私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
「遅いですよ。校長先生・・・」
椿が疲れた声を出して、消耗からかそのまま黒狐さんの背中に突っ伏した。
『おぉ、椿どうした?』
「なんだか怠い・・・」
『ふむ・・・先程あれだけの妖術を使ったんじゃ、妖気を使い過ぎたんだろう』
背中にもたれかかる椿に黒狐さんが心配し、白狐さんが状況を冷静に分析した。なるほど・・・妖怪は妖気を使い過ぎると体力まで消耗してしまうんだ。もしあの妖怪とも違う怪物――小次郎が呼び出されたのが私の想いに反応したのだとしたら、一体私は何の妖術を使ったんだろう。
そんな事を考えていると、私達の脇を抜けて突風で炎が掻き消された坊さんが逃げようと猛ダッシュで走ろうとしていた。
「おやおや、逃げるのは感心しないね。君はこの学校を潰しに来たんじゃないのかい?」
「・・・なんだって?」
あの坊さん、そんなやばい事をしようとしていたのか。校長先生が扇を開いた瞬間、そこから今よりも更に強い突風が坊さんを襲う。そして、それは竜巻に近いものへとなって完全に動きを封じたようだった。
「ぬっ!?」
「辻中君、頼んだよ」
「はい!校長先生!」
校長先生から指示を受けたカナは手に持った袋からフラフープよりも2回りほど小さな、薄い金属で作られた輪を取り出して腕に通して回し始めた。ああいう武器って「チャクラム」とかいう名前をしていたな、と思い出す。
「なっ!炎が出てきた!?」
すると輪から徐々に炎が発生して、それがさっきまで何の変哲もない金属の輪とは思えない程に大きな炎の輪を作り出した。
「――捕縛火輪!」
カナが叫び、その輪を坊さんの閉じ込められている風の渦へ放つ。外側から炎の輪が縮こまり、坊さんを逃がさないように締め上げようとすると――それよりも早く懐から取り出した紙札を使って力を発動し、その風と炎の檻から抜け出してきた!
「ちっ・・・」
「待て!逃げるのか!」
坊さんはそのまま民家の屋根へ飛び上がり、私が叫んだ事すら気にせずそこから走り去ってしまった。
「う〜ん・・・取り逃したか〜」
「ご、ごめんなさい校長先生!」
「いやいや、しょうがないよアレは。多分幹部クラスだっただろうからね」
坊さんを取り逃してしまった事で凹むカナを校長先生が優しく頭を撫でて慰める。
ふと気がつくと、さっきまでそこに居たハズの小次郎の姿は影も形も無くなっていた。戦いが終わって帰ったのだろうか?
「さて、槻本君。・・・なんで私が来るって分かったのかな?」
「あっ、その・・・心を読む妖怪、覚さんのせいで今日一日中、意識した人の声が聞こえるみたいです」
「一応言うと、私も同じ感じです。だから何とかして時間を稼げればって頑張ってたんですけれど」
私と椿の発言に、校長先生とカナが驚いた様子を見せた。読まれたくない心の中を知られたから、それが原因なのだろうか。
「・・・そうか、覚が気に入るなんて珍しいね。それも君達2人もなんて」
「それって、そんな珍しい事なんですか?」
「そりゃそうだよ〜・・・えっ?ちょっと待って椿ちゃんと綾さん。それじゃ、私達の事を・・・?」
どうやらカナには心の声で彼女自身の正体について聞こえていたのがバレてしまったようだ。私と椿はそれについて正直に白状した。
「うん。でも安心して、聞こえたのは人間と妖怪の合の子「半妖」って話だけだから!」
「あの〜、すいませんでした!隠して聞かなかったけど、半妖とか何かって何なんですか!?」
これは怒られる!そう思ったが校長先生は顔の前で扇を開き『天晴れ』というやたら達筆な文字を見せてきた。
「・・・え?何が一体どうなって、そんな褒めるような事になるんですか?」
「うん、積もる話もある事だし・・・翁も来た事だ。校長室で話をしようか」
すると私達の間にまたまたつむじ風が巻き起こり、そこから椿のおじいちゃん――鞍馬の天狗が姿を現した。今回は妖怪としての姿で御登場している。
「椿に綾よ、無事であったか」
「椿のおじいちゃん!どうしてって、椿?」
椿はまだ天狗の姿の祖父が怖いのか、足が僅かに震えている。
「あっ、待っておじいちゃん。その姿・・・」
「むっ?まだ怖いか、全く・・・少しは綾を見習ったらどうだ」
「えっと、なんていうか・・・もう慣れましたんで、ええ」
人間の姿に変身した鞍馬の天狗――まどろっこしいので、これからは椿の祖父と呼ぼう。彼は頭を抱えて椿に困り果てた顔を向けた。
「浮遊丸よ、緊急のメール助かったわい。それと八坂よ、助けるのが遅かったのではないか?椿がグッタリしておるぞ」
