと思う・・・少なくとも、何かのタイミングで挟み込むくらいは話の余地があっただろうに・・・えっ、何これ?いつの間にか親戚の集いみたくなっていません?
「オホン、とにかくじゃ・・・椿に綾。その刀剣と防具はどうする?持っている以上は亰嗟に狙われるぞ」
「あ、サラッと自分のミスを棚に上げた。とはいっても、確かにコレは・・・どうしたら良いかなぁ?」
「そうですね、綾ちゃん・・・そうだ、わら子ちゃん。それを保管していた木箱って、まだ残ってますか?」
「えっ?うん。あ、あるよ・・・で、でも」
守護の4人に宥められて泣き止んだわら子へ椿が尋ねると、彼女は何故か申し訳なさそうに一旦その場から離れる。何か嫌な予感がするんですけど・・・。
「ご、ごめんなさい。あの時、椿ちゃんと綾ちゃんが殺されるかもしれないって思って、急いで慌てちゃって箱の結び目が解けなかったの。そ、それで・・・あの、近くにあってハンマーで・・・」
「う、うわぁ〜お・・・見事に綺麗な穴が・・・」
まぁ、そうなっていた訳です。
わら子が持って来たのは真ん中が思いっきり砕かれてしまった、私と椿の武器が入れられていた2つの箱の無惨な姿でした。しかも私の箱には、あまりにわら子が慌てていた事を示すかのように、箱の破壊に使った大きなハンマーが突き刺さっているオマケ付きである。
こ、これはわら子は悪くないとはいえ・・・彼女、実はなかなか凄い怪力を持ってたりするのではないだろうか?もしくは座敷わらしならではの特殊な力?う〜ん、謎だ・・・。
「こりゃ参ったの。椿、そして綾よ・・・こうなってしまっては隠す事も出来ん。ま、まぁ今のお前さん達は昔とは違う。そう簡単に敵にやられると思っとったら・・・ご、ごほん。それとこれとは、話が別じゃったな」
「その、えっと・・・ドンマイだ、わら子」
「おじいちゃん、綾ちゃん・・・今の状態を良く分かってますか?綾ちゃんは良いとして、僕は死にかけて回復しきってないんですよ?」
椿からツッコミを入れられてしまい、これには私も椿の祖父も苦笑いするしかなかった。
「とにかくじゃ、刀剣や防具を扱えるようになった事でお前さん達の力は全く違くなっているという事じゃ。さて・・・後は、妖界での伏見稲荷にて起こった事件の事じゃが、妲己は何か言っとるかの?」
「「それが、寝てます・・・」」
しかも妲己さんの方も、なんというかわざとらしくグゥグゥと寝息まで立てている始末である。椿の記憶を蘇らせるなんて言っていたのはどうしてのやら・・・狐のクセに狸寝入りとは、これ如何に。
そして、やっと椿の祖父による長い話が終わって安心した様子でカナが私達へと声をかけてきた。
「う〜ん、椿ちゃんも綾さんも相当だね・・・しかも、2人共まだ何かありそうなんだよね。それなのに・・・2人共、前向きになれるんだね」
「前向き?前向き、なのかな・・・?」
「まぁ・・・私は椿の親友だから、ね。それも椿の"初めての親友"なんだしさ、今更そんな程度で椿から離れたりなんかしないよ」
カナの言葉に椿が首を傾げるが、私は椿をフォローする為に自分の心の中をさらけ出す。しかし――
「綾ちゃん・・・でも、良い事言ってるように聞こえるけど、さっき僕の黒歴史を聞いてた時にドン引きしたりしてたよね?」
「うぐ!?そ、そこはまた別問題だからね〜!」
「あはは、綾さんも迂闊な所が可愛いな〜」
そう言ってカナが私の頭を撫でてくると同時に、いつの間にやら夏美も椿の隣へ座ってウンウンと頷いていた。
「なるほどね・・・椿も綾も、相当な人生を送っているわね」
「どわぁ!?・・・って、そういえばカナと雪が入ってきたタイミングで一緒に居ましたっけね」
『ふっ、いつも通りだな。椿に綾よ』
『あぁ、そうだな。お前の過去を知った所で接し方を変えてくる事は無いのは分かっていたが、それでも安心するものだろう、椿?』
「うん、そうですね〜綾ちゃんも、いつもの元気が戻ってきたみたいですし」
とはいえ、まだまだ色々と気になる事は残っている。それでも私は、特に根拠は無いが強く信じているものがあったのだ。
椿や皆が一緒ならば、どんな過去だって乗り越えられる、と――