私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
私達とカナの母親の間に、尋常ではない程の緊張した空気が流れる。気が付くと、先程まで聴こえていた暑苦しい蝉の鳴き声も、それに何かを感じたのかシンと静かになっていた。
カナの母親が実の娘である彼女へ殺気を込めた視線を向けているのを見て、私達は間へ挟まろうとするも校長先生が無言で此方の前へ扇子を持った手を出して前に出る事を止めてくる。
"家族の問題だから、君達は何もするな"と言いたげな校長先生の様子に、私は椿の家族の時の事を思い出してジットリと嫌な汗が額に浮かんでくる。
「お、お母さん・・・」
「・・・アンタみたいな化け物に、母親呼ばわりされたくないわね。なんで、まだ生きてるのよ」
「っ・・・!!」
親が子にかける言葉としては最低ともいえる発言に、私は歯を食いしばって「ふざけんな」と叫びたくなる。しかし、どういう訳か身体は動かず声も出す事が出来なかった。
カナが実の母親を見た時に、小声で知らせてくれた話と少しだけ流れてきた"想い"によると、事件が起こった後に救急車の中で相当酷い事を言われていたようだ。――その後に、カナを置いて姿を消した事も。
当時小学生だったカナは、それから捜査零課に引き取られて、半妖の子供達を保護している施設へと送ってくれたらしい。だが、それでも母親からは手紙1枚すら来る事はなかったという。
幼かった彼女にとって、それはどれほどに辛く苦しい仕打ちだっただろう。そして今も、そんな母親から酷い言葉を浴びせられたせいでショックを受けて呆然と立ち尽くしてしまっている。
すると動けないでいる私に代わってか、椿がカナの前に出て、守るようにして母親の前へと立ちはだかった。
「真実とは、時として残酷なものなんだよ」
そこへ、私の前に出していた手を下ろしながら校長先生が椿とカナの方を向いて、間へと割って入ってくる。すぐさま私も、椿と同じくカナの前へ入って守るように手を横に出して校長先生とカナの母親へ警戒の視線を向けた。
「一体、何が言いたいんですか校長先生」
「そう警戒するものでもないよ、烏森君。槻本君の父親・・・その正体が何故外部に漏れたのか、おかしいとは思わなかったのかい?」
「へっ?でも、それは――」
椿の言葉を遮る形で、校長先生は話を続けた。
「辻中君の父親は、実は特殊な妖怪だったのさ。そんな彼が、正体がバレるような失敗をしてこなかったにも関わらず、何故バレたのか・・・」
「まさか・・・」
「そ、そんな・・・」
その途端に私の頭へと浮かんだのは、非常に信じられない考えだった。
「まさか、カナのお母さんが・・・カナと彼女のお父さんを売ったって、そう言いたいんですか?」
「やっと気付いたかい?槻本君、烏森君」
「いやでも、そんなのって・・・」
カナも残酷な真実を悟ったのか、徐々に顔から血の気が引いていってしまう。
「烏森君の言う通りだよ。辻中君のお父さんの正体・・・それを敵に、あの滅幻宗に教えたのは――他でもない、辻中君のお母さんさ」
それは、カナにとっては最悪ともいえる一言だった。
校長先生がそう告げた途端、その場でカナは膝をついてしまい「信じられない」といった表情のまま、口をパクパクとさせ始めてしまったのだ。
すぐに私達は、力が暴走したのか身体が熱くなっていく彼女へと呼びかける。
「おい!自分を見失わないで、カナ!!」
「カナちゃん、カナちゃん!しっかりして!!」
彼女から溢れてくる妖気は、どんどん妖怪のものに近いくらい強くなっていく。どういう事なのか、それは全く分からないが・・・放っておいたら非常にヤバいのは間違いない!
