私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾伍話 前に進む為に

 

それからカナは私達を連れて待ち合わせ場所にしていた公園へと戻り、周囲に人が居ない事を確認してから、近くのベンチへと座って彼女自身の過去を話し始める。とはいえ、当時の彼女自身は幼かったからなのか"自分の覚えている事だけ"と念を押されたが。

 

カナの話によると彼女はごく一般的に幸せな家庭で育ったそうで、カナが"父親を殺した"と言っていた何かが起こるまでは本当に仲の良い家族だったのだという。

そして過去にカナが話してくれた通り、彼女は半妖だ。しかし彼女が気にしている問題は、彼女の父親が"何の妖怪"であったのだろうかという事であった。

 

「――そんな幸せな時間は"ある者"のせいで奪われたわ・・・。椿ちゃん、綾さん・・・これも言おうかどうか、迷っていたの」

 

「大丈夫、私と椿を信じて」

 

そう私が言うと、椿もそれに合わせて無言でカナを見ながら頷いた。きっとカナ自身には辛い話かもしれないが、彼女が何の半妖であるかを確かめるには詳しく知る必要がある。

 

「あの、ね・・・その日は、お父さんが何者かに襲われて帰ってきたの。私やお母さんに危険を告げる為だったのかは分からないけれど・・・今思えば、あれは私に言っていたのかも・・・」

 

それからカナは辛い顔をして、少し黙った後に大きく深呼吸してから私達へと襲撃してきた相手の事を伝えてくる。

 

その時にカナが見た、"想い"のイメージと共に――

 

「そいつは、あの過激的なお坊さん集団の・・・玄空って人にソックリだったわ」

 

「なっ・・・玄空だって?」

 

「それって、若い頃のアイツなの?」

 

私と椿は驚きから思わずカナに質問を返してしまう。

 

湯口先輩という息子がいるならば、確かに椿の話が最も納得のいく答えではあるのだが・・・カナの"ソックリだった"という言葉に強い違和感を覚える。

 

「待て、待て待て待て。まさかとは思うけど・・・カナの家族を襲った当時からアイツは、あの姿をしてたのか?」

 

「うん、そうだよ綾ちゃん。歳は今とそんなに変わらなかったし、格好も同じだったの。でも、顔が――人の顔なんかじゃなかったのよ」

 

そして、カナの話してくれた情報と僅かに感じた彼女の"想い"のイメージによると、奴の顔にはミミズやムカデが這っているかのように血管が蠢いていたらしい。

 

普通に考えるならば、全く別な妖怪が偶然玄空の姿をとったと見るのが自然だが・・・それでも滅幻宗の人間に化けて、わざわざ自身の命を危険に晒すバカをやるメリットは少なさそうだし、もっと言えばカナの家族を襲った理由にも謎が残る。

それに襲ってきたというそいつは、玄空と同じような事を延々と繰り返していたというのだから訳が分からない。

 

――とにかく、今はカナの話に集中しよう。

 

「それからは、どうなったんだ?」

 

「それでね・・・お父さんは、そいつから私とお母さんを守る為に1人で立ち向かって・・・それで・・・」

 

「落ち着いて、それ以上は良いよ。無理しないで、カナちゃん」

 

思い出す事すら苦しそうに自身の両腕を抱きしめるカナへ、私と椿は彼女が少しでも落ち着けるようにと、それぞれ彼女の両手を強く握る。

 

こうでもしないと、カナは硝子のように砕けてしまいそうで不安だった。

 

「ごめん、ありがとう2人共・・・。それで、お父さんは・・・炎を纏った獣になってた。だけど・・・だけど、それでも相手には勝てなかったの。私・・・その時にお父さんが倒れる姿を見て、ショックで暴走したの」

 

「暴走?」

 

「そんな――ぐっ!?」

 

すると突然、私の頭に刺すような痛みが走り、カナの感じた"想い"による声が流れ込んでくる。

 

『いかん・・・!香苗、落ち着け!今すぐ、ここから離れるんだ!』

 

『嫌、嫌・・・嫌だぁぁあ!!パパ、死んじゃヤダ〜!!』

 

カナの家だろうか・・・部屋が燃え、敵が突き刺したと思われる棒に苦しみながらも、幼いカナが突っ込んでいこうとするのを止めようとする男性の姿が脳裏に一瞬だけ映る。

 

そして私は、今までにない激しい"想い"で現実へと弾き出されたような感覚に襲われた。

 

「――っ!はぁ、はぁ・・・」

 

「あ、綾ちゃん?どうしたの?」

 

「いや、大丈夫だよ。ちょっと・・・カナの話で私もショックを受けちゃっただけ、だから。ごめん、続けて」

 

「うん・・・そこから私が覚えているのは、訳も分からなくなってお父さんに攻撃していた事だけ。敵の方は、そうしている内に逃げた。それも見ていた、見えていた・・・はずなのに、それなのに私・・・」

 

泣きそうなカナを、私は気付いたら幼い子をあやすかのようにしてギュッと抱きしめていた。恐らくは、その暴走で父親を自ら殺してしまったのだろう。あの快活で少し行き過ぎたような彼女に、ここまで酷い過去があったなんて・・・。

