私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾陀話 残ったのは虚しさだけ

 

私と椿が今カナの為に出来る事――それは、実の母親に拒絶されて、感情もろとも力が暴走した彼女を止める事だ。

滅幻宗の連中や、その原因となったカナの母親はその後だ。前者はオジサンと校長先生が食い止めており、後者も龍花が何もさせないように強く睨みつけて行動を抑えてくれている。

 

「なんで、また化け物に・・・3回も、私の人生をおかしくしてくれるなんて・・・」

 

完全に怯えて、その場へへたりこんでしまったカナの母親はブツブツと気になるような事を言っている。

 

だが、今はカナの方に集中しなくちゃいけない!

 

「カナ、聞こえてるか!自分を見失わないで!!」

 

「カナちゃん、聞こえてる?カナちゃん!!」

 

私と椿はガッシリとカナの腕を掴んで、実の母親に手を出させないように力を込める。しかし、暴走した彼女には私達の事も見えていないのか、腕から激しい炎を発して逆に燃やそうとしてきた。

 

だが・・・それでも僅かに彼女から感じられる"想い"には、「親友を傷付けたくない」という感情を受け取る事が出来た。それならば、まだカナ自身の意識を戻せさえ出来れば何とか彼女の暴走を止められそうだ。

 

私達は、それぞれ自分が炎によるダメージを受けないように妖術を発動する。

 

「妖異顕現――緊急祭繰龍(エマージェンシーサイクロン)!」

 

「妖異顕現――黒焔狐火!」

 

私は腕に小さな竜巻を纏わせ、椿も炎すら焼き尽くす黒炎を腕に纏わせて、カナの発している激しい炎を無力化させる。

 

これならカナへの説得も続けられる――そう思った途端、今度は力ずくで私と椿を腕の力で振り回されて彼女の身体の前でドゴッ!と椿にぶつけられてしまった。

 

「っぐ・・・!痛つつ、少しは加減しろっての・・・」

 

「うっ・・・カナちゃん!お願いだから、目を覚まして!僕達の所に戻ってきてよ!」

 

「椿の言う通りだ、カナ!アンタは無闇に誰かを傷付けたりするような、そんな奴なんかじゃない!だから、気をしっかりもってくれ!!」

 

それでも、私達はカナの心に声が届くまで叫び続ける。すると、カナは唸り声を上げながらも私達へ何かを伝えようと語りかけてきた。

 

「グうぅ・・・ぅう・・・つ、つば・・・き、ちゃん・・・あ、やさん・・・逃げ・・・」

 

「カナ!私達が分か――ぬぉぉっ!?」

 

「カナちゃん!?――わっ!!」

 

だが、それでカナの意識が残っていると安心した事で、腕を押さえていた力が少しだけ緩んでしまって私と椿はそれぞれ横に振り払われる形で投げ飛ばされてしまった。

 

そして、カナはそのまま自身の母親へ殺気を込めた眼差しを向けると、一瞬でその方向へと駆け出して腕を振り上げる。

 

「駄目だカナ・・・幾ら自分を否定した相手だからって、自分のお母さんを殺すのだけは・・・!」

 

「だ、駄目・・・カナちゃん、それ・・・だけは!」

 

私も椿も、多分人生で初めて脳をフルに回転させてカナを止める方法を模索する。なんというか・・・こういうピンチの時に限っての私と椿は頭が回るのも似ていると思うのだが、それでもなかなか良い解決策が思いつかない。

 

しかし、私達が激しいダメージを負って動けなくなっている内にも、カナは自分の意思で母親に振り下ろそうとしている腕を押さえて苦痛に耐える表情を浮かべていた。

 

カナの母親はというと、そんなカナを目の前にして恐怖で腰まで抜けてしまったらしくガタガタと怯えた顔をして両手両足を乱雑に動かして逃げようとしていた。

 

「ひっ、ひぃぃ・・・!たす、助けて!ちょっと、坊主のガキ!一体何してんの!?早く私を助けなさい!そして、この化け物を・・・早く殺してちょうだい!」

 

だが、それでもカナの母親は実の娘への態度を改める事はなかった。そのせいで、カナは母親に対する殺意が強まってしまって、押さえている力も限界に達してしまいそうになっている。

 

「くっ・・・いや、落ち着け私。カナの意識がまだ残っているとするなら、私と椿の声も聞こえているはず。何とかして、カナの注意を逸らす事が出来れば・・・!」

 

「そっか!それなら綾ちゃん、1つだけ僕に良い考えがあるよ――それも、カナちゃんには非常に効果的なものが・・・ね」

 

椿が私に苦笑いしながらも、彼女が送ってきた"想い"のイメージで"ある作戦"を提案してみせた。なるほど・・・今日2回目で恥ずかしいとはいえ、これは確かにカナを止めるには丁度良いかもしれない。

 

――私と椿は、大きく深呼吸をした。

 

「キュ・・・キュゥゥ〜ン・・・」

 

「ミ、ミュゥ〜ゥ・・・」

 

「!?」

 

そう、今私達がやったのは――公園に戻る途中でカナに見せた、あの可愛いらしい鳴き声の物真似だ。そして、これはそれを更に切なくした、所謂"強化バージョン"である。

 

だいぶバカみたいな事をやってしまっている気はするが、もしこれでカナが止まらずに殺人を犯してしまったなら私達は本当に一生後悔してしまうだろう。

 

とはいえ、カナはたった今反応を見せてくれた上に、振り下ろそうとしていた腕からも力が抜けているようだ。こ、これは効果があったかも――

 

「「って、あっつぅい!!」」

 

前言撤回。この椿が提案してくれた作戦・・・カナには、まさかまさかの大成功となったのだ!