「私が君達の姿を見つけた"彼"から話を聞いてやって来たから良かったけれど・・・もしもこのまま、私の居ない状態で辻中君が母親に会っていたら、2人だけで止められたのかい?その母親を、説得する事は出来たのかい?」
「・・・そんな事を言ってないで、カナちゃんを一刻も早く落ち着かせてください!校長先生!!」
椿が一歩も動かずにそれを眺めている校長先生へ叫んだ。
すると今度は更に別な木の上から、なんとボロ布らしき物を羽織ったオジサンがフリップを持ちながら飛び降りてくる。校長先生の妖気は感じられたのに、オジサンの妖気が感じられなかったのは羽織っているボロ布によるものだったからなのだろうか。
「オジサン!」
『八坂校長、話が違うぞ!俺が聞いていた話では、香苗とその母親の仲を我々で何とかする手筈ではなかったのか!?』バッ
それからオジサンは近代的な弓矢を取り出して、校長先生へと向ける。その時、カナは私と椿の腕を握って訴えかけるように話しかけてきた。私も椿も、いち早く彼女を連れて逃げようとするが――
「・・・ごめん椿ちゃん、綾さん。私が暴走したら、逃げて」
そして、彼女はそのまま自身の母親に睨みつける眼差しを向けながら、校長先生の話が本当かどうか確かめる為に質問をぶつける。
「お母さん、さっき校長先生の言った事は・・・本当なの?」
「えぇ、そうよ。普通、おかしいとは思わない?何処で働いているか言わない人なんて、その内疑うようにもなるわよ。浮気しているんじゃないかってね」
その言葉で私は、カナの母親が何処で自身の夫が妖怪だった事について知ったのかを悟った。
「浮気かどうかを調べる為、伝手を使って頼んだ探偵が良い人でね。"もしかしたら、ここに頼んだ方が良いかも"って、そう言われたのよ」
「その頼んだ連中が、滅幻宗だったって訳かよ・・・!」
「人間は悲しいね。愛した人だからこそ、疑いたくなるもの・・・怪しい行動を1つでもされたら、それは不安になるものだね」
私がカナの母親へ睨みつけると同時に、校長先生が残念そうな声でそう言ってくる。だが、彼は何故私達を手助けしてはくれないのだろうか?これでは、まるで高みの見物でもしようとしているように感じてしまう。
そして、カナの方は最早自分を保つ事すら限界になってしまったらしく、ついには肩で息をしてガクガクと身体を震わせている状態になってしまった。
駄目だ・・・このままでは、本当にカナが暴走して取り返しのつかない事になってしまう。
「カナちゃんのお母さん。このままじゃあ、またカナちゃんが暴走しちゃうよ。だから、今日は一旦ここから離れてもらえませんか?」
椿がカナの母親へと、カナ自身が危険な状態にある事を伝えてくれたが、その母親は離れるどころか寧ろ軽蔑するかのような眼差しで私や椿・・・そしてカナを睨んでくる。
「あら、嫌よ。貴方達のような化け物こそ、私の前から消えて欲しいわ。あの時は騙されたけれど、最近はもう化け物の力は使っていないようですしね。名誉挽回のチャンスを上げるわ、だから早くコイツらを消して!」
カナの母親が叫ぶと同時に、私達へ向けて数枚の札が勢い良く飛んできた。
しかし私が突然の攻撃で避けられないと思った瞬間、飛んできたそれらは弓矢をつがえたオジサンと鎌鼬の力を使った校長先生によって弾き飛ばしてくれたのだ。
それから、札が飛んできた電柱の上から何者かが降りてくるのを見たが、あれはきっと滅幻宗の人間だろう。そうなったのなら、私達がやるべき事は1つだけだ。
「久しぶりだな・・・妖狐の椿に、霊能力者の綾。まさか、2人共俺が現れるなんて思って――」
「カナ、あんな奴の言葉をマトモに聞かないで!今は私達がカナの味方なんだから!」
「カナちゃん、しっかりして!深呼吸して、気をしっかり持ってよ!」
カナの心に寄り添って、彼女の暴走を何としてでも止めないといけない。これ以上、彼女自身が傷付く事にならないように!
「・・・無視するとはな。それならば――っ!?」
『悪いが、現在は取り込み中だ。どうしてもというならば、俺と八坂校長が相手をしよう』スッ
襲撃してきた滅幻宗の人間が誰なのかは知らないが、どうやらオジサンと校長先生が止めてくれているようだ。
それなら、私と椿はカナを正気に戻す為に全力を尽くすのが最優先だ。
「いや〜残念だね、湯口君。君の好きな槻本君と烏森君は、今は他の子にご執心さ。というか、僕と同じように無視するとは・・・2人共、板についてきたね」
「なっ!?誰が・・・!それよりも邪魔をするな、校長と甲冑の妖怪が!」
「いや〜道を誤った生徒を更生させるのも、教育者としての務めだからね〜」
『それと湯口の少年、俺は甲冑の妖怪ではない。俺は烏森によって生まれ変わった妖怪、その名も"烏森 大地"と名乗っている』シュッ
「くっ・・・!自己紹介をしながら、そのフリップを投げつけるな!」
なんというか・・・向こうの状況も気になる所ではあるが、声や音からするに襲撃してきた滅幻宗の奴は校長先生が風で身動きを取れなくしてくれているようだ。
「はぁ、はぁ・・・お、母さん。いつから、いつから気付いて・・・」
「何やってんのよ、アイツらは!一般人を危険に晒す気!?というか、ガキなんか寄越して何を考えているのよ!?」