 

それから私はカナが泣き止むまで抱きしめ続けて、彼女が落ち着いて深呼吸をしてからゆっくりと腕の力を弱めていった。

 

「もう、大丈夫なのか?」

 

「うん・・・でも、ごめんね。私が、こんな気持ち悪い子で・・・嫌になったでしょ?得体の知れない化け物みたいでさ」

 

そう言って私の腕を振りほどこうとするカナに、今度は椿が声をかける。

 

「そんな事ないよ、カナちゃん。それに、さっきの話で幾つかおかしな事だって見つけたんだ」

 

「・・・えっ?」

 

「なんだって?それは一体どういう事なんだ、椿?」

 

いきなり椿からそんな話をされた事に、驚きでカナも私も目を丸くしてしまう。

おかしな事・・・確かに不可解な点はあった気はするが、私の中の結論としては"カナの家族に何らかの恨みを持つ妖怪が、滅幻宗の人間である玄空に化けて襲撃してきた"と考えていた。それならばカナの父親は道中で突然襲われた事で、直感的に家族を守ろうと家に・・・いや待て、何かがおかしい。

 

「椿ちゃん、私の事を気遣ってくれるのは嬉しいけれど――」

 

「カナ、ここは椿の話を聞いてみよう。椿、その"おかしな事"について、私達にも分かるように出来る?」

 

「分かった、綾ちゃん。まず・・・カナちゃんのお父さんは、なんで自分の家に帰って来ちゃったの?敵に狙われているのなら、普通は大切な人達が住む所になんて戻らないと思うんだ」

 

「なるほど、道理で聞いてて変に感じた訳か・・・」

 

「えっ・・・?あっ――」

 

「カナちゃん、今気付いたの?それに、なんで敵はカナちゃんが暴走してすぐに、カナちゃんの家を去っていったのかな?後、綾ちゃんは幾ら何でも鈍すぎです」

 

「そこも確かに――って、サラッと酷い事言われた!?」

 

「そんな・・・まさか」

 

椿のツッコミには多少凹んでしまったが、それでも2つ目の違和感の正体も分かってきた。襲ってきたのが"あの"玄空だとするならば、カナの暴走を見た所で撤退する所か更に全力で叩き潰そうとしてくるハズだ。

つまり、そうしなかったという事は・・・

 

「それでさ、これは僕の考えなんだけど・・・カナちゃんのお父さんは、敵に操られていたんだと思うよ。カナちゃんを暴走させる為だけに」

 

「まさか・・・相手は、私の事を?」

 

「きっと、何か知っていたんだと思う」

 

「じゃあ、アイツらはそれを利用して何かしようとしてたって事なのか?すごい推理力してるなぁ、椿は・・・」

 

私が顎を人差し指で掻いて感心していると、椿は呆れた顔で私の方へ振り向いてきた。

 

「それは綾ちゃんの頭が残念過ぎるだけだと思うよ。100円ショップの謎解きドリルでも買って、少しは勉強したら?それに夏休みの宿題だって、全然進めてる所を見ないじゃん」

 

「ぐっ・・・シリアスな所で現実をぶち込むなんて、椿は何時からそんな怖い人に――」

 

「何か言いました?」

 

「イイエ、ナニモ」

 

うん、これは宿題やってない事が完全にバレていますね。明日から頑張るから、今日だけは本当に大目に見て欲しいです。まだ楓と一緒に作ってる、全自動で卵を割る事が出来るカラクリ時計が完成してないし。

 

そう思った瞬間、公園の木の陰から何者かが現れるのを感じて私は身構える。いや・・・正直な話をすると、戻ってきた時に"ある人"の僅かな妖気を感じていたので、まさかとは思っていたのが本音ではあるのだが。

 

「いやいや、天晴れ。少し見ない内に強く、そして賢くなったものだね・・・槻本君。烏森君の方は、まだ残念な所があるようだけれども」

 

「なんだ、気のせいか」

 

「それでね、後はカナちゃんのお父さんについてなんだけど――」

 

「お〜い、2人共無視か〜い?それも僕が知っているんだけどね〜」

 

もうやだ、この人・・・無理やり此方に絡んでこようとするんだけど。諦めて私と椿が木陰から出てきた人物の方へ振り向くと、まぁ予想通りかつ久しぶりな八雲・・・いや、八坂校長先生が居た訳でして。やっぱりというか、あの大きく派手な扇子を持って私達を困った顔で見ていた。

 

「校長先生・・・ごめんなさい」

 

すると、そんな校長先生へカナは頭を下げて謝ったのだ。私も椿も彼女の行動に困惑してしまう。

 

「えっ?なんで?なんでカナちゃんが謝っているの?」

 

「まさか、校長室の花瓶を壊したって勘違いしてるのか?そ、それなら私がやったんだから謝る必要は無いって」

 

「槻本君、実はね・・・それは私が半妖の子を守る為に、幾つか半妖の子達に約束事をさせていたからなのさ。それと烏森君、ちょっと花瓶の件について、後で詳しく聞かせてもらおうか」

 