「いや〜そう言われましても翁。相手は幹部でしたからね〜・・・少し準備に手間取りまして」
それなら、流石に到着するまで時間がかかるのも仕方ない事かもしれない。それとサラッと聞き流しかけたけど、椿の祖父は校長先生と長い付き合いなの?校長先生の「八坂」って名前を普通に使っていたし・・・ますます訳が分からなくなってきた。
『翁よ、とりあえず我らにも説明願いたい。綾の目の前に現れたアレと、さっきの椿の姿は何じゃ?』
そこへ白狐さんがさっきの説明を求めた。確かに過ぎてしまった事をいつまでも気にしている訳にはいかないし、それに私と椿の事についても分かる事があるなら知っておきたい。
「ふむ、そうじゃな・・・とりあえず一旦校長室へ行くかの」
椿の祖父が校舎へと歩いていった。椿はまだ動けないようで、黒狐さんの背中にグッタリと乗っている。彼も重大な話をするのなら、せめて連れていってあげれば良いのに。
すると心配そうにカナが椿の顔を覗き込んだ。
「椿ちゃん、大丈夫?ごめんね・・・もっと早く助けに行けたんだけどね」
「だ、大丈夫だよ・・・」
「ん?待って、カナ。それは一体どういう意味?」
私の訝しげな眼差しにカナが気まずそうな顔をして答えた。
「えっと・・・校長先生の扇子選びに時間かかっちゃって」
「え、え〜・・・」
おいおい、もっと危機感を持ってよ校長先生!
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「・・・さて、翁。どこから説明しましょうか」
私達は校長室でソファに座り、静かに話へ耳を傾ける。椿の左右を守るように白狐さんと黒狐さんが座り、見事なまでに弾き出された私はソファの右端に座った。対面にはカナと椿の祖父、そして校長先生が座っている。
私が今一番知りたいのは、さっきの椿の変化についてだ。あの時、彼女には一体何が起こっていたのだろう?
しかし、椿の祖父の言葉で私の望みは簡単に絶たれてしまう。
「うむ・・・しかし、この前も言った通り、椿の事に関しては箝口令が敷かれとる。あまり詳しくは説明出来ん。・・・じゃが、既に気づいておるかもしれんが、椿は元々女の妖狐だったのじゃ」
「とにかく今はそれしか知らせられない、という事ね・・・」
私はどんどん憂鬱な気持ちになっていく。
ずっと椿の事を分かっているつもりでいた。他の誰よりも彼女の事を理解しているつもりでいた。
・・・全く、私はなんて大馬鹿者なんだろう。
妖怪という存在を知ってから、私が知らない椿の事がどんどん出てくるのに、私は何時しか嫌気がさしてきていた。
もはや私が謎の怪物を呼び出したとかなんて、どうでもよく感じていた。
『むぅ・・・という事は。我らが妖狐にしたのではなく、元々妖狐だったのが別な何者かの手によって人間の男子に変化させられていたのか』
「さよう。そして綾の方は、アレはきっと「使い魔」の類じゃろうて。古くから日本には、死んだ人間や妖怪の魂に特殊な妖力を与える事で「使い魔」として使役する存在が居たという話を聞いた事がある。綾もおそらくはそれじゃろう」
「そうなんですか・・・」
すると椿の祖父は、浮かなさそうな顔をしている椿を見て腕を組んだ。
「椿よ、納得いかん顔じゃの。記憶も改ざんされとるから、しょうがないがの。だが・・・この白狐と黒狐のバカのせいで、お前さんにかかっていた強力な変化が解けたのじゃ」
『うぐ!・・・我らは余計な事をしてしまったのか?』
「私は椿がいじめられてた状況が良くなったから、少なくとも好転してるとは思うんだけど・・・」
2人ともションボリとしている。白狐さんに至っては、あまりの罪悪感からか狐の姿になってしまっていたよ。
「いや、これも運命なのじゃろう。ここまでなら箝口令は敷かれとらんから話すが――椿よ、実は白狐と黒狐とは子供の頃に一度会っておるんじゃ」
突然明かされた衝撃的な真実に白狐さんと黒狐さんが驚く。私も驚いたけど、それ以上に椿が2人とかつて出会っていた事に嫉妬した。
なんで、椿と会った時の記憶を無くしてるんだこの駄狐共――って。
『なんじゃと!?』
『そんな、我らにはそんな覚えなど一切――』
けど椿の祖父から告げられたのは、更なる隠された真実だった。
「それはお前らの記憶にも、一部封がしてあるからじゃ」
『なっ――』
『我と白狐にも、記憶の封が?』
椿だけが記憶を封じられていると思っていたら、まさか白狐さんと黒狐さんにまで記憶が封じられているなんて。
私は3人の過去という謎に、底知れぬ異様な何かを感じた気がした。