カナの母親が彼女の問いかけすら聞こえなくなっている事に対して、私はついに堪忍袋の緒が切れた。
「おい!アンタの娘が呼んでいるんだぞ!それなのに、なんで知らないようなフリが出来んだよ!!」
私の叫ぶ声に驚いて振り向く母親と同時に、カナもありったけの大声で母親へ更なる質問をぶつけた。
「答えて!お母さん!!お父さんと楽しそうに、仲良くしていたのも、全部嘘だったの!?」
「そうよ!あの事件の半年前から、とっくにアンタ達の正体に気付いて大変だったわ。準備をするのに時間がかかってしまったからね!」
「――っ!テメェっ!!」
もう、あんな奴はカナの母親ではない。母親が、ここまで自分の子を追い込む事が出来るなんて、頭がイカれているって言葉じゃ足りないくらいだ。
そして、その言葉のせいでカナは――限界を超えてしまった。
「あ・・・あぁ・・・」
「カナ、しっかりしろカナ!!」
「カナちゃん駄目、聞いちゃ駄目!!」
私と椿は何してでもカナを踏みとどまらせるべく手をガッシリと掴んで必死に呼びかけ続けているが、残念ながら彼女にはもう声が届いていない。
「あはは!アンタみたいな化け物達にバレないよう、毎日毎日作りたくもない笑顔を作っていたのよ!」
「ふざ・・・けんなァァァ!!」
頼む、黙っていてくれ――そう思わずにはいられない程に、私はカナの母親へ怒りが爆発しそうになるのを堪え続ける。
「何モタモタしてるのよ・・・滅幻宗とかいう、化け物退治の専門の坊さん達は!金を取るだけ取って、仕事はしないつもり!?さぁ、ここに化け物が居るわよ!早く沢山人を寄越して、とっとと退治しちゃいなさいよ!!」
それがトドメとなったかのように、カナは感情と共に妖気を爆発させた。
「う、うぁ、うわぁぁあああ!!」
カナの叫び声は怒りや哀しさ、そして絶望が酷く入り交じったような・・・聞いている私ですら心が辛くなってくる程の悲壮に満ちた咆哮だった。
その後に、カナの身体は徐々に炎へと包まれていく。
「だ、駄目・・・カナちゃん、君は・・・君は僕みたいになったら駄目!!」
「頼む・・・お願いだから、戻ってきてくれ・・・カナ!!」
「――ぁぁぁぁああ!!」
私と椿の全力の呼びかけも、暴走を必死に止めようと抱きついている事も、何もかも無視するかのようにカナは全身から炎を噴き出させてみるみると姿かたちを全く別なものへと変えていく。
長い髪は燃え盛る炎のように真っ赤となり、手足は激しい火に包まれつつも爪が鋭く伸びて口には牙まで生え、光を失って濁った瞳が彼女自身を激しい罵った実の母親へと向けられる。
「カナ・・・そんな・・・っ!」
「くっ・・・!カナちゃん!!」
どうして、こんな事になってしまったのだろう。
私も椿も、カナが前を向いて何も隠す事なく進めるようにと、そう思って過去の話の相談に乗ろうとしただけなのに・・・こんな事は、望んでなんかいなかった。
『細かく考えないで行動すると、取り返しのつかない事になる』
そんな覚から言われた言葉が、私の頭をグルグルとめぐりかけた。
だったら、自身の触れたくない過去から逃げて、何処までも遠ざけてしまうのが良かったとでも言いたいのか。
違う、そんな生き方は"ただ生きてる"だけだ。
前を向いて、困難に打ち勝って笑ってやるからこそ、"生きる事は素晴らしい"のではないのか。
私は、同じ答えに行き着いた椿と互いに顔を見合わせてから一緒に頷き、飛びかかろうとするカナの鋭い爪による一撃を受け止めた。
そして、それと同時に自分の儀礼衣装も呼び出す。
「カナ!正気に戻ってくれ!妖異変化――烏鳩、展開!!」
「カナちゃんお願い、目を覚まして!!」
「ぐゥゥ・・・!!」
まるで本当の獣のような険しい顔をするカナは、私達が知っている彼女とは別な存在のように感じられてしまう。だが私も椿も、カナを元に戻す為には――
そう思った瞬間、一瞬だけ椿が何かに突き飛ばされたかのように前のめりとなる。
「ふ、ふふふ・・・こ、こんな目の前にまで化け物が・・・。あ、あはは・・・化け物は、やらなきゃ・・・人間の生活を脅かす化け物は・・・!」
「くっ・・・!」
「テメェぇええ!!」
信じられない、カナの母親はよりにもよって椿の背中へとナイフを突き刺してきたのだ!
私が怒りで突発的に風の妖術を発動させようとすると、椿は私の前に手を出して止めるようジェスチャーをしてくる。すると、向こうが更に深く突き立てようとしたナイフが根元からボキリと折られて一瞬で砕かれていた。
「なっ・・・!」
「椿様と綾様に刃を向けるとは、この不届き者めが」
「アンタらは・・・龍花!それに朱雀!」
その姿を見て、少し前に彼女達4人がわら子に加えて私と椿の事も守ると言っていた事を思い出した。どうやら、ずっと何処かに隠れて私達を見守ってくれていたらしい。
それにしても、私や椿の腕の隙間を縫うかのようにしてナイフを破壊した龍花の技量には驚きしか出てこなかった。
それから龍花はカナの母親へと青龍刀を向けて動かないように足止めをしてくれた。
これで、邪魔する者は居なくなった。
後は私と椿でカナを何とかして元に戻す!
絶対にカナ自身に、誰かを傷付けさせたりなんかしない!!