「うっ・・・はーい」

 

しまった・・・なんかウッカリ自白してしまった――じゃなくって、校長先生の言いたい事が大体理解出来た。

つまる所、簡単に半妖の人が過去の事を話したりすれば、それが思わぬ人物に聞かれて危険な事態へと発展する事がある・・・という事なのだろう。

 

私と椿が単純にカナの力になってやりたいと思って起こした行動は、実際は大変危険な行為だったという訳だ。

 

その事実で愕然とする私達に、校長先生はコクリと頷く。

 

「どうやら2人共、気付いたようだね。危険があるかもしれないから、絶対に過去の事は話してはいけない。そして、辻中君のように来たら危険な可能性が高い場所だってある」

 

「そんな事・・・私、全然知らなか――」

 

「知らなかった、で済まない事も世の中には沢山あるものだよ、烏森君」

 

「それだったら、カナちゃんに強要させた僕達が――」

 

「いいや、辻中君は嫌われたくない一心で自分の過去を話してしまった。しかも、その子にとっては危険な場所に来てまでね」

 

それならば、どうして私達が話している途中で止めてくれなかったのだろうか?私は椿と共に校長先生へと訝しげな視線を向ける。

 

「お〜怖い怖い、2人共そう睨まないでくれるかな?いや、ここまでは"決まり事の確認"でね・・・本音は、君達がどうやって"半妖の子の力になってくれるのか"、それを確かめたかったのさ」

 

「なんだって?校長先生なのに、案外いけ好かない事をするんですね」

 

「それなら大丈夫です。カナちゃんは、ちゃんと自分の事を教えてくれたから。だから、僕と綾ちゃんが支えに――」

 

「そんな"子供の考え"は十分だよ。2人が"そっち側"として、どう動き、どう考えるかを見たいのさ」

 

「「えっ・・・?」」

 

突如として別人のように低くなった校長先生の口調に、私と椿は恐怖でゾッとする感覚を覚えて彼の顔へ視線を移した。

すると校長先生の目は見た事が無い程に鋭くなっており、まるで研ぎ澄まされた刃物のように私達の喉元へと突きつけられている視線すら感じさせてきたのだ。

 

「校長、先生・・・何を知っているのですか?お、教えてください・・・私、もう嫌なんです。自分の事が分からないのが、堪らなく怖いんです・・・」

 

声を震わせながらも、カナは校長先生へと尋ねる。私達へとその視線を向けていた校長先生が、わざとらしく見える程に軽い動きでクルリと彼女の方へと振り向いた。

 

「辻中君、その覚悟はあるのかい?人間の大人というものはね、子供が考えている以上に厄介でややこしく、そして信じられない程に深い深い闇を抱えているんだよ」

 

「そ、それでも・・・」

 

グッと、カナは私と椿の手を握る力を強くしてくる。"もう十分だ、無理はするな"と声をかけてやりたいのに、いつか聞いた覚の言葉が私の脳裏へ浮かんできてしまった。

 

――『細かく考えないで行動すると、取り返しのつかない事になる』という言葉を。

 

もし私が安易にカナを止めてしまったとするなら、彼女は今後どうなってしまうのか・・・それはあまりにも想像がつかない。きっとカナは自身に一生怯えて暮らす事になるかもしれないし、それを知る機会を逃してしまった事を後悔し続けるのではないだろうか。

だが、だからといってカナに全ての真実を受け入れさせてもらおうといっても、その真実が彼女を深く傷付けて立ち直れなくなる可能性すらあるのだ。

 

私はどうすれば、良いのだろう・・・?

 

「お願いします、校長先生。私は、私自身の事を知らなくちゃいけないんです・・・椿ちゃんと綾さんと、前に進む為に」

 

しかし、カナは既にその覚悟を決めていた。

 

それならば、私は椿と共に彼女の為に全力を尽くして、カナ自身が心を保てるよう支えてやるしかないだろう。

 

「ふぅ・・・やれやれ、ここまでこの子を変えるなんてね。それなら槻本君や烏森君、君達にも責任が・・・っと、どうやら2人共に覚悟は出来ているのか」

 

「それは勿論です。だって、カナちゃんが決めたんだもん」

 

「当たり前です、校長先生。今更ここで退くなんて、私の"親友"としての良心が許しませんから。椿の時だって同じでしたよね?」

 

「しょうがない・・・そういう訳です。いつまでも、コソコソとタイミングを伺わずに出てきたらどうですか?辻中祥子(つじなか しょうこ)さん」

 

校長先生がそう言うと、別な木陰の方から今度は40代くらいの女性が姿を現した。カナに似たセミロングの髪を垂らしてはいるものの、その長い髪で顔の右半分を隠している。よくよく見ると、隠している所は酷い火傷の後があった。

 

なんというか、姿も雰囲気もカナと似ているような気がするが・・・まさか。

 

「お、母さん・・・」

 

どうやら、彼女がカナの母親で間違いないらしい。だが、あの女性から感じたのは・・・どういう訳か、実の娘であるカナに対しての殺気であった。

 

嫌な予感が、冷や汗と共に私の背中をツーッと伝っていった。

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