 

ただ、まぁ予想外だったのが、カナが嬉しそうな様子で炎を纏ったまま私達に突進してきた事くらいだろうか。

そして、炎で出来た尻尾までパタパタさせている姿のせいで、完全に大型犬にしか見えないし。

 

「わぶ、うぶっ・・・ちょ、カナ、タンマタンマ〜!」

 

「ふぅ、やれやれ・・・そんな方法で止めるとは思わなかったよ」

 

私がカナに顔を舐め回されて椿が呆然とする中、私達の後ろから校長先生の声が聞こえてきた。声の方を振り向いて見ると、そこには校長先生がやれやれといった様子で、感心しているのか呆れているのか分からない表情を浮かべていた。

 

一応、カナが犬のようになってしまったのは作戦を提案した椿の責任だと思うのだが・・・。

 

「さて辻中君、聞こえているかい?君はそのままで良いのかな?辛い過去から逃げて逃げて、それこそ負け犬のように逃げて回って・・・そして槻本君や烏森君の優しさに甘えているだけで良いのかい?」

 

そんな校長先生の言葉に、カナの炎で形作られた犬のような耳がピクリと反応する。どうやら、先程私達がやった物真似で殺意が薄れた事により、声が届きやすくなってきているようだ。

 

「君は、見えていない訳ではないよね?過去を知っても、それに立ち向かって前へ進もうとしている子が居る事をさ。君は、そんな子を守ろうとしているんじゃなかったのかい?」

 

すると、ようやく校長先生の声がカナに届き、彼女の身体に纏わっていた炎が段々と勢いを失って消えていく。しばらく経つと、カナは顔を俯かせて私と椿から静かに離れながらも、しっかりと強く私達の手を握ってきた。

 

気が付くとカナは元の姿へと戻っていた・・・それはきっと、校長先生の問いかけが心に響いたからなのだろう。多分、私と椿のアレで正気に戻ったとは、とてもじゃないが有り得――

 

「椿ちゃん、"綾ちゃん"・・・ありがとう。貴方達の可愛い声で、私は正気に戻る事が出来たわ」

 

「って、やっぱりそれで戻るのかよ!本当、とことんカナはブレない奴だな〜!!そこはせめて、校長先生の・・・というか、サラッと私の事も"ちゃん付け"になってるし〜!」

 

「あ、あはは・・・とうとう綾ちゃんも、カナちゃんから僕と同じように呼んでもらえたね・・・」

 

「良かないわ!いや、私としては嬉しいんだけど・・・それは、その・・・うぅ」

 

なんというか、こうして椿以外に可愛い呼び方をされた事が無かったので、私は恥ずかしさと嬉しさで顔が酷く熱くなってきてしまった。

 

「もう、椿ちゃんに綾ちゃんったら。2人共、手を火傷してるよ」

 

「こ、これくらいは平気だっての・・・カナが元に戻ってくれたんだしさ」

 

「うん、僕も綾ちゃんと一緒だったよ。それに、カナちゃんが戻ってくれる事しか考えてなかったから」

 

「2人のバカ・・・」

 

「ん?」

 

「カナちゃん、何か小声で言いましたか?」

 

私と椿が不思議そうに首を傾げてみるも、カナは何かが恥ずかしいのか無言で顔を俯かせたままであった。

 

「さてさて・・・辻中君の暴走が収まったのは良いけれど、状況は何も変わっていないよ?さぁ、これからどうするんだい?見せてくれるかな、君達の答えをさ――槻本君、烏森君」

 

校長先生が私達を試すかのような物言いで、扇子を手にペシペシと叩きながら歩いて来た。いや・・・試すかのようではなく、実際に試しているのだろう。兎にも角にも、この人が何を考えているかなんて私には想像すらつかなかった。

 

だが、それにイライラするよりも先に、私達にはカナの母親へ聞かなければならない事がある。

 

「カナちゃんのお母さん」

 

「ひっ!」

 

「そう怯えないでくださいよ、別に今更とって食おうなんて――あだだだ」

 

「綾ちゃん、それじゃ完全にヤ〇ザの人ですよ」

 

へたり込んだままのカナの母親へと椿が声をかける。私が"普段のように"足を開いて屈むのを、頬を抓って止めながらではあるが。

 

「教えてください。なんでそんなに、僕達の事や半妖の人達を毛嫌いしているんですか?僕みたいな妖狐や綾ちゃんみたいな見るからに不良な人はまだしも、カナちゃんは半分人間で優しい子ですよ?」

 

「え待って、椿の私への評価低くない・・・じゃなかった。そこまでカナみたいな半妖を嫌う理由は何なんだよ?ふざけた理由だったら、私は許さないぞ」

 

「う、うるさいわね。化け物の血が混じっていれば、十分に化け物よ!私の両親を食い殺した、あの憎らしい化け物と同じよ!!」

 

そんなカナの母親の言葉に、椿は押し黙ってしまう。確かに、そんな考えの人にはどう言えば良いのかは分からないが・・・それでも私達からは、こう言う事しか出来ない。後は、時間が解決してくれる事を祈るしかないのだから。

 

「はぁ・・・1つだけ言っといてやる。人間にだってな、悪事を働く奴ってのは存在するものだろ?妖怪はそれとほとんど一緒なんだよ。ちょっと変わった力があって姿形が違うだけで、他は何にも人間とは変わらない。嬉しい事があれば笑うし、悲しい事があれば泣くんだよ」

 

「確かに貴方の言う通り、悪い妖怪は存在します。でも、それは意思や目的が悪い方や間違った方へ進んじゃったから悪い事を起こしてしまうんです。そして、人間だってそれは一緒のはずでしょ?」

 

「見た目が違う奴を、私達と同じと思えるのかしら?アンタ達が言うのは、ガキの絵空事なのよ!そう簡単な問題じゃないのよ・・・そう、世の中そう簡単じゃ・・・ふ、ふふ・・・あははは・・・」

 

カナの母親はそう言って壊れたようにカラカラと笑いながら、ゆっくりと立ち上がって公園から去っていく。

 

「あっ・・・」

 

「悪い、カナ・・・アンタのお母さんを――」

 

「良いよ、大丈夫だから・・・椿ちゃん、綾ちゃん。それに、私もまだ整理出来ていないの。自分の感情が・・・まだ、ね」

 

そんな私と椿にカナは、母親を見送りながら今度は優しく手を握ってくる。あんな酷い告白をされ、壊れたようになってしまった母親を見てしまったにも関わらず立ち直れた彼女は、やはり喧嘩だけしかない私なんかよりも断然に強いのだと思ってしまう。

 

「終わりましたか?椿様、綾様。人と半妖の間にある、深い溝について・・・良く分かりましたか?」

 

そして龍花と朱雀も私達の所へ来て、そう言って憂鬱そうな顔を浮かべた。龍花達も人柱にされた生まれ以外にも、きっと色々辛い過去があったのだろう。

 

だが、それ以上に妖怪と人間のわだかまりは深いらしく、その両者に挟まれる半妖の人はどちらからも疎まれて迫害されているのかもしれないと思うと、私の中に残ったのは虚しさだけであった。

 

それならば私達はこれからも、カナだけでなく他の多くの半妖の支えとなってあげなくてはいけない。

 

すると、突然校長先生の後ろから大きな爆発音が聞こえてきて、ゴウと激しい突風が吹き荒れると同時にオジサンが私達の方に吹っ飛ばされてくる。

 

「オジサン!」

 

『大丈夫だ、綾。しかし、あの坊主・・・想像以上の力を持っているな』サッ

 

「あぁ、いけない。私の風が破られたか」

 

そういえば、カナの事で頭がいっぱいになっていて、滅幻宗の奴が居る事をスッカリ忘れてしまっていた。

 

吹き荒れる豪風の中、舞い上がっている砂埃から姿を現したのは――

 

「よう、そっちは終わったか?正直、雇い主が居ようが居まいがどうでも良い。依頼された内容が妖怪なら、退治する事に変わりはないからな。しかも、それがお前達なら尚更だ・・・妖狐の椿に、霊能力者の綾!」

 

「えっ?湯口先輩!?」

 

「何時から来てたんですか!?っていうか、なんか髪型とか色々ちょいワル風に変わってません!?」

 

「最初に登場した時から居るわ、アホゴリラ女!!それに格好のセンスは関係ないだろうが!!」

 

・・・ほぉーう?今、たとえ湯口先輩でも聞き捨てならないような単語が聞こえた気がしますな〜?

 

だけど、今回は好都合だ。今の私と椿なら、オジサンが以前に作ってくれた"心の読める"覚の御守りが無くても彼とは互角に戦えるハズだ。そして今度こそ説得して、私や椿達の誤解を解いてもらわなければ。

 

当然ながら手を抜いたりはしないし、するつもりもない。しかし、それよりも先に気になるのは・・・

 

「湯口先輩、鼻血止めてくれませんか?」

 

「チッ・・・」

 

「"チッ・・・"じゃねぇよ先輩、絶対私と椿のアレ聞こえてたじゃん!!」

 

あ〜もうヤダ、なんで急にこんなに緊張感が薄れちゃうんだろう・・・はぁ。

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